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2016年6月16日(木)



2016年6月16日(木)日本経済新聞
伸び悩む「解散価値」 PBRでも測れぬ底値
(記事)



 

【コメント】
記事の内容を簡単に要約しますと、多くの投資家は、
株価を1株当たりの純資産額で割り算した「PBR」(Price Book-value Ratio、株価純資産倍率)を投資の判断基準にしている、
となろうかと思います。
多くの投資家は、「PBR=1倍」を下値のメドにしている、と書かれています。
PBRが1倍未満の状態では、理論上、会社を買収して解散したほうが株主の得なる(株価が解散価値未満だ)、と書かれています。
しかし、記事の内容は2つの点で間違っています。
まず単純に、投資家の立場に立って株式投資の観点から言いますと、記事に記載のある投資方針は理論的には正反対かと思います。
すなわち、理論的には、記事の内容とは正反対に、投資家は「PBRが1倍未満の銘柄を買う。」という投資行動を取るのです。
なぜなら、「PBRが1倍未満」ということは、その銘柄はまさに割安銘柄であることを意味するからです。
わざわざ割高銘柄を狙って株価が高い時にその銘柄を積極的に買う投資家は、理論的にはいない、と言えるでしょう。
理論上は、「PBR=1倍」という株価水準は、下値のメドではなく上値のメドなのです。
記事中にもチャート図が載っていますように、確かに、株式投資論としては、
「PBRは1倍までしか下がらない。」というようなことが言われたりしますが、
それは逆から言えば、理論的には「PBRが1倍未満の銘柄はまさに割安の状態にある。」ということを意味しているのです。
確かに、企業倒産の推測があるからその企業の株価は下がっているということも現実にはあり得ます。
しかし、この文脈における議論の理論的前提として、「PBR=1倍」が解散価値を表す、という理論的前提があるわけです。
すなわち、理論的には、「PBRが1倍未満の銘柄」を投資家が買って損をすることは絶対にないわけです。
イギリスがEUから離脱しようが金利がマイナスになろうが、企業の解散価値には無関係です。
したがって、理論的には、株式市場に「PBRが1倍未満の銘柄」があれば、投資家は即必ず買うべきだ、という結論になるのです。

 


2つ目ですが、上記の議論の理論的前提を否定してしまうことになりますが、
「PBR=1倍」が解散価値を表す、という理論的前提が、会計面・法律面から言えば実は間違っているのです。
記事にも書かれていますが、「PBR=1倍」とは、結局のところ、「株価=1株当たりの純資産額」という意味です。
そして、純資産というのは、株主の持ち分を表しているわけです。
「PBRが1倍未満」の状態では、株主の持ち分である純資産を純資産の価額未満で買うことができる、ということになります。
それで、PBRが1倍未満の状態では、理論上、会社を買収して解散したほうが株主の得なる、と記事では書かれてあるわけです。
しかし、会計面・法律面から言えば、「純資産が解散価値を表す」という考え方自体が根本的に間違っているのです。
純資産は、全く解散価値を表してなどいません。
会計面・法律面から言えば、仮に会社を解散させても、株主は純資産と同じ金額の現金を受け取れるわけでは全くありません。
株主は、会社財産を全て処分して債務の全てを弁済し終わった後、残りの現金を受け取ることができる、というだけなのです。
仮に、会社財産の全てを帳簿価額(貸借対照表価額)で売却することができれば、
債務の全てを弁済しても、純資産と同額の現金が会社には残ることになりますので、
その場合は、株主は純資産と同じ金額の現金を受け取ることができるわけです。
しかし、通常、会社財産の全てを帳簿価額(貸借対照表価額)で売却することなどできません。
資産の貸借対照表価額はあくまで取得価額を表しているだけです。
資産の貸借対照表価額は、キャッシュアウトフロー(現金流出)の結果を表しているだけであり、
将来のもしくは貸借対照表日現在のキャッシュインフロー(現金流入)の金額を表しているわけでは決してないのです。
資産の貸借対照表価額は、各資産の最低売却価額を表しているというわけでも全くありません。
つまり、資産の貸借対照表価額と会社清算時に株主が受け取れる金額とは、全く関係がないのです。
会社清算手続きにおいて、会社財産の全てを処分した結果、会社内に存在する現金の総額は、
資産の貸借対照表価額(貸借対照表の総資産額)を上回るかもしれませんし、
資産の貸借対照表価額(貸借対照表の総資産額)を下回るかもしれません。
それは実際に会社財産の全てを処分してみないと誰にも分からないことなのです。

