2016年8月30日(火)
>インベブとSABはそれぞれ9月28日に株主総会を開き、株主に買収の承認を求める。
>SABの株主総会は合計で約4割の株を持つ1位、2位株主と、その他の株主を分けて行う。
>筆頭株主の米たばこ大手アルトリア・グループなどは他の株主とはTOB(株式公開買い付け)の条件が異なるため、
>英国の裁判所が別々に承認を得る必要があると判断した。
と書かれています。
まず最初に整理しておきたいのは、記事で”株主総会を2回に分けて計2回承認決議を取る”と言っているのは、
買収する側のベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブではなく、買収される側の英国のSABミラーの側の話である、
という点です。
アンハイザー・ブッシュ・インベブがSABミラー株式を取得することを、株式所有者であるSABミラー株主が承認する、
ということに関して、SABミラーは取得条件毎に株主総会を計2回開催することを裁判所から求められている、ということのようです。
また、株式を取得する側のアンハイザー・ブッシュ・インベブは、全株主を対象とした株主総会を1回開催すればよいようです。
そうしますと、ここでの議論では、「SABミラーの株主総会」が論点になっている、ということかと思いますので、
結局のところ、英国の会社法に基づいた株主総会ということに詳しくないと、事の本質は理解できないのだろうと思います。
買収する側の準拠法であるベルギーの会社法は、「SABミラーの株主総会」(の要件等)には全く関係がない、ということになります。
他の言い方をすると、「SABミラーの株主総会」の法的有効性などは、英国の会社法のみで判断されることになるわけです。
なぜこの点が気になっているのかと言えば、買収する側である「インベブの株主総会」と買収される側である「SABミラーの株主総会」
とは、同一の法律に基づいて行われなければならないのではないか、と思ったからです。
「インベブの株主総会」のベルギーの会社に基づき承認決議が取られ、
「SABミラーの株主総会」は英国の会社に基づき承認決議が取られる、という状態では、
「何についての承認決議か?」が不明であるように思うわけです。
このたびの買収では、株式公開買い付けという手続きが用いられると書かれています。
英国の会社であるSABミラーの株式(株式発行の根拠法は英国の会社法)を株式公開買い付けにより取得するわけですから、
株式取得に際しては「英国の株式公開買い付け」(英国の法律に基づいた株式公開買い付け)が実施されることになるわけです。
ただ、英国の会社法には私は詳しくはないのですが、私が思うに、記事には”株式公開買い付け”とは書かれていますが、
「英国の株式公開買い付け」は、日本の株式公開買付とは著しく異なるものではないだろうか、と思います。
株式公開買い付けに関する法律の構造自体が、日本と英国とでは大きく異なっているのではないかと思います。
少なくとも日本では、公開買付を実施するに当たり、株主総会決議や裁判所の関与は一切必要ないわけです。
私の理解が正しいならば、「英国の株式公開買い付け」というのは、株主総会決議が必要なところから察するに、日本で言えば、
日本の会社法に規定される現金を対価とした「株式交換」に近いものではないだろうか、と思います。
以上の私の考えが正しいとしますと、アンハイザー・ブッシュ・インベブは、
英国の会社法に基づいて”株式公開買い付け”の承認決議を取らなければならない、ということになるわけです。
しかし、アンハイザー・ブッシュ・インベブはベルギーの会社です。
アンハイザー・ブッシュ・インベブは英国の会社法に基づきようがないかと思います。
この点、日本の公開買付ですと、少なくとも公開買付者が日本の会社法に基づき株主総会決議を取る、
という場面は一切ないわけです。
日本で公開買付を実施する場合、公開買付者は日本の金融商品取引法に基づき公開買付手続きを実施する必要はありますが、
すなわち、公開買付者に日本の金融商品取引法は当然に適用されますが、
英国の株式公開買い付けとは異なり、公開買付者に日本の会社法は全く適用されないわけです。
これは、公開買付者が自然人である場面を想定してみれば分かると思います。
公開買付者が自然人の場合、公開買付者には会社法は適用されません。
一方で、日本の会社法に規定される株式交換に基づき全株式を取得する当事者が自然人の場合を想定してみて下さい。
言わば”完全親会社”が自然人という状況です。
そのような組織再編行為(株式交換)は、日本の会社法上実施できないわけです。
すなわち、日本の会社法上、株式交換の完全親会社には株式会社しかなれないわけです。
別の言い方をすれば、株式交換という場面では、自然人に日本の会社法は適用されない、ということになるわけです。
対価が現金であるならば、自然人が株式交換を実施して完全子会社の株式の全てを取得する、
ということは理屈では十分可能な(会社法に規定される「株式売渡請求」と同じイメージの取引となる)はずです。
しかし、日本の会社法の規定では、それはできない定めとなっています。
自然人にできるのは、公開買付制度を用いて、対象会社株式を取得することだけであるわけです。
しかし、その際、日本の会社法はその自然人(公開買付者)には適用されません。
要するに、株式を取得するに際し、取得者にその国の会社法が適用されるのか否かは、法手続き上極めて大きいと思うわけです。
日本において、「会社法に基づき、自然人である私甲は現金を対価とする株式交換を実施し、株式会社乙の株式の全てを
取得いたします。株式交換実施のため正式な意思決定は私甲が間違いなく行いました。」などと自然人甲さんが主張しても、
日本の会社法には全くそのような規定がない以上、甲さんの意思決定など何の意味もないわけです。
それと同様に、ベルギーにおいて、「会社法に基づき、英国の公開買い付けにより英国のSABミラーの株式の全てを取得いたします。
株式公開買い付け実施のため正式な意思決定はベルギーの会社法に基づき間違いなく行いました。」などと
アンハイザー・ブッシュ・インベブが主張しても、英国の会社法には全くそのような規定がない以上、
ベルギーの会社法に基づいたアンハイザー・ブッシュ・インベブの株主総会承認決議など、何の意味もないわけです。
端的に言えば、アンハイザー・ブッシュ・インベブは、英国の会社法に基づき、株主総会承認決議を取らなければならないと思います。
英国の会社法には、「他国の会社法に基づいた株主総会承認決議でも有効である。」とは書かれていないと思います。
日本の公開買付は、「株主は応募し公開買付者は株式を買い付ける」というだけの言わば単純な取引(相対取引の一種)であるため、
海外の自然人・会社であっても、比較的簡単に公開買付を実施することができる、ということが言えると思います。
The terms of acquisition of shares should be universal to all
shareholders.
株式取得の条件は、全ての株主にとって同じでなければなりません。