2016年12月6日(火)



キーエンス、株式1株を2株に分割 最低投資金額引き下げ

 キーエンスは5日、株式1株を2株に分割すると発表した。2017年1月20日を基準日とし、1月21日付で実施する。
同社株は最低投資金額が5日終値時点で760万円近くかかるが、株式分割を通じて投資金額を引き下げ、
より多くの投資家を呼び込む狙い。合わせて、発行済み株式総数の2.5%弱にあたる150万株を売り出すことも発表した。
 株式分割はほぼ5年ぶり。分割に伴い、期末配当予想を従来の150円から75円に修正した。実質ベースでの配当額に変更はない。
 キーエンスの株価は足元で7万円台後半で推移している。売買単位は100株のため最低投資金額は700万円台後半。
上場企業の中では約400万円のファーストリテイリングを上回り、1000万円を超すエスケー化研に次ぐ高水準にある。
1株を2株に分割すると理論上、株価は半分になるため、株購入のハードルはその分下がる。
 クレディ・スイス証券の黒田真路氏は市場の反応について「購入しやすくなることが好感される可能性もある」と話す。
 一方、売り出す150万株の売り出し価格は決まっていないものの、5日終値で換算した場合、1000億円を超す規模になる。
売り出し人はキーエンスの筆頭株主で、創業家の資産管理会社である「ティ・ティ」。使途などは明らかにしていない。
(日本経済新聞 2016/12/5 23:56)
ttp://www.nikkei.com/article/DGXLZO10316410V01C16A2DTA000/

 

 

2016年12月5日
株式会社キーエンス
株式分割及び定款の一部変更並びに配当予想の修正に関するお知らせ
ttp://www.keyence.co.jp/company/outline/pdf/20161205_2.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)


2016年12月5日
株式会社キーエンス
株式の売出しに関するお知らせ
ttp://www.keyence.co.jp/company/outline/pdf/20161205.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)

 



【コメント】
「株式分割及び定款の一部変更並びに配当予想の修正に関するお知らせ」には、株式分割による会計上の影響として、

>今回の株式分割に際して、資本金の額の変更はありません。

と書かれています(1/2ページ)。
会社法上、株式分割というのは、会社の発行済株式総数を増加させるという意味しかありませんので、
株式分割を行っても資本金の額に変更は生じないのは、ある意味当たり前のことであるわけです。
上場企業が発表する株式分割のプレスリリースには、”今回の株式分割に際して、資本金の額の変更はありません。”
といった文言が書かれていることが、今までの事例では非常に多かったように思います。
会社法上、株式分割を行うと資本金の額に変更が生じると解釈することはできないのではないかと思うのですが、
非常に多くのプレスリリースにこのように書かれてある理由というのは何かあるのだろうか、とふと思いました。
それで、何かあるだろうかと少し考えてみましたところ、旧商法での取り扱いがひょっとして理由ではないだろうかと思いました。
旧商法では、いわゆる無償増資(利益の資本組入れ)のことを株式分割と呼んでいたことがありました。
つまり、旧商法における株式分割では、資本金の額が増加していたわけです。
旧商法では、株式分割を行う(株主に株式を無償で割当交付する)と同時に、利益剰余金勘定から資本金勘定へ一定額を振り替える、
という会計処理も行っていました。
その当時は私も何も考えずふむふむなるほどと納得していたのですが、今思うと何ともインチキくさい会計処理だったなと思います。
資本金の額の増加に見合う会社財産は全く増加していないのですから。
とにかく、旧商法では、そのような株式分割と資本の部の勘定の振り替えとを同時に行う手法が用いられていました。
株主にとっては、一種の利益還元の意味合いがあったと思います(株価は下がらないまま手許の所有持株数が増加するから)。
現行の会社法下では、そのような株式分割を行っている企業は全くないように思います。
現行の会社法では、いわゆる無償増資(利益の資本組入れ)の部分が法律上できなくなった、ということかもしれませんが、
旧商法における株式分割と会社法における株式分割は相当程度異なっているのだけは確かだと思います。
旧商法での理解が深い人は、株式分割と聞くと、資本金の額が増加するのだろう、と思ってしまうと思います。
それで、注意喚起の意味合いでこのようなことが書かれているのだと思います。
行政機関に何時から何時という概念はなく、行政機関は愛国心を持って24時間365日開いていなければなりませんが、
某有名総合小売店が旧商法における株式分割を頻繁に行っていました。
その某有名総合小売店はその後、大きな組織再編を行ったわけなのですが、
商法が会社法に改正されてからは、一度もかつて行っていた「旧商法における株式分割」は行っていないと思います。
条文を調べずに事例から推測するのも何ですが、おそらく現行の会社法では「旧商法における株式分割」は行えないのだと思います。

