2017年7月3日(月)
2017年7月3日(月)日本経済新聞
弁護士 多比羅 誠氏
法的整理、柔軟な運用を
(記事)
【コメント】
記事を読んで、民事再生法の適用と上場廃止との関係についてふと思うところがありました。
現行の東京証券取引所の上場規則では、上場企業が民事再生法や会社更生法や破産法に基づく法手続きに入った場合は、
上場廃止とする旨定められています。
以前は、「企業が実際に事業を正常に営めない状態に陥ったのだからそれは当たり前ではないか。」と思っていたのですが、
本日2017年7月3日(月)付けの日本経済新聞の記事に、民事再生手続きに関して、
>法律上は、上場を維持しながら9割減資で再建することも可能なはず。
と書かれてあるのを見て、改めて考えてみると別の見方もあるのかもしれないな、と思いました。
金融商品取引法は「ディスクロージャーの法」である、という基本概念に軸足を置き、
「民事再生手続の開始は上場企業の上場廃止事由とするべきか?」という点について理論的に考えてみますと、
民事再生手続の開始はディスクロージャーに問題があることとは文脈が異なる、と思ったわけです。
確かに、民事再生手続の最中にあっては債務者は平時と同じディスクロージャーは行えない状況下にあると言えるとは思いますが、
条文解釈としては「民事再生手続の開始=債務者の清算」ではないことから、
上場企業(債務者・再生会社)の民事再生手続きの詳細(再生計画案の具体的中身等)を、
例えば監督委員が上場企業を代表して逐一市場に開示するようにすれば、
市場の投資家が投資判断を行うためのディスクロージャーとしてはそれで必要十分だ、という考え方はあると思いました。
例えば、上場企業が債務超過であることは、実は理論的には上場廃止事由ではないのです。
なぜならば、上場企業は一時的に債務超過になっているだけかもしれないからです。
純資産の部がマイナスであることは会計上算出された結果に過ぎません。
純資産の部がマイナス=債務不履行ではありませんし、純資産の部がマイナス=会社清算ではないのです。
期末日時点では純資産の部はマイナスと計算されたかもしれませんが、
次期以降純資産の部がプラスになることは全く考えられることであるわけです。
債務超過であることは、純粋に「期末日時点の」会計上の純資産の部がマイナスとなったことを意味しているだけなのです。
次期以降、上場企業が利益を計上することは全く考えられるわけです。
民事再生手続も同じではないだろうか、とふと思ったわけです。
例えば破産手続きとは異なり、条文解釈としては民事再生手続=清算ではないわけです。
理屈では、民事再生手続の中で債務者が債権者から債権放棄という名の寄付を受けて債務不履行を避ける、
ということは考えられるわけです。
また、民事再生手続の中で債権者が不公平な弁済を受けることで債務者が債務不履行を避けることも理屈では考えられるわけです。
しかし、債務者が債権者から寄付を受けることや債権者平等の原則に反する弁済が行われたことは、
債権者の支援方針や民事再生法制の問題であって、金融商品取引法制(ディスクロージャー)の問題ではないわけです。
市場の投資家の立場からすれば、投資先企業が債権者から寄付を受けて再生しようが
(あくまで民生再生法が認める範囲内での)不公平な弁済が行われて投資先企業が再生しようが、全く構わないわけです。
それらは法律に則って上場企業が行った取引、というに過ぎないわけです。
他の言い方をすれば、それらの取引は市場の投資からは切り離された問題だ、と言えるわけです。
再生会社は債権者から寄付を受けて再生してはならない、などという条文はないのです。
市場の投資家の立場からすれば、投資先企業に再生の見込みがないならば株式を売るという投資判断を行うでしょうし、
投資先企業に再生の見込みがあるならば株式を買うという投資判断を行うでしょうが、
いずれにせよ投資先企業から「今後の再生の行方」(就任した監督委員や再生計画案の具体的内容等)が開示されないことには、
投資判断の行いようがないわけです。
再生会社が債権者から寄付を受けることは、少なくとも法律問題としては投資家には関係がないことであるわけです。
再生会社の債務の弁済方法や再生計画案に(自分には不利な内容であるとして)反対の債権者もいるのかもしれませんが、
それは民事再生法により認められた弁済ということで、再生会社と債権者との間で法律的に解決済みの問題として取り扱われ、
したがって、その弁済は投資家には関係のない事柄だ、という考え方になるわけです。
投資家は、再生会社は法律に則った商取引(債務の弁済)を行ったに過ぎない、という見方をすればそれでよいのです。
再生会社がそのような商取引(債務の弁済)を行うことは地裁が認めている、と投資判断の上では考えてよいわけです。
平時においては、監査法人が上場企業の財務諸表を監査しますが、
民事再生手続では、監督委員が上場企業の民事再生手続の詳細を逐一市場に開示する、
というディスクロージャーを行うようにすれば、投資判断のためのディスクロージャーとしては必要十分であるわけです。
債権者による不本意な寄附や再生会社による不平等な債務の弁済は、少なくとも投資家には法律問題としては関係がないのです。
民事再生手続が開始され、たとえ上場企業に対し資産の保全命令が下されようが、
それをどう判断するのか(上場企業はやはりそのまま清算に向かうのかそれとも再生計画次第では今後再生するのか)は、
投資家の投資判断の範囲内のことだ、という考え方になるわけです。
上場とは企業の株式が市場で取引されることのみを意味し、上場廃止とは企業の株式が市場では取引されないことのみを意味します。
たとえ上場企業がその後そのまま清算の運びとなろうとも、理論的には上場廃止の手続きは一番最後に来るはずなのです。
民事再生手続が開始されようとも清算(破産でも同じ)の手続きが開始されようとも、ディスクロージャーが十分でありさえすれば、
市場で株式の取引が行われること自体は認められるべきだ、という考え方は理論的にはあると思います。
以上、金融商品取引法制(ディスクロージャー)から民事再生手続について考えてみました。
At least from a standpoint of investors, any transaction will do as long as their investee rehabilitates.
少なくとも投資家の立場からすると、投資先企業が再生しさえすればどのような取引が行われようと構わないのです。