2018年2月15日(木)
2018年1月13日(土)日本経済新聞
株主優待「お楽しみ感」増す 周年記念は内容も充実
(記事)
【コメント】
記事中の表を見て、証券制度から見た株主優待制度の問題点に1つ気付きました。
それは、株主優待制度を活用・享受することが目的の投資家と株主優待制度を全く活用・享受する気はない投資家との間で、
配当利回りと優待利回りの合計である実質利回りが異なってしまう、という問題です。
これだけでは意味が分かりづらいと思いますので、記事中の表を題材にして比較を行うための表を作成してみました。
「株主優待制度を活用・享受しない投資家にとっては、優待利回りは『0%』である。」
株主優待制度については様々な見方があると思うのですが、株主にとっては配当の一形態という見方もできると思います。
つまり、会社が株主優待制度を導入している場合は、株主にとっては、
現金配当と株主優待の合計がトータルの利益(記事では「実質利回り」と表現しています)という状態になると言えるわけです。
ところが、株主優待制度は、投資家にとって活用する・活用しないに現実には大きな差が生じるといえるわけです。
QUOカードや換金性の高い商品券類の贈呈という程度であればまだ投資家にとって大きな差はないと言えますが、
記事にありますミサワホームの株主優待制度のように、住宅の購入(本体価格)やリフォームの施工(工事代金)の料金割引が
株主優待制度の内容・特典だとなりますと、ミサワホーム株式を購入する(株式投資を行う)前提が投資家毎に異なる、
という状態が生じるわけです。
例えば、近々住宅の購入やリフォームの施工を検討している投資家にとってはミサワホーム株式は極めて魅力的に映るわけですが、
社宅や職員住宅に住んでいる会社員や公務員にとっては、ミサワホーム株式を購入する意味が全くないと言えるわけです。
なぜなら、社宅や職員住宅に住んでいる会社員や公務員が住宅を購入したりリフォームを施工したりすることはないからです。
端的に言えば、「投資家にとって株式投資の条件を共通・同一にする("universal"にする)。」、
ということが証券制度の観点からは本質的に重要なのです。
「フェア・ディスクロージャー・ルール」でも、
「投資家にとって開示情報面における投資判断の根拠(ディスクロージャー)を共通・同一にする("universal"にする)。」、
ということが目的であるわけです。
ですので、株主優待制度に関して言えば、「全投資家にとって、株式を購入した時の利益は皆同じ("universal")だ。」、
という状態を証券制度としては担保しなければならないわけです。
「フェア・ディスクロージャー(fair
disclosure)」になぞらえて言えば、
投資家にとって証券市場は「フェア・ベネフィット(fair
benefit)」であることが担保されていなければならないわけです。
以上のようなことを考えますと、結局のところは、
「フェア・ベネフィット(fair
benefit)」が担保されている利益・便益といのは、現実には「現金」しかないわけです。
100円は誰にとっても100円です。
しかし、住宅の購入割引券は、ある投資家にとっては何千万円もの価値がある一方、他の投資家には0円の価値しかないのです。
For example, unless fiduciary duties are fulfilled,
a company may start a
complimentary system for shareholders which is favorable only to specific large
shareholders.
例えば、受託者責任が遂行されていない場合は、
会社は、特定の大株主にだけ都合のよい株主優待制度を始めるかもしれないわけです。
Some investors regard a complimentary system for shareholders of an investee
company as highly beneficial,
and other investors don't.
投資先企業の株主優待制度を非常に有益だと考える投資家もいれば、そうは考えない投資家もいるのです。
The securities sysytem should ensure a situation "fair benefit" between
investors in the market.
証券制度は、市場の投資家間における「フェア・ベネフィット」の状態を担保しなければならないのです。