2017年3月3日(金)



2017年3月3日(金)日本経済新聞
鴻海、シャープ株売却へ 東証1部復帰へ1%程度
(記事)





東芝、東証2部降格が秒読み。同じ道をたどった企業は

シャープも昨年に。わずか10年で企業の栄枯盛衰が
 東芝の東証2部への「降格」が秒読みとなっている。
半導体事業を承継する新会社「東芝メモリ」の株式売却は2018年3月期となる見通し。
17年3月末時点で株主資本がマイナスになれば、東京証券取引所のルールにより、東証1部から2部に指定替えされる。
名門企業が2部に降格する異常事態に、産業界にはため息が広がっている。
 東芝は17年3月期に原子力関連事業で約7000億円の損失を計上し、株主資本がマイナスになる見通し。
半導体事業を承継する新会社の株式売却が18年3月期前半にずれたため、東証ルールに従い
東証1部から2部に指定替えとなる可能性が大きい。その状態が1年続くと上場廃止。
 また同社は特設注意市場銘柄に指定されている。
内部体制に改善が見られず、同銘柄が解除されなければ、1年をまたずに上場廃止となる。
 2007年以降に2部降格になった企業をみると、債務超過がほとんどだ。電機大手ではシャープも昨年に降格している。
両社は創業100年以上の歴史を誇る名門。2007年に実は両社は液晶パネルと半導体分野で戦略提携を発表している。
 当時の東芝の西田厚聡社長とシャープの片山幹雄社長が華々しく記者会見を開き、
「強いもの同士が組んでいくのは必然」と語っていた。
シャープは台湾・鴻海精密工業の傘下で液晶事業が復活の兆しを見え始め、
東芝は稼ぎ頭の半導体メモリー事業の外部出資を決断した。
 わずか10年の間に企業の栄枯盛衰が見てとれる。
(日刊工業新聞 (2017/2/27 05:00)
ttps://www.nikkan.co.jp/articles/view/00418790


「東証1部から2部に指定替えした企業(07年以降)」

 



【コメント】
本日2017年3月3日(金)付けの日本経済新聞の記事は、シャープの事実上の親会社である鴻海グループ(66%保有)が、
保有しているシャープ株式を約1%分売却する方針である、という内容になります。
鴻海グループがシャープ株式を約1%分売却する理由について、記事には、

>東証は東証1部指定の条件として株式の35%以上を市場で流通させることを求めているため、復帰に向け基準を満たす狙い。

>1部指定の条件では時価総額などはクリアしており、流通株比率の条件を満たす必要があった。

と書かれています。
シャープは東証1部への復帰を優先課題として取り組んでいるようなのですが、
鴻海グループが66%保有したままだと、流通株比率の条件を満たせないため、鴻海グループがシャープ株式を1%分売却する、
という方策をシャープと鴻海グループは考えているようです。
金融商品取引法の教科書を読んでいますと、東証の一部市場と二部市場のことは「本則市場」とも呼ばれるようなのですが、

>本則市場の一部と二部の区分は、上場基準の異なる市場ではなく、
>流動性の高低といった観点から設けられた市場区分だとされています。

と説明されています。
基本的には一部市場と二部市場とでは上場基準は同じなのだが、流動性の高い銘柄は一部市場に上場可能だが、
流動性の低い銘柄は二部市場にしか上場できない、という上場基準の違いがあるとのことです。
このたびのシャープ株式の事例では、親会社が保有株式を一部売却するのは、流動性を高めることだけが目的であるわけですが、
この教科書の記述の通り、このたび株式売却は、まさに二部市場から一部市場への指定替えのみを目的にしているものだ、
と言えると思います。
金融商品取引法は「ディスクロージャーの法」であると呼ばれるように、
本来上場基準は情報開示に関連する事柄だけが条件であるべきだと思うのですが、
市場では、証券会社は流通性のある商品(有価証券)を販売・勧誘しているわけですから、
投資家保護の趣旨を殊更に強化することを考えるならば、
流通株式に関する事柄も上場基準として設けるのも間違いではないのかもしれません。

