2017年6月7日(水)



2017年6月7日(水)日本経済新聞
東芝債、個人向け利回り急低下 特約発動 担保付きに プロ向けと安全性に格差
(記事)


 


【コメント】
記事に関連するプレスリリース等は、東芝のウェブサイトに掲載されていないように思いました。
ですので、記事のみを参考にコメントを書きたいと思います。
東芝は発行済みの個人向け社債に担保を設定することにしたとのことですが、記事には、

>担保には東芝が保有する定期預金を充て、同社債が債務不履行(デフォルト)に陥るリスクは大きく後退した。

と書かれています。
東芝が担保として差し入れたのは自社の定期預金であるとのことですが、定期預金が担保と聞いて私が最初に思い浮かんだのは、
民法上の「供託」です。
供託所に社債を弁済できるだけの現金を寄託する(供託所はその現金を公的に保管する)、ということをすれば、
社債に担保を設定したことになるのかもしれない、と思いました。
ただ、現行の民法上は、そのような「供託」を行うことは想定はしていないようです。
現行民法上の「供託」は、一言で言えば、債務を消滅させることを目的としているようです。
「私が債務を弁済できない時はこの現金を債権者に対する弁済に充てて下さい。」という形で
債務者が供託所に弁済に充てるための現金を寄託する、というようなことは現行民法上はできないようです。
民法を改正し、供託所の活用方法を拡充すれば、私が言っているような担保設定方法もできるようになるのではないかと思いますが、
現行民法上の「供託」は債務者の債務を即時消滅させる(債権者への弁済と同じ効果を発現させる)ことが目的であるようですので、
私が言っているような供託所を活用した担保設定は実際にはできないようです。
そうしますと、定期預金を担保とする、となりますと、担保設定に関する銀行の対応・サポートが必要になると思います。
つまり、債務者(東芝)が債務(社債)の弁済を行わない場合は、債権者(社債権者)は銀行に債務不履行があった旨通知をすれば、
銀行は債務者の定期預金を債権者のものとする(所有権を債権者に移転させる・口座の名義を債権者に変更する)、
ということが速やかに・円滑に行われる仕組みが担保権の行使のために銀行には求められるわけです。
これは民法上の正式な抵当権の設定とは異なりますが、銀行が定期預金を厳重に管理し有事の際には口座名義の変更の請求に
速やかに応じることで銀行預金による担保の設定を擬似的に生じさせるもの、という見方をすることができるでしょう。
抵当権の設定には法務局が必要不可欠であるように、銀行預金による担保の設定には銀行の協力・対応が必要になります。
債権者・債務者双方が銀行を絶対的に信頼できるものと考える場合には、
銀行にそのような対応を取ってくれるように債権者・債務者双方が依頼をする(そして銀行がその依頼を応諾する)ことは、
全く自由なことかと思います。
確かに、法律で認められていない新しい物権や、法律の規定とは異なる内容の物権を当事者の合意によって創設することは、
原則としてできないとされています(民法第175条)。
このことを「物権法定主義」と言います。
しかし、今私が言っている擬似的な担保権の設定は、新しい物権を創設していることとは異なります。
銀行を仮想法務局と見なし、債務者と債権者が銀行の協力を得て私的な契約により債務の弁済を確実なものとする
仕組みを作り上げるというだけなのです。
つまり、担保の設定に相当する効果を私的な契約により擬似的に発生させること自体は自由かと思います。
この「物権法定主義」に違反している行為というのはどのような状況(契約)なのか、
私には具体的にはよく分からないなと思います。
現行の物権と債権の規定と概念を組み合わせることで、基本的にはどのような権利も説明付けが可能なのではないかと思います。

 



ただ、この銀行預金による担保の設定には注意点があります。
通常の担保(抵当権の設定)とは異なり、このような担保では債務者は担保の目的物を使用することはできません。
債務者が担保の目的物を使用するとは、この場合、債務者は目的物(預金)を消費する、という意味です。
債務者が目的物(預金)を消費してしまっては担保にならないでしょう。
この場合、債務者は目的物を占有はできます(口座名義は債務者のまま)が使用(金銭の消費)はできないのです。
抵当権設定の目的物が土地の場合は、債務者は目的物を占有も使用もできますが、
その理由は結局のところ、土地は使用してもなくならない、というところにあると思います。
土地には消費という概念がない、と言っていいと思います。
その意味において、抵当権の設定の目的物は元来的には土地だけだ、と言っていいと思います。
土地の上に建っている建物も現行民法上は抵当権を設定することができるわけですが、
概念的には建物のみを抵当権の設定の目的物とすることはできないと思います。
つまり、土地に抵当権を設定すると、その土地の上に建っている建物にも抵当権を設定したことになるのではないかと思います。
なぜならば、その建物を占有・使用するためには、必然的にその土地を占有・使用する必要があるからです。
土地を使用しないで建物を使用することができるでしょうか。
土地を使用しているからこそ、その上に建物を建てることができ、また、その建物を使用することができるのではないでしょうか。
建物は、土地の定着物というより(そう考えてもよいのですが)、そもそも土地がないと建てられないものではないでしょうか。
土地と建物の所有者が異なる場合、建物の所有者が建物を使用しようとすれば、土地に不法侵入するしかないわけです。
その建物に住んでいる人は、土地に不法侵入して住んでいるのです。
ですので、建物だけの所有権を移転させるという概念がない(建物だけの譲渡を観念できない)ように思うわけです。
端的に言えば、概念的には、建物は土地と分離することができないのです。
建物は土地と一体化したものとしてしか捉えることができないと思います。
現行民法上は、建物は土地と分離して不動産取引の対象となっていますが、
概念的には土地と分離させてしまうと建物を使用できなくなる(土地を不法占有した上で建物を使用することになる)わけです。
土地というのは、その上に何かを建てるためにあるわけです。、
建物のためにある土地の所有者が建物の所有者とは異なる、というのは概念的には矛盾ではないでしょうか。
債務者一家住んでいる家が建っている土地に抵当権を設定し、債権者が抵当権を行使した場合、
概念的には、債務者一家はその家から出て行かなければならないのです。
概念的には、建物部分には抵当権は設定していなかったから建物の所有権は債務者のままだ(だから一家は家に住み続けてよい)、
という考え方にはならないのです。
概念的には、土地=建物であり、建物=土地なのです。
概念的には、建物(つまり家)は土地(つまり地番)で区切られるのです。
現在では、取引形態や建築様式が多様化し、土地の所有者と建物の所有者が異なることが認められていますし、
さらに、同一建物(同一地番)内でもその区画(簡単に言えば部屋)毎に所有者が異なることが認められています。
話がだいぶ脱線しましたが、話を最初に戻しますと、担保を設定するという時には、債権者の目的が果たせなければ意味がない
わけですから、定期預金が担保権の目的物である場合は、債務者が使用・消費できないことが確実でなければならないのです。


Special agreement on a collateral of a corporate bond.

社債の担保に関する特約