2017年12月14日(木)



2017年12月8日(木)日本経済新聞
カネ余り 日本企業を解く @
現金「使う力」追い付けず 「稼ぐ力」は10年で33%増
投資基準、採算厳格に M&Aは価格高騰が壁
(記事)




2017年12月9日(土)日本経済新聞
カネ余り 日本企業を解く A
危機の記憶、守りを優先 負債で還元 潮目変化も
(記事)


2017年12月13日(水)日本経済新聞
カネ余り日本企業を解く B
「ためない企業」じわり増加 米国との差 依然大きく
(記事)


2017年12月14日(木)日本経済新聞
カネ余り日本企業を解く C
「稼げる投資か」市場は選別 還元との使い分け 重要
(記事)

 



【コメント】
手許現金やキャッシュフローの観点から、日本企業を分析した記事になります。
記事を読んで気付いた点についていくつかコメントを書きたいと思います。
2017年12月8日(木)付けの日本経済新聞の記事では、SUBARUを例に出して、
「投資活動によるキャッシュフロー」よりも「営業活動によるキャッシュフロー」の方が
大幅に上回っているという状況について説明がなされています。
SUBARUは、「営業活動によるキャッシュフロー」と「投資活動によるキャッシュフロー」の差額を有利子負債の返済に充てている、
と書かれています。
SUBARUの経営に関して言えば、教科書論としては、一番望ましいキャッシュフローの状況であろうと思います。
2017年12月9日(土)の記事にも書かれていることですが、一般に(日本経済新聞でもよくそう定義されていますが)、
「『営業活動によるキャッシュフロー』+『投資活動によるキャッシュフロー』」のことを
経営者(企業)が自由に使えるお金という意味を込めて、「フリーキャッシュフロー(FCF)」と呼びます。
正常な営業が行われている状況下で、営業活動によるキャッシュフロー」のプラスが
「投資活動によるキャッシュフロー」のマイナスを上回っている、という状況であれば、
「フリーキャッシュフロー(FCF)」は大きければ大きいほどよい、と言えるわけです。
「フリーキャッシュフロー(FCF)」のより具体的な使い道については、2017年12月9日(土)の記事にも書かれています。
2017年12月13日(水)の記事には、上場企業の現在のマクロ的な状況として、
米国の上場企業は「よく稼ぎよく使う」(営業活動によるキャッシュフロー」のプラスも
「投資活動によるキャッシュフロー」のマイナスもどちらも非常に大きい)という状況にあるのに対し、
日本の上場企業はその逆だ、と書かれています。
配当や自社株買いといった株主還元のことを考えれば、当然のことながら「フリーキャッシュフロー(FCF)」がなければならない
わけなのですが、短期的に見ると、現在のところ米国の上場企業の方が投資活動に積極的だと言えるようです。
ただ、2017年12月8日(木)付けの記事中には、
上場企業全体のマクロの状況を表す図(グラフ)が載っているのですが、その図中には、
「営業活動によるキャッシュフロー」と「投資活動によるキャッシュフロー」の差額を”使い残し”と表現しています。
資金管理上は、「営業活動によるキャッシュフロー」と「投資活動によるキャッシュフロー」の差額を、
有利子負債の返済に充てたり配当に回したりするわけですから、”使い残し”という表現は少しずれていると思いました。
経営上、配当よりも設備投資を優先するという場面はあろうかと思いますので、
「営業活動によるキャッシュフロー」の「投資活動によるキャッシュフロー」に対する超過額を、
設備に再投資するということはもちろん考えられるわけですが、それはあくまで戦略的に設備に再投資をしたわけであって、
稼いだ現金は超過額がなくなるように投資に支出し終わらないといけない、などということは決してないわけです。
例えば、将来の戦略的投資に備え稼いだ現金を内部に留保した場合も、それらの間に差額は生じるわけです。
”使い残し”という表現は相当程度誤解を招くと思います。
「営業活動によるキャッシュフロー」の「投資活動によるキャッシュフロー」に対する超過額のことを
「フリーキャッシュフロー(FCF)」と呼ぶわけです。
「フリーキャッシュフロー(FCF)」は、決して”使い残し”でも何でもなく、
これから@株主還元やA負債の返済やB将来を見据え現預金として手許に残すといった使い方を行っていくものなのです。

 


