2018年1月18日(木)



2018年1月16日(火)日本経済新聞
株主提案10まで/招集通知早く 総会 対話充実促す 法制審試案 取締役会改革も論点
(記事)




2018年1月16日(火)日本経済新聞
会社法改正試案 社外取締役の義務化焦点 責任明確/候補者は不足
(記事)


2018年1月16日(火)日本経済新聞
きょうのことば
株主総会 企業の最高決定機関
(記事)

 



【コメント】
法制審議会の会社法制部会で、会社法の改正が議論されているとのことです。
今回の会社法改正は、@「企業と株主の会話促進」とA「取締役会の改革」の2つが大きな柱となっているとのことです。
このうち、A「取締役会の改革」については、社外取締役の設置を義務付けることが検討されているとのことです。
今日は、@「企業と株主の会話促進」について一言だけコメントを書きたいと思います。
@「企業と株主の会話促進」については、株主提案権の乱用的行使の防止を目的に、
1人の株主が株主総会で提案できる議案数を最大10に制限する、という案が検討されているとのことです。
私が記事を読んですぐに思いましたのは、株主提案権の乱用的行使の防止を目的に株主による提案可能議案数を制限することには、
実務上はほとんど意味がない、ということです。
記事にもその点について間接的な言及がありますので、引用したいと思います。

>役員の選任や解任に関する議案を含めるかなど議案の数え方の議論も進める。
>複数の株主が協力して共同提案する場合も、1人の株主が提案できる議案数は5までか10までのいずれかにする。
>米国では1株主につき提案は1つだ。ドイツは提案内容で制限する。日本では現在、提案数や内容で大きな制限はない。

>過去には野村ホールディングスの総会で「トイレをすべて和式に」など100件の提案があった。

簡単に言いますと、株主提案権の行使を無制限に認めることにしますと、経営上何ら意味のない提案が多数なされる恐れが生じ、
会社側の事務負担ばかりが増加し、議論に値する提案が十分に議論されないままになってしまうマイナス面があるわけです。
例えば、1人の株主が100件以上も議案を提案するとなりますと、それは会社に対する悪ふさげや嫌がらせといっていいわけです。
議案を提案する株主に、有意義な提案のみを行ってもらうためにも、提案可能議案数を制限することが、検討されているわけです。
しかし、実務上の話をしますと、株主1人当たりの提案可能議案数をたとえ1件のみに制限したとしても、
会社に対する悪ふさげや嫌がらせは減少しない、と言っていいと思います。
その理由は、いわゆる総会屋のやり口を思い浮かべれば分かると思います。
総会屋というのは、仲間内で(複数の人数で)株式を保有することで、株主総会への出席可能人数を増加させるわけです。
総会屋というのは、頭数としては、1人ではなく、何千人何万人もいるわけです。
以前、たとえ上場企業の株主総会の開催日を意図的に特定日に集中させても総会屋対策になるわけではない、と書きましたが、
考え方はそれと同じであり、総会屋(無意味な提案屋)からすれば、株主1人当たりの提案可能議案数を制限するのならば、
仲間内で株主の数を増やせばよい(株主の名義人の数を意図的に仲間内で増加させる)、というだけのことであるわけです。
ですので、現在議論されている検討案とは正反対に、
「株主提案権を行使できる要件」を厳しく見直す方が実務上は有効ではないかと思います。
株主提案を行うためには、会社に対する肩入れ(株主の利益の共有度合い)が大きいことが求められるように思いますので、
例えば、総株主の議決権の5%以上を保有していること、という基準(要件)を新たに設けるというのは有効ではないでしょうか。
仲間内で株主の数を容易に増加させることができてしまいますと、株主1人当たりの提案可能議案数の制限に意味がありません。
確かに、株主というのは、1株でも(1単元)でも保有していれば会社のれっきとした株主(議決権を有する)であるわけですが、
株主総会において議案を提案するほどまでに会社に対し大きな影響力を与えたいというのあれば、
決議結果に責任を負うという意味でも、それ相応に大きな議決権割合を保有しているべきだ、という考え方はあるように思います。

 



取締役(受託者)というのは、受託者責任に基づき、株主の利益を最大化させるはずだと判断した最善の議案を作成するわけです。
それなのに、委任者である株主が受託者が作成した議案を否定するかのように、会社に「議案を提案する」というのは、
「提示された議案に単に賛成票や反対票を投じる」ということよりも全株主に対する責任が重くなければならないわけです。
委任関係を鑑みれば、株主が「株主提案権を行使すること」は「受託者作成の議案に強い反対票を投じること」と同じなのです。
もっと言えば、株主自身が取締役との委任関係を否定している(取締役は受託者責任を果たさないだろうと判断したも同じ)、
という見方もできるわけです。
単に「受託者作成の議案に反対票を投じる」というだけであれば、「1株主としての議決権行使に過ぎない」で済むわけですが、
受託者責任を否定するかのように「議案を提案する」というのは、単に1株主として行ってよいことではないように思うわけです。
「議案に反対票を投じる」と「議案を提案する」とでは、全株主に対する影響度が全く違ってくるわけです。
株主が「議案を提案する」とは、株主は受託者責任の遂行に疑義を抱き、
委任関係の見直しを提案した(取締役がそのような議案を作成するのは間違いであると主張した)、に等しいわけです。
株主が提案する議案には、必ずしも「役員の解任や選任の議案」が含まれるわけではないのですが、
「取締役が作成した議案よりも自分が提案した議案の方が会社にとって利益になるはずだ。」、
と提案株主が会社や受託者に主張していることに変わりはないわけです。
株主が「議案を提案する」とは、単に「議案に反対票を投じる」を超えた何かであるわけです。
議案の提案は、(株主名簿上のという意味で)1株主として行ってよいことではないわけです。
1株主として行ってよいのは、「議案に反対票を投じる」というところまでのはずなのです。
他の言い方をすれば、1株主として行ってよいのは、「議決権の行使」までであるわけです。
したがって、議案の提案のためには、1株主として以上の要件を課するべきであるわけです。
「1株主として以上の要件」とは、個人的な私案ですが、総株主の議決権の5%以上を保有していること、が一例かと思います。
現行の規定のように、「総株主の議決権の1%以上、または300個以上の議決権を6カ月以上前から保有すること」という要件も、
実は既に「1株主として以上の要件」を提案株主に課している、と言えるわけなのですが、
提案株主に責任ある株主提案権の行使を求めるためにも、株主1人当たりの提案可能議案数を制限するのではなく、
株主の保有議決権割合に一定の厳しい基準を設けるようするべきではないかと思います。

 

A mere shareholder can exercise a voting right,
whereas he can't exercise "shareholders' right to propose" as a mere shareholder.
A person who can exercise "shareholders' right to propose" is a being who is more than a shareholder.

1株主は議決権を行使することができますが、1株主は1株主としては「株主提案権」を行使することはできないのです。
「株主提案権」を行使することができるのは、株主以上の存在なのです。