2017年2月6日(月)



2017年2月6日(月)日本経済新聞 はや耳
郵政株売却 時期は「閑散期」
(記事)





【コメント】
記事には、

>財務省が日本郵政株の追加売却に向けた準備に入ると発表した。
>市場の関心はいつ売り出すかに向かっている。

>財務省は株価が高い時を狙って売却収入を稼ぎたいというのが本音。

と書かれています。
端的に言えば、財務省は、金融商品取引法に定義される株式の「売出し」をこれから行っていこうと考えているわけです。
ただ、株主は、ただ単に所有している株式を売却するというだけであれば、市場で売却するということもできるわけです。
株式の売出価格というのは、通常、市場株価(時価)に準じて決定される、と言っていいかと思います。
金融商品取引法に定義される株式の「売出し」と、市場内における株式の売却とは、どのように異なるのだろうかと思いました。
そこで、金融商品取引法の教科書から、この論点と関連がある部分を引用したいと思います。
金融商品取引法の教科書として、

「ゼミナール 金融商品取引法」 宍戸善一、大崎貞和 著 (日本経済新聞社)

から関連部分について引用したいと思います。


>一般には、株式公開と株式の公募発行(募集)や創業者等による大量の株式売却(売出し)は、
>密接に関連したものと受け止められていますが、
>法制度上は、株式公開と募集または売出しとの間に、特段の結び付きはないものとされています。
>すなわち、株式公開は証券取引所の定める上場規則に従って行われる一方、
>金商法の定める法定開示書類の作成などの手続きを踏めば、
>取引所市場に株式を上場しない会社であっても、株式の募集または売出しを行うことは可能なのです。
(56ページ)

>既に発行された有価証券の売付けの申込み、またはその買付けの申込みの勧誘のうち
>多数の者(施行令1条の5により50名以上)を相手方として行う場合を売出しと呼びます。
(75ページ)

>募集・売出しが行われる場合、株式発行会社は情報開示(ディスクロージャー)を行わなければなりません。
(76ページ)



株主が市場内で所有株式を売却するという場合、その株主は何名の者を相手方として株式の売却を行うと言えるでしょうか。
他の言い方をすれば、株主は何名の者を相手方として市場に売り注文を出すのでしょうか。
さらに他のいいかをすれば、株主が市場に出す売り注文は、何名の者を対象しているのでしょうか。
1名でしょうか、50名でしょうか、それとも、この世の中の全員(数千万人以上)でしょうか。
この問いに答えはないと言いますか、株主が市場に出している売り注文には市場内の誰もが応じることができる、
という点を鑑みますと、「売り注文の対象者」という意味では、「市場内の全員」が相手方の候補になっているといえるでしょう。
すなわち、株式の売却の相手方(売り注文の対象者)は少なくとも50名などでは決してない、と言えるわけです。
売り注文に応じる投資家が結果合計何名になるのか分かりません(株主が売る株式数次第でしょう)が、
「売り注文に応じ得る投資家」(売却の対象者)の数は50名などという人数では決してないわけです。
敢えて言うならば、株主は市場内の全投資家を対象に売り注文を出す(株主は対象者を限定してはいない)と言えるわけです。
ではここで質問です。
株主が市場で株式を売却する際、何らかのディスクロージャーは必要でしょうか。
理論的には、何らのディスクロージャーも必要ないでしょう。
なぜならば、株式の譲渡は株主間の取引に過ぎず、会社には関係がない取引だからです。
そうだとしますと、なぜ株式の「売出し」には金融商品取引法上会社にはディスクロージャーが求められるのだろうか、
と思います。
先ほど引用した教科書の記述になぞらえて言うならば、次のようになるでしょう。
”市場内における株式売却と大株主による大量の株式売却(売出し)は、
一般には密接には関連してはいないもの(別の取引・異なる株式売却形態)と受け止められていますが、
法制度上も、市場内における株式売却と株式の売出しとの間には、特段の結び付きはありません。”
市場内で株式を売却する場合は、どんなに大量に売却を行おうが、特段のディスクロージャーは必要ない一方、
金融商品取引法上定義される株式の「売出し」を行う場合は、
たとえ売却株式数は少数であっても(勧誘の対象者が50名以上の場合は)、会社にはディスクロージャーが求められるわけです。
市場内で株式を売却する場合は特段のディスクロージャーは必要ないにも関わらず、
株式の「売出し」を行う場合は会社にはディスクロージャーが求められる、というのは証券市場における矛盾と言っていいでしょう。
市場内で株式を売却することと比較すると、株式の「売出し」を行う場合は「同じ売出価格で」株式の売却を進めていける、
という特徴があるとは思います。
ただ、その相違点というのは、会社によるディスクロージャーという点では関係はない(相違に合理性がない)、と思います。
つまり、株式を同じ価格で売る場合は会社によるディスクロージャーが必要だ、と考えることには根拠はないように思います。
この相違に関しては、上場規則と金融商品取引法の齟齬、と言っていいのかもしれません。
仮に、上場会社法と称される会社法を新たに整備するとしますと、この辺りの矛盾の整理も必要になってくるように思います。
上場会社法というのは、証券取引所の上場規則とも本質的に関連を持つものになるのだろうと思います。
今日の議論で言えば、「一旦市場に上場した後は、株式の売出しに際し会社によるディスクロージャーは特段必要ない。」
というふうに定めを整理することになると思います。
現行の規則と条文では、上場株式の取り扱い(株主間の譲渡)が矛盾しているのです。