2017年4月26日(水)
2017年4月26日(水)日本経済新聞
東芝、上場維持へ苦渋の選択 適切な監査に疑問
(記事)
東芝は、決算の会計監査を担当する「PwCあらた監査法人」を変更する方針を固めた。
東芝は決算発表を2回延期して、決算内容をめぐる意見調整をしてきたが、隔たりが大きく、
2017年3月期の本決算も「適正」意見を得るのは困難と判断。準大手の監査法人に後任を打診している。
ただ、新監査法人から「適正」意見を得ても、市場の不信を買う懸念がある。
また、監査業務を短期で引き継ぐのは難しく、東芝が5月中旬とする決算発表が遅れるのは必至だ。
東芝は16年4〜12月期連結決算について、PwCあらたから「決算内容は適正」との意見を得られないまま、
今月11日に発表する異例の事態に追い込まれていた。
米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請して経営破綻した米原発子会社、ウェスチングハウス(WH)の
内部統制の不備や昨年末に発覚した巨額損失を認識した経緯をめぐる意見対立が原因。
東芝では17年3月期本決算でも監査法人の適正意見が得られないままでは株式上場廃止のリスクが高まると判断。
監査法人を交代させる苦渋の決断を迫られている。
ただ、監査法人の変更には問題が多い。大手企業の東芝の監査は監査対象が多岐に及び、作業量が膨大。
後任となる新監査法人は東芝の事業概要を把握する必要があるが、
「これまでの監査法人からの引き継ぎだけで数カ月はかかる」(大手監査法人関係者)との見方が出ている。
4大監査法人の一角のPwCあらたから準大手に交代させる場合、会計基準を変更する必要も指摘されている。
東芝は現在、米国の会計基準を採用しているが、
米国基準に精通した会計士の人数が限られる準大手の監査法人は基本的に日本基準を採用している。
会計基準を変更すれば、さらに作業量が膨らんで、東芝が5月に予定する17年3月期決算発表時期が
大幅に先延ばしとなることも予想される。
一方、監査法人を変更して適正意見を得られても、監査結果の信頼性が市場で疑問視されるのは必至だ。
投資家に「東芝の意向に沿った意見を出してくれる監査法人に切り替えた」と受け止められかねないからだ。
岩井コスモ証券の有沢正一投資調査部長は「どの監査法人が見ても納得できる決算を出すのが本来のあり方だ」とくぎを刺す。
また、BNPパリバ証券の中空麻奈投資調査本部長は「新監査法人から適正意見を得られたとしても、
東芝は(PwCあらたに)疑問視された点をどのように説明し、納得させたのか、公表する必要がある」と指摘する。
東芝経営陣には異例の監査法人変更に至った説明責任が厳しく求められそうだ。
【キーワード】監査法人
公認会計士らで構成し、企業の決算や資産状況を記録した財務書類に誤りや偽りがないかを独立した立場でチェックする。
全国200超の法人があり、新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらたが国内の4大監査法人。
上場企業や資本金5億円以上の企業は決算の際、監査を受ける必要がある。
監査法人は、決算を適正と判断した場合は「適正意見」、一部不適切事項はあるが決算に影響はない場合は「限定付き適正意見」、
決算に影響を及ぼす重要事項が十分に確認できない場合は「意見不表明」、不適切事項が見つかった場合は「不適正意見」を出す。
通常、上場企業の決算には「適正」が付き、投資家はこれにより安心して株式を買える。
(毎日新聞 2017年4月26日 22時11分(最終更新 4月26日
22時11分))
ttps://mainichi.jp/articles/20170427/k00/00m/020/118000c
>東芝は今後、一時的に前期決算を監査する「一時会計監査人」を選ぶとみられる。
>監査人の選任は株主総会の決議事項になるが、監査人の辞任などで決算が確定できない場合は、
>総会決議なしで「代打」の監査人を選任できる。
と書かれています。
「一時会計監査人」という会社機関は初めて聞いたのですが、
会社法の第三百四十六条に「役員等に欠員を生じた場合の措置」が定められているようです。
条文を引用します。
>会計監査人が欠けた場合又は定款で定めた会計監査人の員数が欠けた場合において、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、
>監査役は、一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならない。
条文中の「監査役」は、会社の機関設計により、「監査役会」、「監査等委員会」、「監査委員会」などと
適宜読み替える必要がありますが、
端的に言えば、株主に選任された監査役が「一時会計監査人」を選任する、となります。
ただ、条文を読む限り、現任の会計監査人が自分の都合で辞任した場合にのみ、
会社(監査役)は臨時的に「一時会計監査人」を選任することができる、という意味になるのではないだろうかと思います。
つまり、会社側の都合で現任の会計監査人を解任する場合(無限定適正意見を表明しないということを理由として等)は、
