2017年4月7日(金)



2017年4月7日(金)日本経済新聞
遺産の法定相続分預金 最高裁 払い戻し認めず
(記事)



 


【コメント】
2016年12月以前の判例では、預貯金は「遺産分割」の対象外だったのですが、
2016年12月の最高裁判例で、預貯金は「遺産分割」の対象になる、と判例が変更になりました。
ある財産が「遺産分割」の対象であるとは、その財産に法定相続割合がそれ単体で適用されるというわけではない、
という意味であり(私の造語ですが、これは”総合分割”という呼び方をしてもいいと思います)、
ある財産が「遺産分割」の対象外であるとは、その財産に法定相続割合がそれ単体で(他の財産とは独立して)適用される、
という意味です(つまり、相続金額を考慮する際、対象外の相続財産は他の相続財産と通算はされない、という意味です)。
乱暴に言えば、2016年12月以前の判例では、預貯金は問答無用で法定相続割合に応じて相続人間で分けられていた、ということです。
実務上は、「『遺産分割』の対象である財産」を相続人間で調整することにより、実質的な公平を図っていた、
ということになります(つまり、それまでの判例では、預貯金で調整を図ることができなかったわけです)。
記事の見出しと本文にある「払い戻し」という文言は、法定相続人が被相続人の口座から預貯金を
法定相続分だけ下ろすこと(金融機関が預貯金の払い戻しに応じること)を意味しているのだと思います。
記事には、2017年4月6日の「預金の払い戻しを認めない」とする最高裁の判断について、

>今回の判決は、大法廷決定の流れに沿った判断となった。

と書かれてあり、確かに、2016年12月の最高裁判例とこのたび2017年4月6日の最高裁の判例とは考え方は整合していると思います。
しかし、私が記事を読んでいて気になったのは、まさに「審理すべき事件にはどの法令と判例を適用すべきなのか?」という点です。
論点となっている訴訟は、「2010年に母を亡くした男性」が起こしたものです。
相続の開始時は、すなわち、被相続人の死亡時は、2010年であるわけです。
つまり、この男性が起こした訴訟(事件)には、「2010年当時の法令と判例」を適用しなければならないのではないでしょうか。
「2016年12月の判例」をこの事件に適用することは、まさに「判例の遡及適用」であるわけです。
「2016年12月の判例」は、2016年12月以降に開始された相続に関して適用しなければならないのです。
この「判例の遡及適用」に関しては、一時期話題となった消費者金融の過払金(過大な利息)の返還請求訴訟を題材にして
一言書いたことがあるかと思います。
金銭消費貸借契約には、「金銭消費貸借契約の締結時」時点の法令と判例が適用されるのであって、
「金銭消費貸借契約の締結時」以降の法令と判例は適用されないのです。
そうでないと、「金銭消費貸借契約」そのものが、その後の法改正や判例の変更の影響を受けてしまうことになるからです。
簡単に言えば、法令と判例を守って金銭消費貸借契約を締結したのに後でそれは違法だと言われた、ということになってしまいます。
それでは円滑な取引を行えないわけです(遡及適用を認めると法令順守の行いようがなくなるわけです)。
相続であれば相続の開始時(つまり、被相続人の死亡時)、金銭消費貸借契約であれば金銭消費貸借契約の締結時時点における
法令と判例が行為・取引には適用される、と考えなければならないのです。
判例間同士の整合性(もしくは、判例の変更なら変更の合理性など)が取れていなければならないのは確かですが、
そのことと審理すべき事件に適用すべき判例とは全く別の問題だ(事件に適用すべき判例はその後の判例には一切左右されない)、
と理解しなければならないのです。
他の言い方をすれば、審理を開始しだ時点で適用すべき法令と判例は一意に決まる(途中で変更は一切ない)、ということです。
法律家として、最新の法改正と判例には常に敏感でなければなりませんが、
事件に適用すべき法令と判例は審理の開始時に全て決まる(審理途中における最新の法改正と判例はその事件とは全く関係ない)、
ということは理解しておかなければならないと思います。
記事の内容についてついでに書きますと、「2010年に被相続人がなくなった」ということは、
相続税法上、相続人は当然既に相続税を納付し終わっているはずです。
いまだに相続財産を払い戻せるか否かについて争っているというのは、税務の観点からはあり得ないのではないかと思いました。

 



最高裁の判例に関しては、次のような記事がありました。

 

免許期限土日なら有効 最高裁、「無免許」罰金命令を破棄

 土日が期限の運転免許証は週明けまで有効――。
道路交通法のこうした規定を適用せずに無免許運転とされた男性の略式命令が7日、最高裁で破棄された。
 男性は昨年3月14日、車両通行禁止の道路で原付きバイクを運転する違反をした。免許証の有効期限は12日で、土曜日だった。
道路交通法と同法施行令には免許証の有効期限が土日祝日や年末年始の場合、次の平日まで有効とする特例がある。
 特例を当てはめると、実際は違反をした14日の月曜日まで有効。
しかし、警察官が誤って無免許として扱い、男性は無免許の交通違反で大阪簡裁の略式命令を受けた。
免許が有効だったため、本来は反則金を払えば刑事事件にならなかった。
 罰金納付後にミスが発覚したとみられる。検察側は略式命令を取り消すため、
検事総長が最高裁に申し立てる「非常上告」の手続きを取った。
最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)は判決理由で「略式命令が法令違反なのは明らか」と述べた。
(日本経済新聞 2017/4/7 20:27)
ttp://www.nikkei.com/article/DGXLASDG07HE4_X00C17A4CC1000/

 