 


ただ、1つ気になったのは、保有株式の売却方法です。
鴻海グループによる保有株式の売却方法について、記事には、

>売却方法は市場の内外を含め今後詰める。

と書かれています。
これはおかしいと思いました。
株式の売却方法は、この場合は市場内で売却していく他ないと思います。
市場内で売却するとは、不特定多数の者を相手に、特段売却相手を指定せずに任意に、という意味です。
私が思うに、上場基準における流通株式比率の条件というのは、簡単に言えば、
「保有のみを目的としている株主」の比率が株式数ベースで65%未満であること、ということではないかと思います。
単に親会社が保有している株式比率が65%未満であればよい、というわけではないと思います。
結局、流動性が高いとは、株式の売買が活発だ、という意味であろうと思うのですが、そのためには、
市場内に、「株式投資で利益を得ることを目的」としている、株式を買う投資家も多数いるし株式を売る投資家も多数いる、
という状態が必要であるわけです。
通常、親会社は、株価が上昇しても子会社株式を売りませんから、まさに「保有のみを目的としている株主」に該当します。
短期間に頻繁に売買を繰り返すデイトレーダーとは異なり、長期保有目的の投資家も市場にはいるとは思いますが、
長期保有目的の投資家が「保有のみを目的としている株主」に該当するかどうかは、判断は非常に難しいと思います。
上場基準における流通株式に関する事柄(この文脈では特に流通株式比率)の条件は、好意的に解釈すれば、見方を変えれば、
投資家保護そのものとは別に、市場の効率性や適正な株価形成を目的としたもの、という見方はできるのかもしれません。
「保有のみを目的としている株主」が株式数ベースで66%以上もいると、
市場の効率が落ち、適正な株価が形成されない、と証券取引所は考えている、という解釈は可能かもしれません。
不特定多数の投資家による株式の取引により、市場は効率化され適正な株価が市場で形成される、
という「証券市場のあるべき姿」(理論的前提)から、流通株式に関する事柄が上場基準として設けられている、
という解釈は可能だと思います。
もちろん、市場内で株式を買うのも投資家の自由ですし売るのも投資家の自由である(株式の長期保有も全く自由)わけですから、
そこでの流通株式比率というのは結果に過ぎない、という見方が「株式の売買」を鑑みると一番理論的であると思うのですが、
一方で、「証券市場の理論」(不特定多数の者が市場で株式の売買を行うとはどういうことか)というものもあるわけです。
特定の株主が66%も株式を保有しているというのはおかしいのではないか(適正な株式の流通・売買を阻害するのではないか)、
という解釈が「証券市場の理論」からは導けるのではないでしょうか。
元祖上場基準から言えば、流通株式に関する事柄が条件として設けられているというのはおかしいわけですが、
「証券市場の理論」から言えば、「証券市場のあるべき姿」を担保する手段として(市場を理想状態に近づける手段として)、
流通株式に関する事柄を条件として設けるのは間違いではないのだと思います。
流通株式数が少ないから上場廃止、というのも確かにおかしな話(売ることや買うことを強制するのはおかしい)であるわけですが、
「証券市場の理論」から言えば、「保有のみを目的としている株主」が多数いるのはおかしい(少なくともその状態は望ましくない)、
という考え方になるのだと思います。
非上場企業には「保有のみを目的としている株主」がいても全く問題はありません。
しかし、株式市場には「株式投資を行い頻繁に市場で取引を行うことで利益を獲得することを目的としている株主」しか存在しない、
ということが「証券市場の理論」では前提になっている、と言っていいのだろうと思います。
イギリスやアメリカでは、上場企業には親会社(支配株主)というのは基本的にはいないと言っていいようですが、その理由は、
法律か規則かコードか自主規制かにより、「証券市場の理論」(理想状態の市場)が実現するよう市場が整備されているからでしょう。

 


