2017年5月26日(金)


2017年5月24日(水)日本経済新聞
決算短信の簡素化始まる 配当方針 3割が記載なし 情報開示の後退懸念
(記事)


2017年5月26日(金)日本経済新聞
東証を悩ます「東芝審査」 上場廃止基準あいまい
(記事)

 



【コメント】
東京証券取引所の上場規則(有価証券上場規程)では、
「決算短信」の公式英訳は"Earnings Report (Summary)"となっているようです。
カッコ書きで"Summary"と付いていますが、東京証券取引所では"Summary"まで含めて、「決算短信」の英訳としていようです。
"Summary"は「概要、要約、手短な、大体の」という意味ですが、敢えて"Summary"と付けているということは、
「決算短信」は文字通り「短信」(短いニュース)という位置付けである、と東京証券取引所は考えている、
ということの表れなのでしょう。
「短信」を辞書で引きますと、「短い手紙」や「短い報告」と書かれてあり、
英語では、 "a short letter"や"a note"や"a brief message"と書かれています。
「決算短信」はそもそも「短い決算報告」に過ぎないのですから、詳細であることは求められていないわけです。
東京証券取引所は2017年3月期末から「決算短信」の簡素化を容認した、と記事には書かれていますが、
「決算短信」の本来的位置付けから言えば、今までの「決算短信」が詳細過ぎた、ということではないかと思います。
「決算短信」については独立監査人(公認会計士、監査法人)からの監査意見は必要ないことから、
「決算短信」は速報性に最重点を置いた決算内容の開示、という言い方ができると思います。
今後は、「決算短信」の趣旨を踏まえ、「決算短信」の開示内容を見直すと同時に、
「決算短信」をできる限り早期に開示することが企業には求められるのではないかと思います。
ただ、"summary"という言葉について辞書を引いていて、ふと思ったことがあります。
辞書を引きますと、"summary"という言葉には、法律用語で「即決の、略式の」という意味があるようです。
用例として、"summary judgment"で「即決裁判」という意味であり、
"a summary court"で「簡易裁判所」という意味であるようです。
主に裁判に関連して"summary"(即決の、略式の)という言葉が用いられているようなのですが、
ここで重要なのは、裁判に関連して用いられていることからも分かりますように、
"summary"という言葉には「不正確な(ことでも容認する)」という意味合いは全くない、ということです。
むしろ、物事の審理や判断に関してはあくまでも「正確であること」を大前提とした上で、
簡略な・手短な審理や判断を行うこともできる、というニュアンスがこの文脈の"summary"にはあるのではないかと思います。
"summary"であることは不正確であることを容認するものではない、と考えなければならないと思います。
そういったことを考えますと、「決算短信」の記載内容も当然のことながら正確であることが求められると思います。
東京証券取引所も、不正確でよいので決算を発表せよ、とは言っていないわけです。

 


この辺り、開示する決算の内容が正確であることを独立監査人(公認会計士、監査法人)の会計監査によって保証する、
ということが重要であるわけですが、「決算短信」では会計監査は求められていないわけです。
会計監査の実施(財務諸表に監査意見を付けること)には現実には一定度の時間がかかることを考えますと、
速報性と(少なくとも市場から見た)正確性とはある程度トレード・オフの関係にあるのもまた事実であるように思います。
「決算短信」に監査意見を求めるという考え方もあると思いますが、結局のところ、有価証券報告書の中心的記載事項は
究極的には財務諸表であることを鑑みると、決算の発表は有価証券報告書の提出に一本化するという考え方に分があると思います。
財務諸表の監査を終えた上でその要約を発表することには、実際にはほとんど意味はないわけですから。
不正確な決算を発表することを防ぐことを考えれば、理論的には「決算短信」にも監査意見を付するべきなのだと思います。
しかし、そうすると今度は「決算短信」が有価証券報告書と極めて近い位置付けになってしまうわけです。
「決算短信」の記載内容よりも有価証券報告書の記載内容の方が多い(書類作成に実務上より多くの時間がかかる)ので、
財務諸表の部分だけを要約した形で早期に発表するのが「決算短信」だ、という捉え方・整理の仕方もできるとは思います。
しかし、それでは財務諸表以外の記載内容の正確性については誰が監査・保証をするのか、という問題が新たに生じるわけです。
そもそも企業が作成した財務諸表・書類があるからこそ独立監査人は監査を行うことができるわけです。
独立監査人による会計監査が終了した後で、詳細な財務諸表を作成する、などという企業はないわけです。
財務諸表以外の記載事項の文書作成に時間がかかるので、速報性の観点から、
財務諸表の部分だけを「決算短信」という形で開示する(「決算短信」は言わば有価証券報告書の財務諸表特化版だ)、
という考え方もできるとは思います。
しかし、投資家の投資判断に有用か否か、という点から言えば、少なくとも、
"summary"(要約)のみを開示されても(たとえ会計監査は終了していようとも)投資家にとってはほとんど意味はないわけです。
以上のことを踏まえますと、究極的には、決算の発表は「有価証券報告書の提出」に一本化する、
という考え方が一番理論的であるように思います。

 


Summary of financial results. (業績の要約)


Delisting criteria. (上場廃止基準)