2016年11月2日(水)



2016年11月2日(水)日本経済新聞
相続登記を忘れずに 権利関係もつれる一因
(記事)




2016年10月28日(金)日本経済新聞
相続税、株冷遇に一石 金融庁、評価方法巡り 税制改正要望に盛る
(記事)


2016年10月21日(金)日本経済新聞
税逃れの海外移住に網 相続税、居住5年以上にも 政府・与党検討
(記事)

 



【コメント】
今日は相続税についてコメントを書きます。
相続税に関する記事を3つ紹介していますが、3つの記事それぞれについて一言ずつコメントを書いていきたいと思います。
まず、本日2016年11月2日(水)付けの記事についてです。
記事にあります”相続登記”というのは、不動産の相続に伴う所有権移転登記のことです。
不動産の所有権者の名義を、被相続人から相続人に変更する登記のことを、ここでは”相続登記”と呼んでいるわけです。
記事を読んでみますと、所々おかしなことが書かれているように思います。
記事には、”相続登記”について、

>法的な義務はなく、相続税の申告と違って申請期限もない。
>すぐに名義を変えないからといって直ちに遺族に不都合が生じるわけではない。

と書かれています。
確かに、民法その他には、被相続人死亡後何ヶ月以内に相続登記をしなければならない、と直接に規定されてはいないと思います。
しかし、結果的に、相続人は「被相続人死亡後10ヶ月以内に」相続登記をしなければならない、ということになります。
なぜならば、相続登記をしなければ、そもそも相続税を支払えないからです。
相続税法上、相続人は、相続発生(被相続人の死亡日)から10ヶ月以内に相続税の申告を行わなければなりませんが、
相続税の申告のためには、「どの財産をいくら相続したのか。」を確定させなければならないわけです。
そうでなければ、支払うべき相続税の金額が確定しないからです。
ここで、相続人が不動産を被相続人から相続したことを確定させる手段がまさに不動産登記(所有権移転登記)です。
したがって、相続人は、相続税の申告までに、不動産登記(所有権移転登記)を行っておかなければならないわけです。
所有権移転登記をしたということが相続をしたということです。
相続登記については、民法や不動産登記法などには規定はないと思うのですが、
相続税法の規定により、結果的に、相続人は「被相続人死亡後10ヶ月以内に」相続登記をしなければならないと定められているのです。
相続発生(被相続人の死亡日)から10ヶ月以内に相続税の申告を行わない場合は、
おそらく相続財産(さらには従来から保有している財産も)が税務当局から差し押さえられることになると思います。

 


それから、相続登記を行わなかった場合は相続に関する権利関係がもつれる一因になる、と記事には書かれています。
相続登記を行わなかった場合に発生する問題点として、記事には、

>年月がたつほど法定相続人の数が増え遺産分割協議が困難に

と書かれています。
記事では、親族間のもめ事について具体例を設け解説されています。
記事の「図」を参照しながらこの点について、一言だけ書きます。
結論を一言で言えば、相続発生後いくら時間が経過しても法定相続人の数が増えることはありません。
なぜなら、「1相続について法定相続人は1通りに確定する」からです。
記事の「図」で言えば、「父(6年前に他界)」が死亡したことにより、
「父(6年前に他界)」の財産を相続する権利が、「母」、「Aさん」、「弟」、「妹」の計4人発生したわけです。
「父(6年前に他界)」の死亡による法定相続人は、この4人で確定なのです。
この4人以外に、「父(6年前に他界)」の財産を相続する権利は生じないのです。
記事の設例では、「弟」が死亡したことを原因として、相続登記をしていなかったことを理由に、
「(弟の)妻」と「(弟の)子ども」にも新たに相続をする権利が発生する、と書かれていますが、これは間違いです。
「父(6年前に他界)」の財産を相続する権利は、「(弟の)妻」と「(弟の)子ども」には生じないのです。
「(弟の)妻」と「(弟の)子ども」に生じ得る権利とは、あくまで「弟」の財産だけなのです。
「(弟の)妻」と「(弟の)子ども」に「父(6年前に他界)」の財産を相続する権利は生じないのです。
他の言い方をすれば、「父(6年前に他界)」の死亡と「弟」の死亡とは法的には全く別なのです。
「(弟の)妻」と「(弟の)子ども」は、あくまで「弟」の財産のみの法定相続人です。
「(弟の)妻」と「(弟の)子ども」は、「父(6年前に他界)」の財産の法定相続人は絶対になり得ないのです。
したがって、「(弟の)妻」には「Aさん」に不動産の分け前を要求する法的権利は全くないのです。
記事には、

