2016年10月7日(金)



日本郵船、海運不況で特別損失1950億円 7〜9月


 日本郵船は7日、2016年7〜9月期の連結決算に1950億円の特別損失を計上すると発表した。
海運市況の低迷が長期化していることから、保有する船舶や今後取得予定の船舶の価値を精査、
将来の損失に備えて損失額を引き当てる。
海運業界では、韓国海運最大手の韓進海運が8月末に経営破綻するなど、経営悪化の動きが広がっている。

■財務体質悪化で格下げリスクも
 7〜9月期に計上する損失額の内訳は減損損失で約1600億円、契約損失引当金約350億円。
日本郵船は主力の海運事業で多くの船舶を保有しているが、コンテナ船部門で約1000億円、
ばら積み船のドライバルカー部門で約850億円の損失を計上する。
貨物航空機部門でも約100億円の損失が発生する。
 16年4〜9月期と17年3月通期の業績については現在、精査中としている。
 日本格付研究所(JCR)は7日、日本郵船を格下げ方向の「クレジット・モニター」に指定したと発表した。
現在の長期発行体格付けは「シングルAプラス」。
同社が16年7〜9月期に計上する特別損失額は16年4〜6月期末の自己資本の約3割に相当し、
自己資本の大幅な毀損を余儀なくされる見通しとなったことを理由にしている。
 中国など新興国経済の成長鈍化で海運市況は低迷が続く。
2000年代に入って海上輸送需要の拡大をにらんだ建造が相次ぎ、船舶の過剰感が強いためだ。
鉄鉱石や石炭を運ぶばら積み船のスポット運賃の水準を示すバルチック海運指数は今年2月に史上最低値をつけたほどだ。

■原油上昇、円高も逆風
 こうした市場環境を受け、日本郵船は7月29日に4〜9月期の最終損益を期初予想の50億円の黒字から265億円の赤字に下方修正。
商船三井も同期間の営業損益を期初予想から25億円下振れし、30億円の赤字に修正。
川崎汽船も営業損失を20億円の赤字から同180億円の赤字に引き下げている。
 バルチック海運指数は足元では回復基調にあるとはいえ、船舶の過剰供給という構造問題の解消にはなお時間がかかる。
10月以降は燃料コストの増加につながる原油価格の上昇、円高などが収益圧迫要因になる恐れがある。
 海運各社を取り巻く経営環境が大きく好転する兆しはなく、小手先の合理化では乗り切れない。
海運各社は保有船舶の削減などを含めた抜本的な収益改善策が求められそうだ。
(日本経済新聞 2016/10/7 15:38 (2016/10/7 16:47更新))
ttp://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ07HJJ_X01C16A0000000/

 


日本郵船、特損1950億円 市況悪化、赤字予想拡大へ

 海運大手の日本郵船は7日、2016年9月中間連結決算で、約1950億円の特別損失を計上する見込みになったと発表した。
中国経済の減速を背景に、市況の低迷が長期化していることが響いた。
17年3月期の純損益予想は赤字幅が拡大しそうだ。
 船舶などの価値を見直す減損損失が発生。取得予定の資産も今後見込まれる損失額を引き当てる。
 特別損失の内訳はコンテナ船で約1千億円、ばら積み船で約850億円に加え、
子会社が保有する貨物航空機3機の処分で約100億円の売却損が出る。
 日本郵船は7月末に17年3月期の業績予想を下方修正し、純損益で150億円の赤字見通しを発表した。
(共同通信 2016/10/7 17:43)
ttp://this.kiji.is/157045845273542665?c=39546741839462401

 


2016年10月7日
日本郵船株式会社
減損損失及び契約損失引当金等の計上に関するお知らせ
ttp://www.nyk.com/release/dbps_data/_material_/_files/000/000/004/450/161007.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)

 


