2017年11月16日(木)


2017年11月16日(木)日本経済新聞
ばら積み船収益、日割りで 海運、22年3月期から 到着日変更の影響小さく
(記事)


2016.04.26
海運業準則と海運業の収益・費用
(新日本有限責任監査法人 海運セクター
ttps://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/industries/basic/shipping/2009-10-16-01.html

 

税務上における工事進行基準の取扱いと留意点
(株式会社内田洋行ITソリューションズ  お役立ちコラム)
ttp://process.uchida-it.co.jp/column/20170620/

 

 



上記「海運業準則と海運業の収益・費用」からの引用


>@ 積切出港(出帆)基準
>航海の出港時にすべての収益を計上する方法

>A 複合輸送進行基準・航海日割基準
>運航に比例して収益を計上する方法

>B 航海完了基準
>航海の完了時にすべての収益を計上する方法


>@ 積切出港(出帆)基準
>役務提供過程の早い段階で収益を計上する方法ですが、海運業における運送契約においては一般的に積切の時点で
>運賃請求権が発生しており、かつ、運送荷物自体を動産担保として保有していることにより運賃回収の確実性が高いことから
>海運業会計において会計慣行として定着しているものです。

>A 複合輸送進行基準・航海日割基準
>これらの基準は、運送期間のうちどの程度まで航海が進行しているかを日割等の基準に従って算定し、
>総運賃のうち期末までに進行した部分の割合を持って収益を計上する基準です。
>「複合輸送」とは海上輸送と陸上輸送といった、複数の手段を組み合わせて顧客に提供することを指すため、
>一般的には当該複合輸送期間のうちどの程度まで輸送が進行したかを算定して収益を計上する基準とされています。
>複合輸送進行基準は個々の貨物の輸送に着目した方法であり、定期船運賃の計上のための基準です。
>一方、航海日割基準は貨物ではなく、船舶の航海の進捗を基礎とするもので
>不定期船の収益認識基準として採用されることになります。

>B 航海完了基準
>航海が完了した際に収益を計上するので収益の計上基準としては最も保守的な基準です。
>わが国では不定期船について多く採用されている会計基準です。
>不定期船では顧客との個別契約によって一つの航海が決まっており、すべての役務の提供を待って収益を計上することで、
>航海収支の把握といった損益管理と整合的であるためと考えられます。
>また航海完了時まで収益を認識しないため、海運業費用における見積要素の影響を低くすることが可能となります。

>C 運賃以外の収益計上基準
>運賃以外の収益の計上基準については、運賃のように特有の基準は設けられておらず、他の役務提供を営業目的としている企業と
>大きく変わるところはありません。例えば、貸船料は傭船期間が契約によって定められていますので、
>傭船期間のうち、すでに経過した日数を日割で計上している企業がほとんどではないかと思われます。

 



【コメント】
記事の冒頭を引用します。

> 日本郵船など海運各社は2022年3月期から、石炭や穀物を運ぶばら積み船の売上高の認識方法を変える。
>これまで船が港に着いた時点で売上高を計上していたが、日割りによる計上に改める。
>これまで決算の締め日に船が港に着くか着かないかで10億円単位で利益が変動したが、新方式で平準化できる。
> 収益認識方法を「航海完了基準」から「航海進行基準」に変える。

記事をざっと読みますと、海運業に関する新しい収益認識基準が策定された、ということだろうかと思いました。
しかし、大手海運会社が2022年3月期から収益認識方法を「航海完了基準」から「航海進行基準」に変えるのは、
あくまで「ばら積み船」事業の売上高の認識方法についてであるわけです。
記事の最後の部分に書いてあるのですが、「コンテナ船」事業の売上高の認識方法については、
大手海運会社は2006年3月期から既に収益認識方法を「航海完了基準」から「航海進行基準」に変更済みであった、とのことです。
つまり、今年(2017年)に入り海運業に関する新しい収益認識基準が策定された、というわけでは全くないわけです。
「航海進行基準」という収益認識方法は、従来から(2006年3月期以前から)、企業会計上はあった、ということのようです。
法人税法上も「航海進行基準」という収益認識方法(定め)が従来からあったのかどうかについては分かりませんが。
「航海期間」が長期に及ぶことを理由として「航海進行基準」が考えられたのだと思いますが、
この点に関連して、記事には、

