2016年7月3日(日)
【コメント】
「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」と呼ばれる財務指標に関する記事になります。
「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」では、債権と債務に加え、棚卸資産が指標の一部を構成します。
”在庫は罪子”という格言もあるように、財務上は棚卸資産は現金の固まり、すなわち、現金が化けたものであるわけです。
会計的には、保守主義の原則の観点からは、棚卸資産は費用計上の先送りを行った結果に過ぎない、という見方もできます。
棚卸資産をいかに販売し現金化していくか、が経営上は重要であるわけです。
それで、債権と債務と棚卸資産の総合的な財務指標として、「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」があるわけです。
端的に言えば、債権の回収と棚卸資産の販売はできる限り早く行い、債務の弁済はできる限り遅く行う、
ということが、資金繰りを改善するためには大切なことであるわけです。
それで、最近のコメントで、債権は現金と同じである、と書きましたし、さらに、債務は現金と同じである、と書きました。
この観点から言えば、債権が発生することは現金を受け取ることと同じであり、
債務が発生することは現金を支払うことと同じであるわけです。
ただ、本来的に、債権が発生するタイミングと現金を受け取るタイミングには当然ズレがあり、
債務が発生するタイミングと現金を支払うタイミングにも当然ズレがあるわけです。
そのそれぞれの時間的なズレが、実務上は、資金繰りという形で表に現れてくるわけです。
本来的には、債権が発生することは現金を受け取ることと同じであるわけですから、
債権をいつ回収しようが「受け取る現金額」に違いは生じませんし、また、
債務が発生することは現金を支払うことと同じであるわけですから、債務をいつ弁済しようが「支払う現金額」に違いは生じません。
すなわち、会社のトータルの増加現金額は、本来的に、債権の金額と債務の金額のみから決まるのです。
いつ債権を回収するか、そして、いつ債務を弁済するかでは、会社のトータルの増加現金額は決まらない(それらは無関係)のです。
その意味では、「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」をいくら短縮しても、現金収入は1円も増えないのです。
記事には、「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」が短いほど現金創出力が高いと書かれていますが、
それは完全に間違った解釈です。
現金創出力は、棚卸資産をいかに安く仕入れいかに高く売るかのみで決まります。
債権を回収するまでの期間と債務を弁済するまで期間は、現金創出力(現金収入額)とは全く関係がないのです。
債権は現金であり債務は現金だからこそ、それらは現金創出力(現金収入額)とは全く関係がないわけです。
以上のようなことを考えますと、債権と棚卸資産と債務に関する短期の資金繰りに関する財務指標を考えるならば、
結局のところ、「債権+棚卸資産−債務」という計算式になるのではないかと思います。
単位はもちろん、日数ではなく「円」になりますが。
「債権+棚卸資産−債務」は、小さければ小さいほど資金繰りに有利であるわけです。
棚卸資産回転日数の分母に売上高ではなく売上原価を用いる(「棚卸資産÷売上原価×365日」)という考え方もありますが、
金額面の相関性という面ではそちらの方が優れているものの、結局、分母が異なると足し算引き算はできないかと思います。
債務の場合はさらに話は複雑でしょう。
仕入債務回転日数の分母には、売上高を用いても売上原価を用いても、分母と分子の整合性はないと思います。
仕入債務の金額と売上高とは何の関係もありませんし、仕入債務の金額と売上原価とも何の関係もありません。
仕入債務の金額と売上原価とは関係があるのではないかと思われるかもしれませんが、
仕入債務の弁済(弁済期日)とは無関係に売上原価は計上されます(販売実現時)し、
売上原価の計上(販売実現時)とは無関係に期日に仕入債務は弁済されます。
また、仕入債務の発生と売上原価の計上もまた、全く関係ありません。
ですので、金額面は関係がありますが、仕入債務と売上原価とは何の関係もないのです。
売上債権の場合は、売上債権の発生は売上高の計上とまさに同時です(金額も当然同じ)。
ですので、売上高の計上から売上債権の回収まで、どのくらいズレているのかを、売上債権回転日数で見ることができるわけです。
そういったことを考えますと、分母と分子の整合性を鑑みますと、短期の資金繰りを判断する財務指標については、
「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」ではなく、「債権+棚卸資産−債務」で見るべきなのだと思います。
さらに細かいことを言えば、債権と債務は現金と同じだと書きましたし、棚卸資産は現金が化けたものだと書きましたが、
債権・債務と棚卸資産には決定的な違いがあります。
それは、債権と債務は「これから現金になる」のに対し、棚卸資産は「現金支出としては既に終わっている」という違いです。
債権と債務は、「現金収入として既に終わっている」わけでもなければ「現金支出として既に終わっている」わけでもありません。
では、棚卸資産は今後、どれくらいの現金になるのかと言えば、それは事前には全く分からないわけです。
それは棚卸資産の販売実現時にならないと分からないことです。
債権・債務と棚卸資産とでは、現金の側面という意味での価額の確定度合いが根本的に異なる、という点には注意が必要です。
You may feel that payables are less cashlike than receivables in
practice,
but payables are quite as cashlike as receivables in theory,
actually.
実務上は、債務は債権に比べ現金という側面は強くないのではないかと思うかもしれません。
ところが実際には、理論上は、債務は債権と全く同じくらい現金の側面があるのです。
A book value of receivables and a book value of payables both represent
the amount of cash to be,
whereas a book value of inventories represent the
amount of cash which has already been expended.
A book value of inventories
doesn't represent the amount of cash to be at all.
In other words, a book
value of inventories is a result of what you call the "historical cost
accounting."
Neither a book value of receivables nor a book value of payables
are a result of the "historical cost accounting."
They merely represent a
result of accrual of vested receivables and
a result of incurrence of vested
payables respectively,
債権の帳簿価額も債務の帳簿価額も、どちらもこれから現金になる金額を表していますが、
棚卸資産の帳簿価額は、既に支出が終わった現金額を表しています。
棚卸資産の帳簿価額は、これから現金になる金額を表しているわけでは全くないのです。
他の言い方をすれば、棚卸資産の帳簿価額は、いわゆる「取得原価主義会計」の結果です。
債権の帳簿価額も債務の帳簿価額も、どちらも「取得原価主義会計」の結果ではありません。
それらは、確定債権の発生の結果と確定債務の発生の結果をそれそれ表しているに過ぎないのです。