2017年6月19日(月)
【コメント】
2017年5月29日から「法定相続情報証明制度」が開始された、とのことです。
「法定相続情報証明制度」とは、一言で言えば、財産の相続を円滑に行うために、
法定相続人が誰であるのかを示す証書を法務局が発行する、という制度です。
「法定相続情報証明制度」についての解説記事も検索すればたくさんヒットしますので、各自で読んでいただければと思います。
私としましては、「法定相続情報証明制度」については今日初めて知ったのですが、
日本経済新聞の記事と法務省の解説ページを読んでいて、気付いて点について何点書きたいと思います。
まず、日本経済新聞の記事には、「法定相続情報証明制度」において、
法定相続情報一覧図(法定相続人の一覧図)を作成するのは法定相続人であると書かれていますが、
やや揚げ足取りになりますが、厳密に言えば法定相続情報一覧図(法定相続人の一覧図)を作成するのは登記官であると思います。
確かに、制度を活用するに際し、法定相続人は法定相続情報一覧図(法定相続人の一覧図)を登記所に提出する必要があるのですが、
登記官はその記載内容に間違いがないか確認をした上で、改めて登記官が法定相続情報一覧図(法定相続人の一覧図)を作成する、
ということではないかと思います。
確かに、制度上の位置付けとしては、法定相続人が作成した法定相続情報一覧図(法定相続人の一覧図)の写しを登記官が交付する、
という位置付けになっており、「写し」にもその旨記載があるのですが、
法理的には、登記官が発行する「写し」というのは、「公文書の『写し』」ではないのでしょうか。
登記官が私文書を保管する(そしてその私文書の「写し」を交付する)、という考え方などないのではないでしょうか。
細かいことかもしれませんが、法定相続人が作成し提出した法定相続情報一覧図(法定相続人の一覧図)は、
あくまでも申請書類という位置付けに過ぎないわけです。
申請書類中の一覧図の作成者は法定相続人でもちろん構わないわけですが、件の証書は公的な証明書として利用可能である以上、
登記官が発行する「被相続人○○○○法定相続情報」記載の一覧図の作成者はやはり登記官でなければならないと思います。
法務省の解説ページを見ますと、登記官が発行する「被相続人○○○○法定相続情報」記載の一覧図の作成者は
「法定相続人」(代理人)となっていますが、厳密に言えば、登記官が申請内容が正しいことを確認した後は、
交付する書類に記載されている内容は全面的に登記官が作成した文書である(全面的に登記官が内容を保証する)、
という法的位置付けにしなければならないと思います。
公文書の作成者が申請者(私人)では公文書にならないと思います。
法務省の解説資料を訂正すると次のようになると思います。
「〜法定相続情報証明制度について〜」
ttp://www.moj.go.jp/content/001222823.pdf
「『別紙2』の訂正」
次に、日本経済新聞の記事には、「法定相続情報証明制度」の利用状況について、
>東京法務局によると制度開始初日に都内で50件弱の利用があり、以後は1日約30件使われているという。
と書かれています。
この点についてなのですが、正確にはいつの相続から「法定相続情報証明制度」を利用できるのだろうかと思いました。
次の解説ページにその答えが載っていました↓。
法定相続情報証明制度とは
(誰でもわかる相続ガイド)
ttp://www.cosmos-sihou.jp/houteisouzokusyoumeisyo.html
「法定相続情報証明制度」は、2017年5月29日から開始されたわけですが、
2017年5月29日から証明書が発行されるわけです。
ただ、この点について次のような注意書きがあります。
>※2017年5月下旬の制度開始以前は、法定相続情報証明制度は利用できません。
この注意書きの意味するところは、単に2017年5月29日以前は証明書は発行されない、ということではなく、
2017年5月29日以前に開始された相続については法定相続情報証明制度は利用できない、ということではないだろうかと思いました。
すなわち、2017年5月29日以前に被相続人が死亡した相続については法定相続情報証明制度は利用できない、
ということではないだろうかと思いました。
