2016年5月15日(日)


2016年5月13日(金)日本経済新聞 公告
所属外国銀行の事業の全部の譲渡に関する公告
株式会社三菱東京UFJ銀行
事業の一部譲渡実行に関する公告
株式会社三菱東京UFJ銀行
所属外国銀行の商号変更及び事業の一部譲受けに関する公告
株式会社三菱東京UFJ銀行
(記事)

 

 



【コメント】
株式会社三菱東京UFJ銀行は、諸外国の現地法人を設立し、各国で銀行業を営んでいるわけです。
日本の銀行が、海外に設立している銀行業を営む現地法人(銀行)のことは、
銀行法上の用語なのだと思いますが、「所属外国銀行」と呼んでいるようです。
それで、株式会社三菱東京UFJ銀行は、このたび、海外に設立している銀行業を営む現地法人(銀行)の組織再編行為を実施した
ということで、公告を行っているとのことです。
公告の文言を借りれば、”営業形態を、当行全額出資現地法人から当行支店に変更する”と書かれています。
現在、現地法人という形で営んでいる現地における銀行業を、今後は「株式会社三菱東京UFJ銀行の支店」という形で営むよう、
海外における営業拠点を、「所属外国銀行(法人の形態)」から「支店形態」へと組織再編を実施した、
と株式会社三菱東京UFJ銀行は公告しているわけです。
銀行法は各国毎に異なります(各現地の銀行法に基づいて銀行業を営まなければならない)ので、
現地法人が営む”株式会社三菱東京UFJ銀行の銀行業”は、株式会社三菱東京UFJ銀行や日本の銀行法から見ると、
株式会社三菱東京UFJ銀行からの言わば委任を受ける形で行われる「外国銀行代理業務」という位置付けになるようです。
このたびの組織再編行為を株式会社三菱東京UFJ銀行が行った目的は、
EU域内における業務運営体制を進めることであるようです。
3つ公告がありますが、公告によると、
ブラッセル支店(現地法人)の事業に関しては、現地法人から事業を譲り受けると同時に別の海外の現地法人に事業を譲渡している、
ということのようですが、そのことは今日の議論では本質的ではないので触れません。
それで、海外における営業拠点を、「所属外国銀行(法人の形態)」から「支店形態」へと組織再編を実施する方法については、
現地法人が所有している資産と負債の全て(現地法人(銀行業)の事業に関する、全ての資産、証券及び権利、並びに負債)を
株式会社三菱東京UFJ銀行に事業譲渡する、と書かれています。
簡単に言えば、現地法人の事業の全部を株式会社三菱東京UFJ銀行が譲り受ける、ということを行うわけです。
「所属外国銀行」や「外国銀行代理業務」の考え方を踏まえますと、国境を越え、
現地法人の事業を直接に日本の法人である株式会社三菱東京UFJ銀行が譲り受けることができる、
という考え方が出てくるかもしれないないと思います。
つまり、海外にある資産負債・収益費用が株式会社三菱東京UFJ銀行の(個別)財務諸表に直接に計上できる、
という考え方が出てくるかもしれないないと思います。
法理的には、日本法人の所有権は日本の領土内のみにしか及びません。
海外の資産の所有権を日本法人が持つことはできないのです。
しかし、銀行業に関する金融当局間の協定があれば、日本法人が直接に海外の資産負債を持つことができる、
という考え方になると思うわけです。

 



