2016年12月11日(日)



2016年12月6日(火)日本経済新聞
香港の製造子会社 対象外 税逃れ対策税で政府・与党
協同組合向け 配当課税を軽減
(記事)




2016年12月9日(金)日本経済新聞
海外資産相続 課税を強化 居住10年以内は対象に
(記事)

 

 


【コメント】
タックスヘイブンに設立したペーパーカンパニーを活用した租税回避や海外資産に対する相続税については、
今までに何回かコメントしたことがありますので、今日は特にコメントはありません。
2017年度税制改正大綱の中で、今までコメントしたことがなかったことが記事には書かれていますので、
その点について一言だけコメントします。
2016年12月6日(火)の日本経済新聞の記事に書かれていることなのですが、2017年度税制改正により、
協同組合が少額出資している団体から受け取る配当金に対する法人税を軽減する方針であるようです。
現行の規定では、持株比率5%以下の場合は、受取配当金額の80%が課税対象となっているようなのですが、
このたびの税制改正により、受取配当金額の50%を課税対象とするようです。
このような税制改正の背景として、記事には、株式会社と協同組合を対比させて、

>株式会社が少額出資する場合は配当の獲得が目的であるケースが多い一方で、
>農協が連合会などの上部団体に出資するのはサービス利用のために必要だ。
>このため協同組合に限り、持ち株比率5%以下の配当への課税を軽減する。

と書かれています。
どうやら、協同組合はサービス利用のため上部団体に出資せざるを得ないケースが多いため、
たとえ協同組合が上部団体から配当金を受け取っても、その受取配当金は収益の獲得を目的とした結果稼得した所得ではない、
というような理屈が背景としてあるのだろうと思います。
協同組合は、出資しなくても良いのなら本当は出資したくはなかったのだが、事業運営上の必要性から、
致し方なく上部団体に出資せざるを得なかった、だから、
協同組合が出資先である上部団体から受け取る配当金については、法人税を軽減する、という論理立てになっているのだと思います。
基本的には、受取配当金に対する法人税の課税の仕組みは、株式会社も協同組合も同じであるようなのですが、
敢えて言うならば、協同組合は自由意思で上部団体に出資をしているわけではない、
というような理屈がこのような取り扱いの違いを生じさせているのだと思います。
法理的には、出資者は自由意思で法人に出資しますし、法人も自由意思で出資者からの出資を受け入れます。
概念的な意思決定権の強さで言えば、出資者の方が法人よりも強いわけなのですが(そもそも法人は出資者が設立するわけですから)、
いざ法人を「法律上の人」と見た場合は、法人もまた自由意思で出資者からの出資を受け入れる、
という見方をすることがができるでしょう。
このたびの事例では、出資者(協同組合)の方が法人(上部団体)の意向に従わざるを得ない形で出資をしている、ということで、
本来的な出資者と法人との関係から言えば、あべこべと言ってしまえばこれほどあべこべな話もないわけなのですが、
協同組合とその上部団体にまつわる実務上の問題ということで、出資者による法人に対する不本意な出資が行われているようです。
協同組合(出資者)が上部団体(法人)を設立した経緯などについては分かりませんが、とにかく実務上の問題ということで、
そのような不本意な出資を行ったということであるならば、出資の見返りである受取配当金に関しては法人税を軽減する、
という実務上の対応も税務当局としては現実には考えられる、ということなのかもしれません。
協同組合とその上部団体との関係をどのような関係と捉えるかで答えは変わってくると思いますが、これも1つの答えなのでしょう。
ただ1つ法理上言えることは、受取配当金は収益の獲得は目的とはしていない所得だ、というのは理由にはならないということです。
なぜなら、例えば人が期せずして寄付金を受け取った場合も、収益の獲得を目的としていたか否かとは無関係に、課税されるからです。
課税所得額は、所得を獲得した意思・目的(動機)ではなく、現に稼得した所得額のみ(実際の行為のみ)で決まるのです。