2016年8月17日(水)
>中国と香港の証券監督当局は、深センと香港の証券取引所の間で株式の売買注文を取り次ぐ相互取引を12月にも解禁する。
>香港取引所の発表によると、新制度は上海・香港間の相互取引の大枠を引き継ぐ。
>対象銘柄は深セン上場の最大880銘柄(創業板を含む)、香港上場の最大417銘柄。
また、スキャンした記事には、「株式相互取引のイメージ」という図も描かれています。
記事を読む限り、深センと香港の証券取引所の間で株式の相互取引が認められるようになりますと、
例えば、中国在住の投資家が、中国にいたまま、深センの証券取引所を通じて、
香港の証券取引所に上場している株式を取引できるようになる、というようなことなのだろうと思います。
相互取引に当たり、深センと香港の証券取引所は、売買注文のやり取りのためのシステムの接続を行う、
ということなのだと思います。
記事を読む限り、何の不思議もない、資本自由化に向けた改革の一環ということなのだろうと思えます。
しかし、「証券取引所間の相互取引」というのは、話がおかしいように思います。
論点を明確にするために、日本国内での話をします(事の本質はこのたびの事例にもそのまま当てはまります)。
証券取引所というのは、その証券取引所に上場している株式を取引するための場所であるわけです。
そして、証券取引所で株式を売買するための窓口となっているのがいわゆる証券会社であるわけです。
現在、日本国内の全ての証券会社において、日本国内の全ての証券取引所に上場している株式を売買することができます。
例えば、福岡在住の投資家は、福岡の地場証券会社を通じて、東京証券取引所に上場している株式を売買できますし、
もちろん福岡証券取引所に上場している株式を売買できます。
また逆に、東京の在住の投資家は、東京の大手証券会社を通じて、福岡証券取引所に上場している株式を売買できますし、
もちろん東京証券取引所に上場している株式を売買できます。
簡単に言えば、福岡の地場証券会社は、地元福岡の証券取引所に上場している株式しか取り扱っていない、
などということはないわけです。
「弊社では、東京証券取引所の株式は買えません。」などと言う証券会社はどんな田舎に行っても1社もないわけです。
福岡の地場証券会社は、地元福岡の証券取引所に上場している株式も東京証券取引所に上場している株式も取り扱っているわけです。
しかし、だからと言って、福岡証券取引所と東京証券取引所とはシステムで接続されている、というわけでは決してないわけです。
福岡証券取引所と東京証券取引所とはシステムで全く接続されていないのですが、
福岡の地場証券会社が、福岡証券取引所への窓口と東京証券取引所への窓口の2つ窓口を提供しているからこそ、
投資家は、福岡の地場証券会社を通じて、
地元福岡の証券取引所に上場している株式も東京証券取引所に上場している株式もどちらも売買することができるわけです。
つまり、証券取引所そのものはそれぞれ独立しているわけですが、
証券会社がそれぞれの証券取引所への窓口になっているので、1つの証券会社で複数の証券取引所へアクセスできる、
ということになっているわけです。
以上の議論を踏まえますと、証券取引所間の相互取引・相互接続というのは、話がおかしいな、と記事を読んで思ったわけです。
証券取引所そのもののは、従来通りそれぞれ独立していて構わないわけです。
地理的な意味で投資家層を拡大したい場合は、証券会社と証券取引所を新たにシステムで接続しなければならないわけです。
例えば、従来は、福岡の地場証券会社は、地元福岡の証券取引所にしかシステムが接続されていなかったのだが、
東京証券取引所に上場している株式も取り扱えるようにするため、
新たに東京証券取引所にもシステムを接続する、といったことをしていかねばならないわけです。
つまり、地理的な意味で投資家層を拡大したい場合は、証券会社と証券取引所の接続数を増加させるべきであって、
証券取引所と証券取引所とを新たにシステムで接続するというのは、
株式売買の注文の流れを鑑みると、話がおかしいと思うわけです。
福岡の投資家の立場からすると、地場福岡の証券会社は東京証券取引所への窓口になってくれさえすればそれで事足りるわけです。
東京証券取引所に上場している株式を売買するという時、
買い手も証券会社を通じて東京証券取引所に注文を出す投資家ですし、
売り手も証券会社を通じて東京証券取引所に注文を出す投資家であるわけです。
つまり、ある株式の売買は、あくまで「ある1つの証券取引所内で完結する取引」であるわけです。
証券取引所をまたいだ株式の売買・受発注・決済というのは、1つとしてないわけです。
当然のことですが、株式の売買は銘柄単位であるわけですが、
