2016年5月16日(月)


2016年5月16日(月)日本経済新聞
「協同労働」に法人格 共同出資で起業・経営 超党派で法案提出へ
(記事)



日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会
ttp://www.roukyou.gr.jp/


「協同労働の協同組合」とは
ttp://www.roukyou.gr.jp/main/info/info.html


協同労働の協同組合7つの原則
ttp://www.roukyou.gr.jp/media/2/協同労働の協同組合7つの原則.pdf

 

協同労働の協同組合法制化をめざす市民会議
ttp://associated-work.jp/


協同労働って何?
ttp://associated-work.jp/02hatena.html


仕事おこし・地域貢献の観点からみた法人の比較
ttp://associated-work.jp/03hikaku.htm

 



【コメント】
「協同労働」という言葉は初めて聞きました。
「協同労働」にはどういう意味合いがあるのだろうかと思い、
日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会のサイトを見ていましたら、
「雇用労働」の対義語として「協同労働」という言葉が定義されているようです。
「協同労働」とは、雇用されて働くのではなく、
労働者自身が出資をし事業運営に主体的に携わっていくという労働形態を志す活動や事業体のことを指しているようです。
現行の法律でも、この文脈でいう「協同労働」を実現させることができるような法人は設立できるようです。
現在でも、NPO法人(特定非営利活動促進法)、企業組合(会社への過渡的形式)法人(中小企業等協同組合法)、
生協法人(消費生活協同組合法)、という3種類の法人を設立することができるようです(括弧内は根拠法名)。
「協同労働の協同組合法制化をめざす市民会議」では、「協同出資・協同経営で働く協同組合法」という法律を成立させて、
「ワーカーズ協同組合法人」という法人を設立できるよう、活動を行っているところであるようです。
以下、上記の「仕事おこし・地域貢献の観点からみた法人の比較」を参考にしながら、会社の形態について一言だけ書きます。
この種の議論では、明治三十二年商法に定義される会社が引き合いに出されるかと思います。
明治三十二年商法に定義される会社は、法人ではなかったわけです。
明治三十二年商法に定義される会社では、出資者が皆で業務を執行するわけです。
業務執行の意思決定も出資者全員の合意に基づき行うことになっていますので、
「協同労働」の概念に極めて近いのかもしれないなと思います。
ただ、今般の「協同労働」では、法人の形を取れるようにしたい、ということであるわけです。
会社が法人の形を取りますと、主に2つのことができるようになります。
1つ目は、会社が利益の内部留保ができるようになります。
2つ目は、会社が資産を所有できるようになります。
ところが、会社が法人の形を取りますと、あることができなくなります。
それは、出資者(業務執行者)の「退社・脱退」です。
上記の表では、「持分の払戻」という言葉で書かれていますが、
「退社・脱退」とは会計面から言えばまさに「持分の払戻」と言えるわけです。
会社が法人の形を取りますとなぜ出資者(業務執行者)の「退社・脱退」ができなくなるのかと言いますと、
会社が法人の形を取りますと、会社に出資された現金は、既に他の資産の形に変わってしまっているからです。
つまり、会社に払い込まれた現金は既に他の資産に化けています(現金以外の流動資産や固定資産になっている)ので、
会社は「持分の払戻」を行いたくても行えないわけです。
会社が法人の形を取っていると、概念的な言い方をすれば、会社の資本金は既に現金ではなくなっている、と表現できるわけです。
ですので、会社が法人の形を取っている場合は、会社は資本(持分)の払戻しができないのです。
現行の会社法制では、資本金の払戻しは認められていない(資本維持の原則)わけですが、
その理由は、元来的には、一般的に言われているような債権者保護では決してなく、実は会社の財務的な構造が理由なのです。

 


