2017年1月5日(木)
>花王は自前の物流センターを持つ大手小売りに対しては、小売り側の物流センターに商品を配送している。
>各店舗への配送は大手小売り側が受け持つため、花王は大手小売りに物流システムの利用費として手数料を支払っている。
>これまでは手数料を費用に計上していた。新たな基準では費用には計上せず、手数料を控除する分だけ会計上の売上高が減る。
と書かれています。
論点となっている「IFRS第15号」(「顧客との契約から生じる収益」)で検索すると様々な解説記事がヒットするのですが、
どれも非常に難解に解説してある記事ばかりだと思いました。
自分なりにこのたびの記事の事例を解釈し、収益認識についてのコメントを書きたいと思います。
記事でもそのことを前提にしているのだと思いますが、ここでは話の簡単のために、
大手小売りは物流センターに加え、配送車両も自社で保有している(大手小売りの物流システムに配送車両も含まれる)とします。
つまり、大手小売りが各店舗への商品配送のために外部の運送業者を利用することはない、とします。
花王は大手小売りに物流システムの利用費を支払っているという記述がありましたので、そのような前提を置くことにしました。
この時、例えば商品の代金は100円、物流システムの利用費は10円だとします。
旧基準では、売上高は100円、関連費用(支払手数料)は10円、というふうに計上・収益認識していたわけですが、
新基準では、売上高は90円(関連費用(支払手数料)は結果0円)、というふうに計上・収益認識するようになる、
と記事では言っているわけです。
これは簡単に言えば、「物流システムの利用費は商品の売買契約に含まれているからである。」、という理由から、
このような計上方法・収益認識方法になる、と記事では言っているわけです。
商品の引渡し(納入)と物流システムの利用(商品配送)とは一体的な取引である、という見方をIFRSではするのだと思います。
それで、新基準では、「売上高の金額は90円だ。」、という結論になるのだと思います。
ただ、この考え方の場合では、「物流システムの利用費」は花王(売り手)と大手小売り(買い手)とで任意に決定し合意をした、
というだけのことだ、という言い方ができると思います。
つまり、商品の売買価格も花王(売り手)と大手小売り(買い手)とで任意に決定し合意をするわけなのですが、
花王から見ると、受け取る対価と支払う利用費との間に区別がない(明確に分けられない)と言いますか、
仮に商品の代金は100円と決めるとすると今度は利用費10円に根拠がない、というふうに私には思えるわけです。
他の言い方をすると、商品の代金を90円と決めるとすると今度は利用費0円でも結局問題はない、
という考え方になってしまうように思うわけです。
要するに、当事者で任意に決める価格が2つあるために、どちらの金額がいくらでどちらの金額がいくら、
という境界線があいまいになってしまうように思うわけです。
商品の代金を110円と決め利用費20円とする場合(売買契約)でも、先ほど挙げた例と区別が付かない、ということになるわけです。
そうしますと、この場合、「売上高の金額は90円だ。」という計上方法・収益認識方法でも、純額表示とは言えない、と思います。
「当事者間で実際にやり取りを行った現金額」から見ると、純額表示を行っていると言える部分が出てくるわけですが、
商品の代金と利用費を任意に決めてよい以上、この場合純額表示の方が理に適う(売上高の過大計上を避けられる)と思います。
では次に、大手小売りは物流センター(倉庫)のみを自社で保有しており、
配送車両は自社では保有していない(大手小売りの物流システムに配送車両は含まれない)とします。
つまり、大手小売りは各店舗への商品配送のために外部の運送業者を利用する、とします。
この時、先ほど同様、商品の代金は100円、物流システムの利用費は10円だとします。
旧基準では、売上高は100円、関連費用(支払手数料)は10円、というふうに計上・収益認識していたわけですが、
新基準では、売上高は90円(関連費用(支払手数料)は結果0円)、というふうに計上・収益認識するようになる、
と記事では言っているわけです。
ただ、記事では、最初に書きました前提を置いていると思いますので、
ここでの関連費用は”支払手数料”ではなく、「支払運送料」といった勘定科目になると考えられます。
大手小売りが外部の運送業者に支払う運送料は、ここでは明確(大手小売りにも花王にも正確に分かる)であるとしましょう。
この場合は、先ほどの設例とは異なり、「売上高の金額は100円である。」、という計上方法・収益認識方法しかできない、
と思います。
なぜならば、商品の代金はあくまで100円であり、関連費用(支払運送料)はあくまで10円だ、
ということが客観的に・明確に分かるからです。
他の言い方をすると、商品の代金100円は当事者で協議し合意した価格である一方、
関連費用(支払運送料)10円はあくまで「外部の配送業者」次第で決まっている価格だからです。
すなわち、関連費用(支払運送料)10円は当事者で協議をし合意した価格ではないからです。
では次に、大手小売りが外部の運送業者に支払う運送料が花王には分からない(本当に10円かどうか分からない)としましょう。
この場合は、「売上高の金額は90円である。」、という計上方法・収益認識方法が考えられるように思います。
なぜならば、商品の代金は100円に任意に決定・合意したとは言っているものの、
結局関連費用(支払運送料)についても10円に任意に決定・合意したことと同じだと言えるからです。
すなわち、関連費用(支払運送料)10円については客観的根拠がない、という見方ができるように思ったのです。
そうしますと、これは、一番最初の設例で「物流システムの利用費」を当事者間で任意に決めた、という場合と同じである、
という見方になってくるのではないかと思ったのです。
一言で言えば、「関連費用(支払運送料)は客観的に明確であるのか否か?」、
という点が今日の議論では収益額を認識する上で重要になってくるのではないかと思いました。
一言で言えば、「収益の金額とは単に対価の金額のこと」なのですが、その収益の金額自体が関連費用との見合いで変動し得る、
ということが今日の議論では問題になっている(関連費用も当事者で任意に決められるという点が問題となる)わけです。
以上の見方は、このたびのIFRSの改正点に重点を置いた上での「収益額と費用額」という観点から見た場合の議論になります。
この点については、「現金の動き」に着目すると、また違う議論も可能かと思います(例えば、法人税法理からはどう見えるか等)。
細かい設例を挙げていくと様々なことが考えられる問題なのではないかと思いました。
To put it simply, the amount of a revenue is the amount of a consideration.
簡単に言えば、収益の金額とは対価の金額のことなのです。