2017年6月25日(日)
バークシャー:経営難のカナダ住宅金融機関に命綱、株式38%取得
著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米保険・投資会社バークシャー・ハサウェイが、
経営難に陥ったカナダの住宅金融機関ホーム・キャピタル・グループに命綱を提供する。
ホーム・キャピタルは破綻寸前にまで追い込まれ、カナダ住宅市場は厳しい視線にさらされている。
ホーム・キャピタルが21日遅くにトロントで発表したところによると、
バークシャーは同社株の約38.4%を4億カナダドル(約335億円)で間接的に取得するほか、
子会社のホーム・トラストに20億カナダドルの与信枠を設定することに合意した。
バフェット氏は発表文で「ホーム・キャピタルは強固な資産と、パフォーマンスに優れる住宅ローンを組成し引き受ける能力、
成長する市場分野の主導的な地位を持つ。この投資は極めて魅力的だ」と説明した。
バークシャーは子会社コロンビア・インシュアランスを通じて投資する。
ホーム・キャピタル株の平均取得価格は1株約10カナダドルで、21日終値の14.94カナダドルを下回る。
(ブルームバーグ 2017年6月22日
20:59
JST)
ttps://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-06-22/ORY5X56JTSE901
June 21, 2017
Home Capital Group Inc.
Home Capital Reaches
Agreement with Berkshire Hathaway
for Investment of Up To C$400 Million in
Common Equity and Provision of New C$2 Billion Credit Facility
ttp://www.homecapital.com/press_releases/2017/HCG%20BH%20Transaction%20June%2021%202017.pdf
(ウェブサイト上と同じPDFファイル)
ホーム・キャピタル・グループ(ブルームバーグ マーケット情報)
ttps://www.bloomberg.co.jp/quote/HCG:CN
>企業概要
>ホーム・キャピタル・グループ(Home Capital Group Inc.)は信託銀行持株会社。
>主要子会社、Home Trust Companyを通じて事業を展開する。
>Home Trustは国法信託銀行
で、預金、モーゲージ貸付、クレジットカード発行などのサービスに従事する。
>カナダ
の全域で営業することを認可されており、
>オンタリオ、アルバータ、ブリティッシュ コロンビアの各州に営業店舗を所有する。
「ホーム・キャピタル・グループの過去1年間の値動き」
Berkshire Hathaway Inc.
ttp://www.berkshirehathaway.com/
【コメント】
バークシャー・ハサウェイが、経営難に陥ったカナダの住宅金融機関ホーム・キャピタル・グループを救済することにした、
という事例です。
5月の始めには5.85カナダドルまで下落していた株価は、バークシャー・ハサウェイによる救済の報道を受け、
現在では18.99カナダドルにまで上昇しているようです。
バークシャー・ハサウェイは今後長年にわたりホーム・キャピタル・グループの支援を行っていく方針であるわけですが、
救済を申し出ただけで株価が急騰したと聞いて、ある興味深いことが頭に思い浮かびました。
バークシャー・ハサウェイは今後、ホーム・キャピタル・グループ株式を1株当たり9.55カナダドルで取得する計画である
わけですが、極端なことを言えば、バークシャー・ハサウェイはホーム・キャピタル・グループ株式を今すぐ売却しても
1株当たり9.44ドルの売却益が得られるわけです。
バークシャー・ハサウェイは本質的には投資会社であるわけですから、
大きな株式売却益を得られる機会があるのなら株式をすぐに売却してしまうべきだ、という考え方はあると思います。
株価というのは、株式を買う人と売る人が市場にいて実際に取引を行うことで変動します。
株価というのは、企業の期待値(将来のキャッシュフローや業績予想)ではなく、市場における株式の実際の取引値なのです。
株式投資というのは、株価が低い時に低い価格で買い、株価が高い時に高い価格で売ることが基本であるわけです。