以前、海運会社保有の船の中にはパナマ船籍があるが、税務当局間の協定があれば、
パナマ船籍の船を個別貸借対照表に計上できるし、パナマ船籍の船の減価償却費を日本法人の損金として算入することを
日本の税務当局が認めることができる、といったことについて書きました。
船を係留(もしくは登録)している地理的場所が日本の領土内かパナマ国内かの違いがあるだけであり、
海運と言いますと、業務の特性上、必然的に所有している船が国境を超えていく形になりますので、
船の係留(もしくは登録)場所で物事を判断する合理性がないわけです。
そもそも各国間の条約がなければ、貿易を担っている船は全て領海侵犯を行っていることになってしまうでしょう。
ですので、パナマに係留(もしくは登録)している船は日本国内のどこかの港に係留(登録)している船と同じであると見なす、
というふうに両国間で協定を結べば、パナマ船籍の船を日本国内の船と全く同じように取り扱うことができるわけです。
実務上・現行の法令・協定上、そのようなことが行われているのかどうかは分かりませんが、
概念的には何らおかしくはない、現実にも実現可能な所有権や税務の取り扱いではないかと思います。
以上のような海運会社における船の取り扱いと同じように、銀行の海外における資産負債の取り扱いについても、
金融当局間で協定を結べば、銀行業に関する海外の資産負債を日本の法人が直接に保有することができる、
という考え方は可能であると思います。
公告を読みますと、株式会社三菱東京UFJ銀行は銀行業を営む現地法人の資産負債を日本の法人として直接に譲り受けています。
金融当局間の協定があれば、海外にある資産負債についても直接に所有権が及ぶもの、
という考え方を行うことは可能なのだろうと思います。
実務上・現行の法令・協定上、そのようなことが行われているのかどうかは分かりませんが、
概念的には何らおかしくはない、現実にも実現可能な所有権や税務の取り扱いではないかと思います。

 



それで、海外の資産負債の取り扱いについては一旦ここで終わり、株式会社三菱東京UFJ銀行の事例を踏まえつつ、
論点を絞るために、このたびの事例が日本国内のみで行われたと想定してみましょう。
つまり、ある日本の会社が完全子会社の事業の全部を譲り受ける、という場合を考えてみましょう。
このような事例は、実務上比較的頻繁に行われている組織再編行為かと思います。
親会社が子会社の事業の全部を譲り受けるという場合、方法としては2つあるかと思います。
1つは合併であり、もう1つは事業譲渡です。
ここでは、どちらの場合も、事業の全部を譲渡した後は、子会社は清算することを前提にしています。
親会社が子会社の事業の全部を譲り受けた後の組織形態としては、どちらの方法を取った場合も基本的には同じになるかと思います。
このことを仕訳で表現してみましょう。
事業の全部を譲り受ける場合の親会社の仕訳は次のようになります。


合併の場合

(子会社諸資産) xxx / (子会社諸負債) xxx
                 (負ののれん) xxx
(自己株式) xxx      (子会社株式) xxx


事業譲渡の場合

(子会社諸資産) xxx  / (子会社諸負債) xxx
                  (負ののれん) xxx
(子会社株式償却) xxx   (子会社株式) xxx

 


上記の仕訳は、現行の会社計算規則や現行の企業会計基準に厳密に従った仕訳とは実は異なります。
現行の会社計算規則や現行の企業会計基準は、共通支配下の取引か否かや対価の種類は何であるのか等により、
極めて細かな会計処理が定められています。
率直に言えば、この会計処理方法は一体どういう意味なのだろうか、と仕訳が全く理解できないくらい煩雑な定めとなっています。
ですので、上記の仕訳では、元来的な考え方から言えばこのような仕訳になるのではないか、ということで書きました。
「合併の場合」の仕訳は、親会社は子会社の資産負債を帳簿価額で承継する、
完全親子会社間の合併(親会社は子会社株式の全てを所有している)なので合併対の価はない、
貸借の差額はのれんとして処理する、そして、親会社が合併前に所有していた子会社株式は自己株式に振り替えられる、
ということで上記の仕訳を書きました。
「事業譲渡の場合」の仕訳は、親会社は子会社の資産負債を帳簿価額で譲り受ける、
子会社は親会社に全ての資産を譲渡し清算されることになっているので、対価を支払っても意味はないので、
この場合は親会社は事業譲渡の対価は支払わない、貸借の差額はのれんとして処理する、
そして、親会社が合併前に所有していた子会社株式は子会社清算に伴い償却される、
ということで上記の仕訳を書きました。
現行の会社計算規則や現行の企業会計基準に従った仕訳とは異なりますが、上記のような考え方に基づき仕訳を書きました。
確認はしていませんが、私が書いた上記の2つの仕訳は、法人税法の規定に従った仕訳に近いのかもしれません。
それで、上記の仕訳を比較してみると、合併と事業譲渡の違いが浮かび上がってくるかと思います。
それは、親会社が事業を譲り受けた後の子会社株式の取り扱いです。
合併の場合は、親会社が合併前に所有していた子会社株式は自己株式に振り替えられます。
一方、事業譲渡の場合は、親会社が合併前に所有していた子会社株式は償却されます。
このことは例えば、税務上の取り扱いに影響を与えるでしょう。
合併を行った場合は、親会社が合併前に所有していた子会社株式は税務上損金算入はされないわけです。
しかし、事業譲渡を行い子会社を清算した場合は、親会社が合併前に所有していた子会社株式は税務上損金算入されるわけです。
自己株式を所有したいという目的がある会社などないでしょうから、このような場合は、
所有株式が税務上損金算入されるよう、合併ではなく事業譲渡を行うべきだ、ということになるでしょう。
損益計算書をよく見せたいという特段の目的があるのなら話は別ですが、
自己株式を所有している場合は、どちらにせよその分計算上は分配可能な剰余金の金額は減少します(配当はできない)ので、
やはり、所有株式が税務上損金算入される方がトータルでは有利なので、合併ではなく事業譲渡を行うべきなのだと思います。
事業譲渡の場合は、子会社は承継されたりせず1法人として完全に清算されたからこそ、
親会社が合併前に所有していた子会社株式は損金算入されるのだ、というふうに整理できると思います。

