2017年4月15日(土)
2017年4月13日(木)日本経済新聞
民法改正案が可決 債権分野を抜本見直し 衆院委
(記事)
2017年4月15日(土)日本経済新聞
民法
120年ぶり大改正 低金利・ネット普及背景
契約
消費者保護に軸足 法定利率下げ■連帯保証を厳格化■敷金返還の明記
約款のルール新設 専門医「企業は内容確認を」
(記事)
【コメント】
債権法がいよいよ改正される見通しとなっているようです。
税法(所得税法及び法人税法)との関連で言えば、「法定利率」の見直しが個人的には関心があるところです。
「法定利率」に関してですが、2017年4月13日(木)の記事には、
>金銭賃借の当事者が利息を定めていない場合に適用する「法定利率」の引き下げなどが柱。
>法定利率は現在の5%から3%に引き下げたうえで3年ごとに1%刻みで見直す変動性を導入。
と書かれています。
また、2017年4月15日(土)には、
>改正の目玉の一つが、当事者間で特に利息を定めていない場合に適用される「法定利率」の引き下げだ。
>現在は年5%で固定されているが、低金利が続く実勢に合わせ、3%に引き下げた。
>さらに3年ごとに見直す変動制を導入する。
と書かれています。
「法定利率」の定義や意味合いは、インターネットで検索すれば解説記事がたくさんヒットしますので、各自で読んで下さい。
読んで字のごとく、法律によって予め定められている利率を「法定利率」、
当事者間の合意によって決めた利率を「約定利率」と呼びます。
当事者間の合意によって利率を決めなかった場合、すなわち、契約に「約定利率」の定めがなかった場合、
その契約には、自然の法理として、「法定利率」が適用される、ということになるわけです。
その「法定利率」が、今般、5%から3%へと引き下げられる見通しとなっているわけです。
それで、私が個人的に関心を持っている税法(所得税法及び法人税法)と「法定利率」との関連についてなのですが、
「『法定利率』というからには、当然の法理として、税法上も次のような取扱いにするべきなのではないか?」、
と私が考える考え方について一言だけ書きたいと思います。
以下、金銭消費貸借契約を例に、契約に「約定利率」は定めなかった場合の取扱い(私案)について書きたいと思います。
いや、正確に言えば、訂正になりますが、話を遡りますと、
「法定利率」という考え方がある場合は、「約定利率」という概念はない、ということになるのではないか、と思ったわけです。
一言で言えば、「法定利率」と呼ばれる利率が法律に定められている場合は、
「利率というのは法定利率のことである。」という考え方になるのではないかと思いました。
逆から言えば、「利率を当事者間の合意で決めるという考え方などない。」ということになるのではないかと思いました。
以下、金銭消費貸借契約を例に、
「利率というのは法定利率のことである。」という考え方に基づき、法理的な考え方を書きたいと思います。
話の簡単のため、「法定利率」は「5%」であるとします。
また、元本の金額は100万円だとします。
この時、当事者間で利息を支払う場合の仕訳を考えてみましょう。
金銭消費貸借契約に当事者間の合意により定めた利率が、@3%、A5%、B7%、の3つの場合について仕訳を書きます。
つまり、金銭消費貸借契約上は「約定利率」があるとします。
@”約定利率”が3%の場合(以下「仕訳@」)
借り手の仕訳
(支払利息) 3万円 / (現金) 3万円
貸し手の仕訳
(現金) 3万円 / (受取利息) 3万円
A”約定利率”が5%の場合(以下「仕訳A」)
借り手の仕訳
(支払利息) 5万円 / (現金) 5万円
貸し手の仕訳
(現金) 5万円 / (受取利息) 5万円
B”約定利率”が7%の場合(以下「仕訳B」)
借り手の仕訳
(支払利息) 7万円 / (現金) 7万円
貸し手の仕訳
(現金) 7万円 / (受取利息) 7万円
上記の仕訳を見ると、「なんだ、そのままじゃないか。」と思われると思います。