もちろん、バークシャー・ハサウェイがホーム・キャピタル・グループの支援を続けていく中で、
株価が現在の水準よりも高まることも考えられるわけですが、
目下ホーム・キャピタル・グループ株式を買いたいという投資家が市場に大勢いることを考えれば、
バークシャー・ハサウェイは取得したホーム・キャピタル・グループ株式をすぐに売ることもできるな、と思ったわけです。
株式投資では、「株式を売ってしまえる時に売ってしまう。」ということも大切ではないかと思ったわけです。
一般に、上場株式は流動性が高いと言われますが、それはあくまで有名企業・大企業の株式に関しては、
1単元や数単元程度であれば今現在の株価水準で市場ですぐに買い手が見つかる(すぐに売れる)、という意味に過ぎません。
地方の株式市場に上場している中小規模の企業の株式に関しては、
たとえ1単元だけであっても今現在の株価水準で市場で買い手が見つかる(すぐに売れる)とは限らないのです。
市場に、買い手(買い注文を出す人)がいるだけでは上場株式は買えませんし、
市場に、売り手(売り注文を出す人)がいるだけでも上場株式は買えません。
市場には、買い手と売り手両方が必要なのです(買い手と売り手両方がいて初めて株式の取引が成立する)。
バークシャー・ハサウェイはこれからホーム・キャピタル・グループの支援を行っていくと言っているわけなのですから、
私が言っていることはこのたびの事例に照らすと少しズレているわけなのですが、
株式投資という観点から見ると、
株価が高騰している時(すなわち、市場に高い株価でも買うという投資家がいる時)に株式を売る、
というのは投資方針としては決して間違いではないなと思いました。
それから、バークシャー・ハサウェイはこれまでホーム・キャピタル・グループ株式は一切保有していなかったのだと思いますが、
仮定の話として、バークシャー・ハサウェイは以前からホーム・キャピタル・グループ株式を一定数保有していたとしましょう。
また、仮定の話として、バークシャー・ハサウェイはホーム・キャピタル・グループの株価が下落し始めた
今年4月からホーム・キャピタル・グループ株式を市場で買い進めていたとしましょう。
そして、6月21日になって、ホーム・キャピタル・グループの支援を行っていく方針を公表したとしましょう。
さらに、支援をする旨公表をした後、株価が上昇したところでホーム・キャピタル・グループ株式の売却を行い、
多額の売却益を得たとしましょう。
この時、バークシャー・ハサウェイが行った一連の株式の取得と売却はインサイダー取引に該当するでしょうか。
一見すると、「バークシャー・ハサウェイは、バークシャー・ハサウェイが今後ホーム・キャピタル・グループの支援を行うことを
公表前に知っていた」のだから、インサイダー取引に該当するかのように思えます。
しかし、カナダの証券取引法については分かりませんが、日本の金融証券取引法の規定では、
上記の設例においても、、バークシャー・ハサウェイが行った一連の株式の取得と売却はインサイダー取引に該当しない、
と思います。
なぜならば、金融商品取引法に定義されるインサイダー取引規制の「規制の対象者」(「内部者等」)は、
@上場企業の役員などの典型的な内部者、
A上場企業または公開買付者等との契約や法令に基づく権限などによって規制の対象者となる準内部者、
B内部者または準内部者から情報の伝達を受けた情報受領者、
の3つの類型のみだからです。
端的に言えば、バークシャー・ハサウェイは、内部者にも準内部者にも情報受領者にも一切該当しないのです。
金融商品取引法に定義されるインサイダー取引規制は、文字通り「インサイダー」(内部者)に対し
第一義的に規制を課そうとするものですが、
現行の規定では「インサイダー」(内部者)からの情報受領者も「インサイダー」(内部者)に含めているわけです。
逆から言えば、「インサイダー」(内部者)以外はそもそもインサイダー取引規制の対象外であるわけです。
「インサイダー」(内部者)以外の者でインサイダー取引規制の対象となるのは、
公開買付に関連して重要事実を知った者だけなのです。
そして、この「公開買付に関連して重要事実を知った者」には公開買付者自身は含まれないわけです。
ですから、バークシャー・ハサウェイは、金融商品取引法に定義されるインサイダー取引規制の「規制の対象者」に該当しない、
ということになるわけです。
また、「バークシャー・ハサウェイはこれからホーム・キャピタル・グループの支援を行っていくことを数日後に公表する。」
