2016年11月4日(金)



2016年11月4日(金)日本経済新聞
エジプトが通貨切り下げ
(記事)





エジプトが通貨切り下げ 変動相場制へ移行

 【カイロ=岐部秀光】エジプトの中央銀行は3日、「外国為替制度を自由化する」と発表し、
通貨エジプトポンドの外為レートを市場にゆだねる変動相場制へ移行した。
これまで1ドル=8.8エジプトポンドに固定されていた対ドル為替レートについて
暫定的な誘導水準を1ドル=13エジプトポンドに設定すると述べ、大幅な切り下げに踏み切った。
 財政危機に陥っているエジプトのシシ政権は国際通貨基金(IMF)などから支援をあおいだ。
為替制度の改革や緊縮策が支援実行の条件となっていた。
エジプトはドル不足が深刻で、闇市場では自国通貨が大幅に値を下げていた。
(日本経済新聞 2016/11/3 19:16)
ttp://www.nikkei.com/article/DGXLASGM03H5A_T01C16A1FF2000/

 


【コメント】
2016年11月3日、エジプトが変動為替相場制に移行した、とのことです。
特にコメントはありませんが、ふと思ったことについて一言だけコメントします。
エジプトではこれまで、対ドル為替レートは1ドル=8.8エジプトポンドに固定されていた、と記事には書かれているわけです。
この点だけを見ますと、エジプトはこれまで固定為替相場制を採用していたということであり、
マクロ経済学の観点から見ると、為替相場制度は一国における一種の通貨政策(自国通貨の管理)であると言えるわけです。
それがどうかしたのか、と思われるかもしれませんが、改めて考えてみますと、
ここでは「通貨と通貨の交換」の話をしているわけです。
すなわち、エジプトにとっては「エジプトポンド」という通貨は自国で管理可能な自国通貨である一方、
「アメリカドル」という通貨は自国では管理不可能な他国の通貨であるわけです。
つまり、為替相場制度の変更という場合、当然にそれは自国の通貨の管理だけでは済まない話になってくるわけです。
つまり、エジプトにとって外国為替レートが「1ドル=8.8エジプトポンド」であるということは、
アメリカにとっても外国為替レートは「1ドル=8.8エジプトポンド」である、ということを意味するわけです。
要するに、このたびの記事で言えば、あたかもエジプトだけが外国為替相場制度を固定為替相場制から変動為替相場制へ移行した、
というふうに思ってしまいますが、結局のところ、
実はアメリカもエジプトポンドに関しては外国為替相場制度を固定為替相場制から変動為替相場制へ移行した、
と言わねばならないように思ったのです。
なぜなら、エジプトがアメリカドルに関し固定為替相場制を採用していた時は、
アメリカもエジプトポンドに関しては固定為替相場でしか通貨の両替ができなかったからです。
一言で言えば、これは「通貨と通貨の交換」でありますから、外国為替相場制度の変更という場合は、
一国だけの外国為替相場制度の問題ではない、ということになるわけです。
2016年11月3日、アメリカもエジプトポンドに関しては固定為替相場制から変動為替相場制に移行した、と表現できると思います。
そしてまた、アメリカドルと自国通貨との為替相場は従来から変動為替相場制であった国々(例えば日本)にとっては、
実はエジプトポンドに関しては従来から変動為替相場制であった、と言えると思います。
逆から言えば、エジプトにとっては、実は例えば日本円に関しては従来から変動為替相場制であった、ということになります。
そうすると、このエジプトにおける外国為替相場制度の変更というのはどういうことのだろうか、と思ってしまいます。
たとえ他の通貨との為替相場は変動為替相場制でも、基軸通貨であるアメリカドルとの為替相場さえ固定させておけば、
エジプトにとっては通貨管理上は為替相場の問題は小さくて済む、というようなことが言えるのでしょうか。

 



この論点に関連し理論的に考えられるのは、「通貨と通貨の直接交換は通貨管理制度上可能か?」という点になると思います。
例えば、エジプトポンドはアメリカドルとの交換しか認めない、という通貨管理制度を採用しているとすると、
このたびの外国為替相場制度の変更には意味があるでしょう。
仮にこの場合ですと、日本から見るとエジプトポンドは従来から変動為替相場制であると見えるのですが、
エジプトから見ると、日本円は今でも固定為替相場制でも変動為替相場制でもない(自国通貨とは両替が不可能な通貨というだけ)、
ということになるように思います。
この辺りは、いわゆる「市場」と「通貨管理制度」とが複合した論点(両方の側面を考慮しなければならない)になるように思います。
非常に複雑な話になってくるのだろうと思います。
自分でもまだ十分に論点の整理が付け切れておらず、頭がこんがらがっているのですが、概ね以上のようなことが言えると思います。
それから、関連する論点ということでついでに書きますと、以上の議論を踏まえますと、あくまで理論上の話になりますが、