確かに、仕訳で書きますと、日商簿記3級にでも出てきそうな仕訳になるわけですが、
自分で仕訳を書いていて、仕訳そのものはやはりいわゆる企業会計を対象としているものだ、ということなのだろうと思いました。
つまり、会計学にいう仕訳と呼ばれる帳簿記入技術は、税務会計は相対的には対象としていないのかもしれない、と思いました。
もちろん、税法・税務においても仕訳は極めて重要です。
仕訳の理解なしには税法や税務会計は理解できないと言ってもいいくらいです。
むしろ、元来的には、税務会計も仕訳のみで記述できたのではないか、と思います。
すなわち、税務会計と企業会計は元来的には同じであった(2つに分かれてはいなかった)、ということではないかと思います。
しかし、現代の企業会計は、必ずしも法人税法に従った会計処理を行うわけではありません。
会社法上の計算書類は、あくまで会社法の定めに従い作成するものであり、
法人税法の規定に従い作成するものでは決してありません。
現代では、企業会計と税務会計は全く別だ、という捉え方を理論上も実務上もしなければならないのだと思います。
それで、上記の仕訳@から仕訳Bは、「企業会計上の仕訳」ということになるわけです。
では、上記の設例における「税務会計上の仕訳」はと言いますと、
「税務会計上の仕訳」は書きようがない、ということに気付いたわけです。
現行の法人税法上の取扱いとは異なる(個人的な私案に過ぎません)のですが、
税務上の取扱いを個別具体的に言いますと、次のようになります。
仕訳@の税務上の仕訳(私案)は敢えて書くならば次のようになるわけです。
@”約定利率”が3%の場合
借り手の仕訳
(支払利息) 5万円 / (現金) 5万円
(現金) 2万円 (受取寄附金) 2万円
貸し手の仕訳
(現金) 5万円 / (受取利息) 5万円
(支払寄附金) 2万円 (現金) 2万円
借り手の取扱いは、支払利息5万円が損金算入、受取寄附金2万円が益金算入、となります。
貸し手の取扱いは、受取利息5万円が益金算入、支払寄附金2万円は損金不算入、となります。
借り手の方は、トータルで3万円の損金算入、ということになりますが、
貸し手の方は、トータルで5万円の益金算入、ということになります。
仕訳Aの税務上の仕訳(私案)は敢えて書くならば次のようになるわけです。
A”約定利率”が5%の場合
借り手の仕訳
(支払利息) 5万円 / (現金) 5万円
貸し手の仕訳
(現金) 5万円 / (受取利息) 5万円
「法定利率」通りの利息の支払・受取ですので、借り手は5万円の損金算入、貸し手は5万円の益金算入、となります。
仕訳Bの税務上の仕訳(私案)は敢えて書くならば次のようになるわけです。
B”約定利率”が7%の場合
借り手の仕訳
(支払利息) 5万円 / (現金) 5万円
(支払寄附金) 2万円 (現金) 2万円
貸し手の仕訳
(現金) 5万円 / (受取利息) 5万円
(現金) 2万円 (受取寄附金) 2万円
借り手の取扱いは、支払利息5万円が損金算入、支払寄附金2万円が損金不算入、となります。
貸し手の取扱いは、受取利息5万円が益金算入、受取寄附金2万円が益金算入、となります。
借り手の方は、トータルで5万円の損金算入、ということになりますが、
貸し手の方は、トータルで7万円の益金算入、ということになります。
先ほどは、「税務会計上の仕訳」は書きようがない、と書きましたが、
上記3つの仕訳も「企業会計上の仕訳」と考えてもよいように思いました。
利息の支払いの際、現金を貸し手から借り手へ支払うことは実際にはしないため、
先ほどは「税務会計上の仕訳」は書きようがない、と書いたわけなのですが、
益金と損金の認識という意味では税務上も十分参考になる仕訳になるのではないかと思います。
ここでのポイントは、要するところ、「法定利率」という考え方を行う場合は、
「借り手の支払利息の金額と貸し手の受取利息の金額は固定される。」という点なのです。