逆から言えば、明治三十二年商法に定義される会社では、出資者(業務執行者)の「退社・脱退」は任意と言いますか、
明治三十二年商法に定義される会社は1取引毎の会社組成を想定していたので、
1取引毎に獲得した利益を出資額に応じて分配し、出資者(業務執行者)はそのまま解散、という形になっていたわけですが、
なぜ簡単に出資者(業務執行者)はそのまま解散できるのかと言えば、会社には常に現金しかない(資本金=現金)からです。
会社が資産を所有していますと、その資産を全て処分してしまわないことには、
出資額に応じた平等な残余財産の分配ができないわけです。
ですので、会社が法人の形を取っている場合は、資本(持分)の払戻しを行う時というのは、
必ず全出資者に対し同時にでなければならないわけです。
全出資者に対し同時に資本(持分)の払戻しを行うというのは、要するところ、会社を清算する時、という意味になります。
現行の会社法制では、払戻しの原資を利益剰余金とすることによって、資本の払戻し(自己株式の取得)を認めているわけですが、
本来的には、そもそも利益剰余金は株主全員に平等に分配されなければならないものだと思います。
自己株式の取得は、利益剰余金は株主全員に平等に分配しなくてもよい、という間違った理論的前提に基づいているわけです。
いずれにせよ、会社が法人の形を取っている場合は、資本(持分)の払戻しは会社の構造的に行えないわけです。
上記の表では、NPO法人、企業組合(会社への過渡的形式)法人、生協法人、
そして現在法性化を目指している「ワーカーズ協同組合法人」では、いずれの法人形態においても、
資本(持分)の払戻しは任意と書かれていますが、実は財務的(会社への出資の原理的)にそれはそもそも不可能なことなのです。
今般の「協同労働」では、どういった労働形態(業務執行形態)を志しているのかは分かりませんが、
地域社会や市民や精神的な豊かさや生きがい等をキーワードにしたいのなら、法人の形にこだわる話ではないのかもしれません。

 



考えてみますと、法人という形は、会社の大規模化や事業の長期化に向いているのだと思います。
出資者と業務執行者とを分けることによって、業務執行者の交代や多様化ができるようになります。
また、出資持分の譲渡によって、出資者自身の交代や多様化ができるようになります。
概念的には、やはり法人という形の方が、会社の大規模化や事業の長期化に向いていると言えるでしょう。
今般の「協同労働」が志していることというのは、そういった類のこととは正反対のことなのではないでしょうか。
記事には、法人ではないことの弊害として、活動拠点の賃貸契約を結ぶことができない、と書かれています。
確かに、法人ですと、全出資者からの出資を基に賃貸料を支払うことができます(法人が賃貸契約を結べる)が、
法人でない場合は、たとえ代表者が他の出資者からお金を預かって代表して賃貸料を貸主に支払う場合でも、税法上は、
厳密に言えば、代表者は賃貸料を預かったのではなくそれは他の出資者から代表者への寄付である、と見なされるわけです。
そういった点では、確かに法人の方が便利な点がある(税務上有利な場合がある)とは言えます。
しかし、今般の「協同労働」が志していることというのは、比較的小規模な事業であったり比較的短期的な労働なのではないか、
と思いますので、現実的なことを考えると、活動拠点は出資者の自宅や公民館や市民文化センターなどで十分なのではないか、
と思います(賃貸料は基本的には無料か極めて低料金で済むはずです)。
根拠法がないと法人格を持てないわけですが、会計面から言えば、法人格を持てないことそのことが問題というより、
根拠法に基づく事業体(出資の器)という形を取らないと、税務上、
出資(お金の出し合い)が代表者への寄付と見なされる恐れがあることが問題であるわけです。
この法律に従ったお金の出し合いであれば、それは出資と認め、寄付であるとは見なしません、
という法律の後ろ盾(根拠法)が、出資という場面では重要であるわけです。
今般の「協同労働」でも、法人格にこだわるのではなく、出資の適法性を担保するような法律を制定することを志すべきでしょう。
出資で重要なのは、法人格ではなく、税務上、お金の出し合いが間違いなく出資であると認められることなのですから。

 


On the principle of law, in a  stock company,
it is prohibited that a shareholder is elected to a director and that a director owns a share of the company.
And, it is comprehensively prohibited that a company makes any transactions with a shareholder of the company.


法理的には、株式会社においては、株主が取締役に選任されることは禁止されていますし、
そして、取締役が会社の株式を所有することも禁止されています。
さらに、会社が株主と取引を行うことはどんな取引であれ全面的に禁止されています。