2017年6月8日(木)



2017年6月8日(木)日本経済新聞
株主総会出席を実習に グルメ杵屋、関大と連携
(記事)




グルメ杵屋、関西大と連携 学生の株主総会出席を実習に

 うどん店などを運営するグルメ杵屋は7日、関西大学と連携し、学生に株主総会を開放すると発表した。
21日に大阪市内で開く総会への出席が実習授業となる。
同社によると一般企業が株主総会を授業の単位取得要件として開放するのは全国初という。
開かれた社風を株主にアピールするほか、学生に取り組みを知ってもらい将来の採用などにつなげる。
 見学するのは関西大の社会安全学部の学生50人で、社会安全実践演習(危機管理計画立案)の正規の授業内容となる。
総会終了後には懇親会を開き、自社の料理を試食しながら社長らと交流する機会をつくる。
授業の学生以外にも経営学や経済学などを履修する学生や取引先など100人以上に来てもらう予定だ。
(日本経済新聞 2017/6/7 19:20)
ttp://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ07HOT_X00C17A6TJ1000/

 


2017年6月7日
株式会社グルメ杵屋
関西大学がグルメ杵屋株主総会の見学参加を実習授業に!
ttp://www.gourmet-kineya.co.jp/pdf/20170607kaisaidaigaku.pdf

>株式会社グルメ杵屋(本社:大阪市、東証一部上場、証券コード:9850)が、平成29年6月21日(水)に開催予定の定時株主総会に、
>関西大学社会安全学部の学生50名が同学部の「社会安全実践演習(危機管理計画立案)」の正規の授業内容として
>見学参加することとなりました。
>一般企業の株主総会を大学授業の単位取得要件の一部として認めるのは日本では初の試みであります。
>株式会社グルメ杵屋は、平成元年の株式上場以来“開かれた株主総会”を開催し株主様との対話を重視しております。
>株主総会終了後には、新商品や開発中の商品を召し上がっていただく「懇親試食会」を行い
>株主様と経営幹部が直接対話できる機会も設けており、大変好評を頂いております。
>また、株主様以外にもお取引先やマスコミ関係の方々、経営学・経済学等を学ぶ大学生を100名以上来賓としてご招待し、
>株主総会を見学いただいております。

 



