2018年10月4日(木)



2018年9月25日(火)日本経済新聞 やさしい経済学
神奈川大学名誉教授 田中 弘
IFRSの拡大と会計の変質 @ 企業活動の国際化に対応
(記事)




2018年9月26日(水)日本経済新聞 やさしい経済学
神奈川大学名誉教授 田中 弘
IFRSの拡大と会計の変質 A 損益計算書より貸借対照表
(記事)


2018年9月27日(木)日本経済新聞 やさしい経済学
神奈川大学名誉教授 田中 弘
IFRSの拡大と会計の変質 B 資産・負債を時価で表示
(記事)


2018年9月28日(金)日本経済新聞 やさしい経済学
神奈川大学名誉教授 田中 弘
IFRSの拡大と会計の変質 C 短期の投資家は歓迎
(記事)

 


2018年10月1日(月)日本経済新聞 やさしい経済学
神奈川大学名誉教授 田中 弘
IFRSの拡大と会計の変質 D 多くの国が原則主義を評価
(記事)


2018年10月2日(火)日本経済新聞 やさしい経済学
神奈川大学名誉教授 田中 弘
IFRSの拡大と会計の変質 E 通常の経済感覚に反する処理も
(記事)


2018年10月3日(水)日本経済新聞 やさしい経済学
神奈川大学名誉教授 田中 弘
IFRSの拡大と会計の変質 F 資産査定が容易
(記事)


2018年10月4日(木)日本経済新聞 やさしい経済学
神奈川大学名誉教授 田中 弘
IFRSの拡大と会計の変質 G 日本企業の採用も増加
(記事)

 

 



【コメント】
IFRS(International Financial Reporting Standards、国際会計基準)に関する全8回の解説記事になります。
記事を読んでいて、気になった点について一言だけコメントします。
第1回(2018年9月25日(火))の記事には、90年代後半以降に訪れた日本の会計基準の変遷について、
”原価会計から時価会計へ”と書かれています。
このことは、”損益計算書重視から貸借対照表重視へ”という変遷と軌を一にするものだと言えるでしょう。
すなわち、取得原価主義に忠実であれば損益も取引に即した金額となる(取得から譲渡まで一貫して整合性がある金額となる)一方、
時価に重点を置くならば資産の貸借対照表価額こそ時価と一致するものとなるものの、
損益は取引とは乖離した金額となってしまう(収益獲得に必要だった費用が譲渡時に費用計上されなくなる)わけです。
減損会計も概念的には一種の時価会計であると表現できるわけですが、
時価会計はどちらかと言えば「保守主義の原則」に適う会計処理方法であると言える一方、
取得原価主義に忠実な会計処理方法は即ち「費用・収益対応の原則」に忠実な会計処理方法であると言えるわけです。
例えば、売買目的有価証券の時価評価では、評価益が損益計算書に計上され得るという意味では、
時価会計も「保守主義の原則」に反する部分もあるのですが、それは企業会計全体で見れば局所的な問題に過ぎないと思います。
時価評価における評価益については議論の都合上今日は度外視しますが、減損処理を始めとする時価会計は、
債権者保護に資する側面があることは否定できないと思います。
企業会計や会計制度の文脈においては、損益計算書を重視するとは法人税法上の所得計算に忠実であるという意味であり、
貸借対照表を重視するとは債権者保護により重点を置いている、という意味なのです。
法人税法から見ると、会計処理方法というのはただ単に取得原価主義に基づくというだけかもしれませんが、
会社法から見ると、会計処理方法というのは債権者保護に重点を置くべきだという考え方になるのです。
法人税法では損益計算書が中心にあり、会社法ではどちらかと言うと貸借対照表が中心にある、と言えると思います。
一般に、企業会計では、「費用・収益対応の原則」よりも「保守主義の原則」に重点を置くべきなのです。
”原価会計から時価会計へ”や”損益計算書重視から貸借対照表重視へ”は、言葉を変えれば、
「『費用・収益対応の原則』重視から『保守主義の原則』重視へ」、と表現できると思います。
伝統的な企業会計観に基づくと、特に法人税法との整合性の観点から、取得原価主義を金科玉条と考えてしまうわけですが、
会社法の大きな目的の一つである債権者保護に重点を置いて考えてみると、
必要に応じて減損処理を行うべきであるとの結論に行き着くわけです。
これはIFRSに関する議論ではなく、そもそも企業会計とは何を目的とした計算技術・記録技術なのか、という問題なのです。
法人税法との整合性に最重点を置くことは、時として債権者保護の観点に反するのです。
確かに、減損会計では、減損損失の金額が一意には決まらない(人によって計上する金額が異なる)場面があります。
その意味では、仕訳が一意に決まらない以上減損会計は会計基準としては望ましくないという考え方もあるわけですが、
極端に言えば減損損失の金額が多ければ多いほど債権者保護に資するということで、企業会計としては「是」と考えるべきでしょう。
以前も書きましたが、損益計算書を中心に見ると減損会計はおかしいという結論になる(主に法人税法からの観点)わけですが、
貸借対照表を中心に見ると減損会計は理に適うという結論になる(債権者保護の観点)のです。
それから、記事には、”当期純利益から包括利益へ”と書かれていますが、当期純利益と包括利益の違いは「表示」に過ぎません。
すなわち、会社の財務諸表に、当期純利益を表示するのかそれとも包括利益を表示するのかは、
勘定科目の合算や表示方法の問題(どのような項目群を1まとまりにしてラベルを付けて表示するのかの問題)に過ぎません。
他の言い方をすると、当期純利益を表示するのかそれとも包括利益を表示するのかは、仕訳の問題ではないのです。
当期純利益を表示することにしようが包括利益を表示することにしようが、仕訳(会計処理)に影響はない(仕訳は同じ)のです。
このことは、財務諸表利用者は、自分で項目群を整理することで包括利益を当期純利益へと組み替えることができることを意味します。
会計というのは、仕訳に尽きるのです。