と公表前にバークシャー・ハサウェイから情報を受領した者も
金融商品取引法に定義されるインサイダー取引規制の「規制の対象者」に該当しません。
なぜなら、この場合、バークシャー・ハサウェイは内部者でも準内部者でもないからです。
金融商品取引法上の「情報受領者」とは、内部者や準内部者から情報を受領した者であって、
内部者でも準内部者でもない者から情報を受領しても、それは金融商品取引法上の「情報受領者」には該当しないのです。
さらに、今改めて金融商品取引法の教科書を読んでいますと、「『公開買付者自身から』公開買付の情報を受領した者」は
金融商品取引法上の「情報受領者」には実は該当しないのではないか、という気がしてきました。
なぜならば、公開買付者は金融商品取引法上の「内部者」でも「準内部者」でもないからです。
インサイダー取引規制の対象となる重要事実には、「決定事実」(金融商品取引法第166条第2項第1項)があるわけですが、
この「決定事実」には、当然のことながら、「公開買付の実施に係る事実」が含まれるわけです。
「公開買付者が公開買付を行うことを決定したこと」は、金融商品取引法上紛れもなく「決定事実」に該当します。
しかし、「公開買付者が公開買付を行うことを決定したこと」を、
@内部者もしくはA準内部者から情報を受領した場合に金融商品取引法上の「情報受領者」には該当するのであって、
公開買付者本人から「公開買付者が公開買付を行うことを決定したこと」を伝え聞いても、
金融商品取引法上の「情報受領者」には該当しないわけです。
したがって、公開買付者本人から「公開買付者が公開買付を行うことを決定したこと」を公表前に伝え聞いた上で
対象者株式を市場で買い集めても、インサイダー取引には該当しないわけです。
@内部者もしくはA準内部者から情報を受領した場合に関しては規制があるにも関わらず、
公開買付者本人から情報を受領した場合に関しては規制がきれいに抜け落ちているわけですが、
これは法の不備の類というよりも、そもそも公開買付者は会社外部の者だ、ということではないでしょうか。
そもそも内部情報とは、「会社(発行者)の内部」に関する情報、ということではないでしょうか。
公開買付者は、投資家という位置付けなのですから、「発行者の内部」にいる者ではないわけです。
むしろ、公開買付者は明らかに「発行者の外部」ではないでしょうか。
インサイダー取引規制は、そもそも「発行者の内部」に関連して規制を課するもの、と考えるべきなのだと思います。
また、教科書には、金融商品取引法に定義されるインサイダー取引規制の「規制の対象者」である@内部者について、
>上場企業自身は規制の対象となる会社関係者には該当しません。
と書かれています。
これは、未公表の重要事実を公表する前に、会社自身(発行者自身)が自社株式を市場内外で取引をしても、
インサイダー取引には該当しない、という意味になります。
会社自身(発行者自身)が法人としてインサイダー取引規制に違反することはどのような場合でもない、ということになります。
元来的には、会社自身(発行者自身)が自社株式を取引すること自体があり得ないのですが、
自己株式の取得が解禁された今となっては、そのことは理屈では会社法上全くあり得る取引であると言えるわけです。
インサイダー取引などというのなら、会社自身(発行者自身)が自社株式を取引することが究極のインサイダー取引である、
と言わねばならないと思います。
自己株式の取得が商法上解禁された時点で、
証券取引法上、会社自身(発行者自身)を@内部者に含めるべきであったのだと思います。
What if this reliever himself is a seller of the shares in the market?
この救済者自身が市場における株式の売り手だとしたらどうしますか?
An investor can sell his shares only when another investor in the market
buys the shares.
At the same time. an investor can buy shares only when
another investor in the market sells the shares.
投資家が所有株式を売ることができるのは、その株式を買う別の投資家が市場にいる時だけなのです。
同時に、投資家がある株式を買うことができるのは、その株式を売る別の投資家が市場にいる時だけなのです。