2016年11月3日(木)
2016年11月3日(木)日本経済新聞
クラウドファンディング 日本クラウドキャピタル 「株式型」第1号事業者に 出資見返りに未公開株
(記事)
「ゼミナール 金融商品取引法」 宍戸善一、大崎貞和 著 (日本経済新聞社)
第3章 プライベート・エクイティ・ファイナンスと起業
3. 私募による資金調達
(1) 私募とは
(2)
私募に際しての情報提供
(3) グリーンシート
「スキャン1」
「スキャン2」
「スキャン3」
「スキャン4」
「スキャン5」
【コメント】
「クラウド・ファンディング」については、論点としてはあまりないのだろうと思い、敢えて今までコメントを避けてきましたが、
「株式型」という言葉が目に留まりましたので、記事を紹介しているところです。
「クラウド・ファンディング」には様々な形があるようでして、記事よりますと、
2015年5月の改正金融商品取引法で「株式型」の「クラウド・ファンディング」は解禁になった、とのことです。
「クラウド・ファンディング」というのはウェブサイト上で寄附を募るようなことをするのだろうかと思っていたのですが、
「株式型」の「クラウド・ファンディング」となりますと、これはやはり「新株式の募集」に類する行為なのだろうと思います。
それも、「公募」よりも「私募」の側面が強い募集だろうか、と思いました。
それで、金融商品取引法の教科書を紹介しているところです。
今日は、金融商品取引法上の「私募」について、一言だけコメントを書きたいと思います。
この教科書の冒頭部分には各章の要点が短くまとめられているのですが、
今日の論点である「私募」についても簡潔に書かれていますので引用します(同教科書の9ページ)。
>ベンチャー企業がベンチャー・キャピタルなどから出資を募る行為は、
>金商法の観点からは私募に該当し、少人数私募ないしプロ私募の範囲であれば、
>金商法上の情報開示義務を負わされることはありません。
>ただし、ベンチャー・キャピタルがプライベート・エクイティ・ファンドを組成する行為は、
>金商法上の有価証券の取得勧誘に該当し、ベンチャー・キャピタルは金商法上の業規制を受け(第12章参照)、
>機関投資家等から出資を募る行為が、集団投資スキーム持分の募集に該当する場合には、
>金商法上の情報開示義務を負うことになります。
>グリーンシートなどの非上場株式の市場も存在し、ベンチャー企業などの非上場企業と上場企業との差異は
>連続的なものになっており、金商法もそれにきめ細かく対応しようとしています。
教科書を見開きで5ページ分スキャンしたわけなのですが、その要点は既に上記の引用文に凝縮されていると思います。
この引用文にさらに肉付けしていくとスキャンした5ページになるというだけだ、というくらい、
煎じ詰めれば「私募」と「公募」との違いをこの引用文は簡潔に表現していると思います。
さらに、「私募」と「公募」との違いを端的に表現する格言にも似た言葉がスキャンした部分にも書かれています。
それは、
>金商法は、「ディスクロージャーの法」と呼ばれることがあります。
という言葉です(スキャンした97ページ)。
「私募」と「公募」との違いを一言で表現するならば、「情報開示」の一言であろうと思います。
金融商品取引法の根幹を成す制度が情報開示制度なのです。
情報開示のために金融商品取引法はある、と言っても過言ではないわけです。
金融商品取引法が適用されない「私募」と金融商品取引法が適用されない「公募」との違いはここにあるわけです。
ただ、ではなぜ「公募」の場合は金融商品取引法に基づく情報開示が義務付けられ、
「私募」の場合は金融商品取引法に基づく情報開示が義務付けられないのかと言えば、
実はその問いに法理上の答えは全くないわけです。
スキャンした98ページでは、この問いに対する説明付けを試みていますが、
あまり説明になっていないように思います。
敢えてこの問いの答えを言えば、「私募」であれば被害者の数は少なく金額も小さいので社会的影響は小さいからであり、
「公募」であれば被害者の数は多く金額も大きいので社会的影響は大きいからである、となると思います。
新株式を引き受けるのが1人の場合であっても、金融商品取引法が適用され詳細な情報開示が義務付けられる、というのでは、
企業にとって実務上の負荷が大き過ぎるでしょうし、
何百人もの投資家を対象に出資を募集する場合でも、詳細な情報開示は義務付けられない、というのでは、