免許の失効、土曜のトリック 「罰金刑は誤り」と最高裁

  運転免許が有効なのに無免許として扱われ、道路交通法違反の罪で罰金5千円の略式命令を受けた大阪市の男性について、
最高裁第二小法廷(山本庸幸裁判長)は7日、命令を破棄し略式起訴を取り消す判決を言い渡した。
男性は罰金を納付しており、確定した命令の誤りを正す「非常上告」の手続きを検事総長が取っていた。
 男性は昨年3月14日、バイクで通行禁止の道路を走行。免許の有効期限が土曜の12日だった。
その場合、同法の規定で次の平日の14日まで有効となるが、警察や検察は無効と勘違いし、
本来は反則金などの行政手続きにするところを、大阪区検が「無免許での反則行為」として男性を略式起訴。
大阪簡裁も誤りに気づかず、同年4月に略式命令を出し、確定していた。
 第二小法廷は「略式命令は法令違反で、被告のために不利益であることは明らか」と認めた。
(朝日新聞 2017年4月7日20時08分)
ttp://www.asahi.com/articles/ASK475DS8K47UTIL02Z.html

 


道路交通法と同法施行令には、免許証の有効期限が土日祝日や年末年始の場合、次の平日まで有効とする特例があるとのことです。
この特例の是非や合理性についてはここでは議論はしないとしましょう。
裁判における審理でも、法令の是非や合理性は議論しない、と思いますので。
法令の是非や合理性の議論は、学界もしくは立法府の領域になると思います。
特例を所与のこととしますと、記事に書かれています最高裁の判断は全く妥当であると思います。
ただ、記事を読んで気になったのは、「確定した判決・命令を取り消すという考え方はないのではないか?」という点です。
三審制の場合ですと、控訴もしくは上告をしない場合は下された判決がそのまま確定するかと思いますが、
その確定した判決を取り消すという考え方はないわけです。
なぜなら、判決を取り消して欲しいと思った場合は、控訴もしくは上告をすればよい(上訴すればよい)からです。
上訴せずに判決が確定した場合、後になって判決を取り消して欲しいと思っても取り消す方法はないと思います。
略式起訴の場合も、略式命令に不服がある場合は何らかの形で上訴できるのではないかと思います。
略式起訴の場合は、簡易裁判所が第一審になるようですが、略式命令に不服がある場合は高等裁判所へ控訴できるようです。
ですので、朝日新聞の記事には、被告人が控訴しなかったからなのだと思いますが、
略式命令が「確定していた。」とはっきり書かれていますので、その確定判決を取り消すという考え方はやはりないと思います。
理屈では、原付きバイクを運転していた男性が、当局の道路交通法の解釈の誤りに気が付かなければならなかったのだと思います。
つまり、原付きバイクを運転していた男性が、略式命令に誤りがあることを理由に上訴するべきだったのと思います。
ただ、このたびの事例のように、現実的なことを踏まえてのことなのでしょうが、現行の日本の裁判制度では、
「審級に関する特殊な制度」が設けられていまして、その中に、「非常上告」と「再審」という2つの制度があるようです。
この2つの制度は、確定判決に関して是正を求めたり再審理を行う制度となっています。
ただ、法理的には、判決が確定したとは、その事件についてはもはや審理はしない、という意味だと思います。
終局判決とは、もはや審理は終わりを迎えた(それ以上審理は行わない)判決だ、という意味だと思います。
確かに、刑事事件などで、判決が確定した後に新たな証拠が発見される、ということは現実には考えられるとは思います。
ですので、現実的なことを鑑みれば、「再審」という制度はあってよいのかもしれません。
また、裁判所が判決が法令に違反していることに気が付かなかった、ということも現実には考えられるかもしれません。
ですので、現実的なことを鑑みれば、「非常上告」という制度もあってよいのかもしれません。
しかし、少なくとも被告(人)が上訴せねばならなかったのに上訴しなかったから判決が確定した場合は、
その確定判決を後で取り消すという考え方はさすがにおかしいような気がします。
このたびの事例は、判決が法令に違反していたので「非常上告」を行う余地があったというだけのことであり、
仮に判決が法令に違反していなかったならば、「非常上告」を行う余地はなかったわけです。
つまり、裁判所が判決が法令に違反していることに気が付かなかったことに対して救済措置(「非常上告」)があるのなら、
被告(人)が上訴せねばならなかったのに上訴しなかったことに対しても救済措置を制度上用意すべき、
という考え方が出てくるのではないかと思ったわけです。
これは、「司法制度をどこまで『被告人の利益へ』という考え方に基づき構築するか」の問題であるわけです。
新たな証拠が発見された→被告人の利益へ、判決が法令に違反していた→被告人の利益へ、であるのなら、
被告人がその時は上訴しなかった→被告人の利益へ(すなわち、判決が確定した後になっても上訴できる)、
という考え方も1つの考え方としてあるのではないかと思ったわけです。
他の言い方をすると、判決における「確定」の位置付けの問題、と言えばいいでしょうか。
人は誤りを犯す、ということを制度上考慮し出しますと、後は線引きの問題になってしまうわけです。
結論を言えば、法理的には、「再審」も「非常上告」もない、ということになると思います。

 



Concerning inheritance, as well as other transactions in general though,
laws and ordinances and judicial precedents as at the commencement of inheritance or as at the decease of an inheritee
are applied to the inheritance.
In short, those after the time are not applied.
To put it simply, laws and ordinances are not retro-applied, and judicial precedents are not retro-applied either.

他の取引全般に関しても言えることなのですが、相続に関して言えば、
相続の開始時の、すなわち、被相続人の死亡時の法令と判例が相続には適用されます。
つまり、その時点以降における法令と判例は相続には適用されないのです。
簡単に言えば、法令は遡及適用されませんし、また、判例も遡及適用されない、ということです。