2017年7月13日(木)
2017年7月12日(水)日本経済新聞
総会 黒子の正体 上
米ISS、賛否を左右 議案の9割、機械的に判断
(記事)
2017年7月13日(木)日本経済新聞
総会 黒子の正体 下
強まる規制論 助言会社 ガラス張りに
(記事)
【コメント】
「ふむふむなるほど、どんなコメントを書こうか。」と思いながら記事を読んでいたのですが、
「そう言えば、そもそもの話、議論の出発地点がおかしい気がする。」とあることに気付きました。
それは、「ISSを始めとする議決権行使助言会社は一体どうやって株主総会議案を入手したのか?」という疑問です。
もちろん、単純に考えて、議決権行使助言各会社は、市場でレポート対象としている上場企業の株式を例えば1単元ずつ
購入しているのかもしれません。
1単元でも株式を保有していれば、会社のれっきとした株主となりますから、
株主総会の開催日が近づくと、基準日以降、会社から株主全員に株主総会議案が送付される、ということにはなります。
ですので、議決権行使助言各会社は、実際に株主となることで各上場企業の株主総会議案を入手している、とも考えられます。
単純に考えて、やはりこれが答えだろうとは思ったのですが、
私が今指摘したいのは、会社の株主総会議案を入手するのは通常は実は不可能だ、という点なのです。
上場企業のウェブサイトを見ますと、IRのページなどに株主総会議案のPDFファイルがアップロードされていたりします。
ですので、一見すると、上場企業の株主総会議案を入手するのは極めて簡単ではないか、と思ってしまうかもしれません。
しかしそれは、上場企業が任意開示という形で株主総会議案をウェブサイト上に公開しているからこそ入手・閲覧可能
というだけのことであり、株主総会議案は本質的に株主のみに送付されるべきものなのです。
率直に言えば、市場の投資家には、株主総会議案は、さらに言えば株主総会そのものが、全く関係がないことなのです。
ですので、通常は、議決権行使助言会社が株主総会議案を入手すること自体が不可能だ、と考えなければならないのです。
もちろん、先ほど書きましたように、議決権行使助言会社は自身が株主となることで
株主総会議案を入手しているのかもしれません。
そのこと自体は違法でも何でもないわけなのですが、
議決権行使助言会社が株主総会議案を入手している手段についての議論が抜け落ちているな、と今日気付いたわけです。
例えば、一自然人であろうが、
友人の個人投資家から投資先企業の株主総会議案を見せられて議決権行使の助言を求められ、
その助言の対価として報酬を得ることは全く違法性はないことです。
投資家が議決権行使についての助言を他人に求めるのも自由、相談を受けた側が助言の対価として報酬を得るのも自由です。
その意味では、議決権行使助言会社が議決権行使に関する助言を行うことで投資家から報酬を得ることは
何の問題もないことではあります。
ただ、記事を読んでいますと、議決権行使助言会社が(他の投資家から見せられてという形ではなく)直接株主総会議案を
入手しているようだと感じましたので、株主総会議案の入手手段が気になったわけです。
仮に自身が株式を購入した上で株主総会議案を入手しているのだとすると、助言者自身が株主ということになりますから、
それはそれで助言の中立性には問題があると言えるでしょう。
相談者の利益を第一に考えた助言をするのが通常は難しくなるでしょう。
1単元だけであれば実務上は大した金額ではないという見方もできますが、
理論的には助言の対象会社とは全く利害関係がないという立ち位置に立った上で
顧客の利益を第一に考えた中立性のある助言を行うべき、という考え方になるわけです。
株主として助言をする、となりますと、どうしても自身の利益(株式売却益等)のことも頭に浮かんでしまうものでしょう。
議決権行使助言会社はあくまで顧客(投資家)から助言のためだけに株主総会議案を入手する、という形であるべきだと思います。
また、議決権行使助言会社は自社ウェブサイト上などで助言内容を公表しているようなのですが、
そもそもの話として、たとえ上場企業であっても株主総会議案は全く開示書類ではありません。
株主総会議案は、開示を大前提とした有価証券報告書とは全く性質を異にする書類なのです。
議決権行使助言会社の助言の対象となっている上場企業は、
議決権行使助言会社が発表している議案に対する推奨意見に一喜一憂する前に、
自社の議案そのものが公にされていることに怒るべきなのです。
会社法上、株主総会議案を無断で公にした場合の罰則規定などはないのかもしれませんが、
本質的に株主総会議案は公にするものではない(株主総会議案はあくまで会社と株主との間の信書であり私信に過ぎない)、
ということだけは確かであるわけです。
例えば、非上場企業ですと、始めから株主は信頼の置ける仲間だけということが実務上は言えたりするわけですが、
