2017年1月3日(火)
Relationship between a market capitalization and a share buyback.
時価総額と自社株買いの関係
【コメント】
2016年12月31日(土)の日本経済新聞の記事になります。
昨年2016年の「東証1部の時価総額ランキング」に関する記事です。
2015年末と比較し、2016年末時点で時価総額を最も増加させた企業はソフトバンクであった、という内容になります。
ソフトバンクと時価総額と聞きますと、ソフトバンクは一時期は「時価総額経営」と言って、
時価総額の最大化を究極的な経営目標にしていた時期があったように思います。
最近は「時価総額経営」とは言わなくなったとは思いますが、それでも株主へのリターンという意味合いでは、
ソフトバンクは今でも時価総額を重視し、時価総額が大きくなるよう、戦略面でもIR面でも力点を置いているのだろうと思います。
上場企業ですからそのこと自体はよいとは思うのですが、ソフトバンクがかつて「時価総額経営」と言っていた頃と比べますと、
現在では株式市場における論点としてある点が根本的に異なっているな、と思う点があります。
それは、自社株買いです。
ソフトバンクがかつて「時価総額経営」と言っていた頃というのは、概ね2000年前後と言っていいかと思います。
その頃というのは、実は会社は自社株買いができなかったのです。
旧商法上、会社が自社株買い(自己株式の取得)ができるようになったのは、2001年の改正商法からだったのです。
2001年に旧商法が改正されて即座に自社株買いを行った会社というのはほとんどなかったと思います。
自社株買いを行った日本史上初めての上場企業がどこかのかは分かりません(2003年か2004年だと思います)が、
自社株買いが上場企業で当たり前のことのようになったのは、実は比較的最近のこと(ここ10年間強のこと)なのです。
ソフトバンクが初めて自社株買いを行ったのがイツだったのかは分かりません。
ソフトバンクは新し物好きなので、上場企業の中でも比較的早い時期に自社株買いを行った可能性もあります。
ただ、それがいつのことだったのかは分かりません(2004年くらいでしょうか?)が、
そのころには既にソフトバンクは「時価総額経営」とは言っていなかったのではないかと思います。
ITバブルの崩壊などで、ソフトバンクの時価総額が一時期に比べれば小さくなってしまったのが理由だとは思います。
ただ、1つ指摘したいのは、時価総額の最大化を目指すことと自社株買いを行うこととは矛盾している面がある、ということです。
その理由を端的に言えば、自社株買いを行うと必然的に時価総額が減少するからです。
一般に、自社株買いを行うと株価が上昇すると言われます。
そのことを踏まえれば、自社株買いの結果社外株式数が減少する以上に株価が上昇すれば、
自社株買いを行うと時価総額が大きくなる、という言い方もできます。
自社株買いの結果、株価がどれくらい上昇・下落するのかは、会社の財務状況や将来予測や株式市場の動向次第であるわけですが、
仮に自社株買いを行っても長期的には株価には影響は与えないとすると、
自社株買いを行うと、社外株式数が減少する結果、時価総額は小さくなることになります。
長期的に見ると、自社株買いは少なくとも時価総額には不利に働くことになると思います。
つまり、時価総額の最大化が経営目標なら、自社株買いはするべきではない、という結論になるわけです。
仮に自社株買いによって株価が上昇するのなら、会社が自社株買いを行った後に投資家がその株式を買うことは、
自社株買いにより会社の財務状況が大なり小なり劣化した状態である上に株式を高掴みすることを意味するとすら言えるでしょう。
会社が自社株買いを行ったということは、目下有望な投資先がその会社にはない、ということをも意味していると言えるでしょう。
ソフトバンクが「時価総額経営」だと言いながら自社株買いを行ったことは一度もないとは思いますが、
上場企業において自社株買いが株主への利益還元の一手法として定着した現在、
時価総額の議論と自社株買いの議論とは本質的に相容れない部分があるのだろうと思いました。