>法律上は彼女らの言い分は正しい。
>夫の死亡に伴い妻子は、Aさんの父の遺産を相続できる立場になったからだ。

とわざわざ書かれていますが、これはやはり間違いだと思います。
法律上は、「(弟の)妻」と「(弟の)子ども」は「父(6年前に他界)」の財産の法定相続人にはなれないのです。
法律上は、「弟」本人のみが「父(6年前に他界)」の財産の法定相続人になれるのです。

 


確かに、父の財産の相続手続きが完了する前に、複数いる法定相続人のうちの1人(弟など)が死亡するというケースは考えられます。
例えば、父が死んだショックで弟がすぐに後追い自殺をしてしまった、などというケースです。
父が死亡する前に弟が死亡する分には問題は生じませんが、
父が死亡した後に、相続手続きが完了する前に弟が死亡した場合は、
確かに相続に関して法理的には説明が付けられない状態(問題)が生じると思います。
このような場合、例えば死亡した弟の妻がいわゆる「代理」というような法的位置付けに立ち、
弟に代わりに父の財産の相続手続きをする、というような考え方が実務上果たしてあるのかどうか。
例えば、弟が死亡した場合は、弟は父から相続した財産の相続税を支払えないわけです。
その弟が支払うべき相続税を弟の妻が代理で支払う、という考え方があるのかどうか。
もしそのような考え方があるのだとすれば、弟の妻の立場からすれば、弟の妻は、
@弟が父から相続した財産についての相続税(既に死亡している弟の代理で支払う(弟の分))と
A弟から相続した財産についての相続税(本人(法定相続人)として相続税を支払う(本人の分))の
計2つの相続税を税務当局に納付することになるでしょう。
これは決して相続税の二重課税ということではなく、「法定相続人が異なる」ことから生じる相続税の2回の納付というだけです。
弟の妻が父から相続した財産についての相続税を支払うことはあり得ない
(弟の妻は父の財産を法的に相続できない、弟の妻はその相続の法定相続人にはなれない)からです。
簡単に言えば、この場合「相続が2回行われた」というふうに理解するとよいと思います。
この場合、父の財産に関しては、相続人死亡のまま被相続人から法定相続人に相続が行われた、ということになります。
相続人が死亡しても相続手続きは進められる、ということになると思います。
現実には、家庭裁判所や税務署からは、弟の妻は、
「では、奥さんは、死亡した夫の分の相続税(父から相続した財産についての相続税)と、
ご自身の相続税(死亡した夫から相続した財産についての相続税)の2つを税務署に納付して下さい。」
と言われるのではないかと思います。
少なくとも、弟の妻には、父の財産を直接に相続する権利は発生しないからです。
弟の妻が父の財産を相続するに際しては、
必ず二段階(たとえ死亡していても相続財産が弟をパススルーすることはできない、
弟の妻は法定相続人に成り代わることはできない)の手続きになります。
また、父より前に弟(夫)が死亡した場合は、その後父が死亡しても、弟の妻は父の財産の法定相続人にはなれないと思います。
父の財産の法定相続人には、弟本人にしかなれないからです。
夫が死亡した場合は、妻の方に法定相続権が発生する、という考え方はないと思います。
父の財産が目当てで弟と結婚した妻は、「1日でいいからお父さんより長生きしてね。」と夫(弟)に言わないといけないでしょう。
それから、記事には、不動産の相続登記が完了していない場合の不動産に関する対抗要件についても書かれています。
ただ、これは実務上はほとんど問題にはならないと思います。
なぜなら、現在の所有権者の同意がなければ、所有権移転登記は現実には行えないからです。
全くの第三者が突然相続不動産の所有権を主張する(または勝手に所有権移転登記をする)、ということは現実にはないと思います。
逆から言えば、相続だけが、現在の所有権者の同意が不要なまま、所有権移転登記を行うことができる唯一のケースなのです。
また、現行の取扱いについては分かりませんが、「登記済証」も被相続人から相続人へ相続されることになります。

 