>ばら積み船は航海に1〜3カ月かかる例が多い。

と書かれています。
しかし、船によって航海速度が何倍も異なるということはないでしょうから、
コンテナ船の場合も航海に1〜3カ月かかるのではないかと思います。
「ばら積み船」は「専用船」とも呼ばれると思うのですが、
インターネットで検索してみますと、これまで大手海運各社では、
コンテナ船事業に関しては「航海日割基準」(「航海進行基準」)が、
専用船事業に関しては「航海完了基準」が、それぞれ適用されていたようです。
海運会社が、収益認識方法を「航海完了基準」から「航海進行基準」に変えますと、
売上高が従来よりも前倒しで計上されることになりますが、同時に費用も前倒しで計上されることになりますので、
利益額への影響という意味では、短期的にプラスの影響があるのかマイナスの影響があるのかはケースバイケースだと思います。
また、長期的には、売上高や費用や利益額が平準化される(到着遅延の影響が小さくなる)、という言い方はできると思います。
一言で言いますと、大手海運会社は、多くの海運事業について
収益認識方法を「航海完了基準」から「航海進行基準」に変える方向へ向かっている、と言えるかと思います。
しかし、「航海完了基準」と「航海進行基準」に極めて類似した会計基準(収益認識方法)に
「工事完成基準」と「工事進行基準」があるのですが、
「工事完成基準」と「工事進行基準」は、海運業が適用する会計基準とは正反対の方向に向かっているようです。
以下、「工事完成基準」と「工事進行基準」について一言だけ書きたいと思います。

 



これは全業種・全業界に共通する考え方になりますが、収益認識に関する大きな会計処理の方針(収益認識の根本原則)は、
「財またはサービスを顧客に移転することにより、履行義務を充足した時点で収益を認識する。」、というものです。
この収益認識の根本原則を鑑みれば、目的物の引渡しや役務の提供が完全に終了する前の時点では収益は認識できない、
という結論になるわけです。
現在、日本の会計基準を作成する企業会計基準委員会(ASBJ)では、企業の売上高に関する会計処理を定める「収益認識基準」
について議論がなされている(新しい収益認識基準の策定が議論されている)ようですが、
例えば、工事やソフトウェア開発では、この根本原則に基づき「工事進行基準」は廃止になる方向に向かっているようです。
すなわち、建設業であれ受託ソフトウエア開発業であれ、収益認識は「工事完成基準」のみに一本化されることになるようです。
現行の各種基準では、収益認識は「工事進行基準」に従うことが原則となっているわけですが、
今後は、収益認識方法が正反対になり、収益認識は「工事完成基準」に従うことになるのだと思います。
工事を施工する建設業や受託ソフトウエア開発を手がけているITベンダーは、今後、必ず会計処理を見直すことになるわけです。
インターネット上の解説記事の中には、 新「工事完成基準」は現行の「工事進行基準」と非常によく似た考え方・会計処理を
行うことになる、という解説もあるわけですが(実務上の取り扱いは結局そのようになるのかもしれませんが)、
「履行義務を充足した時点で収益を認識する」とは、理論的には結局のところ「一時点で収益を認識する」ということだと思います。
相手方への履行義務を段階的に充足する、ということは概念的にあり得ないこ(そのような状態を観念できない)とかと思います。
極めて平たく言えば、完成してもいないのにお金(代金)を支払う客はいないわけです。
客(発注した側)の立場に立って考えてみると簡単に分かることかと思います。
注文したもの・注文したことが完成しなかったら誰だってお金は払わないでしょう。
したがって、理論的には、請け負った工事や開発したシステムを発注者が検収した時点で一括して収益・原価を計上する、
という会計処理方法しかない、という結論になるわけです。
ただ、上記の議論に関しては、1つ注意が必要なことがあります。
それは、「企業は代金を前受け(客は代金を前払い)してはならない。」という意味では全くないということです。
工事代金や発注したソフトウエアの代金を何らかの理由(手付金等)で前受けすること自体は、理論的にも全く問題ありません。
今議論しているのは、あくまで「収益認識」の方法や「収益の捉え方」についてなのです。
すなわち、客から代金を前受けした場合は、会計上は、履行義務を充足するまでは「前受金」勘定で処理することになります。
会計上は、「代金を前受けしたこと」と「収益を認識すること」は全く異なります(両者は会計上の概念が完全に異なる)。
逆から言えば、客からまだ代金(現金)は受け取っていなくても、履行義務を充足した時点で収益を認識することになります。
簡単に言えば、収益認識の条件は、「目的物の引渡しや役務の提供を完全に終了する(義務を果たし終わる)こと」であるわけです。
客の側から見れば、代金(現金)の前払いや後払いは企業の収益認識とは無関係、ということになります。
企業会計基準委員会(ASBJ)が策定する日本の会計基準に改正と歩調を合わせる形で(会計処理に関するの整合性を保つために)、
同時に法人税法も改正される(法人税法から「工事進行基準」の定めが削除される)ことになると思います。
また、今まで気が付かず、記事を読んで「そう言われれば確かにそうだな。」と初めて気付かされたのですが、
紹介している株式会社内田洋行ITソリューションズの記事に書かれていることですが、
企業が法人税法上「工事進行基準」を適用していると、
法人税法上の収益の計上時期と消費税法上の収益(資産の譲渡等)の計上時期が異なる、ということになってしまうわけです。
「資産の譲渡」や「役務の提供完了」という概念は、「1時点」でしかあり得ないわけです。
時間の経過と共に資産を譲渡するであったり、時間の経過と共に役務を提供する、という考え方はやはりないわけです。
法人税法上の立場から言っても、収益認識の方法には理論的には「工事完成基準」しかない、ということだと思います。
そして、会計処理方法に関しては、税法が気付きのきっかけになることが多いな、と今日改めて思いました。