2017年5月16日(火)


2017年5月16日(火)日本経済新聞
日清紡HD 日本無線を完全子会社に
(記事)



2017年5月15日
日清紡ホールディングス株式会社
日本無線株式会社
日清紡ホールディングス株式会社による日本無線株式会社の完全子会社化に関する株式交換契約(簡易株式交換)の締結のお知らせ
ttps://www.nisshinbo.co.jp/news/pdf/1567_1_ja.pdf
ttp://www.jrc.co.jp/jp/about/news/images/20170515-1/6751_170515-01.pdf

(日清紡ホールディングス株式会社のウェブサイト上と同じPDFファイル)

 

(日本無線株式会社のウェブサイト上と同じPDFファイル)





H29.05.15 16:46
臨時報告書  
日清紡ホールディングス株式会社
(EDINETと同じPDFファイル)

 



【コメント】
日清紡ホールディングス株式会社が子会社である日本無線株式会社を株式交換により完全子会社化する、という事例です。
私はこれまでに何回も、「完全子会社化を目的としている場合は、完全親会社は公開買付を実施することなく、
臨時株主総会を招集し、株式交換のための株主総会決議を取るようにするべきだ。」と書いてきました。
その理由は、公開買付への応募と株主総会において賛成票を投じることは同じ意味を持つからです。
ただ、実務上は、事前に十分な議決権を確保しておきたいということなのだと思いますが、
完全子会社化の手続きに先立ち、完全親会社が対象会社(完全子会社)に対し公開買付を実施する事例が非常に多いわけです。
このたびの事例では、日清紡ホールディングス株式会社は、日本無線株式会社の発行済株式総数の61.81%を既に保有している
親会社ですので、本無線株式会社の株主総会の招集も容易に行えますし、また、
株式交換を実施するための株主総会決議(特別決議)も実務上はまず間違いなく取ることができますので、
公開買付を実施することはしないのだと思います。
それで、このたびの株式交換の事例を見て私が最初に思ったのは、
「完全親会社である日清紡ホールディングス株式会社はEDINETに何の開示書類も提出していないだろう。」
ということです。
なぜならば、株式交換実施の可否は、純粋に株主総会のみで決まるからです。
すなわち、市場の投資家の応募により株式交換が成立するか否かが決まるわけではないからです。
他の言い方をすると、公開買付と株式交換は実施・成立に至るまでの過程・経るべき道のり(手続き)が異なるものだ、
という見方をしなければならないのではないかと思ったからです。
株式交換そのものは投資家保護の観点とは関係がない行為であると分類されると思ったからです。
株式交換は会社の基準日の株主にのみ関連がある行為であるのに対し、
公開買付は市場の投資家全員に関連がある取引(買付期間中も市場の投資家は対象会社株式を市場で購入できるから)、
という違いが株式交換と公開買付にはある、と思ったからです。
厳密に言えば、日本無線株式会社株式と引き換えに日清紡ホールディングス株式会社株式を対価として受け取るのは、
「効力発生日の前日である2017月10月1日の最終の株主」ということになりますので、
実際にはそれまでの間も市場の投資家は日本無線株式会社株式を市場で購入できるわけですから、
その意味では株式交換も市場の投資家に影響を与えるものとして証券制度上投資家保護の観点が要請されるべきと言えるのですが、
「あくまで株主総会決議により実施の可否が決まる」という点において、公開買付と対比すると、
株式交換は「あくまで既存株主(基準日株主)のみに関連がある事柄(行為)」という側面が相対的に強いと思います。

 