法務省の解説ページには、「いつから開始された相続から法定相続情報証明制度を利用できるのか?」については
記載はなかったように思いました(相続の開始日とは無関係に新制度は利用可能という意味か?)が、
私のこの理解が正しいならば、相続の開始日がすなわち被相続人の死亡日が2017年5月29日以降である相続から、
法定相続情報証明制度を利用することができる、ということになるわけです。
そうしますと、東京法務局の管轄区内では2017年5月29日に少なくとも50件弱の被相続人の死亡があった、ということになります。
より正確に言えば、2017年5月29日の0時から17時までの間に少なくとも50件弱の被相続人の死亡があった、ということになります。
東京も人口が多いですから、東京法務局の管轄区内で人は1日に何百人も死んでいると思います。
東京都の人口を1300万人として、全員80歳まで生きるとして、全世代が平均的に住んでいる(各年代の人口は同じ)としますと、
1日平均して、1300万人÷80÷365=445.2054...、すなわち、東京都では1日平均して毎日445人が死亡しているわけです。
24時間にわたって平均的に人は死ぬとしますと、0時から17時までの間の17時間で言えば、
445人÷24時間×17時間=315.20833...、すなわち、東京都では0時から17時までの間に毎日315人が死亡しているわけです。
この仮定や推定が正しいとしますと、2017年5月29日には当日開始された全相続事例のうち、
15%強(=50人÷315人)で法定相続情報証明制度が利用された、ということになります。
一覧表作成の手間(時間)を考えると、法定相続情報証明制度の利用割合は実際には2割を優に超えると推定できます。
フェルミ推定は置いておくとして、「いつから開始された相続から法定相続情報証明制度を利用できるのか?」について
他の観点からも考えたいのですが、例えば次の解説記事がありました↓。
平成29年5月29日開始の新制度「法定相続情報証明制度」のメリット・デメリットは?
8、法定相続情報証明制度(法務局での手続きです。)について
(東京足立相続遺言相談センター)
ttp://www.adachi-souzoku.com/14683138508645
この解説記事には、この新制度については「とりあえず様子見」することをお勧めします、と書かれており、その理由として、
>この制度の開始後も当面は従来から行われてきた手続きをそのまま行うことが可能です
と書かれています。
「法定相続情報証明制度」は全く利用しなくても、従来通りの相続の手続きを進めていくことができるわけです。
法務省の解説資料「〜法定相続情報証明制度について〜」にも、
>この制度は、戸籍の束に代替し得るオプションを追加するものであり,これまでどおり戸籍の束で
>相続手続きを行うことを妨げるものではない。
と書かれています(3/6ページ)
相続の手続き自体には変更はないのだが、法定相続人の確認方法について新たな選択肢を提供します、
と法務省は言っているのだと思います。
その意味では、「いつから開始された相続でも法定相続情報証明制度を利用できる」という結論になると思います。
2017年5月28日に開始された相続についても法定相続情報証明制度は利用できる、
すなわち、2017年5月28日に被相続人が死亡した相続についても法定相続情報証明制度は利用できる、
という結論になると思います。
法定相続人の新しい確認方法が追加された、というだけですので、そう考える方が自然だと思いますし、
登記所も、被相続人が死亡した日付が2017年5月28日であることを理由に法定相続情報証明制度の利用を認めない、
ということはないと思います。
なぜ被相続人が死亡した日付を気にしているのかと言いますと、相続税法では被相続人が死亡した日付が重要だからです。
2017年4月1日にある改正相続税法が施行されるという場合、
改正後の相続税法が適用されるのは被相続人の死亡日(相続の開始日)が2017年4月1日以降の相続についてだけなのです。
被相続人の死亡日(相続の開始日)が2017年3月31日以前の相続については、
戸籍等の収集に時間がかかろうが遺産分割協議が長引こうが(つまり、各相続人による遺産の実際の取得が4月1日以降であろうが)、
改正前の相続税法が適用されるのです(相続の開始日=被相続人の死亡日で判断する)。