万一のことが起こった場合、社会的影響が非常に大きくなってしまうでしょう。
現実的な妥協点として、「50人」という線引きを金融商品取引法では行っているだけなのだと思います。
出資者が少人数の場合は、詳細な情報開示を義務付けなくても、出資者が会社まで赴き、
会社から直接情報を得ようとしたりするから問題はない、という考え方もあるかもしれません。
しかし、そのような情報開示方法ですと、極端な話、出資者が企業から得る情報が出資者毎に異なる、
という場合が考えられるのではないでしょうか。
性悪説に立って考えてみますと、金融商品取引法は企業が投資家を騙す場面を想定している、ということではないかと思います。
企業に騙す気はなくても、少なくとも投資家が企業から得る情報は全投資家で共通でなくてはならない、
という理念はのようなものは金融商品取引法にあるのではないでしょうか。
金融商品取引法に基づく情報開示、それが投資家が受け取るべき情報の全てだ、
金融商品取引法に基づく情報開示さえ行えば、投資家の投資判断には必要十分だ(それ以上の情報は投資家はいらないはずだ)、
そういう趣旨が金融商品取引法にはあるのではないでしょうか。
本来であるならば、全ての募集に関して、金融商品取引法に基づく情報開示を義務付けたいところであるわけですが、
それではあまりにも実務上の負荷が大きくなりますので、法理的根拠は全くありませんが、
「49人」以下であれば、金融商品取引法に基づく情報開示は義務付けない、ということにしているだけなのだと思います。
要するに、単純に考えて、投資家によって企業から受ける情報開示や事業に関する説明が異なっていてはならないわけです。
そこで、投資家が受けるべき情報は「金融商品取引法に基づく情報開示」に一本化すればよいわけです。
ところが、それではあまりにも実務上の負荷が大きくなりますので、妥協点として「50人」で線を引いているのだと思います。
金融商品取引法は、投資家が実際に企業まで赴く、ということは想定していない、と言いますか、
もしそのようなことをすれば、その投資家のみが特段に多くの情報を入手することになってしまうのではないでしょうか。
ですので、金融商品取引法は投資家が得る情報を一本化することに重点を置いている、と考えてみてはどうでしょうか。
全49人の出資者のうち、1人だけは社長さんの親族であり、残りの48人は一般投資家だとします。
この時、社長さんの親族1人だけは社長さんから会社に関する重要事実を聞いたとします(それで何とか難を逃れたとします)。
これでは、他の48人の投資家の利益はどうなるというのでしょうか。
このような情報開示方法では、全投資家にとって全くフェアではないのでしょう。
金融商品取引法によって制度的なディスクロージャーを義務付けている理由は、開示情報を一本化するためなのだと思います。
社長さんの親族1人だけが社長さんから聞いた会社に関する重要事実は、それが本当に重要情報なのであるならば、
金融商品取引法に基づき全投資家に対し開示されなければならない、というふうに制度について考えなければならないと思います。
最近の流行言葉で言えば、これはまさに「フェア・ディスクロージャー」なのではないかと思います。
金融商品取引法(正確には旧証券取引法)は、始めから「フェア・ディスクロージャー」に相当する概念のものを志向していた、
ということではないかと思います。
投資家が実際に企業まで訪問してきても、情報開示の公平性から、特段の情報開示は行わないよう、企業の側に義務付ける、
という規制のあり方もあると思います。
「企業が投資家に対して行える情報開示は金融商品取引法に基づく開示情報のみでなければならない。」
という開示情報の統一方法もあると思います。
最近であれば、自社ウェブサイト上でプレスリリースを開示したり、上場規則に基づき証券取引所の情報開示サイトで、
適時開示を行っていく分には、全投資家にとってフェアですので、全く問題のない情報開示の1つだと思いますが、
やはり大株主など、一部の投資家のみを対象に会議室などで会社の情報を伝達するようなことは禁止するべきなのだと思います。
法理的に言えば、「金融商品取引法に基づく情報開示」のみが投資家にとっての全情報だ、
投資家が得る情報はこれ以上の情報でもないしこれ以下の情報でもない、
一部の投資家がこれ以上の情報を得ることはない、
という状況を金融商品取引法は投資家に対し担保をしなければならない、ということになると思います。