固定為替相場制 → 通貨の両替には国(中央銀行)が応じる
変動為替相場制 → 通貨の両替には市場参加者(両替通貨保有者、両替通貨購入希望者)が応じる

というふうに各制度における取引(通貨の両替)を整理できるのではないかとふと思いました。
固定為替相場制では、国が決めた固定レートで注文を出せば、両替通貨を必ず買うことができますし必ず売ることできる一方、
変動為替相場制では、市場参加者(両替通貨保有者、両替通貨購入希望者)が応じない限り、
どれだけ高い為替レート(価格)で注文を出しても両替通貨は買えず、
どれだけ引き為替レート(価格)で注文を出しても両替通貨は売れない、
というふうに各制度における取引(通貨の両替)を整理できるのではないかとふと思いました。
これはあくまで私個人が考えた理論上の話になるのですが、
固定為替相場制から変動為替相場制への以降とは、完全に管理された通貨制度から市場取引による通貨制度への移行、
と表現できるのではないかと思いました。
固定為替相場制において市場参加者(両替通貨保有者、両替通貨購入希望者)が通貨の両替に応じるのは理論上おかしいですし、
変動為替相場制において国(中央銀行)が通貨の両替に応じるのも理論上おかしい、と思います。
為替相場が固定されているということは、通貨が管理されているということであり、
売り手と買い手とが競り合うという意味での市場は外国為替相場にはない、ということに理論上はなるでしょう。
また、為替相場が固定されていない(為替相場はその時々だ)ということは、
国(中央銀行)は通貨について為替レートという点では管理はしない、ということであり、
国(中央銀行)が取引の相手方になるという意味での「両替の保証」は外国為替相場にはない、ということに理論上はなるでしょう。

 


例えば、「1ドル=100円」に固定されているとしましょう。
この時、日本円とアメリカドルとの両替の場に、いわゆる「市場」は成立するでしょうか。
他国通貨を持っていてもしょうがない(儲かる見込みはない)ですから、人は余った外国通貨はすぐに本国通貨に両替するでしょう。
逆に、市場に国(中央銀行)が参加するとなりますと、それはもはや市場(変動為替相場)とは呼べないでしょう。
固定為替相場制では、両替通貨のことも、本国通貨同様、法定通貨の一種(言わば準法定通貨)と見なしていると言えると思います。
変動為替相場制では、両替通貨のことは、本国通貨とは異なり、何ら法定通貨ではない(率直に言えばただの一外貨建資産)
と見なしていると言えると思います。
例えば、未来永劫、絶対的に「1ドル=100円」に固定されているとしましょう。
この場合、日本の法定通貨はアメリカドルであっても何ら問題はないわけです。
ある時は「1ドル=110円」、またある時は「1ドル=90円」といった具合に為替レートが変動するから、
アメリカドルは日本では法定通貨となり得ないわけです。
つまり、通貨というのは「尺度」であるわけですから、その「尺度」が変わりさえしなければ、
理論上は国の法定通貨はどの通貨でも良い、ということになるわけです。
通貨の役割としては、富の貯蓄や決済手段などが挙げられますが、その根本にあるのは「尺度」としての役割なのだと思います。
「尺度」としての役割がしっかりしていないと、富の貯蓄の役割も果たせませんし決済手段としての役割も果たせません。
通貨の根本は「尺度」なのです。
この点を鑑みるに、「通貨と通貨の両替のレート」が変動するというのは、
少なくとも自国通貨から見ると他方の通貨はもはや通貨ではない、と言わねばならないでしょう。
為替相場を管理しないのならば、両替通貨は通貨ではないという見方が出てくるわけです。
固定為替相場制と変動為替相場制とでは、理論上は両替通貨の位置付けが根本的に変わってくるのだろうと思いました。
それほどまでに、「通貨と通貨の両替のレート」が変わってしまうというのは、通貨を通貨と見なしていない、
ということを意味することになってしまうように思いました。
以上書きましたことは、何かの教科書や論文などを見て書いたことではありません。
概念論と言いますか、「通貨(の管理)とは何ぞや」という観点から「外国為替相場制度」を見ていまして、
論理でもって話を組み立てて自分なりに書いたものです。
既存の教科書論とは異なることを書いていると思いますが、理論的にはこのようなことが言えるのではないかと思い書いてみました。

 

Under the fixed exchange rate system, the exchange currency can be regarded as a quasi legal currency,
whereas under the floating exchange rate system,
the exchange currency can no longer be regarded as even a currency.

固定為替相場制においては、両替通貨は準法定通貨と見なすことできますが、
変動為替相場制においては、両替通貨はもはや通貨とすら見なすことができません。