 



しかし、通常、平時の商取引とは異なり、会社清算手続きにおいて会社財産の全てを処分するという場合には、
一定以上(例えば貸借対照表価額以上)の価額で資産を売却できるまで何ヶ月も何年も待つ、
というようなことはしません。
清算人が会社清算手続き(会社財産の処分や債務の弁済や残余財産の分配)を遂行していくわけですが、
会社法に明文の規定はないのかもしれませんが、会社財産の処分に関しては、
通常考えられる最も高い価額であると清算人が判断する価額でできる限り短期間のうちに売却を進めていくことになるわけです。
つまり、清算人は、時間的制約がある中で会社財産の処分を進めていかねばなりませんので、
現実には、資産を貸借対照表価額未満で売却せざるを得ない、という場面は当然あるわけです。
そうしますと、会社清算手続きにおいて会社財産の全てを処分した場合、会社内に存在する現金の総額は、
通常、資産の貸借対照表価額(貸借対照表の総資産額)を下回ることになるわけです。
このことは、仮に会社を解散させても、株主は純資産より少ない金額の現金しか受け取れない、ということを意味するわけです。
一番極端な例を言いますと、純資産の金額は正(資本の欠損もない)であり、債務の金額は0円であっても、
会社清算時に株主が受け取ることができる現金額は0円、ということがあり得ます。
なぜならば、資産の貸借対照表価額(貸借対照表の総資産額)は正であっても、
資産を正の金額で売却できるとは限らない、すなわち、資産の買い手は誰もいない(廃棄処分するしかない)、
ということは現実にあり得るからです。
例えば、製造業の仕掛品(製造工程の途中にある棚卸資産勘定)は、第三者にはまず売却できません。
仕掛品は、製品としてはもちろん、原材料としても使用できないからです。
現実には、棚卸資産の廃棄や設備類の撤去にも一定の費用がかかるわけですから、
それらの費用を考えると、資産の貸借対照表価額(貸借対照表の総資産額)は正であっても、会社財産の処分の結果、
会社内に存在する現金の総額はマイナスになる(実際には現金にマイナスはあり得ませんが)、ということも現実にはあるわけです。
理論上は、株式市場に「PBRが1倍未満の銘柄」があれば、投資家は即必ず買うべきだ、という結論になりますが、
株式投資論では、現実にかかる費用は全て度外視している、ということが言えると思います。

 



ですので、会計面・法律面から言えば、「純資産が解散価値を表す」という考え方自体が根本的に間違っていますし、
また、株式投資論から言えば、「PBRが1倍未満の銘柄」を買っても儲かるとは全く限らないわけです。
「企業の解散価値」は、清算人が実際に会社財産の全てを処分してみない限り誰にも分からない、ということになります。
企業のことを、「ゴーイング・コンサーン」(「継続企業」という意味)と表現したりしますが、
先ほど私が書きましたように、企業を清算してしますと価値(清算時に株主が受け取れる現金額)がかえってマイナスになる、
という場合も理論上も実務上もあるわけです。
ですので、PBRが1倍未満であろうが何十倍であろうが、理論上の結論として、「企業の解散価値」<「企業の継続価値」である限り、
企業は清算せずに継続させた方が株主にとって有益だ、というようなことが言えると思います。

 


In liquidation of a company, residual assets of the company are distributed to respective shareholders
independent of a book value of equity of the company and also of a book value of assets of the company.

会社清算時、会社の残余財産は、会社の資本の簿価とは無関係に各株主に分配されますし、
また、会社の資産の簿価とも無関係に各株主に分配されます。

 

A book value of equity of a company has no connection with residual assets.
A book value of assets of a company has no connection with residual assets.

資本も関係ない。
資産も関係ない。
(直訳:「会社の資本の簿価は残余財産と関係ありません。会社の資産の簿価も残余財産と関係ありません。」)