2016年11月23日(水)



2016年11月21日(月)日本経済新聞
租税回避の海外会社に網 実質所有者も課税 財務省検討 資本関係50%未満でも
(記事)


 


【コメント】
記事を読んでも内容がいまいち分かりづらいように思いました。
おそらく、タックス・ヘイブンに設立されている会社の所得(法人所得)に関して、会社の所有者(株主)に対して課税をする、
というふうに所得税法を改正する、と記事では言っているのだろうと思います。
しかし、以前も書きましたが、そのような課税関係はあり得ません。
結局のところ、タックス・ヘイブンに設立された会社(法人)の所得は、その法人に専属する所得、というだけのことであり、
法人の所得は株主の所得とは異なる、という見方しかできないと思います。
たとえ日本一国内であっても、ある法人の所得をその株主の所得と見なすことは決してできないように、
タックス・ヘイブンに設立された会社に関して、法人の所得をその株主の所得と見なすことは決してできないわけです。
もしそのような課税関係を行うとすれば、「国境をまたいだ『法人格否認の法理』」と言わねばならないでしょう。
そもそもの話をすれば、
タックス・ヘイブンに設立された会社に対する課税権はタックス・ヘイブン(ある国)の税務当局のみにあります。
タックス・ヘイブンとは呼ぶものの、タックス・ヘイブンとはある国の一地域であり、その国の税法が適用されるわけです。
タックス・ヘイブンには税法がない(課税権を持った当局がない)わけでは決してありません。
タックス・ヘイブンに設立された会社に関する課税関係はあくまでタックス・ヘイブン国内で完結する話であり、
他国の税務当局の課税権というのはそもそも及ばないもの、と考えなければならないでしょう。
仮に、日本の国税庁がタックス・ヘイブンの税務当局と国際的に協調・連携し、
日本からの課税権をタックス・ヘイブンにおいても認めるとしても、
そこにはさらに「法人格」という壁(法理上の問題)が立ちはだかっていることでしょう。
すなわち、法人の所得をどのように株主の所得と見なすか、という問題があるわけです。
1人の株主が法人の株式を100%所有している場合であれば、
脱税目的の法人設立ということで「法人格否認の法理」の考え方がまだできそうにも思えますが、
株主が複数いる場合はそもそも課税関係はどのようになるというのでしょうか。
法人の所得を各持株比率で株主に分割して各株主の所得と見なす、とでも言うのでしょうか。
そもそも株主は法律上の人として所得を得てはいないのですから、
得てもいない所得に関して課税するというのは無理があるでしょう。
たとえ法人を設立しようとも、株主は結局のところ、配当や残余財産の分配という形で、所得を得ることになります。
タックス・ヘイブンにおいて法人の側でいくら節税をしようとも、株主は配当や残余財産の分配という形で所得を得るわけですから、
株主は結局、日本国の所得税法に基づき課税をされるというだけなのです(つまり、法人でいくら節税をしても最穂は意味がない)。
タックス・ヘイブンを活用して法人の所得について節税をしても、それで株主の所得まで節税されるわけでは全くないわけです。
一般に、法人税を減税すれば税制上法人にとって有利だ(手許現金や内部留保が増加する、競争力が強化される等)と言われます。
それは確かにそうなのですが、いくら法人税を減税しても結局株主にとっては減税になっていない、とは言えると思います。
なぜなら、法人の所得と株主の所得とは別だ(法人税法によって両者の所得は切り離されている)からです。
確かに、所得税率が同じであれば、法人税率が引き下げられた分、株主にとってもトータルの税引き後所得額は増加します。
その意味では、法人税の減税(税率の引き下げ)は株主にとっても結局有利なこととは言えるでしょう。

 


ただ、ここで言いたいのは、法人税率が引き下げられたからと言ってそれは所得税率の引き下げを全く意味しない、という点です。
要するに、このたびの記事の内容に即して言えば、日本の国税庁から見れば、タックス・ヘイブンでは法人税率が低いことは、
実は日本の所得税の税収額が増加することに寄与する、ということなのです。
タックス・ヘイブンの法人はタックス・ヘイブン国内でしか所得を得られません。
タックス・ヘイブンの法人が日本国内で所得を得ることはそもそもできないのです。
その意味において、たとえ株主がタックス・ヘイブンに法人を設立しても、法人税の税収額は一切減らないのです。
株主がタックス・ヘイブンに法人を設立すると、日本における法人税の税収が減少するかのように思っている人がいます。
それで、租税回避防止だなんだと言って、タックス・ヘイブンの法人所得に日本から課税する、と言っているのだと思います。
しかし、実はそれは全く事実とは異なるのです。
たとえ株主がタックス・ヘイブンに法人を設立しても、日本における法人税の税収は減少しないのです。
なぜなら、タックス・ヘイブンの法人所得と日本の法人所得とは全く別だからです。
株主がタックス・ヘイブンに法人を設立すると、日本の法人所得をタックス・ヘイブンの法人に移転できるかのように
考えている人がいますが、実はそれはそもそもできない(そのようなことは実は観念できないとすら言っていい)ことなのです。
日本の法人は日本の法人で所得額を計算しますし、タックス・ヘイブンの法人はタックス・ヘイブンの法人で所得額を計算する、
それだけのことなのです。
仮に、日本の法人が稼得した所得を日本で申告しない(これはタックス・ヘイブンの法人が稼得した所得だと主張する)とすると、
その時点で既に法人税法違反です。
株主がタックス・ヘイブンに法人を設立することは、日本の国税庁としては、
(法人税ではなく)所得税の税収額が増加することに寄与する、と考えるべきではないでしょうか。
株主がタックス・ヘイブンに法人を設立すると、法人税の税収額が減少しない一方、所得税の税収額は増加するのです。
日本の投資家が法人税の税率が低い国で法人を設立することは、日本における所得税の税収増加に寄与することですので、
むしろ歓迎・促進するべきことではないかと思います。
タックス・ヘイブンの法人税率が日本に比べ非常に低いことは、実は日本(国税庁等)にとって有益なことなのです。
敢えてタックス・ヘイブンを活用した「所得の移転」のようなことを考えるとすれば、
例えば経営指導料といった名目で日本の法人がタックス・ヘイブンの法人に現金を支払うことが挙げられるでしょう。
その経営指導料が法人税法上損金となるのなら、確かに日本の法人の所得額は減少し、
結果、日本の法人税の税収額は減少することになるでしょう
(ただし、タックス・ヘイブンの法人からの配当額はその分増加するので、所得税の税収額は増加することになる)。
その場合、法人税の税収額と所得税の税収額の合計額はトータルでは減少することになります。
このことをタックス・ヘイブンを活用した「所得の移転」と記事では呼んでいるのであれば、その対策としては、
「国境をまたいだ『法人格否認の法理』」のような課税関係を考案するのではなく、
例えばタックス・ヘイブンの法人へ支払った経営指導料は法人税法上損金不算入とする、といった具合に、
「損金の要件」を見直すことにより租税回避を防止するようにしていくべきでしょう。
端的に言えば、タックス・ヘイブンの法人に対する現金支出が損金となるから「所得の移転」のようなことができてしまうわけです。
タックス・ヘイブンを活用した「抜け穴」を塞ぎたいのであれば、まずは「損金の要件」を見直すことだと私は思います。
「損金の要件」を見直しさえすれば、タックス・ヘイブンの法人の実質所有者は誰かなどといった議論は根本的に不要なのです。