2017年5月8日(月)


2017年5月1日(月)日本経済新聞
公開買付開始公告についてのお知らせ
株式会社デンソー
(記事)



2017年4月28日
株式会社デンソー
自己株式の取得及び自己株式の公開買付けに関するお知らせ
ttps://www.denso.com/jp/ja/news/news-releases/2017/20170428-03/

 

H29.05.01 15:07
株式会社デンソー
公開買付届出書  
(EDINET上と同じPDFファイル)



H29.05.01
株式会社デンソー
公開買付開始公告
(EDINET上と同じhtmlファイル)

 



【コメント】
このたび株式会社デンソーが実施しています自己株式の公開買付は、
大株主であるトヨタ自動車株式会社(24.55%保有)から一定株式数のみを株式会社デンソーが買い取ることを目的としています。
トヨタ自動車株式会社は、「6,000,000株」(保有割合:0.76%)を公開買付に応募する意向を持っているとのことです。
公開買付には株主の誰もが応募することができるのですが、公開買付を行う趣旨を鑑み、
買付価格は直近の株価水準よりも低い価格が設定されています。
ですので、一般株主がこの公開買付に応募することは基本的にはないと言っていいでしょう。
ただ、各種開示情報を読んでいて気になりましたのは、「買付予定数の設定方法」です。
トヨタ自動車株式会社は、「6,000,000株」を公開買付に応募する意向を持っているわけですが、
一般株主からの応募があった場合も買い付けることができるように、
株式会社デンソーは最大「6,600,000株」買い付けることができるよう、買付条件を設定しているつもりのようです。
つまり、株式会社デンソーは、このたびの公開買付において、「6,000,000株」から「6,600,000株」までの間の株式数だけ
買い付けることができるよう、買付条件を設定しているつもりであるようです。
しかし、その具体的設定方法が間違っているように思います。
まず話を整理しますと、そもそもこのたびの公開買付(自己株式の取得)は、
株式会社デンソーからトヨタ自動車株式会社に対し持ちかけた話であるわけです。
つまり、このたびの公開買付は、トヨタ自動車株式会社からの依頼を受けて行っていることではないわけです。
株式会社デンソーは、資本政策の一政策として大株主から株式を買い取っていくことを計画しているわけです。
各種開示情報には以下のように記載があります。

>当社は、トヨタ自動車より、当社が本公開買付けの実施を決議した場合には、
>その保有する当社普通株式194,948,856株の一部である6,000,000株(保有割合:0.76%)について、本公開買付けに応募する旨、
>また、本公開買付けに応募しない当社普通株式188,948,856株(保有割合:23.80%)については、
>現時点において、継続的に保有する方針である旨の回答を得ております。

株式会社デンソーとしては、少なくともトヨタ自動車株式会社から応募があった分に関しては全て買い付けることができるよう、
買付予定数を設定する必要があるわけです。
そして、トヨタ自動車株式会社は公開買付に応募する旨約束しているとなりますと、
最低でも「6,000,000株」は買い付けることができるよう、買付条件を設定しなければならないわけです。
また同時に、この公開買付は煎じ詰めれば自己株式の取得であるわけですから、経営上は必ず、
買い付ける株式数に最大値を設ける必要あるわけです(全株式が応募されたら株主の数が0人(株式数0株)になってしまうから)。
そうしますと、公開買付者である株式会社デンソーが設定するべき買付予定数は、次のようでなければならないわけです。

買付予定数の下限 6,000,000株
買付予定数の上限 6,600,000株

もしくは、「買付予定数の下限」は設定しなくてもよい(ハイフンでよい)と思います。
その理由は、一般株主のみから6,000,000株以上の応募があっても公開買付は成立するからです(応募株主に区別はない)。
すなわち、トヨタ自動車株式会社が応募をしなかった場合は買い付けを行わない、という買付条件は設定できないからです。
ただ、少なくとも「買付予定数の上限」はこの場合(自己株式の公開買付の場合)必ず設定しなければならないわけです。

 



以上の議論を踏まえた上でですが、実際の開示情報には買付予定数がどのように設定されているか見てみましょう。
開示情報は、@お知らせ、Aプレスリリース、B公開買付届出書、C公開買付開始公告の計4種類です。

