2017年6月11日(日)
【コメント】
記事の冒頭を引用します。
>海外子会社との取引に課税する「移転価格税制」について、国税庁が企業から相談を受けやすい体制整備に乗り出す。
国税庁は企業に対し、海外事業に関連して疑わしい取引が行われそうな場合は、確定申告時に問題が生じてはいけませんので、
積極的に事前相談を申し込んで欲しいと考えているのでしょう。
「移転価格税制」は英語で、"transfer
pricing
taxation"というようです。
「移転価格税制」という課税方法は、親会社に適用される法人税率と海外子会社に適用される法人税率が異なることに
起因しているといえるわけですが、極めて単純に考えてみますと、たとえ親会社が海外子会社に低廉な価格で物品を譲渡しても、
親会社が所得を稼得したことには全くならないことだけは確かではないかと思います。
親会社が海外子会社に低廉な価格で物品を譲渡すると、海外子会社における物品の取得原価が小さくなる結果、
確かに海外子会社の所得額が大きくなります(そして親会社の所得額はその分小さくなります)。
しかし、それがどうしたというのでしょうか。
株主の所得と会社の所得は完全に異なるように、親会社の所得と子会社の所得とは完全に異なるわけです。
株主は所得税を納付し会社は法人税を納付するように、親会社は日本で法人税を納付し海外子会社は現地で法人税を納付する、
ただそれだけのことではないでしょうか。
なぜ親会社はより高い価格で海外子会社に物品を譲渡したものとみなされなければならないのかが、私には根本的に分かりません。
他の言い方をすると、、たとえ親会社が海外子会社に低廉な価格で物品を譲渡しても、
親会社には、所得額が増加する部分・所得額が増加する要素要因・所得額が増加する潜在的因果関係は全くないわけです。
ただ単に、海外子会社の所得額が増加する、という意味しかないわけ(どのように考えても親会社の所得額は増加しない)です。
私が説明していることにまだ納得ならば、逆から考えてみましょう。
親会社が海外子会社に著しく高い価格で物品を譲渡したとしましょう。
この時、海外子会社が所在している国の税務当局が、
「本来であるならば、日本の親会社は海外子会社にもっと低い価格で物品を譲渡していたはずなのだから、
海外子会社における物品の取得原価は本来もっと小さいはずだ。
したがって、海外子会社の所得額はもっと大きな金額であると見なす(そして稼得してもいない所得を認識し課税する)。」
と主張したとしたらどうでしょうか。
それはおかしいと分かるでしょう。
率直に言えば、「移転価格税制」というのはその類なのです。
「移転価格税制」のおかしさというのは、日本国内の取引で例えるならば、上手い例えになっているかどうか分かりませんが、
たとえ同じ譲渡金額(売り手が買い手から受け取った代金の金額)でも、
買い手が金持ちの場合は高い税率を課し買い手が貧乏の場合は低い税率を課する、
というようなものではないだろうかという気がします。
買い手はお金持ちだったからこそそれだけの代金を支払えた(金持ちでない通常の人であればもっと少額の代金だったはずだ)、
などと考えるならば、その取引に高い税率を課することにも説明が付くということになってしまうわけです。
さらに、他の見方をすれば、買い手はお金持ちだったのだから、本来は売り手はもっと多くの代金を受け取れたはずだ、
売り手は買い手の資力に関わらず意図的に少ない金額の代金しか受け取らなかったはずだ、
したがって、買い手はその取引においてもっと多くの金額を受け取ったものと見なす、
などと考えるならば、そういった課税方法(実際の所得額よりも多くの所得額であると見なす)ということにも
説明が付くということになってしまうわけです。
取引において、買い手がお金持ちか貧乏かは売り手(の所得額)には関係がないわけです。
売り手はいくらの代金を受け取ったのか、ただそれだけで売り手の所得額は一意に決まるわけです。
議論の都合上取得原価は度外視します(取得原価は0円とする)と、
売り手は買い手から100円の代金を受け取ったならば、売り手の所得額は100円なのです。
買い手がお金持ちであった場合は所得額は120円であると見なし、買い手が貧乏であった場合は80円である見なす、
などという所得額の算定方法はないわけです。
所得額というのは、"actual"(実際に受け取った代金の金額)で一意に決まるものであり、
適用される税率は、"universal"(取引相手に関わらず、共通・同一の税率が適用される)なものなのです。
「移転価格税制」というのは、取引相手によって所得額が変動するという点において、
上記のたとえ話のようなイメージの課税方法だと思えばよいと思います。
「本来であるならば第三者との間で行われたであろう取引(譲渡価額)」などと言い出すならば、
所得額は国税庁の職員の数だけある、と言わねばならないでしょう。
国税庁は伝統的に取得原価主義を標榜しているのではないかと思いますが、
実は「移転価格税制」はその取得原価主義を根本的に否定しているのです。
Whether you receive cash from the richer or from the poorer, a
universal tax rate is applied to you.
通常よりお金持ちの人から現金を受けとろうが通常よりお貧乏な人から現金を受けとろうが、同一の税率が課されます。