次に、紹介している日刊工業新聞の記事についてです。
シャープ同様、債務超過を理由に東芝も今後一部市場から二部市場へ指定替えされる見込みとなっているようです。
債務超過の状態が1年続くと、上場廃止となるようです。
シャープは鴻海が増資を引き受けてくれたので債務超過の状態を早期に脱却できたのですが、
東芝は債務超過の状態を脱却できるはっきりとした見通しはまだ持っていないようです。
貸借対照表が債務超過だから上場廃止、というのも、はっきり言えばおかしいわけです。
確かに、債務超過の状態ですと、簿価ベースで言えば株式に価値・価額はないわけなのですが、
資本の簿価はこれまでの結果を表しているに過ぎません。
また、資産を減損処理するか否かでも話は変わってきます。
資本の簿価は企業の存続可能性を直接に表しているわけでは決してないわけです。
貸借対照表が債務超過だからその企業は倒産だ、というのは、
貸借対照表が資産超過だからその企業は発展する・その企業は倒産しない、と言っていることと同じです。
債務超過の企業もかつては資産超過だったのではないでしょうか。
ならば、債務超過の企業が資産超過になることも十分考えられるわけです。
本質的に重要なのは、今現在の貸借対照表の資本の簿価ではないのです。
本質的に重要なのは、結局のところは将来性ではないでしょうか。
その将来性をどのように判断するのかを「投資判断」と呼ぶのでないでしょうか。
元来的には、「弊社は当期末債務超過になりました。」と嘘偽りなく公正に情報を開示しているなら何の問題もない、
という考え方になります。
理論的には、債務超過となっているその貸借対照表を見てどのように判断するかが投資家には問われている、
ということになるのです。
債務超過となっている貸借対照表を見て、こりゃダメだと判断するのなら株式を売ればいいですし、
いやまだまだこれからいけるはずだと判断するのなら株式を買えばいいのです。
開示されている情報が正しい限り、投資家は正しい投資判断ができるのです。
(逆に、開示されている情報が間違っている場合は、投資家は投資判断の行いようがないということになります。)
これもまた「証券投資の理論」であると思います。
先ほどの流通株式に関する事柄とは異なり、債務超過を上場廃止事由とすることには、理論的根拠はあまりないように思います。

 



最後に、株価や時価総額に関する記事を3つ紹介します。
株価(その結果として時価総額)というのは、単に売り手と買い手とが市場で合意した価格というに過ぎません。
貸借対照表の資本の簿価と同様に、株価というのも取引の「結果」を表しているに過ぎないのです。
投資家は企業の将来を見て株式の売買を行いますが、株価そのものは少なくとも将来を表現しているものではありません。
たとえ株価が1円になっても、それは売り手と買い手とが市場で株式を1円で売買を行うことに合意をした、という意味に過ぎません。
売り手と買い手とが市場で株式を1円で売買を行うことに合意をしたら上場廃止だ、というのはおかしいのではないでしょうか。
上場規則には、時価総額も条件として設けられているようですが、
最初の流通株式に関する事柄とは異なり、そして、先ほどの債務超過を上場廃止事由とすること同様、
時価総額を上場廃止事由とすることには理論的根拠はあまりないように思います。

 

2017年2月11日(土)日本経済新聞
東証2部指数 最高値 11年ぶり、シャープが原動力
(記事)

2017年2月11日(土)日本経済新聞
鉄道関連株 にぎわう トランプ氏発言受け 日本車両製造、一時18%高
(記事)


2017年2月28日(火)日本経済新聞
食品、主役になれるか 再編で資本効率改善に期待
(記事)

 



The market does not decide the fundamentals of a company.
They are decided by the company itself.

市場が会社のファンダメンタルズを決めるのではありません。
会社のファンダメンタルズは会社そのものによって決まります。

 

In the "beauty contest," it is not future profits but a  future share price itself
that investors in the market must expect.

「美人コンテスト」では、市場の投資家が予想しなければならないのは将来の利益額ではなく将来の株価そのものなのです。

 

The multiplication of a share price and the number of shares issued is almost nonsense.

株価と発行済株式総数の掛け算にはほとんど意味がありません。