2016年9月30日(金)



2016年9月30日(金)日本経済新聞
NEC、1300億円借り換え 劣後ローンで
(記事)




2016年9月29日
日本電気株式会社
新規ハイブリッドファイナンス(劣後特約付ローン)による資金調達
及び既存ハイブリッドファイナンス(劣後特約付ローン)の期限前弁済に関するお知らせ
ttp://jpn.nec.com/press/201609/20160929_01.html


2013年4月26日
日本電気株式会社
ハイブリッドファイナンス(劣後特約付ローン)による資金調達のお知らせ
ttp://jpn.nec.com/press/201304/20130426_05.html

 



【コメント】
日本電気株式会社が劣後ローンを借り替える、とのことですが、この点について記事には、

>マイナス金利政策で低金利で資金調達しやすくなっており、借り換えで利払いを減らす。

と書かれています。
記事だけを読んでも借り換えの内容が良く分からないのですが、プレスリリースを読みますと、
既存劣後ローンの期限前弁済と新規劣後ローンによる資金調達を行う、とのことです。
ただ、記事には”借り換え”と書かれていますが、
「劣後ローンへの参画投資家(貸付人)」は、既存の劣後ローンも新規の劣後ローンも全く同じですし、
「劣後ローンの条件」も、既存の劣後ローンと新規の劣後ローンとで全く同じです。
劣後ローンの総額(元本金額)は既存と新規で同じであり、借入期間も既存と新規とで同じ「60年間」となっています。
ですので、このたび日本電気株式会社が行う取引というのは、
”借り換え”でもなければ”既存債務の期限前弁済と新規債務による資金調達の同時実行”でもなく、
ただの「借入条件の変更」であるように思えます。
一言で言えば、弁済期日を当初の2073年6月末日から2076年10月5日へ変更した、というだけであるように思います。
ただ、記事には、マイナス金利政策で低金利で資金調達しやすくなっていることが”借り換え”の背景にあると書かれています。
プレスリリースには、金利が極めて低くなっていることがこのたびの取引の理由であるとは書かれていませんし、
さらに言えば、プレスリリースには利率に関しては一切記載がありません。
既存劣後ローンに比べ、新規劣後ローンは利率が低くなっている、とも書かれていません。
この辺り、記事の内容とプレスリリースの記載内容とは一部整合性がない部分があると思います。
プレスリリースを読む限りは、行われる取引というのは、”借り換え”や”期限前弁済と新たな資金調達”などではなく、
ただの借入条件の変更であるように思います。

 



このたびの日本電気株式会社の事例については以上ですが、マクロ的な視点に立ってより一般的な話をしましょう。
マイナス金利政策だなどと言われている昨今、マクロな視点から見るといわゆる借入金利が極限まで低下傾向にあるのだと思います。
それで、このたびの記事に”借り換え”とありますので、極々一般的な通常の借入金の借り換えについて考えてみましょう。
通常、「借り換え」という時には、貸付人(銀行)が変更になるわけです。
貸付人(銀行)が変更にならない場合は、「借り換え」とは呼ばず、「借入条件の変更」と呼ぶべきなだと思います。
そうしますと、仮に借入期間の途中で既存借入金の「借り換え」を行うためには、当然、既存貸付人の同意が必要であるわけです。
しかし、金利が低下傾向にある状況下では、既存貸付人は期限前弁済には同意したいとは思わないでしょう。
なぜなら、既存貸付人は、既存貸付金の期限前弁済に応じた後は、新たな貸出先を探し新たに資金を貸し付けていくことになる
わけですが、その時の貸出金利は、マクロ的な金利が低下傾向にある結果、既存貸付金の利率よりも低くなってしまうからです。
他の言い方をすれば、既存貸付金の期限前弁済を行った分、たとえその後新規に貸し出しを行おうとも、
受取利息は少なくなってしまうからです。
端的に言えば、既存貸付金を貸し付けた時の貸出利息は例えば3%であったのが、マイナス金利政策の結果、
新規貸付金を貸し付ける時の貸出利息は例えば0.1%になる、ということになってしまうわけです
マクロ的な金利が下がる(もしくは金利を下げる)とは、マクロ的な視点から言えば、
低い金利でも貸し付ける人が増える、ということです。
既存貸付人の立場からすると、高い利率で貸し出しておけるのであれば。やはり高い利率で貸し出しを続けたいと考えるわけです。
既存貸付金の期限前弁済に応じるということは、みすみす相対的に高い利率の貸付を自分から逃す、という意味です。
一般に、金利が下がると負債による資金調達をしやすくなると言いますが、それは新規に借り入れる場合です。
金利が下がれば下がるほど、貸付人は高い利率を得にくくなります。
金利が下がると借り入れに有利だということは、それは裏を返せば、
金利が下がると貸し付けに不利だということなのです。

 


If an interest rate is advantageous to a borrower, the interest rate is disadvantegeous to a lender.

ある利率が借り手にとって有利なものであるのなら、その利率は貸し手にとって不利なのです。