以上のようなことが頭にありましたので、
「完全親会社である日清紡ホールディングス株式会社はEDINETに何の開示書類も提出していないだろう。」と思ったわけです。
ところが、EDINETを見てみますと、日清紡ホールディングス株式会社は2017年5月15日付けで「臨時報告書」を提出していました。
臨時報告書の提出理由は、まさに「日本無線株式会社と株式交換契約を締結したこと」であるとのことです。
根拠法令は、金融商品取引法と企業内容等の開示に関する内閣府令とのことです。
実務上のことを鑑み、金融庁は、「効力発生日までの間の市場における完全子会社株式の取引」について、
投資家保護を図る目的で臨時報告書の提出を完全親会社に義務付けているのでしょう。
任意開示のプレスリリースは18ページである一方、法定開示書類の臨時報告書は表紙を含めて11ページとなっています。
両書類を見比べると、情報の詳細さという意味では任意開示のプレスリリースの方が勝っていると思いました。
ところで、このたびの事例では、基準日は2017年3月31日となっており、過去の日付が基準日として設定されています。
タイミングよく開催される予定である定時株主総会で議事を決する関係上、基準日を2017年3月31日と設定したのでしょうが、
2017年3月31日以降に株式を売却してしまった株主のことを考えると、基準日は意思決定日より将来の日付であるべきだと思います。
また、基準日が過去の日付であることから、議決権行使という意味では、
このたびの株式交換は市場の投資家には全く関係がないことになった(今から株式を購入しても議決権は行使できないから)、
ということになります。
ただ、効力発生日は将来の日付であることから、保有している株式が親会社株式と交換されるという意味では、
やはりこのたびの株式交換は市場の投資家に関係がある(すなわち、投資家保護の観点が重要になる)、
ということになります。
結局のところ、投資家保護の観点から、臨時報告書の提出は義務付けるべき、という結論になるのでしょう。

 



次に、証券市場のあり方の話ではなく、会社法制の話になりますが、
「基準日と株主総会開催日と効力発生日との関係」について一言だけ書きたいと思います。
会社法上、株主総会開催日は基準日から3ヶ月以内でなければなりません。
しかし、株主総会開催日から効力発生日までの期間の長さについては、会社法上は特段の定めはないと思います。
では例えば、株主総会開催日から10年後に効力発生、ということでよいのでしょうか。
それでは明らかにおかしいと分かるでしょう。
そもその話、ある事柄(行為)について効力を発生させるために株主総会を開催して議事を決するわけです。
そうであるならば、効力発生日は基準日から3ヶ月以内でなければならない、という考え方になると思います。
そして、効力発生日が基準日から3ヶ月以内である場合は、株主総会開催日は自動的に基準日から3ヶ月以内、ということになります。
理解のヒントにするために、このたびの事例を題材に、プレスリリースをキャプチャーして解説を書きましたので参考にして下さい。


「日清紡ホールディングス株式会社による日本無線株式会社の完全子会社化に関する
株式交換契約(簡易株式交換)の締結のお知らせ」
2. 本株式交換の要旨
(1) 本株式交換の日程
(4〜5/18ページ)



基準日から株主総会開催日まで(@の期間)が実務上よく問題になるが、
実は基準日から効力発生日まで(Aの期間)が本質的には重要なのではないか?

株主総会開催日から効力発生日までの期間は問題ではない。
基準日から効力発生日までの期間が問題となる。

⇒基準日から株主総会開催日までは「3ヶ月以内」であることが求められているのなら、
 基準日から効力発生日までも「3ヶ月以内」であることが求められるべきでは?
 その理由は、基準日の株主が効力発生の影響を受けるべきであるからだ。
 会社法上も、基準日から3ヶ月以内でなければならないのは、
 株主総会開催日ではなく、効力発生日である、と定めるべきであろう。
 条文でそのように定めれば、必然的に、
 株主総会開催日も基準日から3ヶ月以内でなければならない、という解釈になる。

 

In theory, the fact that a company is required to make a decision on an event within three months from a record date
means that the effective date on the event should also come within three months from the record date.

理論的には、会社は基準日から3ヶ月以内にある事象について意思決定をすることが求められているということは、
その事象の効力発生日もまた同じ基準日から3ヶ月以内でなければならない、ということになります。

 



「日清紡ホールディングス株式会社による日本無線株式会社に対する株式交換」が公表(市場に開示)されたのは、
2017年5月15日(月)であるわけですが、株式交換の公表に先立ち、
完全親会社である日清紡ホールディングス株式会社と完全子会社である日本無線株式会社と
日清紡ホールディングス株式会社の別の子会社である新日本無線株式会社は、
それぞれ2017年5月11日と2017年5月9日と2017年4月28日に2017年3月期の決算短信を開示しています。

 

2017年4月28日
新日本無線株式会社
平成29年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1463427


2017年5月9日
日本無線株式会社
平成29年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
ttp://www.jrc.co.jp/jp/about/news/images/20170509-1/accounts2017.pdf