「法定利率」という考え方を行う場合というのは、金銭消費貸借契約という取引に関して、
「『法定利率』の利息を授受したものと見なす。」という考え方になるのではないかと思ったわけです。
ちょうど、例えば土地を低廉譲渡した場合は、時価と譲渡価額との差額は寄附であると見なされるように、です。
それが「法定利率」の意味なのではないか、と私は考えたわけです。
もちろん、民法上の法定利率は、約定利率がなかった場合にのみ適用されるという考え方であるわけですが、
これは法理論的には「法定利率」の定義(法律上の位置付け)の問題になると言っていいのだと思いますが、
金銭消費貸借契約には法定利率5%が適用される、という考え方も理論的には十分できると思いました。
金銭消費貸借契約において、5%以外の利率を当事者間の合意により決めることは自由だが、法定利率との差額は寄附と見なす、
と税務上は考えるわけです。
もしくは、消費者保護(借り手保護、個人保証の社長さん保護)の観点から、
金銭消費貸借契約には必ず法定利率5%を適用しなければならない、という考え方も理論上はあるわけです。
利息制限法も、煎じ詰めれば根拠としている考え方は同じなのではないでしょうか。
法理のみに基づくならば、「当事者間の公平とは当事者間の合意ということではないのか。」となるわけです。
しかし、現実的な力関係の差などを鑑み、借主が暴利をむさぼられるという危険を未然に防ぐべく、
すべてを当事者の自由に委ねることに待ったをかけるのが、消費者保護を趣旨とする法律であるわけです。
「利率はこれでなければならない。」という時には、文脈・場面により実に様々な考え方があるなと思いました。
日本では、例えば土地を無償で譲渡した場合、受け取った側には税務上時価が受贈益(益金算入)として認識されます。
土地の無償譲渡自体は当事者間の自由だが、その取引に税務上は「取引は時価で行え。」と制限を課しているわけです。
つまり、「契約自由の原則」にどれだけ・どのような形で制限を課していくのかは、法律の分野により様々だ、というだけなのです。
土地の無償譲渡を行っても、捜査当局はやってきません(国税庁はやってくるかもしれませんが)。
しかし、利息制限法を超えた金銭の消費貸借を行うと、捜査当局がやってくるわけです。
法律・法制度を横断的に見ると、分野により「制限の課し方の違い」があるだけだ、という捉え方ができると思います。
話が大きくなり過ぎてしまいますので、ここでは税法の話をしますが、
所得税法上そして法人税法上、「金銭の消費貸借は法定利率で行え。」と制限を課することは理論上は十分考えられるわけです。
所得税法上そして法人税法上、法定利率と約定利率との差額は寄附と見なす、という形で取引に制限を課するわけです。
もちろん、この課税方法の場合、税理論的には、取引に制限を課しているというより(制限を課することが目的ではなく)、
公平な課税という観点からそのような課税方法を行っているだけだ(制限を課してはいない)と考えなければならないのでしょうが、
当事者からすると、結果取引に制限を課されている(少なくとも当事者はそう感じる)という見方もできようかと思います。
話を最初に戻しますと、上の方で「税務会計上の仕訳」は書きようがない、と書きましたが、現代の益金・損金の認識方法ですと、
益金の金額と損金の金額を仕訳で表現・算出することはできない、というふうに思いました。
企業会計上の利益の算出プロセスと税法上の課税所得額の算出プロセスは、本質的に異なるものなのではないかと思いました。
法人税法理論・確定申告の上では、企業会計上の利益に一定の加減を行うことで税法上の課税所得額を算出すると考えるのですが、
元来的・元祖会計理論的には、企業会計上の利益の算出プロセスと税法上の課税所得額の算出プロセスとは、
本質的に全く別の算出プロセスなのではないか(両者は概念的に別のものだ)と思いました。
両者の間には差異が生じると考えるものですらなく、両者の調整を図ることなど本質的に不可能、ということではないかと思いました。