2017年11月17日(金)
2017年11月17日(金)日本経済新聞
■大宇建設(韓国建設大手) 経営権購入に関心集まる
(記事)
韓国大宇建設 経営権獲得に10社以上が関心
■大宇建設(韓国建設大手) 韓国産業銀行によると、2010年から債権者の管理下にある大宇建設の経営権を握れる
株式50.75%の購入に10社以上から「関心表明書」が寄せられた。企業価値は1兆3000億ウォン(約1330億円)という。
韓国産業銀行幹部は「主な入札の日程については12月に発表し、その際に入札を希望する会社に
最終的な入札価格の提示を求める」とした上で、「順調にいけば、18年1月に落札企業を決定する」と述べた。
関係筋によると、関心を示している企業の入札価格は2兆ウォン前後とみられる。
入札に名乗りを上げた企業には、米国に本社を置くTRACデベロップメント・グループも含まれる。
同社は、中東でのプロジェクトで大宇建設とのシナジーを見込み、外国投資家から成るコンソーシアムで入札するという。
同社のソウル事務所の担当者は「我々は中東で都市開発プロジェクトを行っているため、中東で高い信頼を獲得し、
豊富な実績を持つ大宇とは相性が良いと考えている」とした上で、
「大宇と様々なプロジェクトを行いたい」と話した。(ソウル=金再源)
(日本経済新聞 2017/11/16
23:00)
ttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO23567980W7A111C1FFE000/
Daewoo Engineering & Construction Co.,
Ltd.
ttp://www.daewooenc.com/eng/
【コメント】
韓国の大宇建設は韓国語(現地語、母国語)では何と書くのかは知りませんが、
英語では「Daewoo Engineering
& Construction Co.,
Ltd.」と表記するようです。
韓国語は分かりませんので、大宇建設の英語の公式ウェブサイトを紹介しています。
大宇建設は、韓国の証券取引所である「韓国取引所」(Korea
Exchange)に株式を上場している
れっきとした上場企業のようです。
この記事だけでははっきりしたことは分からなかったのですが、
「大宇建設」というキーワードでインターネットで検索してみますと、
現在、株式50.75%を所有しているのは、メインバンク(債権者)の韓国産業銀行であるようです。
韓国産業銀行がどのような経緯で大宇建設株式の50.75%を所有するに至ったのかは分かりませんが、
多額の貸付を行っていたのだとすると、デット・エクイティ・スワップか何かの結果だろうかと推測しているのですが、
現在大宇建設は、韓国産業銀行の管理下で経営再建を行っている最中であるようです。
そして、大宇建設の経営再建は目下順調に達成されているということなのだと思いますが、
韓国産業銀行は所有している大宇建設株式を他社に売却することを計画しているようです。
ただ、韓国産業銀行は、市場で大宇建設株式を売り進めていくことを考えているわけではなく、
また、日本の金融商品取引法で定義されるような「売出し」により大宇建設株式を売却することを考えているわけでもなく、
1対1の相対取引により特定の企業に大宇建設株式を売却することを考えているようです。
その際、韓国産業銀行は、おそらく50.75%を一固まりでまとめて1社に売却することを考えているのではないか
と思いますので、株式の譲渡により直接的に支配株主の異動が発生することになります。
韓国の証券取引法に、日本の金融商品取引法で定義されるような「公開買付」が用意されているのかどうかは分かりませんが、
支配株主の異動が韓国の証券取引法上問題にならない形(法手続き)で、株式の譲渡を行なっていかねばならないと思います。
基本的には、上場株式に関しては、証券制度上、「不特定多数の相手から過半数の株式を買い集める」ことはできますが、
「特定の相手へ過半数の株式を売却する」ことはできない、という考え方になります。
仮に、「特定の相手へ過半数の株式を売却する」という場合は、株式の買い手は、
他の全投資家を相手に株式の売却機会を与えなければならない、という考え方になるわけです。
韓国産業銀行は、「関心表明書」を募ることで、当然のことながら、最も高い購入希望価格を提示した買い手に
所有する大宇建設株式を売却する方針であるわけですが、証券市場に観点から見れば、
その譲渡に際しては、市場の全投資家が、韓国産業銀行に提示されたその「最も高い購入希望価格」で株式を売却する機会が
与えられなければならない、という考え方になるわけです。
簡単に言えば、株式の買い手は、韓国産業銀行だけから高い価格で大宇建設株式を買うことはできない、
ということになるわけです。
市場の投資家から見れば、なぜ韓国産業銀行だけが高い価格で大宇建設株式を売ることができるのか、という話になるわけです。
実は、この辺りの結論は、証券市場をどのように制度設計するか次第で答えが変わってくることかとは思います。
上場株式と呼ばれるものを、市場でのみ売買が許される有価証券と定義するならば、
上場株式の相対取引は当然に禁止される、ということになります。
逆に、上場株式と呼ばれるものを、各人が所有する一所有物に過ぎないもの(単に株式市場でも売買が可能というだけに過ぎない)、
と定義するならば、上場株式の相対取引は当然に認められる、ということになります。
この場合は、取引の相手がいない人だけが株式市場で上場株式の売買をすることになります。
