2017年5月5日(金)



2017年4月29日(土)日本経済新聞
ゼロから解説 
遺産争いを家裁で解決 まず調停、こじれたら審判に移行
(記事)

 

 

生前贈与は相続財産にふくまれるか
(遺産相続無料相談センター 投稿日 : 2016年3月10日  | 最終更新日時 : 2017年2月10日)
ttp://isan-soudan.org/lifetime_gifting_heritage.php

>民法第903条第1項で,故人から生前贈与を受けた相続人がいた場合の相続分の計算方法について,以下のとおり規定しています。
>「共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として
>贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを
>相続財産とみなし,前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもって
>その者の相続分とする。」
>ここで言う,「遺贈」「婚姻若しくは養子縁組のため」「生計の資本」としての贈与を受けているときの利益のことを
>「特別受益」と言いますが,この民法903条は,特別受益を受けていない相続人との間の不公平を調整するための規定となっている

 


【コメント】
遺産相続を巡って遺族間でもめ事が起きた時は、「調停」と「審判」という2つの制度を用いて解決することになるようです。
「調停」は、家庭裁判所が間に入り、当事者間での話し合いによる解決を促す仕組みであるようです。
話し合いがまとまると、担当者が「調停調書」を作成するのですが、調停調書は裁判の判決と同じ効力を持つようです。
「審判」は、裁判の一種であり、裁判官が書類や証拠を基に決定(審判)を下す仕組みであるようです。
記事には、「調停」と「審判」の違いについて、

>話し合いの仕方に結果が左右される調停とは違い、審判では、あくまでも法律に沿った決着となります。

と書かれています。
「調停」は、当事者それぞれの情状を酌量した上で、家庭裁判所の担当者が客観的に見て合理的と思える相続案を提案する等して、
当事者双方が納得のいく相続を見つけ出していこうとする手続きなのだろうと思います。
一方、「審判」は、当事者それぞれの情状は一切酌量せず、民法の規定に即した決定を裁判官が下す、
という手続きなのだろうと思います。
通常は、「調停」では話がまとまらなかった場合に「審判」に移行する、という流れになっているですが、「審判」に至った場合、
結局最後は、「民法の規定に即した相続」しか現実にはなかったのだ、と双方が納得する(諦念する)しかないのだと思います。
記事の設例では、Aさんが亡くなった父から多額の生前贈与を受けていたことが問題になっています。
記事には、生前贈与の民法上の取り扱いについて、

>民法では、このケースのように多額の生前贈与について、公平性の観点から、相続時に考慮すべきだと定められているからです。

と書かれています。
私は以前、生前贈与について、「法理上は生前贈与は相続に含まれない。」と書きました。
そもそも相続は被相続人の死亡を開始原因とするものですし、例えば、財産の受取人の課税関係に関して言えば、
生前贈与の場合は所得税が課税される一方、相続の場合は所得税が課税されます。
贈与と相続は法理的には全く異なるものだと私は思います。
ただ、生前に被相続人から相続人に贈与行っていた場合は、経済実態として相続財産の前払いの側面が現に出てくるわけです。
実際に相続において、生前贈与の分は考慮するべきではないか、と言われると、
確かに現実にはそちらが合理的であるとは思います。
この点についてインターネットで検索してみますと、解説がそのまま載っていました。
最初に紹介している遺産相続無料相談センターの解説記事がそれです。
民法第903条第1項に、生前贈与の分は相続分から引き算される、と規定があります。
家庭裁判所の「調停」や「審判」において、生前贈与の分は相続分から引き算される、
という考え方に一般になっているのだろうかと私は今までは思っていました。
つまり、通説や判例や経済実態を踏まえた解釈として、生前贈与の分は相続分から引き算される、
という取り扱いになるのだろうと私は今までは思っていました。
ところが、この取り扱いには民法に明文の規定があるようです。
ただ、民法の規定には続きがあり、第903条第3項には、例えばその旨遺言があれば、
相続に際してこの「特別受益の持ち戻し」を考慮しなくてもよい、との規定もあるようです。
遺言というのは、遺産の承継に際し本当に大きな力を持つのだなあ、と思いました。

 



また、遺言と言いますと、「遺贈」もまた遺産の承継に際して問題になります。
「遺贈」についても、先ほど紹介した遺産相続無料相談センターの解説記事解説が載っていますので引用します。

>特定の相続人が遺言によって受けた遺贈
>特段,遺言書により「遺贈を特別受益には含まない」旨の指示がなければ,
>遺贈によって受けた財産は,すべて特別受益として扱われることになっています。

一言で言えば、民法上は「遺贈」も生前贈与と同じ取り扱いになるようです。
しかし、以前も書きましたように、私の考えでは、(特定相続人への)「遺贈」と相続とは異なる、と思います。
遺言内容が法定相続に優先する、とはそういうことではないでしょうか。
私の考えが正しいとすると、端的に言えば、遺贈によって受けた財産は全て特別受益ではない、ということになります。
それから、この解説記事の最後には課税関係についても書かれています。
相続税法の規定についての解説なのですが、

>相続税の申告に際しても生前贈与は検討しなければならず,
>相続により財産を取得した者が,被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日から遡って3年前の日から,死亡の日までの間)に
>贈与を受けた財産があるときには,その者の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算する,
>との規定もあります。

と書かれています。
しかし、率直に言って、この規定は間違っていると言わねばならないでしょう。
なぜならば、生前に被相続人から財産の贈与を受けた者(相続人)は、当然のことながら、
贈与を受けた時に既に所得税を申告・納付しているはずだからです。
この規定の通りだとしますと、「贈与を受けた財産」に関する二重課税、ということになってしまいます。
税務当局として生前贈与を相続の一類型と見なしたいのは分かりますが、仮にそのような取り扱いを行いたいのであれば、
生前贈与について「生前に被相続人から財産の贈与を受けた場合は包括的に相続と見なす」と定義し、
生前贈与を受けた者は贈与を受けた時に相続税を申告・納付する、との規定を置くべきなのだと思います。
つまり、同じ財産の贈与でも、被相続人から受けたのか被相続人以外から受けたのかで、
相続と見なすのか贈与と見なすのかを決めるわけです。
私のこの案の場合、相続税を申告・納付するのはその相続人だけ、ということにはなります。
すなわち、生前贈与を受けていない他の相続人は相続税を申告しない、ということになります。
この辺り、被相続人の死亡が相続の開始原因という点を特段に鑑みますと、
ある1人の相続人が相続税を申告する時は、他の全ての相続人も相続税を申告しないと、
相続という行為に関する相続人間の整合性が取れていないことになるように思います。
簡単に言えば、他に相続人がいるのに1人だけが相続するということがあるのか、という話になるわけです。
この点を鑑みますと、やはり生前贈与は相続ではない、という考え方になるように思います。
また、「遺贈」に関しても、被相続人の死亡に伴い、相続人以外の者が遺産を承継するわけです。
相続人以外の者が遺産を承継しても、その人は相続税は申告しないわけです(所得税を申告します)。
この点を鑑みますと、やはり「遺贈」は(たとえ相続人が「遺言」に基づき遺産を承継するとしても)相続ではない、
という考え方になるように思います。