それで、特に2017年12月8日(木)付けの記事を読んでいまして、キャッシュフロー計算書についてふとあることに気付きました。
より具体的には、自動車会社であるSUBARU(製造業)の事例で気付きました。
何に気付いたかと言えば、キャッシュフロー計算書における、
「営業活動によるキャッシュフロー」の概念と「投資活動によるキャッシュフロー」の概念の相違点に気付きました。
端的に言えば、「償却資産」の取り扱いです。
一般に、製造業の貸借対照表では、「償却資産」が資産全体に占める割合が非常に大きいわけです。
そしてその結果、製造業の損益計算書では、「減価償却費」が費用全体に占める割合が非常に大きくなるわけです。
伝統的な財務諸表では、販売や経営管理(販売店や本支店のビル等)に関する減価償却費は「販売費及び一般管理費」に計上され、
製造(工場や設備)に関する減価償却費は「製造原価」の「経費」(「損益計算書」上は「売上原価」)に計上されます。
ただ、キャッシュフロー計算書上は、どちらの「減価償却費」も
「営業活動によるキャッシュフロー」に言わばまとめて計上されます。
キャッシュフロー計算書に、「減価償却費」の各内訳を記載しても各種規則上は問題はないのではないかと思いますが、
通常開示されているキャッシュフロー計算書には、「減価償却費」として両者の合計金額のみが記載されているかと思います。
一言で言えば、同じ「減価償却費」でも、発生原因が両者で大きく異なる、と言えるわけです。
端的に言えば、、同じ「減価償却費」でも、前者は純粋に営業に関連する活動の結果であるのに対し、
後者は製造に関連する活動の結果であるわけです。
前者と後者とでは「減価償却費」の発生原因が明確に異なっていると言えるわけです。
伝統的な財務諸表においても、前者は純粋に「期間費用」(貸借対照表には絶対に計上されない)であるのに対し、
後者は「製造原価」(販売実現時が次期以降の場合は貸借対照表に計上され得る)であるわけです。
それで、以上のような「減価償却費」の発生原因の相違とも大きく関係があることなのですが、
「製造(工場や設備)に関する減価償却費(製造に関連する活動の結果)」を
「営業活動によるキャッシュフロー」の区分に計上することの是非、といった点について考えてみたわけです。
また、逆から言えば、「販売や経営管理(販売店や本支店のビル等)に関する現金支出(営業に関連する活動の結果)」を
「投資活動によるキャッシュフロー」の区分に計上することの是非、といった点について考えてみたわけです。
ただ、実際には、ここでは「営業」という言葉を広く捉えることで、現行の記載方法しか思い付かないわけですが。
それから、関連する論点になりますが、「キャッシュフロー計算書上は『減価償却費』はどのようにして回収されるのか?」、
という点についても考えました。
論点を一言で言えば、償却資産の取得は「投資活動によるキャッシュフロー」の区分に計上されるにも関わらず、
償却資産の減価償却費(回収と言ってよいでしょう)は「営業活動によるキャッシュフロー」の区分に計上されるわけです。
簡単に言えば、「投資活動によるキャッシュフロー」を「営業活動によるキャッシュフロー」で回収しているわけです。
キャッシュフローに関するこのような考え方については、会計の教科書にそのまま記載されていることであるようにも思えます。
しかし、改めて考えてみますと、そのようなことが可能なのは、実はまさに減価償却手続きがあるからに他ならないわけです。
仮に減価償却手続きがないならば、「投資活動によるキャッシュフロー」を
「営業活動によるキャッシュフロー」で回収することなど絶対にできないのです。
このことは他の言い方をすると、「ある資産の取得原価を他の資産の譲渡による収益で回収することはできない。」、
ということになるわけです。
「ある資産の取得原価を他の資産の譲渡による収益で回収する。」などということができるのか、と思われるかもしれませんが、
減価償却手続きでは現にそうしている(企業会計上も法人税法上もそれを認めている)わけです。
償却資産に関して言えば、「投資活動によるキャッシュフロー」(マイナス)が、「稼働」という概念を会計に持ち込むことにより、
譲渡もしていないのに規則的に自動的に「営業活動によるキャッシュフロー」の区分にプラスとして毎期計上されるわけです。
減価償却手続きを鑑みれば、これは致し方ない会計上の非対称性(悪く言えば「矛盾」と言える)かもしれませんが、
会計上は「稼働」という概念でもって説明される事象・取引・会計処理だ(そのために概念を導入した)、となるのだと思います。

 


In a cash flow statement, a cash flow which has been expended on a depreciable asset,
which is one of the "cash flows from investing activities,"
is collected through "cash flows from operating activities" automatically,
whereas a cash flow which has been expended on a non-deprecable asset such as securities
is not collected through an "operating cash flow."
The latter cash flow is collected only by means of a sale of the asset,
which is recorded on "cash flows from investing activities."
In other words, a depreciable asset can be collected without a sale of the asset.
To put it simply, purchase of inventories is recorded on "cash flows from operating activities"
and a sale of inventories is also recorded on "cash flows from operating activities,"
whereas purchase of a depreciable asset is recorded on "cash flows from investing activities"
but work of a depreciable asset is recorded not on "cash flows from investing activities"
but on "cash flows from operating activities."
Work of a depreciable asset is certainly one of the operating activities of a company,
so the fact that it is recorded on "cash flows from operating activities" is quite natual.
But, the relevance between a revenue and a cost concerning a depreciable asset is somewhat unclear.

キャッシュフロー計算書上の話になりますが、
償却可能資産に支出されたキャッシュフローは、
―そのキャッシュフローは「投資活動によるキャッシュフロー」の1つなのですが―
「営業活動によるキャッシュフロー」を通じて自動的に回収されることになります。
しかるに、有価証券といった償却可能ではない資産に支出されたキャッシュフローは、
「営業活動によるキャッシュフロー」を通じて回収されるわけではないのです。
後者のキャッシュフローは、資産の売却によってのみ回収され、
その資産売却は「投資活動によるキャッシュフロー」に計上されることになります。
他の言い方をすると、償却可能資産は売却をしなくても回収が可能なのです。
簡単に言えば、棚卸資産の購入は「営業活動によるキャッシュフロー」に計上されますし、
棚卸資産の売却も「営業活動によるキャッシュフロー」に計上されるのですが、
償却可能資産の購入は「投資活動によるキャッシュフロー」に計上される一方、
償却可能資産の稼働は「投資活動によるキャッシュフロー」ではなく「営業活動によるキャッシュフロー」に計上されるのです。
償却可能資産の稼働は間違いなく会社の営業活動の1つです。
したがって、償却可能資産の稼働が「営業活動によるキャッシュフロー」に計上されるのは全く自然なことではあります。
しかし、償却可能資産にまつわる収益額と費用額の関連性には不明瞭なところがあるのです。

 

And, all things considered, in short, an idea that a depreciable asset can be collected without a sale of the asset
is accepted by the Corporation Tax Act, I suppose.

それから、あらゆることを考えてみますと、簡単に言えば、
償却可能資産は売却をしなくても回収が可能であるという考え方を、法人税法は認容している、ということだと思います。