その実現方法は、企業は「金融商品取引法に基づく情報開示」のみを開示するよう義務付けることだと思います。
さらに言えば、「発行者と投資家との間における情報の非対称性の問題」についても、
「金融商品取引法に基づく情報開示」によりその問題の解決・解消を図ることを金融商品取引法は目的としていると思います。
すなわち、現実には、発行者と投資家との間には必然的に大なり小なりの情報の非対称性は生じるわけです。
発行者と投資家とが全く同じ情報を共有する、ということは現実にはあり得ないわけです。
しかし、最低限投資家が投資判断をするに必要なだけの情報だけは開示させなければならないわけです。
その情報開示がまさに「金融商品取引法に基づく情報開示」である、と言えるのだと思います。
「金融商品取引法に基づく情報開示」には、「発行者と投資家との間における情報の非対称性の問題」の
解決・解消を図る役割もあるのだと思います。
「投資家の投資判断」という1点において、どの投資家同士も、さらに、投資家と発行者とも平等になるよう、
必要十分な情報開示を金融商品取引法は義務付けなければならないわけです。
一部の投資家が他の投資家よりも有利になってはなりませんし、さらに、発行者が投資家よりも有利になってはならないわけです。
「これだけの情報を開示すれば投資家は発行者をも含めた他の誰とも有利不利のない十分な投資判断ができる。」、
そう担保できるだけの情報開示を金融商品取引法は義務付けている、ということだと思います。
「フェア・ディスクロージャー」と聞きますと、投資家と投資家との間の情報格差を頭に思い浮かべますが、
実は投資家と発行者との間も、「投資家の投資判断」という1点においてはフェアでなければならないのです。
「金融商品取引法に基づく情報開示」がそれらの情報格差をなくす役割を担っているわけです。
「私募」と「公募」との違いという論点から考え始め、「ではなぜ『私募』では情報開示を行わなくても良いのか?」
という問いに行き着き、極論すれば公募や私募という概念などはない、という結論に達したところです。
投資家の数が何人であろうとも、投資家と投資家との間の情報格差を、さらには、投資家と発行者との間の情報格差をなくすため、
投資家が投資判断を行うに必要十分な情報開示を、金融商品取引法は義務付けなければならないのです。
「クラウド・ファンディング」の議論から、「投資家と会社との関係」にまで話が発展し、
法制度の議論についても時をさかのぼっていったように思います。
すなわち、今日の議論が、例えば「取締役は会社の株式を取得・保有してはならない」ことの法理的理由になっていると思います。
旧商法においても、「フェア・ディスクロージャー」は大前提としていたのだと思います。
例えば、たとえ株主は1人だけであろうとも、(中小)企業の社長さんは法理的には会社の株式を持ってはならないのです。
台湾の会社法では、会社の取締役に就任する際には、その会社の株式を保有している場合は、就任前に売却しなければならない、
と定められていると思います。
その理由は、株式を保有したまま取締役に就任することは、まさに「フェア・ディスクロージャー」に反するからだと思います。
一言で言えば、「株主は取締役になれない。」のです。
法理的には、「株主は取締役になれず、取締役は株主になれない。」、これが答えなのです。
創業者(出資者、会社設立者)が社長として会社を経営していく、というのは、実は商法理としてはあり得ないことだったのです。
Information which is disclosed by a company to investors should be
universal,
not only between investors but also between investors and a
company.
会社から投資家に開示される情報は共通でなければならないのです。
それも、投資家間においてだけではなく、投資家と会社との間においてもです。
What you call the "crowd funding" has been treated as a private
placement
notwithstanding the fact that it is virtually a public
placement.
いわゆる「クラウド・ファンディング」は、事実上公募であるにも関わらず、私募であると扱われているのです。