【コメント】
株式会社グルメ杵屋の株主総会に関西大学の学生が大学の正規の実習授業として参加・見学をする、という事例です。
関西大学としては、正規の授業内容として学生に見聞を深めてもらうことが目的であるわけですが、
株式会社グルメ杵屋としては、開かれた社風であることを株主にアピールすることが目的であるようです。
株式会社グルメ杵屋は、“開かれた株主総会”をモットーに、株主総会において株主との対話を重視している、とのことです。
株式会社グルメ杵屋は、毎年、株主以外にも取引先やマスコミ関係、経営学・経済学等を学ぶ大学生を来賓として招待しており、
株主総会を見学する機会を広く設けている(株主総会終了後には「懇親試食会」も行っている)、とのことです。
株式会社グルメ杵屋の事例の特徴を一言で言うならば、「株主以外の人も株主総会に出席している」、
という点であろうと思います。
端的に言えば、「株主総会に出席する法的資格があるのは誰か?」という議論になると思います。
本来的には、議決権は株主総会の場で(開催日に)行使をするものですから、
議決権の行使=株主総会への出席、と言ってよいと思います。
その議決権の行使についてですが、株主は代理人によってその議決権を行使することができる、と会社法に定められていますが、
それはイコール、「代理人は株主総会に出席することができる。」(と会社法に定められている)という意味になるわけです。
議決権の代理行使を行う代理人について、会社法上は何らの規定も存在しないのですが、
判例では、代理人の資格は株主に制限されています。
この点を鑑みますと、株主ではない一学生が株主総会に出席をするというのは、
本来的にはまた判例上はおかしい、ということになると思います。
もちろん、株式会社グルメ杵屋の場合は、会社の方が株主以外の方もどうぞ株主総会を見学なさって下さい、
と言っているわけですし、また、当然のことながら学生が株主総会で議決権を行使するというわけでもありません。
そういった意味では、実務上は問題はないとは言えます。
判例(最高裁判例昭和43年11月1日)はおそらく、「私自身は株主ではないが代理人として株主総会に出席する資格があるはずだ。」
と主張した人がいたのだが、会社側が株主以外の代理人の出席を認めなかった、という点について争われたのだと思います。
実務上は、会社側がよいと言えば、株主ではない代理人であろうが一学生であろうが、誰でも株主総会に出席できる、
という言い方はできるとは思います。
しかし、ここでは、法理的な観点から、「株主総会に出席する法的資格があるのは誰か?」について考えたいと思います。
といっても、この問いに対する法理上の答えは、「株主本人のみに株主総会に出席する法的資格がある。」だと思います。
法理的には、株主総会の出席に代理人という考え方はないわけです。
他の会社の株主総会と開催日が重なっているなどの理由で、株主が物理的・時間的に株主総会に出席できない場合に備え、
「書面による議決権の行使」が会社法上認められているわけです。
株主が株主総会の出席に代理人を使いたい理由は、本人が株主総会に出席できず議決権を行使できないからであるわけですが、
その点については、「書面による議決権の行使」を認めることで会社法上手当てがなされているわけです。
法理的には、株主総会の出席に関して株主が代理人を用いる場面(状況)はないはずだ、と言えるわけです。
株主が株主総会で経営陣に直接質問をしたり懇親会に参加し経営陣を会話をしたりという場面は、法理的には想定されない、
と言っていいと思います。
法理的には、株主総会は議決権の行使に集約されている、と言えると思います。
「議決権の不統一行使」に関連して言えば、会社にとっては形式株主のみが重要であって実質株主は全く重要ではない、
すなわち、形式株主と実質株主との関係・契約等は会社には全く関係がないことだ(形式株主のみで判断する)、と言えるわけです。
「株主名簿に記載されている株主本人のみが株主総会に出席する法的資格がある。」、これが法理上の答えなのです。

 


以上の議論を踏まえた上で、株式会社グルメ杵屋の事例を題材に考えてみたいのは、
最近最も論点として浮上する「ディスクロージャー」です。
議論の叩き台とするために、今日はある教科書をスキャンして紹介したいと思います。
これは2003年に作成・使用されたある資格試験の教科書なのですが、
ディスクロージャーに関する制度の理解のヒントになると思います。
2003年当時ではありますが、日本における「ディスクロージャー」制度の概要を解説した部分をスキャンして紹介します。


「ディスクロージャー」1

 

「ディスクロージャー」2

 

「ディスクロージャー」3

 

「ディスクロージャー」4

 

「ディスクロージャー」5


 



教科書には、ディスクロージャーについて、

>ディスクロージャーには、制度的ディスクロージャーと自発的ディスクロージャーがある。
>制度的ディスクロージャーとは、企業が法律によって定められた情報開示義務に基づくもので、
>証券取引法によるディスクロージャーと商法によるディスクロージャーがある。
>また、証券取引所や日本証券業協会の要請によるタイムリーディスクロージャーがある。

