2016年5月26日(木)



昨日のコメントに一言だけ追記します。
昨日作成しました資料の中で、債権者の税務上の取り扱いについて、

>額面金額と弁済額の差額である20円が税務上損金となる。

と書きました(再建の額面金額が70円、弁済額が50円のケース)。
この点について一言補足をしたいのですが、債権者の税務上の益金や損金の捉え方に注意が必要です。、
この場合は、「額面金額70円が損金、弁済額50円が益金。」(よって、トータルでは20円の損金)、という捉え方は間違いです。
なぜならば、弁済額(清算人(清算法人)から債権者が受け取った現金額)50円は益金ではないからです。
債権者が弁済額(清算人(清算法人)から受け取った現金額)50円は、決して税務上の益金ではなく、
上手く表現できませんが、まさに「債権の弁済」そのものなのです。
銀行が会社に100円貸して、その後100円返済してもらったら、銀行が会社から受け取ったその100円は税務上益金でしょうか。
それは決して税務上の益金ではなく、ただ単に貸付金の返済を受けた、というだけでしょう。
会社清算時の債権の取り扱いも同じではないでしょうか。
会社清算時においても、債権の弁済はあくまで債権の弁済であって、
弁済のため現金を受け取ることは税務上の益金ではないわけです。
ですので、債権者の税務上の損金額は、「差額」(額面金額と弁済額の差額)という形でのみ捉えることができるわけです。
他の言い方をすれば、会社清算時においても、債権者にとって債権の弁済は損益取引では決してない、となります。
先ほどは銀行を例に出しましたし昨日はローンを例に出したわけですが、
いわゆる売上債権の場合を考えると、今日の論点を理解するよいヒントになると思います。
つまり、債権者にとっては、売上債権の発生時に収益を認識する(その時点で、税務上益金となる)ことになるわけであり、
債権者は売上債権の回収(弁済)時に収益(益金)を認識するわけでは決してないわけです。
会社清算時においても、考え方は全く同じです。
どの債権も、債権の額面金額は損金を表してはいませんし、弁済額(受け取った現金額)も益金を表しているわけではないのです。
結論を繰り返しますと、債権者の税務上の損金額は、「差額」(額面金額と弁済額の差額)という形でのみ捉えることができます。

 



考え方が完全に異なるのが、株主の税務上の損金額(もしくは税務上の益金額)です。
株主の場合は、税務上の損金額は、債権者における考え方とは異なり、「差額」では捉えないと思います。
株主の場合は、「差額」が税務上の損金額と捉えるのではなく、株式取得価額の全額が税務上損金(株式償却)となる、と考えます。
と同時に、株主が残余財産分配請求権者として受け取った残余財産(現金)の全額が税務上益金となります。
債権者は「差額」でのみ税務上の損金額を捉えるのに対し、株主は税務上の損金と税務上の益金の2つから算出する形になります。
なぜこのような違いが生じるのかと言いますと、株主には予め定まった請求金額(債権でいうところの額面金額)などないからです。
債権の場合は、これだけの金額を本来受け取るはずであったのにこれだけでしか弁済してもらえなかった、
という流れがありますので、捉え方として「差額」のみがあるわけです。
ところが、株式の場合は、そもそも「これだけの金額を本来受け取るはずである」という請求金額などないわけです。
株主毎に株式取得額は異なりますが、株式取得価額に関わらず、株式1株当たりの残余財産分配額は皆同じです。
一言で言えば、株式取得額と残余財産分配額との間に、関連がないのです。
株式1株と残余財産の分配とが関連があるのです。
ですので、株式の場合は、債権とは異なり、差額という捉え方にはならないわけです。
これらはあくまで同時に発生する会計事象(株式の償却と残余財産の分配は会計事象として同時であると考えます)になりますが、
株式の償却は言わば独立した1つの税務上の損金であり、
残余財産の分配を受け取ることは言わば独立した1つの税務上の益金なのです。
株式の償却と残余財産の分配とを、差額で捉えることはできないのです。
差額で捉えることはできないことの1つの表れといってもいいと思いますが、
債権と株式とでは、想定される会社清算の結果が全く異なります。
端的に言えば、債権の場合は、会社清算の結果、債権者に税務上の益金が発生することはありません。
一方、株式の場合は、会社清算の結果、株主に税務上の益金が発生することは十分に想定されることです。
債権の場合、弁済額の方が額面金額を上回ることはあり得ません。
一方、株式の場合は、残余財産分配額の方が株式取得額を上回っていれば、株主には税務上益金が発生します。
債権者にとって、債権の弁済を受けることは、あくまで弁済です。
しかし、株主にとって、残余財産の分配は、全く弁済ではなく、払い込んだ資本も含めた全会社財産の分配、というだけなのです。
債権には額面金額(予め確定した請求金額)がありますので、額面金額と実際の弁済額との比較により、
債権者にとっての税務上の損金額が決まってくるわけです。
額面金額と実際の弁済額とが捉え方として概念的には一体的であると表現でき、
したがって、債権の場合は、税務上の損金額をそれらの「差額」で捉えるわけです。
一方、株式の場合は、額面金額(予め確定した請求金額)に相当する概念のものがありませんので、
何かと実際の弁済額とを比較するという考え方がないのです。
債権者にとっての税務上の損金額が決まってくるわけです。
株式の償却と残余財産の分配とは、発生原因としては全く同じ(会社清算が発生原因)なのですが、
株主にとって、株式取得額と残余財産の分配額とは概念的には一体的には捉えられない(金額に関連がない)と表現できますので、
したがって、株式の場合は、それらを差額で捉えるのではなく、
「残余財産の分配額(税務上の益金)−株式取得額(税務上の損金)」という計算式によって、
税務上の金額を算出することになるのです。