2017年2月23日(金)
事業再生ADRについて(事業再生実務家協会)
ttp://www.turnaround.jp/adr/index.php
【コメント】
事業再生ADRに関する記事になりますが、記事を読んでもいまいち内容がよく分からないなと思いました。
事業再生ADRの手続きが変更になるという旨のことが記事には書かれてあるわけですが、
改正後は商取引債権も債権カットの対象になる(現行制度では、商取引債権は債権カットの対象外になっている)、
ということなのだろうかと思いました。
現行制度では商取引債権は債権カットの対象外になっている(事業再生ADRでは、商取引債権をカットする再生計画というのはない)
ということであるのなら、現時点で取引先の利益は保護されていることになるのではないか、と思いました。
事業再生ADRでは、金融債権のみが再生計画の対象という考え方にならないだろうかと思いました。
事業再生ADRとは、金融機関のみで債権放棄などについて話し合う仕組みであるということではないか、と思いました。
この辺り、そもそも事業再生ADRの手続き自体がはっきりとしない部分があるように思いました。
事業の再生について話し合いに参加するのは、金融機関のみであるのか取引先も含むのかについては、関連する資料を読む限りは
はっきりとしないと思います(話し合いの参加者(債権放棄者)は金融機関のみである、と読める解説も中にはありました)。
実務上は商取引債権も再生計画の対象に含めることもできる、ということなのかもしれませんが、
「再生計画案」に関しては、債権者会議において決議されることだけは間違いないようです。
事業再生ADRの手続きにおいて策定された「再生計画案」の実施については、債権者会議において全債権者の同意が求められます。
つまり、債権者会議の決議では全員一致が原則です。
債権者会議で全債権者の同意を得なければ計画実施に至りません。
仮に、事業再生ADRでは、金融債権のみが再生計画の対象であり、なおかつ、債権者会議における債権者とは商取引債権の債権者
をも含むということであるならば、再生計画案に反対する商取引債権の債権者は1人もいない、ということになります。
なぜならば、商取引債権の債権者にとって、金融債権の債権放棄は自分の債権の弁済可能性を高めるだけだからです。
また、事業再生ADRでは、金融債権のみが再生計画の対象であるという理解が正しいならば、論理的には、
債権者会議における債権者とは、金融債権の債権者(金融機関)のみを指し、商取引債権の債権者は含ない、
という考え方になると思います(論理的には、商取引債権の債権者が再生計画案の決議に参加する意味は全くないから)。
より一般化した言い方をすれば、債権放棄を強いられる債権者のみが策定された再生計画案について決議を行うことができる、
という考え方になるはずです(債権者会議の参加者=債権放棄を強いられる債権者(=全債権者)、という関係になるはずです)。
民法上の全債権者のうち、債権放棄を強いられる債権者のことを「事業再生ADRにおける『全債権者』」、
と呼んでいるということだろうかと思いました。
つまり、この文脈で言う「全債権者」の意味は、一般的な意味における「全債権者」とは異なる、とも考えられると思いました。
事業再生ADRにおいても、商取引債権をも含めた全債権が再生計画の対象であるということであるならば、
「事業再生ADRにおける『全債権者』」は民法上の全債権者とイコール(商取引債権の債権者も含む)ということになるわけですが。
事業再生ADRにおいては、債権放棄の対象は金融債権のみという解説もありますので、
その辺りのことがやはりはっきりしない(紹介している記事の趣旨ともどこか矛盾する)と思いました。
事業再生ADRでは、現行の制度において既に、取引先の利益は保護されている、という考え方になりそうだが、と思いました。
それから、一般論として、事業再生のための計画については「全債権者の同意」が必要だ、という表現がなされますが、
理論的には、各債権者は自分の債権の債権放棄に関して同意を行ったに過ぎない、という考え方になると思います。
なぜならば、債権は、それぞれ独立しているからです。
この意味において、債権というのは決議を行う権利を何ら表象してはいないのです(債権者は自分の債権について同意をするのみ)。
会社が策定した事業再生のための計画について「全債権者の同意」が必要となる状態になるのは、結果に過ぎないのです。
債権放棄の内容について、全債権者から個別に同意を得ていくと、結果的に「全債権者の同意」という状態になるだけなのです。
債権というのは、株式とは異なり権利(interest)を細分化したものでは全くないため、株式と債権とは本質的に異なっているのです。