と書かれています。
授業を受けている時に書いたのですが、教科書には”税法上のディスクロージャーもある。”と私はメモ書きをしています。
この教科書を久しぶりに読んで私が思ったのは、「商法によるディスクロージャーなどないのではないだろうか?」という点です。
教科書には、「商法によるディスクロージャーの内容」として、
@計算書類の株主総会での報告、A計算書類及び監査報告書を本支店に据え置き閲覧に供すること、B決算公告、
の3つが解説されています。
これら3つは、一般的な意味合いでは、確かにディスクロージャーと言えばディスクロージャーだとは思いますが、
市場との関連で言えば(証券制度の観点から言えば)、これらはディスクロージャーではない、と私は思ったわけです。
取締役が株主総会で当期の計算書類を株主に対して報告をした、これをディスクロージャーと呼べるでしょうか。
それはディスクロージャーなのではなく、受任者による委任者に対する結果報告ではないでしょうか。
"disclose"とは「本来は隠されているものを対外的に発表する」という意味合いだと思いますが、
会社の業績は株主にとって隠されなければならないものでしょうか。
むしろ、委任を行った結果は、当然に委任者に知らされなければならないものではないでしょうか。
つまり、委任を行ったわけではない者に対しても情報を開示することをディスクロージャーと呼ぶのではないだろうか、
と思ったわけです。

 


この点において、商法(会社法)というのは、委任を行った者に対する報告のみを目的としている、と言えるわけです。
委任を行ったわけではない者に対して報告することは、商法では元来的には想定していない、と言えるように思ったのです。
ですから、「商法によるディスクロージャーなどないのではないだろうか?」と私は思ったわけです。
ディスクロージャーの任を担うのは、証券取引法(金融商品取引法)なのです。
一言で言えば、情報提供という観点から言えば、当然に「商法によるディスクロージャー」では全く不十分なのです。
それはそのはずでしょう。
商法はディスクロージャーなど目的とはしていないからです。
本来的には、市場の投資家というだけでは、会社の詳しい事業内容や業績などは何も分からないわけなのです。
なぜなら、事業内容や業績は会社(とその委任者である株主)だけで完結しているものだからです。
しかし、それでは健全な証券取引(株式の売買)ができませんので、別途ディスクロージャーの制度を用意することにしたわけです。
市場の投資家は、証券取引法上のディスクロージャーのみを用いて、投資判断を行うのです。
市場の投資家に、商法上の書類は全く関係がない、と言っていいわけです。
市場の投資家に商法上の書類が関係してくるのは、株主になって初めて、であるわけです。
市場の投資家として商法上の書類が関係あるのではなく、あくまで株主として商法上の書類が関係があるのです。
同じ業績の発表でも、report(報告)と disclose(ディスクロージャー)は全く異なるのです。
report は、会社制度上当然に報告するべき相手(委任者)に対し報告をすることを意味するのに対し、
dislose は、会社制度上は情報提供をするべき相手ではないが投資判断に資するために市場の投資家に対し情報を開示すること
を本質的に意味していると思います。
当然のことながら、商法上の営業報告書・計算書類と証券取引法上の有価証券報告書は本質的に異なる位置付けにあるものなのです。
市場の投資家と株主とにとって、「会社についての重要な情報」というのは自ずと共通する部分があるわけですから、
両者は結果的に極めて類似している・重複する部分がある、というだけのことなのです。
両者は記載内容こそ極めて似ているものの、それぞれの目的を鑑みれば、両者は決して同じではない(互いに全く違う)のです。
有価証券報告書は市場全体に対して開示されるものですから、株主が有価証券報告書を見ることはある(見ることもできる)、
というだけのことであって、本来的には、株主と有価証券報告書とは実は全く関係がないのです。
商法上の営業報告書・計算書類は"for shareholders use only"(株主のみが使用すること)であるのに対し、
証券取引法上の有価証券報告書は"for general investors use"(投資家全般が使用するもの)であるわけです。
「商法は実はディスクロージャーは目的とはしていない。」、久しぶりにこの教科書を読んでそう思いました。



Originally, a company does "disclosure" not on the basis of the Companies Act
but only on the basis of the Financial Instruments and Exchange Act.

元来的には、会社は、会社法に基づいてではなく、金融商品取引法のみに基づいて「ディスクロージャー」を行うのです。


Originally, a company discloses or does "disclosure" of its informations
not to its shareholders nor to its creditors but to investors in the market.

元来的には、会社は、自社の株主や自社の債権者に対してではなく、
市場の投資家に対して自社情報の「ディスクロージャー」を行うのです。