上場企業の場合は、非上場企業とは正反対に、「株主が誰になるか分からない。」(株主の個性や属性を制限できない)、
ということが制度上の前提であるわけです。
「誰が株主になってもよい。」ということが上場企業の前提であるわけです。
そうしますと、大げさに言えば、会社と株主との間で秘密を守るというようなことが現実には難しくなるわけです。
そこで、発想を転換しますと、会社と株主との間のことは始めから全部オープンにする、
という会社制度が上場企業では考えられるわけです。
そうしますと、一案としては、上場企業は株主総会議案を金融庁(EDINET)に提出する、などという考え方が出てくるわけです。
この辺り、上場会社制度をどのように制度構築するべきかについては議論はあろうかと思いますが、
現時点における日本の上場会社制度では、株主総会議案はあくまで会社と株主との間の信書であるという位置付けなのです。
ですので、議決権行使助言会社が議案に関する推奨内容を発表するのは会社制度に照らしておかしいわけです。
考えてみますと、自主規制により、今年から機関投資家の議決権行使の個別開示が始まったわけですが、
それも「会社の株主総会議案が開示されること」が前提と言えるわけです。
株主総会議案を開示しないまま議決権行使の結果(賛否)を開示することはできないからです。
しかし、株主総会議案はあくまで会社と株主との間の信書であるということを鑑みますと、
昨今話題の機関投資家の議決権行使の個別開示は理論的にはおかしいわけです。
例えば、日本の金融商品取引法では、上場企業は「臨時報告書」を金融庁(EDINET)に提出することで、
株主総会における議決権の行使結果を開示することが義務付けられているわけですが、
それならば、株主総会議案そのものも適時に金融庁(EDINET)に提出する、ということでないと理論的整合性が取れないわけです。
結果だけを開示しても(もしくは株主総会議案の内容は決議後に開示しても)意味がないわけです。
株主総会議案は金融庁(EDINET)に提出する、という位置付けにしますと、
制度上は当然に株主総会議案は会社と株主との間の信書ではないという位置付けになりますので、
議案に関する助言を公にすることや昨今話題の機関投資家の議決権行使の個別開示もまた制度上・理論上認められることだ、
ということになるわけです。
ただ、話を最初に戻しますと、そもそも株主総会議案は議案に対する賛否を表明できる者だけを対象にした書類であるわけです。
議案に対する賛否を表明できる者とは、議決権行使可能者のことであり、議決権者のことであり、要するに株主のことです。
議決権を行使できない人が株主総会議案を見てどうするのか、というそもそもの疑問があるわけです。
投資判断に資するための参考資料などと言い出すなら、どんなことも参考資料になってしまうでしょう。
株主と株主ではない投資家との間で情報格差(一方は書類を受け取り他方は書類を受け取らない)があることを問題視するならば、
すなわち、株主のみが議案内容を知っており株主以外の投資家は議案内容を知らないこと(情報格差)を問題視するならば、
株主総会そのもの(株主のみに書類を送付すること)をなくすしかない、という結論に至るでしょう。
株主総会は開催せず、株式からは議決権もなくす、という解決方法しかないということになるでしょう。
それはそれで、1つの証券制度が構築されようかと思います。
何かと言うと情報公開という言葉がキーワードになっている昨今ですが、私は逆に、
投資家に開示するのはある一定の「限られた情報」のみとし、その「限られた情報」をフェアにする(情報格差がない状態にする)、
ということの方が重要なのではないだろうか(たくさん情報公開をすれば種々の問題は解決するというわけではない)、と思います。
「発行者から市場の投資家に開示するのはこの情報だけだ。」というふうに、開示する情報を明確に限定することで、
確かに開示される情報量そのものは減少するものの、かえって投資家間はフェアになると思うわけです。
発行者があれもこれも開示するとなりますと、投資家も情報を受領しきれないということが現実には生じ得るわけです。
また、発行者がより多くの情報を開示すればするほど、その情報の正確性も問題になります。
このことは投資家の側の開示についても当てはまり、機関投資家の議決権行使の個別開示が間違っていた場合は、
一体誰が責任を取るのか、という話にもなるわけです。
人が開示する情報は全て正しいことが始めから保証されているのなら、監査法人はいらないわけです。
情報は大量に開示すれば開示するほど、情報の質(簡単に言えば正確性)は劣化するということが現実にはあるわけです。
むしろ、開示する情報の正確性を何らかの手段で保証した上で、発行者はある一定の限られた情報のみを開示する、
という開示方法の方が、真の意味で投資家間にフェアな(投資家間に情報格差が一切ない)状態を作り出せると思います。