 

@日刊新聞掲載の「お知らせ」の記載内容↓

4. 買付予定の上場株券等の数
「キャプチャー」


A会社からの発表された「プレスリリース」(任意開示)の記載内容↓

3.買付け等の概要
(4)買付予定の上場株券等の数
「キャプチャー」


B「公開買付届出書」の記載内容↓

4【買付け等の期間、買付け等の価格、算定の基礎及び買付予定の上場株券等の数】
(3)【買付予定の上場株券等の数】
「キャプチャー」


C「公開買付開始公告」の記載内容↓

4.公開買付けの内容
(4)買付予定の上場株券等の数
「キャプチャー」

 



問題なのは、「買付予定数」と「超過予定数」という文言・用語を用いて、買付数に関する買付条件を設定している点です。
確かに、旧証券取引法では、「買付予定数」と「超過予定数」という文言・用語を用いて、
買付数に関する買付条件を設定していたわけですが、現行の金融商品取引法ではこれらの文言・用語は用いない、
と言っていいかと思います。
株式会社デンソーが意図している買付方法(買付条件)は、やはり私が書いた通りではないかと思います。
ただ、現行の金融商品取引法が適用されている他の事例においても、自己株式の公開買付では、
「買付予定数」と「超過予定数」という文言・用語を用いて、買付数に関する買付条件を実際に設定しているようです。
金融庁が用意している雛形(テンプレート)が間違っている、ということなのだろうか、と今思っています。
通常の公開買付(発行者以外による公開買付)であろうが、自己株式の公開買付(発行者による公開買付)であろうが、
現行の金融商品取引法では、「買付予定数の下限」と「買付予定数の上限」を用いて、
買付数に関する買付条件を設定するようにするべきだと思います。
旧証券取引法では、「買付予定数」とは今で言う「買付予定数の下限」を意味し、
「超過予定数」とは今で言う「買付予定数の上限」(「買付予定数+超過予定数=買付予定数の上限」という関係になっていた)
を意味していました。
ですので、敢えて旧証券取引法の定義・文言・用語を用いて、このたびの公開買付の買付条件を表現するならば、
次のようになるのではないかと思います。

買付予定数 -株(設定なし)
超過予定数 6,600,000株

トヨタ自動車株式会社が応募することを約束している「6,000,000株」はどこに行ったんだ、と思われるかもしれません。
実は、正確に言うと、旧証券取引法の定義・文言・用語を用いて現行の金融商品取引法の買付条件を表現することはできないのです。
なぜならば、旧証券取引法では、「『買付予定数の下限』を設定しない」に相当する概念自体がなかったからです。
たとえ応募が少なくても応募があった分は買い付ける、という買い付け方は旧証券取引法ではできなかったのです。
ですので、結局のところ、私が書きました上記の設定方法は間違っている(そもそも表現できない)のです。
トヨタ自動車株式会社から応募があろうがなかろうが、株式会社デンソーは応募があった株式を最大6,600,000株までは買い付ける、
という買付方針ですので、旧証券取引法の定義・文言・用語を用いて買付条件を表現することはできないわけです。

 


参考までに書きますと、トヨタ自動車株式会社から応募があろうがなかろうが、
株式会社デンソーは応募が「6,000,000株」未満の場合は一切買い付けない、という買い付け方をしたい場合は、
設定方法は次のようになります。

買付予定数 6,000,000株
超過予定数 600,000株

旧証券取引法であれ現行の金融商品取引法であれ、「トヨタ自動車株式会社から約束通り応募があれば」という経営上の条件を、
公開買付の買付条件に反映させることはできません。
その理由は、大株主であるトヨタ自動車株式会社も零細株主である一般株主も、株式市場では皆平等だからです。
他の言い方をすれば、公開買付者は「応募株主は誰であったか?」を買い付けるに際し問うことはできない、
ということになります。
このことからは、理論的には、公開買付者は買付期間中に応募状況を知ることはできない(知ることができてはならない)、
という結論を導き出すことができるのではないかと思います。