次に、2016年10月28日(金)の記事についてです。
記事では、被相続人の死亡日から相続税の申告日までの間に株価が下落した場合に生じる問題点について書かれています。
この問題に対する対応策として、上場株式の相続税評価額を、現行の相続発生時の時価の100%から90%へ割り引くべきだと
金融庁は税制改正について提言をしている、と記事には書かれています。
ただ、この問題点の根本原因というのは、
ただ単に「相続発生から相続税の申告までの間に時間の経過がある」ことそのことなのです。
簡単に言えば、相続発生と同時に相続税の申告を行えば、この点については何らの問題も生じないわけです。
1つ目の記事の「相続手続きが完了する前に相続人が死亡するケース」に対する対応策と同様、
相続発生後は速やかに全ての相続手続きを完了させることが一番の対策だと思います。
親族間で遺産分割についてもめてしまうと、現実には相続手続き完了までに時間がかかる場合もあるかもしれませんが、
それでもやはり、家庭裁判所の協力も仰ぎつつ、やはり相続発生から1週間程度で、
どんなに遅くとも2週間以内に相続手続きを完了させるべきでしょう。
また、「相続発生から相続税の申告までの間に時間の経過があること」から生じる問題点とは別に、
相続財産の種類間の不均衡をなくすために、
土地や建物のように、相続税評価額を相続発生時の時価から一定割合割り引く、という点についてですが、
以前も書きましが、上場株式に関しては割引率は何パーセントがよいのかは私には分かりません。
敢えてこの点について線引きをするならば、
例えば、相続人が居住している土地と建物、そして被相続人の生活必需品関連については相続税は無税(評価額0円、0%)、
相続人が居住しているわけではない土地や建物と、生活(被相続人が今後も行っていたであろう扶養)とは関係がない財産全般
については、相続税の評価額は相続発生時の時価の100%、という考え方をする方が、
現代の相続の実態には即しているのではないかと思います。
現代の相続では、単なる寄附と贈与の側面と、被相続人がもし生きていたらその後も行っていたであろう扶養とが
本質的に混在しているわけです。
ですので、扶養の部分については無税、単なる寄附と贈与の部分については100%課税、という相続財産の切り分けをする方が、
現代の相続に合致すると思います。
現代の相続税法上、一定額については税控除がなされると思いますが、税控除されるその一定額が「扶養」に相当する部分、
という見方になるのだろうと思います。

 


また、関連する別の見方としては、現代の相続では、
相続人は被相続人から財産を相続する以前から、個人の財産として既に財産を持っている、という問題点があろうかと思います。
戦前の相続では、相続人は被相続人から財産を相続する以前は、文字通り1円も財産を持っていなかったのです。
現代の相続では、相続の結果、相続人の従来からの個人財産と被相続人からの相続財産とが混在することになるわけです。
つまり、現在の相続では、そもそも相続人は生前被相続人から扶養を受けていたわけではない、
という見方も一方ではあろうかと思います。
なぜなら、相続人は相続人で被相続人とは独立して既に財産を持っているからです。
この見方から言えば、現代の相続では、被相続人から相続人に対する扶養の部分(金額)は始めから0円、
という課税方法になるでしょう(現代の相続・家族制度では、相続人は被相続人と一緒に住んでいるわけではない)。
この点もまた、現代の相続を分かりづらくさせている(相続に法理的に完全な説明が付けられない)点なのだろうと思います。
最後に、2016年10月21日(金)の記事についてです。
被相続人と相続人が海外に居住している場合の相続税の課税についてです。
このような場合の相続税の課税方法については、法理的な結論を言えば、
「(国籍という意味も含めて)戸籍に基づいて相続を行う(そしてその相続に基づき課税する)」という一点かと思います。
被相続人と相続人が海外に居住しているなら海外に居住しているで、
国籍に基づき、その国の税務当局が税を課税すればよい、と整理できるのではないでしょうか。
では海外資産に関してはと言いますと、法理的には、人は海外(国籍がない国)には資産は持てない、
というのが法理上の答えであろうと思います。
実務上、納税義務者が海外資産を持っているとしたら、海外の税務当局と協力の上、
国内になる資産であると見なして課税する、といった取り扱いをするべきなのではないかと思います。
いずれにせよ、どの国が相続税を課するかは、被相続人と相続人の国籍で決まる、ということになると思います。
もちろん、そもそもの考え方として、「戸籍に基づいて相続を行う」という基本的考え方がありますので、
被相続人と相続人とで国籍が異なる場合は、法理的には財産の相続は行えない、という考え方になります。
被相続人と相続人とで国籍が異なる場合は、どの民法に基づき相続が行われ、どちらの国の相続税法が適用されることになるのか、
すら不明と言わねばならないでしょう。
繰り返しになりますが、一番基本となる考え方は、「戸籍に基づいて相続を行う」、これが結論なのです。
一旦「戸籍に基づかずに相続を行う」と考え出しますと、
それこそ国境すらまたいだどんな相続すら観念できることになると思います。

 



Unless an inheritor makes a register of his inheritance on real property,
he is not able to pay his inheritance tax to the authorities.

不動産に関して相続の登記を行わない限り、相続人は税務当局に相続税を支払うことができません。

 


As long as an inheritor pays his inheritance tax to the authorities as soon as an inheritee dies,
the risk of a potential drop in a price of his inheritance can totally be avoided.

被相続人が死亡すると同時に相続税を税務当局に支払いさえすれば、
相続人は相続財産の価格が下落するリスクを完全に避けることができます。

 


If inheritance is defined on the basis of a family register,
then the place where inheriters must pay their inheritance tax is determined naturally and uniquely.

相続が戸籍に基づき定義されるならば、相続人が相続税を支払う場所は自ずとそして一意に決まるのです。