たとえ所有権の移転の登記(相続登記)が2017年4月1日以降になっても、改正前の相続税法が適用されるわけです。
ただ、「法定相続情報証明制度」については、相続の開始日=被相続人の死亡日は全く気にせずに利用できるのだと思います。
>相続登記がなされないまま放置される土地や建物も多く、所有者不明の土地や空き家が増える一因になっていた。
と書かれています。
しかし、先日も書きましたように、相続登記がなされず被相続人の死亡日から10ヶ月が経過した場合は、
その不動産は国の所有物になる、と考えるべきだと思います。
例えば、落し物として現金が警察に届けられた場合、詳しい定めは知りませんが、
何年経っても落とし主が現れない場合は、その現金は国庫に入る、と考えるべきでしょう。
現金を警察に届けた人に何割かやる、というようなこともあったりするのかもしれませんが、
理論的には警察に届けられた現金は国のものになると考えるべきでしょう。
落とし主が不明な落し物は拾った人に所有権がある、と考えるよりも、
所有者が不明なものは全て国のもの、と考えるべきではないでしょうか。
拾いさえすれば所有権が移転する、というのは実生活の上で考え方としては間違いではないでしょうか。
所有者が不明な落し物は国に所有権が移転する、と考えますと、
所有者が死亡している不動産については、所有者がいないわけですから、その不動産の所有権は国に移転する、
と考えるべきでしょう。
それから、法定相続人が誰かは被相続人の死亡時に一意に確定する、と考えるべきでしょう。
被相続人が死亡した後に、新たに法定相続人が誕生するということはあり得ない、と考えるべきでしょう。
また、被相続人が死亡した後に、法定相続人が消滅するということもあり得ない、と考えるべきでしょう。
最後に、究極的には、「戸籍からは法定相続人は明らかにならない。」という点についても指摘しておきます。
戸籍の収集や戸籍謄本が論点になっていますが、現在の家の制度では、実は戸籍では法定相続人は全く分からないのです。
結婚と同時に新たな戸籍が作られる、という法制度がその根本原因であるわけですが、
戸籍と家族(親子関係)が現在の家の制度では全く関係がないのです。
そして、住民票でも法定相続人は全く明らかになりません。
現在の家の制度では、親と子が一緒に住んでいないからです。
以前私は、戸籍や住民票とは別に、戦前の戸籍の概念に類似した「家族票」と呼ばれる公的証明書が必要なのではないか、
とコメントを書きましたが、その理由は戸籍からも住民票からも法定相続人は明らかにならないからです。
この点について理詰めで考えてみますと、「法定相続情報証明制度」の導入以前に、
そもそも法定相続人は誰かを明らかにする手段が全くないことに気付きます。
生活実態その他で総合的に判断すると言うと言い過ぎでしょうが、
親の戸籍に子がいない理由は結婚したからであるから結婚前の親の戸籍を見てその人が子(法定相続人)かどうか判断する、
という確認作業が必要になるわけです。
そのような判断方法でも子かどうかの確認はできると言えばできますが、家族とは何かについて改めて考えさせられます。
現在の家の制度では、少なくとも家族(被相続人と相続人)と戸籍とが全くリンクしていない、と言わねばならないと思います。
All of the contents stated in an official document are written by a public servant.
公文書に記載されている内容は、その全てが公務員によって作成されるものです。
At a registry office, a registry officer (a public servant) issues a
transcript of an official document.
He doesn't issue a transcript of a
private document.
登記所では、登記官(公務員)は公文書の写しを交付するのです。
登記官は私文書の写しは交付しません。
I have no idea why a child is not a child of his/her parents' after
he/she gets married.
結婚後はなぜ子は親の子ではなくなるのか、私には全く分かりません。