監査役が「一時会計監査人」を選任することはできない、という条文解釈になると私は思うわけです。
会計監査人の解任には、株主総会の普通決議が必要ですが、そのような場合は、
新任の会計監査人は必ず株主総会の普通決議によって選任しなければならない、という条文解釈になると思います。
簡単に言えば、現任の会計監査人が(十分な監査が実施できないことなどを理由に)自分から辞めると言わない限り、
監査役は「一時会計監査人」を選任することはできない、という条文解釈になると思います。
私のこの解釈に明文の規定はないようですが、監査役が「一時会計監査人」を選任できるのは、煎じ詰めれば、
やんごとない理由(そのままにしてはおかれない理由、のっぴきならない理由)がある場合のみだと思います。
任期満了に伴う終任や株主総会決議による解任の場合は、監査役が「一時会計監査人」を選任することはできない、
と条文を解釈しなければならないと思います。
会社法に定義される”会計監査人が欠けた場合”とは、「会計監査人が(自分から)辞めた場合」という解釈になると思います。
任期満了に伴う終任や株主総会決議による解任の場合は、会社は当然に株主総会決議により会計監査人を選任できるはずだ、
という論理がその解釈の根拠です。
東芝の現任の会計監査人は、まだ辞任するとは言っていませんし、今後も辞任する意向はまずないと思います。
ですので、東芝の場合は、監査役が「一時会計監査人」を選任することはできない、ということになると思います。
次に、紹介している毎日新聞の記事を読んで、「確かに、実務上はそういった問題もあるのだろうな。」と思いました。
それは、
> 4大監査法人の一角のPwCあらたから準大手に交代させる場合、会計基準を変更する必要も指摘されている。
>東芝は現在、米国の会計基準を採用しているが、
>米国基準に精通した会計士の人数が限られる準大手の監査法人は基本的に日本基準を採用している。
という部分です。
簡単に言えば、準大手の監査法人では米国基準による会計監査を実施できない、という問題があるようです。
4大監査法人であれば、米国基準による会計監査を実施できるのですが、
準大手の監査法人では人手不足といった問題もあり、米国基準による会計監査を実施できないようです。
考えてみれば、公認会計士試験でも、日本基準が出題されるわけです。
理屈では、米国基準に精通していることは公認会計士に求められてはいないわけです。
逆から言えば、公認会計士は、日本基準に精通していることは監査制度上保証されていますが、
米国基準に精通していることは監査制度上全く保証されてはいない、と言えるわけです。
4大監査法人にいる公認会計士は、自分で米国基準を学んだのだと思います。
しかし、理屈の上では、自分で学んだから会計監査を行ってよい、というのであれば、
そもそも公認会計士試験はいらないわけです。
米国基準やIFRSに準拠した財務諸表を会社が作成し、米国基準やIFRSに精通していることが保証されてはいない公認会計士が
その財務諸表に対し会計監査を行う、というのは、会計監査制度上の矛盾と言っていいのかもしれないな、と思いました。
米国基準に準拠した財務諸表に対して会計監査を行うためには、米国基準に精通していることが保証されている専門家でなければ
ならないわけですが、それは結局のところ、米国公認会計士試験に合格した公認会計士、ということにならないでしょうか。
準大手の監査法人同様、4大監査法人においても米国公認会計士試験に合格した公認会計士は非常に少ないと思います。
だとすると、一体今までどうやって米国基準に準拠した財務諸表の監査を行ってきたのだろうか、と思いました。
紹介している毎日新聞の記事に書かれていますように、理屈の上では、まさに、
>「どの監査法人が見ても納得できる決算を出すのが本来のあり方だ」
ということになるのですが、会計監査制度上、
実はそのことが保証されているのは日本基準に関してだけだ、と言わねばならないと思います。
他の言い方をすれば、日本の会計監査制度上、監査の質が保証されているのは日本基準に関してだけであり、
米国基準やIFRSに関しては監査の質は制度上何ら保証されてはない、ということになります。
そのことはイコール、米国基準やIFRSに関しては監査意見が正しいことは何ら保証されてはいない、ということを意味します。
これは監査法人の規模の問題では全くなく、会計監査制度上の(事実上解決不能な)問題だ、と言わねばならないと思います。
かと言って、公認会計士試験で米国基準やIFRSを出題する、というのもやはり何か違うな、と思うわけです。
煎じ詰めれば、日本企業は日本基準に準拠して財務諸表を作成しなければならない、というだけではないか、という気がします。
最後に、東芝の2017年3月期(通期)の決算についてですが、上場廃止との関連で言えば、
有価証券報告書の提出がクリティカル(決定的・事態を左右する)であるわけですが、
有価証券報告書の提出期限は2017年6月30日になります。
上場廃止との関連で言えば、東京証券取引所が期限とする2017年5月15日に決算発表を間に合わせる必要は全くありません。
また同時に、監査意見とは全く無関係に、東芝が2017年5月15日までに決算短信を開示することは全く自由なのです。