この場合、株式市場は、相対取引の補完的位置付けの場に過ぎない、ということになります。
他の切り口から言えば、前者の定義では、所有権を一定度否定することを伴います(自由な取引が制限されるから)。
逆に、後者の定義では、所有権の絶対性に重きを置いています。
一言で言えば、結論は上場有価証券や証券市場の定義次第、という部分があると思います。
韓国の証券制度がどちら(に近いの)かは分かりません。
記事を読む限りは、韓国の証券制度は後者の定義をしているのかもしれません。
さらに言えば、記事を読む限りは、韓国の証券制度は、支配株主の異動にも寛容なのかもしれません。
所有権の絶対性に重きを置くならば、誰が誰にどの割合の所有株式を譲渡しようが自由、という結論になるわけです。
他の言い方をするならば、所有権の絶対性に重きを置くならば、
株式の売り手や買い手が市場の他の投資家のことを考慮するのはおかしい、という結論になるわけです。
市場で株式を売買するのは、取引相手がいない人というだけではないのか、という話になるわけです。
株式市場というのは、そもそも取引相手がいない人のためにあるのではないか、という話になるわけです。
「私には取引相手がいる。だから、その人に株式を売る。」、これで何の問題があるのだ、という話になるわけです。
両極端な話をしているかのように感じるかもしれませんが、
所有権にどれくらい重きを置くのかで様々な証券制度が定義され得る、ということを言いたいわけです。
日本の証券制度は、上場株式は市場取引を行うことが原則ですが、公開買付制度が導入されていたり、
大株主同士で相対で株式の譲渡を行うことが認められていたり、さらには例えば第三者割当増資が認められていたりで、
前者の定義と後者の定義の折衷案のようになっているかと思います。
結局のところ、絶対的な証券制度の定義というのはないのだろうと思います。
投資家の利益保護ということに関して言えば、前者の定義では、投資家の利益保護を重視しているということになりますし、
後者の定義では、投資家の利益保護という概念がない(少なくとも株式の取引を行う当事者には投資家保護の観点は関係がない)、
ということになります。
後者の定義では、投資家の利益保護の役割を果たさなければならないのは、どちらかと言えば、
上場企業(発行者)や証券取引所や金融当局(法制度全般)ということになり、
株式の取引を行う当事者(売り手と買い手)には投資家の利益保護という義務や観念はない、という考え方になると思います。
端的に言えば、「投資家の利益保護」1つ取ってみても、絶対的な答えはないわけです。
どの証券制度においても最も重視されるのは、上場企業(発行者)によるディスクロージャー(情報開示)だと思います。
上場企業(発行者)によるディスクロージャー(情報開示)が最も重視されるのは、どの証券制度においても共通だと思います。
上場企業(発行者)によるディスクロージャー(情報開示)の正確性を担保することがまず制度設計の根幹部分であり、
その上で、投資家保護を図る手段(制度の細部)が様々に考えられる、ということだと思います。
上場企業(発行者)によるディスクロージャー(情報開示)以外の投資家保護策(追加的な投資家保護策)は、
必然的に株主の所有権を否定することを伴うものだ、というトレードオフが証券制度の設計には潜んでいるのです。
他の言い方をすれば、上場企業(発行者)によるディスクロージャー(情報開示)は、株主の所有権を一切否定しないのです。
支払不能に陥った会社が一体全体どうやって事業を継続することができるのですか。
There is a securities system where "ownership" is placed emphasis
on,
and there is a securities system where "ownership" is not placed emphasis
on.
「所有権」に重きを置く証券制度もあれば、「所有権」には重きを置かない証券制度もある。
There is a securities system where the "stock market" stands at the very
center of stock trading,
and there is a securities system where the "stock
market" is merely complementary to stock trading,
「株式市場」が株式の取引のド真ん中に立っている証券制度もあれば、
「株式市場」は株式の取引を補完するものに過ぎない証券制度もある。
In any securities system, what is regarded as the most essential for the
investor protection is
"disclosure" by a listed company (an issuer)
itself.
どの証券制度においても、投資家保護にとって最も本質的なことだと考えられているのは、
上場企業(発行者)自身による「ディスクロージャー」(情報開示)なのです。
However much a listed company (an issuer) does disclosure, ownership of a
shareholder isn't denied.
上場企業(発行者)がどんなにたくさん「ディスクロージャー」(情報開示)を行っても、株主の所有権は否定されないのです。