 


株式会社キーエンスのサイトを見ていましたら、次のようなプレスリリースがありました↓。


2016年4月27日
株式会社キーエンス
事業年度の変更及びそれに伴う定款の一部変更に関するお知らせ
ttp://download.keyence.com/dl/download/document/70237/AS_82594_TG_JA.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)



簡単に言えば、平成28年度税制改正に合わせ、平成28年度だけ事業年度の開始日と末日とを都合よく変更する、という内容です。
会社法上そして法人税法上、このようなことは認められると言えば認められるのだと思います。
これはずるいなあと思ってプレスリリースを見ていたのですが、このような恣意的なことが認められるのなら、と考えていますと、
ふとあることを思いました。
それは、「平成28年度税制改正が確定・発表(公布)された後は、会社は平成28年度の事業年度を変更できない。」
という法理上の考え方です。
これはこのプレスリリースを読んで自分なりに考えた考え方なのですが、
いわゆる「法の遡及適用」の考え方を応用して考えてみました。
人は改正前の行為が改正後の法で裁かれることはない、という考え方を「法の遡及適用の禁止」と言い、
法における原則的考え方となっています。
改正後の法律で改正前の行為が裁かれるとなりますと、人は法律の守りようがないわけです。
ですので、改正後の法律は、改正後に行われた行為についてのみ適用されるわけです(改正前に遡って適用されることはない)。
これは法律の恣意的な適用を避けるためであろうと思うのですが、この考え方を応用してみますと、
法律を恣意的に適用することが認められないのなら、法律を守る方も恣意的に自分の状況を変更することは認められない、
という考え方がありはしないだろうかと思いました。
改正後の法律に従うのは当然にしても、事業年度の開始日から末日までの1年間という予め定められた期間でもって
所得額の計算を行い、納税額を確定させるのが法人税法であるわけです。
法人税法の公布に合わせ会社が事業年度の開始日を変更するというのは、法人税法の基本部分に反する行為であると思うのです。
法人税の課税方法の根幹が揺らぐ、とすら言っていいと思います。
法人税法の公布に合わせ恣意的に事業年度の開始日を変更するというのは、too convenient (都合が良過ぎる)だと思います。
さらに言えば、このプレスリリースが発表されたの(事業年度の変更の取締役決議日)は、2016年4月27日ということで、
平成28年度税制改正は、公布どころか施行までされているタイミングであるわけです。
そして、会社としても、平成28年度の事業年度は既に開始されているタイミングであるわけです。
既に開始されている事業年度の末日を事業年度の途中に変更するという考え方はあるのだろうか、とも思いました。
法人税の所得額の計算期間に関してもそうですが、期間を変更するなら開始される前に予め決めておかなければならない
のではないかと思いました(経営上の理由で致し方なく途中で末日を変更せざるを得ない場合も現実にはあるかもしれませんが)。
いずれにせよ、今日の論点を一言で言えば、「恣意性を排除するため、施行前ではなく公布前にしか変更はできない。」となります。