2016年7月1日(金)
2016年7月1日(金)日本経済新聞
税逃れ 日本並みに課税 税率基準廃止 配当や知財収入に 財務省検討
(記事)
2016年6月30日(木)日本経済新聞
税逃れ防止 80ヵ国・地域で OECD、きょう京都で会合 多国籍企業、課税の網
(記事)
【コメント】
各国における税率の違いを利用し、本当は日本で稼得した所得なのだが、低税率国で稼得した所得であるかのように装う、という、
多国籍企業による節税策を防ぐため、財務省が国際的な課税体制を整えようとしている、という内容になります。
記事を読みますと、他国で生じた所得に課税する仕組みを検討している、という旨書かれていますが、その中で、記事には、
>現地会社の経済活動によって生まれている所得は課税対象から外す
と書かれています。
記事に記載のあるこの国際的課税体制を実現するためには、記事の文言を借りれば、”所得の種類を選別する”必要があるわけです。
しかし、その考え方は、”国際課税版法人格否認の法理”とでも呼ぶべき無理のある考え方であろうと思います。
要するところ、日本の法人が稼得した所得は全て日本での所得というだけであり、
タックスヘイブン国の法人が稼得した所得は全てタックスヘイブン国での所得というだけであるわけです。
タックスヘイブン国の法人が稼得した所得うち、一部はタックスヘイブン国での所得であり一部は日本での所得である、
などという考え方は根本的ないのです。
率直に言えば、法人が所得に線を引いているわけです。
「どこでの所得なのか?」を明確するのが、まさに法人格であるわけです。
タックスヘイブン国の法人が稼得した所得を国別に分ける、などという考え方は根本的ないのです。
これは国際課税だけではなく、国内の課税に関してもそのまま言えることです。
いやむしろ、国内の課税に関して考えることが、理解のヒントになるでしょう。
ある日本法人A社が稼得した所得を、一部は日本法人A社が稼得した所得であり一部は別の日本法人B社が稼得した所得である、
というふうに、所得を法人別に分ける、などということができるでしょうか。
できようはずがありません。
むしろ話は正反対であり、所得と事業体を1対1に明確に結び付けるために、法人を設立するわけです。
自然人甲さんが、個人事業主として稼得した所得と、株式を所有している株式会社(法人)が稼得した所得とは全く別の所得です。
両者は、稼得の主体として別、納税主体として別なのです。
そのことは、まさに法人格によって明確に分離・分別されることなのではないでしょうか。
それなのに、株式を所有している株式会社(法人)が稼得した所得も、自然人甲さんが個人事業主として稼得した所得である、
と見なされる、となりますと、もはやそれは法人も法人格もない(法人の存在意義そのものを根本的に否認している)でしょう。
この「所得の移転」には、法人と法人のパターンも考えられます。
すなわち、日本法人A社が稼得した所得には、別の日本法人B社が稼得した所得も含まれると見なす
(日本法人B社が稼得した所得も日本法人A社が稼得した所得であると見なす)、と考えても、
法人の存在意義そのものを根本的に否認していることになると分かるでしょう。
人が稼得した所得は、他の人に分けることもできませんし、他の人と合算することもできないのです。
率直に言えば、「所得の移転」という考え方そのものがはじめからないのです。
ですので、法人という事業の器・法的な括りにより、所得の帰属主体は一意に決まる、と考えなければならないわけです。
以上の国内法人における考え方が理解できれば、国際的な場面でも考え方は全く同じだ、と分かるでしょう。
日本国の法人とタックスヘイブン国の法人は、別の法人です。
法人間を所得が移転するということはあり得ないことであるわけですから、
日本での所得がタックスヘイブン国に移転する(低い税率が適用されるようになる)などということもないわけです。
仮に、人の日本での所得を減少させるということを行うすれば、それは国際的な租税回避やグローバルな節税策などではなく、
ただの脱税(日本国における法人税法違反もしくは所得税法違反)です。
国内で所得を稼得した人が海外送金をして、国内で稼いだ所得(現金)を海外の口座に隠す、などという場合であれば、
各国の税務当局が連携して海外の口座を差し押さえる、というような国際的な徴税体制を整えていくことは大切だとは思いますが、
1つの法理として、(国内であろうとも)「所得を移転させる」という概念自体がない、というふうに理解しなければなりません。
A juridical person founded in a tax heaven is able to earn incomes only inside the tax heaven.
タックスヘイブンに設立された法人は、そのタックスヘイブン内でしか所得を稼得できません。
Even though a company is multinational, a payment of taxes is made inside each nation.
たとえ企業が多国籍化しようとも、納税は各国内で行います。