2017年2月9日(木)



2017年2月8日(水)日本経済新聞 公告
公開買付開始公告についてのお知らせ
株式会社青山財産ネットワーク
(記事)




2017年2月7日
株式会社青山財産ネットワーク
自己株式の取得及び自己株式の公開買付けに関するお知らせ
ttp://www.azn.co.jp/LinkClick.aspx?fileticket=PSwvSlWwr8Q%3d&tabid=100&mid=415

 


【コメント】
株式会社青山財産ネットワークが実施してる公開買付は、プレスリリースのタイトル通り「自己株式の公開買付」です。
「自己株式の公開買付」のことは金融商品取引法上は、「発行者による公開買付」と呼ばれます。
通常の公開買付は、公開買付者が対象会社以外の者であるわけですが、対象会社自身が公開買付を行うこともできるわけです。
つまり、金融商品取引法では、公開買付を「発行者以外の者による公開買付」と「発行者による公開買付」とに分類しているわけです。
それぞれの公開買付において、金融商品取引法上求められる手続きの多くは共通してはいるのですが、
公開買付者の法的立ち位置が両公開買付では根本的に異なりますので、手続きには相違点も当然存在するわけです。
簡単に言えば、金融商品取引法上は、「発行者以外の者による公開買付」と「発行者による公開買付」とは完全に別の手続きなのです。
それで、「発行者以外の者による公開買付」と「発行者による公開買付」とは完全に別の手続きであることを踏まえた上で、
今日はふとあることを思いました。
それは、「発行者以外の者による公開買付」と「発行者による公開買付」とが同時に行われたとしたらどうなるのだろうか、
という点です。
例えば、「発行者による公開買付」が行われている最中に、別のある公開買付者(発行者以外)が発行者株式に対して
公開買付を開始する、としたらどうなるのだろうか、と思いました。
公開買付の対象となっている株式は、この場合、どちらの公開買付においてももちろん同じ(同一の対象者株式)です。
単純に考えれば、投資家としては、買付条件が有利な方へ応募すればよい、というだけであるとも言えると思います。
このたびの株式会社青山財産ネットワークの事例でもそうなのですが、
これまでの多くの事例においても「発行者による公開買付」における買付価格は、直近の株価水準よりも低く設定されています。
その理由は、「発行者による公開買付」は、特定の大株主から発行者が株式を買い付けることを目的としているからです。
その意味では、「発行者以外の者による公開買付」と「発行者による公開買付」とが同時に行われた場合は、
投資家としては、買付価格が高い「発行者以外の者による公開買付」の方へ応募をすることになるでしょう。
一投資家による株式投資としてはその投資判断だけで十分とも言えるのですが、
「発行者以外の者による公開買付」と「発行者による公開買付」とを比較して思うのは、
これら2つの公開買付を比べると、「公開買付に応募しなかった場合」の投資家の立ち位置が大きく異なることになる、
と思いました。
端的に言えば、「発行者以外の者による公開買付」に応募しなかった場合、投資家の立ち位置は全く変わりません。
公開買付終了後も、投資家の保有議決権割合も変動しません、簿価ベースで投資家に帰属している対象者の資本額も変動しません。
しかし、「発行者による公開買付」に応募しなかった場合、投資家の立ち位置は応募せずとも大きく変わってしまいます。
公開買付終了後は、投資家の保有議決権割合は必ず増加する一方、
簿価ベースで投資家に帰属している対象者の資本額は通常減少します。
買付価格が1円だなどという公開買付であれば、簿価ベースで投資家に帰属している対象者の資本額は増加する場合もありますが、
例えば、PBR(Price Book-value Ratio)が1倍超の時に、買付価格が株価と同じである場合は、
簿価ベースで投資家に帰属している対象者の資本額は必ず減少するわけです。

 


一言で言えば、「公開買付に応募しなかったならば、投資家の立ち位置は変動しない。」、
ということに本来はならないといけないわけですが、
「発行者による公開買付」に応募しなかった場合は、投資家の立ち位置は応募せずとも大きく変わってしまうわけです。
このことは、「公開買付に応募しない場合は投資家が不利な立場に追い込まれる。」という状況を生じ得るでしょう。
公開買付への応募は、投資家の投資判断のみで決定されなければならない、
つまり、応募しないなら投資家の立場は何も変わらないという状況において投資判断はなされないといけないにも関わらず、
「投資家は応募しないと不利になり得る」となりますと、とてもフェアな投資判断が行える状況にはない、
ということになるでしょう。
他の言い方をすれば、「所有株式の譲渡に応じなければ出資者は不利な状況に追い込まれ得る。」ということになるわけです。
出資者は会社から所有株式の譲渡を中立ではない形で迫られる、ということになるわけです。
これは地上げ屋ならぬ、応募させ屋、とでも言いましょうか(冗談ですが)。
いずれにせよ、「応募しないならば投資先に対する投資家の投資ポジションは何も変わらない。」(応募はしてもしなくてもよい)
という証券市場における利益公平性は全く担保されてない、ということになります。
以上の議論というのは、公開買付の問題点というよりも、本質的には自己株式の取得の問題点と言わねばならないでしょう。
ただ、私個人の研究姿勢の話になりますが、最近、証券制度(金融商品取引法分野)の方から会社制度(会社法分野)を見ますと、
新たな考え方に気付くと言いますか、今まで明示的には気付かなかった新たな視点を得られることが多いなと思っています。
例えば、証券制度における「フェア・ディスクロージャー・ルール」にしても、これは最近話題の流行語などでは決してなく、
会社制度(会社法分野)における大前提であったりするわけです。
一部の出資者のみが会社に関する情報をより多く持っていたら公平な出資はできないのではないか、
という当たり前の事実に、私は最近話題の「フェア・ディスクロージャー・ルール」の議論を通じて気が付いたわけです。
それと同じで、今日は「発行者による公開買付」を通じて、会社による自己株式の取得は公平な株式の譲渡を阻害する、
ということに気付きました。
自己株式の取得の問題点に関しては、資本会計の観点や債権者保護の観点や株主平等の原則の観点からも説明できるわけですが、
今日は「株式の譲渡」という観点からも説明ができると思いました。
この問題点には、「発行者以外の者による公開買付」と「発行者による公開買付」とを比較して気付きました。
「株式の譲渡」、それは他の関連分野の視点から言えば、「証券市場」という言い方ができないでしょうか。
証券制度や証券市場と聞きますと、いわゆる上場企業が頭に思い浮かび、
それらは上場企業のみに関連する議論であるように思われるのですが、実際には決してそうではなく、理論的には、
証券制度や証券市場(金融商品取引法分野や上場規則)の議論は実は会社制度(会社法分野)を補完しているものだと思いました。
証券制度や証券市場(金融商品取引法分野や上場規則)の議論で担保されていないといけないことは、
実はそもそも会社制度(会社法分野)で担保されていなければならないことだった、そうでなければ会社制度は成り立たない、
ということに気付かされました。
「株式の譲渡」は公平であることが担保されていなければなりませんが、自己株式の取得という「株式の譲渡」では、
その公平性が担保されていない(自己株式の取得に応じないと出資者は不利になり得る)、という会社制度上の問題点に、
金融商品取引法に定義される「発行者による公開買付」を通じて気付くことができたように思います。



What if a new tender offerer commences another tender offer
during a period when an issuer makes a tender offer on its shares?

発行者が自己株式について公開買付を実施している期間中に、新たな公開買付者がもう1つ公開買付を開始するとしたらどうでしょうか。