【コメント】
日本郵船株式会社が将来に発生が見込まれる損失を当期に見越し計上する結果、当期は赤字となる見通しとなったようです。
当期に見越し計上する損失は、主に固定資産減損損失と契約損失引当金の2つとなっているのですが、
契約損失引当金という引当金は初めて聞きました。
果たして、契約損失引当金という引当金を計上することは、会計理論上正しいのだろうか、と思いました。
契約損失引当金というのは、記事の文言を借用すると、
”今後取得予定の船舶の価値を精査し、将来発生すると見込まれる損失に備えて損失額を引き当てること。”
であるようです。
プレスリリースの文言を借用すると、契約損失引当金とは、
”取得予定資産について将来発生が見込まれる損失に備えるために損失額を引き当てるもの。”
であるようです。
端的に言いますと、契約損失引当金という考え方はないように思います。
保守主義の原則に従い、将来発生が見込まれる損失に備えるために損失額を引き当てること自体は会計処理として正しいのですが、
「これから取得する資産から生じる損失」に関して引当金を計上することはできないと思います。
その理由についてはいくつかの説明が可能なのではないかと思うのですが、今私が思い付く理由を2つ書きます。
まず1つ目の理由は、やや表面的な説明になるかもしれませんが、
「会計上、引当金には負債性引当金か評価性引当金のどちらかしかないからである。」となります。
契約損失引当金は、負債性引当金にも該当しませんし評価性引当金にも該当しません。
まず、評価性引当金とは、そもそも「現在保有している資産」に関する評価です。
つまり、評価の対象となる資産が借方に計上されていなければ、評価性引当金は計上できないのです。
次に、契約損失引当金は、負債性引当金に該当するのではないかと思う人もいるかもしれませんが、それも間違いです。
特に負債性引当金は将来の「現金支出」(費用・損失)に備えて計上を行っていくものなのですが、
その「現金支出」はまだ法的義務(確定債務)ではない場合に、負債性引当金を計上していくわけです。
確かに、今後船舶を取得するために代金を支払うことは法的義務(確定債務)になっているわけですが、
同じ現金支出でも、「船舶の取得のための現金支出」と「将来発生が見込まれる現金支出」とは全く異なるでしょう。
船舶代金の支払いは、損失の発生とは全く異なるでしょう。
契約損失引当金は負債性引当金にも評価性引当金にも該当しないので、契約損失引当金という引当金はないと私は思います。

 



2つ目の理由は、理論上・法理上の理由になるのですが、「損失が発生すると分かっていながら資産を取得する人はいない。」
という商取引の観念から導き出される理由になります。
商取引では、人は収益を獲得しようと思って資産を取得するわけです。
商取引において、収益は獲得できないと思いながら資産を取得する人など誰もいないわけです。
それなのに、このたび日本郵船株式会社は、損失が発生すると分かっていながらこれから船舶を取得しようとしています。
そのような行為はそもそも商取引に反しますし、商取引に反することを会計帳簿に反映させるような会計処理というのは、
会計上用意されてはいない(別の言い方をすれば、観念すらできない)、と言わねばならないでしょう。
いわゆる複式簿記というのは、端的に言えば商業を前提にしているわけです。
商業というのは、すなわち商取引であり、利潤の追求でしょう。
複式簿記というのは、「収益を獲得することを前提とした会計記帳処理のルール」です。
収益を獲得することを前提とはしていない行為・取引というのは、複式簿記においては会計処理の行いようがないわけです。
このたびの日本郵船株式会社の事例に即して言えば、日本郵船株式会社ができる会計処理は、今後船舶の引渡しを受けた時、
船舶の取得と同時に船舶減損損失を計上することだけなのです。
収益を獲得しようと思って資産を取得したのだが残念ながら収益を獲得できる見込みがなくなった(回収可能性に疑義が生じた)、
という場合に行う会計処理が減損損失です。
収益を獲得する気はないが資産を取得するという行為・取引というのは、減損損失の対象範疇を完全に超えたものなのです。
もちろん、日本郵船株式会社は、収益を獲得しようと思い、造船会社に船舶の建造を依頼したのだと思います。
造船会社に船舶の建造を依頼した時点では(造船契約締結時点では)、
日本郵船株式会社は取得する船舶を稼動させていくことにより、収益を獲得する見込みを持っていたのだと思います。
ところが、造船契約締結後、海運市況が悪化し、船舶の引渡しを受ける前にその船舶から収益を獲得できる見込みが少なくなった、
という状況に現在日本郵船株式会社はあるのだと思います。
それで、その船舶に関する損失を保守主義の原則の観点から、早期に計上しようとしているのはもちろん分かります。
しかし、その経営判断・思惑・意向を会計処理に落とし込む術は複式簿記にはないのです。
複式簿記からは、「損失が発生すると分かっていながら資産を取得しようとしている。」というふうにしか見えないからです。
これから引渡しを受ける資産を取得しても収益は獲得できない見通しを持っているのならば、その資産は取得するな、
これが商取引の考え方であり、複式簿記の前提としている考え方です。
人は、収益を獲得できないと分かっているならば、その資産を取得しないはずなのです。
これから引渡しを受ける資産を取得しても収益は獲得できない見通しを持っているにも関わらず、
その資産を取得しようとしている日本郵船株式会社に無理があるのです。
「収益は獲得できない見込みの資産を取得する場合の会計処理方法」は、古今東西どの会計の教科書にも載ってはいないでしょう。
実務上、造船の特性から造船契約は途中で解約できないのはもちろん分かりますが、ここでは理論上の話のみをしました。

 

A reserve on the corporate accounting is only either a liability reserve or a valuation reserve.

企業会計上の引当金には、負債性引当金か評価性引当金かのどちらかしかありません。