2016年5月27日(金)
2016年5月27日(金)日本経済新聞
新日鉄住金は「無効」 ウジミナス社長にレイチ氏 取り消し求め法的措置
(記事)
【コメント】
日本で言えば、ウジミナスは取締役会決議で代表取締役を選任したわけですから、
その代表取締役の就任は法的に有効なものである、ということになると思います。
代表取締役の選任は、取締役会の専決事項です。
代表取締役の選任は、取締役会決議のみで必要十分なのです。
代表取締役の選任するのに、取締役会決議以外の何かはいらないのです。
法理的には、取締役会決議以外の決議で代表取締役を選任することはできませんし、
また、取締役会決議さえあれば、代表取締役の選任には十分なのです。
正式に取締役会決議を取ったのに、何かの条件を満たしていないから、代表取締役の選任が無効になる、ということはないのです。
それから、少しだけ違う観点からこの事例を見ますと、株主間協定というのは、文字通り株主と株主との間の約束です。
株主間協定は、取締役や取締役会決議には無関係な約束である、という言い方ができるでしょう。
株主間協定に違反しているからといって、取締役会決議が無効になるということはないわけです。
確かに取締役は株主が選任しますが、取締役会は取締役会でれっきとした1つの独立した意思決定機関です。
そこでの意思決定は他の何かに左右されません。
取締役会決議そのものに法的な瑕疵がない限り、
取締役会に無関係の何かの条件を満たしていないことを理由に、取締役会決議が無効になることはないのです。
では、次のような例を考えてみましょう。
「代表取締役の選任には、株主総会の普通決議を必要とする。」と定款に定めたとしましょう。
例えば、株主総会で複数の取締役を選任すると同時に、その取締役達の中から代表取締役を株主総会の普通決議で選任し、
株主総会終了後の取締役会で株主総会で選任された取締役を代表取締役として選任する、
という選任方法を行うことにしたとしましょう。
このような定款の定めがある状況下においてですが、
株主総会終了後の取締役会では、株主総会で選任された取締役とは異なる取締役を代表取締役として選任した、としましょう。
果たして、この取締役会決議は法的に有効でしょうか、それとも無効でしょうか。
他の言い方をすると、この取締役会決議による代表取締役の選任は法的に有効でしょうか、それとも無効でしょうか。
このたびの新日鉄住金の事例(2人の株主間の協定)よりも、はるかに取締役会に対する法的拘束力は強いように思えますが。
一見すると、定款に「代表取締役の選任には、株主総会の普通決議を必要とする。」と定めているわけですから、
株主総会の普通決議を経ていない代表取締役の選任は定款に違反しているので、代表取締役の選任は法的に無効なのではないか、
と思うかもしれません。
確かに、会社法の条文を見ますと、現行の会社法では、
代表取締役は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選または株主総会の決議によって、取締役のなかから選定することができる、
と定められています(第349条第3項)。
ですので、結論だけ言えば、現行の会社法下では、そのような取締役会決議による代表取締役の選任は法的に無効となります。
では、会社法の定めが、「代表取締役は、取締役会決議によって取締役の中から選任する。」であったとしたら、
そのような取締役会決議による代表取締役の選任は法的に有効でしょうか、それとも無効でしょうか。
この場合も、やはり定款に「代表取締役の選任には、株主総会の普通決議を必要とする。」と定めているわけですから、
株主総会の普通決議を経ていない代表取締役の選任は定款に違反しているので、代表取締役の選任は法的に無効なのではないか、
と思うかもしれません。
確かに、決議内容が定款に違反している取締役会決議は、違法な取締役会決議です。
決議内容が定款に違反している場合は、決議に瑕疵がありますので、取締役会の決議は無効になります。
そのことはもちろん分かるのですが、私が思うのは、定款には何を定めてよいというわけではない、ということです。
定款には、あくまで、会社法の範囲内で定めを置くことができる、というふうに解釈するべきだと思います。
この点について、参考になる記述が教科書にありましたので、引用します。
>株式会社では、会社内部関係の規律の強行規定性について、社員の意思決定機関としての「株主総会」を設け、
>業務執行者としての社員とは異なる「取締役」等の機関を設ける必要がある、(中略)これらの規定が強行規定とされている。
ここでの論点は、「何が強行規定なのか?」、です。
会社制度(会社の枠組み)の部分に関しては、株式会社には契約自由の原則は当てはめられない、という解釈になると思います。
機関設計については株式会社には強行規定が存在し、定款自治はその強行規定の範囲内でのみ認められることだ、
というふうに定款の位置付けを理解するべきなのだと思います。
A legal resolution excludes private mutual consent.
法定決議は私的な合意を除外する。
Articles of incorporation never surpass law.
定款は決して法を超えないのです。