買い手はある銘柄を買いたいと思い、売り手もその同じ銘柄を売りたいと思うわけです。
そして、その銘柄は、ある1つの証券取引所に上場しているわけです。
どこをどのように考えても、証券取引所同士が接続されていなければならない理由はどこにもないわけです。
日本国内で言えば、例えば福岡証券取引所と東京証券取引所とがシステムで接続されることには意味はないわけです。
敢えてこの点について言うならば、複数の証券取引所に同一銘柄が上場するといういわゆる「重複上場」が行われていますと、
証券取引所間の株価の整合性を図るため、証券取引所間でシステムによる株価調整が実務上必要になると思います。
ただ、地理的な意味で投資家層を拡大させたいというだけであるならば、
証券取引所間がシステムで接続される理由は全くないわけです。
このたびの記事の見出しのみを読んだ時は、香港証券取引所と深セン証券取引所に上場している銘柄全てを、
両証券取引所で互いに上場させ、全銘柄を両証券取引所で重複上場させる、という状態を作り出す、
ということなのだろうかと私は思いました。
全銘柄を両証券取引所で重複上場させることが、証券取引所間の相互取引の状態ということなのだろうか、と私は最初思いました。
記事には、”深センと香港の証券取引所の間で株式の売買注文を取り次ぐ”と書かれていますので、
”株式の売買注文を取り次ぐ”ということは、相手方の証券取引所にも該当する銘柄が上場していないといけないなと思ったのです。
もしくは、重複上場でないならば、両証券取引所が完全に統合されて1つの証券取引所になる、というのなら、
それはそれで、従来相手方に上場していた銘柄をお互いに売買できる状態にはなるな、と思いました。
しかし、記事を読みますと、独立した2つの証券取引所がシステムで接続されるだけであるように読めますので、、
それならばやはり、記事が意味しているのは、
「証券会社と証券取引所が国境を越えて新たにシステムで接続される」ということではないかと思いました。
それから、先ほど「重複上場」について書きましたが、今日の議論を踏まえてみますと、
「重複上場」というのは証券取引の観点からは認められない状態なのかもしれないな、と思いました。
その理由は、ある銘柄XがA証券取引所とB証券取引所に重複上場しているとして、
「A証券取引所における銘柄Xに対する買い注文と売り注文の状態」と、
「B証券取引所における銘柄Xに対する買い注文と売り注文の状態」とは異なるからです。
一見すると、A証券取引所における銘柄Xの株価が100円ならば、
B証券取引所においても銘柄Xの株価を機械的に100円にすれば、それで済むのではないか、と思われるかもしれません。
しかし、株価というのは、「前回(直近)の取引価格」です。
A証券取引所では銘柄Xが100円で取引が成立したかもしれませんが、B証券取引所では銘柄Xの取引は行われていないわけです。
すなわち、B証券取引所においても銘柄Xの株価を機械的に100円にするということ自体ができないわけです。
結局、取引価格(株価)というのは、「どの価格で買い注文と売り注文が拮抗しているか」で決まるわけです。
A証券取引所とB証券取引所とでは、買い注文と売り注文が拮抗している価格が異なるわけです。
他の言い方をすると、A証券取引所とB証券取引所とでは、「買い注文と売り注文の状態」が異なるわけです。
別の視点から言えば、A証券取引所における市場参加者とB証券取引所における市場参加者とは異なるわけです。
銘柄Xに対し、A証券取引所で買い注文を出す投資家は、B証券取引所でも同じ買い注文を出す、というわけでは決してないわけです。
むしろ、その投資家は、A証券取引所で買い注文を出しているからこそ、B証券取引所では買い注文は出さないでしょう。
理屈を言えば、重複上場している同一銘柄に関しては、コンピュータ上で、
A証券取引所とB証券取引所とで「買い注文と売り注文の状態」を同じにする、ということはできるのかもしれません。
しかし、それはもはや「投資家同士の株式の売買」ではないでしょう。
証券取引所(株式市場)というのは、「投資家同士の株式の売買の場」であるはずです。
もしくは、投資家がA証券取引所で注文を出すと、自動的・機械的にB証券取引所でも全く同じ注文が出される、
というふうにシステムを構築することもできるのかもしれませんが、注文や売買が場をまたぐというのは何が違う気がします。
やはり、重複上場自体を認めない(上場は証券取引所単位、注文・売買は証券取引所単位)、というのが、
証券取引のあり方としては一番明快だと思います。
A role of the stock exchange is different from that of securities
companies.
証券取引所の役割と証券会社の役割は異なります。