2016年5月21日(土)



2016年5月21日(土)日本経済新聞
森永、配当性向30%に 来期、業績連動型に変更
(記事)





【コメント】
森永製菓はこれまで、年6円の配当を続けてきたようです。
最高益だった前期は、年7円に増やしたとのことです。
今期も、配当額は据え置く方針であるとのことです。
そして、今後は、純利益の30%程度をメドに配当を行っていくよう、配当方針を変えていく考えであるようです。
話を一般化して言えば、配当方針を安定配当から配当性向30%へと変更する、と言っているわけです。
確かに、当期純利益の金額は毎期変動するわけですから、配当の金額を一定に保つという配当方針は、
理論的には不可能なことであると言えるでしょう。
それで、企業財務に関する理論では、配当性向という考え方を行うわけです。
配当性向30%という配当方針は、実務上非常によく見かけるように思います。
しかし、経営の観点から配当性向(割合)という配当金額の決定方法を見てみますと、少しおかしな点に気付きます。
それは、配当性向を一定に保つと、内部留保の金額が安定しなくなる、という問題点です。
会社が利益の内部留保を行うということは、会社はその利益を事業運営上使用する、という意味です。
なぜなら、会社がその利益を事業運営上使用しないのならば、利益は全て株主に配当するはずだからです。
設備投資にせよ棚卸資産の取得にせよ日々の資金繰りに余裕を持たせるためであるにせよ、
会社はその利益を事業運営上使用するからこそ、利益の内部留保を行うわけです。
その時に重要なのは、「会社は今後、事業運営上、いくらの現金が必要となるのか?」という将来見通しや資金計画であるわけです。
会社は事業運営上今後必要となる資金の金額というのは、設備投資にいくら、棚卸資産の取得にいくら、
日々の資金繰りたのめにいくら、といった具合に、全て絶対額で決まるわけです。
会社が事業運営上今後必要とする資金の金額は、前期比10%増の金額である、などという決まり方はしないわけです。
例えば、会社を新規に設立するという場合、会社の資本金額は以前に設立したことのある会社の資本金額の10%増にしよう、
などと言って、資本金額を決めたりはしないでしょう。
資本金額は、その会社が事業運営上必要となるであろう金額を計算し、会社毎に決定するわけです。
資本金額は、何かの割合を基に決定されるものではなく、事業運営上必要となる金額を基に決定される、というだけであるわけです。
内部留保の金額の決定方法も同じではないでしょうか。
内部留保の金額は、事業運営上必要となる金額を基に決定されなければならないわけです。
このことは、将来見通しや資金計画に基づき会社が当期に内部留保を行うべき金額は、絶対額で決まる、という意味でしょう。
と同時に、当期の純利益の金額というのは、究極的には期末日にならないと確定はしないわけです。
つまり、「どのくらいの金額配当を支払えるか。」という問いには事前には答えられないものであり、
当期の純利益の金額と、将来見通しや資金計画とを総合的に勘案しながら、配当金額は決まっていくものであるわけです。
つまり、安定配当という配当方針も間違いであり、配当性向を一定に保つという配当方針も間違いであるわけです。
年々の配当金額は、将来見通しや資金計画に基づき毎年決めることしかできないわけです。

 


”内部留保”という言葉の響きから、当期純利益の取り扱いについては、
まず配当金額を決定し、そして、残りの利益額を社内に留保する、という流れになるのではないか、と思ってしまいます。
しかし、実はその考え方は、話の流れとしては正反対なのだと思います。
当期純利益の取り扱いについては、まず留保する金額を決定し、そして、残りの利益額を株主に配当する、
という流れが現代の株式会社制度では正しい考え方なのだと思います。
会社が法人ではなかった頃は、会社は利益は全て出資者に分配していましたから、
そこから考えると、配当額が先に決まり残りが内部留保だ、と思ってしまうわけです。
ところが、現代の株式会社制度では、配当金額は会社が決めることになっています。
会社は、内部留保の金額を決定した後、配当の金額を決めるのです。
配当の支払いについて株主総会決議を取るのは極めて表面的な(悪く言えば形だけのこと)理由に過ぎません。
森永製菓の株主が、当期の配当は年8円にして欲しいと主張し、年7円の配当を行う旨の株主総会議案を否決したところで、
森永製菓の当期の配当は年8円にはなりません。
配当に関する株主総会議案が否決されたということで、当期の配当は0円になる、というだけのことであるわけです。
これでも会社側にとっては、目的の金額の内部留保は行えるわけです。
すなわち、株主へ支払う配当金額が当初の計画とは異なり0円となったところで、会社の事業運営には一切影響はないわけです。
株式会社制度上、具体的な配当金額を決定する権限は、株主にはないのです。
このことは、株式会社制度では、当期純利益の取り扱いに関しては「経営が先、配当は後。」という位置付けになっている、
と表現してもいいと思います。
本来であるならば、株主は配当を受け取るために出資をしている(利益を得るために出資をしている)わけなのですが、
実際には、株式会社制度では、配当金額は会社が決める、という法制度になっているわけです。
どんなに会社が多額の当期純利益を計上していようとも、今後事業運営上必要となりますので利益は全て内部留保を行います、
と会社が決めれば、もはや株主には配当を受け取る手段はないのです。
率直に言えば、株式会社制度においては、そもそも配当を支払うよう会社に請求する権利は株主にはない、と言っていいわけです。
好意的に言えば、株式会社制度とは、事業運営を最優先に考えた会社制度だ、と表現できるのかもしれません。
しかしその制度設計の欠点として、会社が利益を稼いでも出資者は利益の分配を受けられない、という場面が生じ得るのです。
これでは、株主の立場からすると、出資を行う目的の根本部分を否定されているわけです。
長所は短所にもなり、短所は長所にもなる、と言ったところでしょうか。
このことは、株式会社制度の最大の問題点の1つなのだろうと思います。
今日は、配当金額を毎期一定に保つ(安定配当)という配当方針だけでなく、
配当性向(割合)を毎期一定に保つという配当方針も理論上は間違いである、
という点について書いてみました。

 

When you found a company, do you determine the amount of a capital based on a proportion of something?

会社を設立するという時に、何かの割合に基づいて資本金額を決めるでしょうか?