2018年7月12日(木)



2018年7月12日(木)日本経済新聞
トヨタがドル建て社債 自動運転など成長投資に 21年ぶり発行
4〜6月期決算 開示は13時25分 来月3日
(記事)





2018年6月25日
トヨタ自動車株式会社
2018年3月期 有価証券報告書
ttps://www.toyota.co.jp/pages/contents/jpn/investors/library/negotiable/2018_3/all.pdf

(ウェブサイトと同じPDFファイル)

 

 


【コメント】
トヨタ自動車株式会社が社債を発行するとのことです。
これは、トヨタ自動車グループの海外法人が現地で社債を発行するという意味ではなく、
トヨタ自動車株式会社本体が社債を発行するという意味です。
ただし、発行する社債はドル建てということで、また、米SECに発行登録をするということで、
米国の投資家が引き受けることを想定している(米国内で社債が発行・流通しないならSECへの発行登録は不要のはず)ようです。
ただ、トヨタ自動車株式会社本体が社債を発行するというのは根本的におかしな話だと思いました。
2018年6月25日に提出されたトヨタ自動車株式会社の2018年3月期の有価証券報告書に記載されている個別財務諸表をを見ますと、
2018年3月31日現在、個別上利益剰余金が実質的に9兆3,532億9,100万円あります
帳簿上の利益剰余金の合計金額が11兆4,163億5,200万円である一方、自己株式が2兆630億6,100万円となっています)。
手許現金が1兆1,262億8400万円ありまして、日々の事業活動で用いる(事業運営に必要な運転資金)分も含まれている
かとは思いますが、それでも、社債の発行予定金額である約2,200億円の余裕は十分にあると言えると思います。
さらに、流動資産の部に有価証券が2兆2,576億9,700万円あります。
流動資産の部の有価証券は売買目的有価証券と定義されているわけですが、
子会社株式や関連会社株式は売買目的有価証券には含まれません。
売買目的有価証券は、基本的には貸借対照表価額(もしくは非常に近い価額)で売却が可能な有価証券であると考えよいわけです。
そうしますと、トヨタ自動車株式会社は2兆円以上の(実際は3兆円近い)現金を即座に用意できる状態にある、と言えるわけです。
固定負債の部を見ますと、2018年3月31日現在、2,900億円の社債を負っている(2018年3月期に200億円増加しています)わけですが、
トヨタ自動車株式会社は何もわざわざ社債を発行しなければならない財務状況には全くないわけです。
既存の社債を今すぐ繰上償還しても、資金繰りには十分過ぎるほどの余裕があるわけです。
トヨタ自動車株式会社が今月下旬に約2,200億円のドル建ての社債を発行する理由が私には何一つ分かりません。
この事例を通じて新たに気付いた点を2つ書きます。
1つ目は、流動資産の部の有価証券である売買目的有価証券には、国債が含まれる、ということです。
売買目的有価証券と聞きますと、上場株式を思い浮かべるわけですが、国債も売買目的有価証券に分類できます。
この点についてより正確に言えば、国債が即時売却可能である場合は、国債は売買目的有価証券に分類できます。
しかし、国債が即時売却可能ではない場合、例えば、国債に取引市場がない場合や証券会社が任意の時期に国債を買い取ってくれる
などの条件が付いていない場合は、所有している国債を売買目的有価証券に分類することはできません。
すなわち、国債は満期まで保有する以外にない場合は、国債は会計上は満期保有目的債券に分類する他ないわけです。
現在の日本では、国債に取引市場があるかどうかは分かりませんが、証券会社が任意の時期に国債を買い取ってくれる、
といった取り扱いに実務上はなろうかと思います(すなわち、実務上は国債はいつでも即時売却可能な有価証券です)ので、
手許現金を短期的に国債で運用しているだけの場合は、国債は会計上は売買目的有価証券に分類するべきなのです。

 



以前に、証券制度(理論上の金融商品取引法)に関する考察の中で、「社債には『募集』しかない。」と私は書きました。
「社債には『売出し』や『市場』という概念は元来的にはない。」という意味です。
元来的には、社債には相対取引で譲渡をするであったり市場で取引をするという観念は希薄であるわけです。
国債も同じであり、元来的には、国債には相対取引で譲渡をするであったり市場で取引をするという観念は希薄であるわけです。
その意味では、元来的には、国債は会計上は満期保有目的債券にしか分類できない有価証券だと言わねばなりません。
しかし、現在では、国債市場という言葉がありますように、国債は市場で売買できる有価証券です。
「国債市場の流動性」という言葉までありますように、出来高も日々生じています。
もちろん、満期日まで保有することを目的に国債を購入することもあるわけですから、その場合は、
たとえ国債が上場していようが国債を会計上満期保有目的債券に分類・計上することは問題はないわけですが、
例えば近い将来設備投資に充てるために投資資金を短期的に国債で運用するという場合は、
国債を会計上は売買目的有価証券に分類することになるわけです。
国債であれ社債であれ、「その債券に取引市場はあるのか(その債券は上場しているのか)否か?」により、
債券を会計上売買目的有価証券に分類できるか否かが決まるわけです。
有価証券の区分の基準を定めている「金融商品に関する会計基準」を見ますと、
非公開株式や非上場債券を会計上売買目的有価証券に分類する場合があるようですが、
理論的にはその考え方は間違いであり、売買目的有価証券への分類の条件は、一言で言えば「市場性」なのです。
「その有価証券は一時所有か否か?」は理論的には重要ではなく、
「会社は所有有価証券を即時に売却できるか否か(流動性)?」が売買目的有価証券への分類の条件として本質的に重要なのです。
したがって、理論的には、非公開株式はその他有価証券、非上場債券は満期保有目的債券にしか分類できないのです。
会社が所有している全国債のうち、所有目的に応じ、一部は売買目的有価証券に分類され、一部は満期保有目的債券に分類される、
ということがあるわけです(国債という同一の有価証券だから同一の区分になるというわけではないのです)。
それから、トヨタ自動車株式会社は、2018年3月期の通期の決算を5月9日の13時25分(証券取引所の取引時間中)に発表した
わけですが、2018年4〜6月期の決算についても8月3日の13時25分(証券取引所の取引時間中)に発表する予定である、
と昨日発表を行ったとのことです。
決算の発表のタイミングについてですが、実務上のことを鑑みますと、証券取引所の取引時間中の発表はやはり避けるべきです。
証券投資の実務上は、投資家は開示情報を精読し分析し株式の本源的価値を算定する時間がどうしても必要になります。
投資家は、開示資料を読みながら買い注文や売り注文を出すことは現実にはできないわけです。
また、投資家はトヨタ自動車株式会社にだけ投資をすることを検討するのではなく、他の銘柄への投資にも注意を払う必要がある
わけでして、投資家は、トヨタ開示資料を読みながら他の銘柄の買い注文や売り注文を出すことも現実にはできないわけです。
要するに、投資家が「開示情報を精読し分析し株式の本源的価値を算定する時間」と「買い注文や売り注文を市場で出す時間」は
証券制度上は明確に区分するべきであるわけです(取引時間中は投資家が株式の取引だけに集中できるようにするべきなのです)。
その意味では、証券取引所の取引時間中に決算を発表することは証券制度上は禁止をするべきなのです。

 

Investors can't peruse disclosed information from an issuer and place their respective orders in the market too.

発行者からの開示情報を精読しながら市場で各自注文を出すということは投資家にはできません。