2017年5月11日
日清紡ホールディングス株式会社
平成29年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
ttps://www.nisshinbo.co.jp/ir/library/pdf/financial_results/2017_0511_4q.pdf

 

決算短信の開示日と何らかの組織再編に関連する行為の公表日とが非常に近い場合、株価への影響を避けるためなのだと思いますが、
決算短信の開示日と組織再編行為の公表日を敢えて同じ日にする(同時に開示・公表する)、ということが実務上よく行われます。
このたびの事例に即して言えば、「日清紡ホールディングス株式会社による日本無線株式会社に対する株式交換」の公表日を
日清紡ホールディングス株式会社の決算短信の開示日である2017年5月11日にする、という開示方法を行うわけです。
この点については様々な考え方があると思いますが、
直近の開示情報を株価に織り込んだ上で、株式交換比率や買付価格などを決定したいという時は、決算短信の開示を先に行い、
情報が市場に十分浸透し開示情報が株価に織り込まれたのを待って組織再編行為について公表を行う、
という開示方法もあると思います。
必要以上に同じ日にすると、決算短信の内容を株価(そして株式交換比率等)に織り込まれたくないからそうしたのではないか、
と市場から勘ぐられないとも限りません。
個人的には、組織再編行為等について公表する時は、決算短信等の開示から数日経ってからにするべきではないかと思います。

 



それから、日清紡ホールディングス株式会社は、平成29年5月11日開催の取締役会において、
第174期(平成28年4月1日から平成29年3月31日まで)の期末配当金について次のとおり決定しています。


2017年5月11日
日清紡ホールディングス株式会社
第174期期末配当金のお支払いに関するお知らせ
ttps://www.nisshinbo.co.jp/news/news20170511_1563.html

>1. 期末配当金
>1株につき金15円(基準日:平成29年3月31日)
>2. 期末配当の効力発生日ならびに支払開始日
>平成29年6月8日(木)
>
>期末配当金のお支払いについて
>「期末配当金領収証」および「期末配当金計算書」(口座振込をご指定の方には「期末配当金計算書」および
>「配当金振込先ご確認のご案内」)は、平成29年6月7日にお届出のご住所あてにお送りする予定です。
>「期末配当金領収証」により期末配当金を受け取られる方は、平成29年6月8日から平成29年7月7日までに、
>最寄りのゆうちょ銀行または郵便局でお受け取りください。
>口座振込をご指定の方には、平成29年6月8日付で期末配当金のお振込みの手続をいたしますので、ご指定口座をご確認ください。


日清紡ホールディングス株式会社は、定款の定めにより、株主総会の決議なしに配当金を支払っているのだと思います。
取締役会決議のみで配当金を支払う旨定款に定めているのだと思いますので、
この配当金の支払い自体には会社法上は問題はないと思います。
しかし、考えてみますと、期末配当の支払日(会社からの口座振込日等)は平成29年6月8日(木)となっています。
毎年、日清紡ホールディングス株式会社は、
株主総会招集通知を6月6日前後に送付し、株主総会を6月29日前後に開催しています。
つまり、株主が当期の計算書類を見る前に会社は配当金を株主に支払い終わっている、という状況になっています。
もちろん、配当金が支払われる前に株主が当期の計算書類を見たところで配当金の金額が変わる・金額を変更できる
わけではありません、
しかし、現任の、すなわち、その配当金を支払うことに貢献した取締役の任期は定時株主総会の終結の時まで
であることを鑑みると、たとえ定款の定めにより配当金の支払に株主総会の決議は不要であろうとも、
配当金の支払いは定時株主総会の終結と同時にであるべきだと思います。
(株主に送付される「期末配当金計算書」ではなく)会社の当期の計算書類には、配当金の具体的根拠が記載されているわけです。
当期の利益額はいくらであり当期末の利益剰余金の金額はいくらであった、だから、会社は当期の配当金の金額をこの金額とした、
という流れ(意思決定の根拠)が大切であるわけです。
計算書類が先、配当金の金額は後であるわけです。
元来的には配当金と役員報酬の原資は同じ(どちらも利益処分の類型)であることを鑑みると、
金額に関する決議要件はともかく、配当金の支払いと役員報酬の支払いは常に同時であるべきではないかと思いました。