 


2つの差異として、まず以上のような税務上のメリット・ディメリットがあるわけですが、
上記の議論に関連して、もう1つある見方があると思いました。
それは、会計の観点から見ると、合併においては法人格は消滅しない、という点です。
なぜなら、合併の場合は、子会社株式は親会社株式へと承継されるからです。
自己株式勘定に振り替えられていますから分かりづらくなっていますが、この場合の自己株式とはまさに親会社株式です。
子会社株式は親会社株式へと承継されるからこそ、子会社株式は償却はされないわけです。
資産負債が親会社に承継されるからこそ、子会社株式は親会社株式として存続するわけです。
ですので、概念的な表現になりますが、会計の観点から見ると、合併において消滅会社の法人格は消滅しないのです。
もちろん、法律の観点から見ると、消滅会社は消滅します。
例えば、先ほどの株式会社三菱東京UFJ銀行の事例で言えば、ブラッセル支店の支店長(現地法人の支配人)は、
このたびの組織再編行為に伴い、株式会社三菱東京UFJ銀行の取締役に自動的に就任する、などという論理はないわけです。
消滅会社の取締役と存続会社の取締役は法律上は全く別であり、合併では包括的に資産負債・権利義務が承継されるとは言っても、
消滅会社の取締役会の構成員が、その法的地位を保ったまま存続会社の取締役に包括的に就任する、というわけではないわけです。
消滅会社における雇用契約は当然に存続会社へと承継される、と考えるわけですが、
消滅会社における委任契約は当然に存続会社へと承継される、とは考えないわけです。
包括的に就任するには、定款の変更(取締役の人数の定め)の必要が生じるといった理由もあるのかもしれませんが、
取締役会の構成員は、その時の会社の株主が都度選任する、という法理の方が強い、という考え方になっているのだと思います。
また、これは会計上は合併においては法人格は消滅しないという論点に関連することですが、
株主総会の構成員は、消滅会社から存続会社へと包括的に承継されます。
株主総会の構成員は、消滅会社から存続会社へと包括的に承継されるのに、
取締役会の構成員は、消滅会社から存続会社へと包括的に承継されなくてよいのでしょうか。
先ほども書きましたが、雇用契約は承継されるが委任契約は承継されない、
と考えることを正当化する法理はないように思います。

 


この辺り、同じ”消滅会社から存続会社へと包括的に承継される”でも、
包括的に承継される部分と包括的に承継されない部分がある、という言わねばならないのかもしれません。
例えば、定款の内容は包括的に承継されないわけです。
合併に伴い、消滅会社の定款の内容が自動的に存続会社の定款に追加的に記載される、などという論理はないわけです。
定款の内容は、その時の会社の株主が都度変更・決定する、という考え方になっているわけです。
では商号はどうでしょうか。
合併後の存続会社の商号は、自動的に「存続会社の商号+消滅会社の商号」となるでしょうか。
商号は、会社の顔(識別するために重要な情報)です。
商号は承継させなくてよいのでしょうか。
合併では”法人の全てが消滅会社から存続会社へと包括的に承継される”とは言いますが、
敢えて言うならそれは会計面(会計から見た場合の見方)の話になるのかもしれないな、と思います。
法律面から見ると、取締役会の構成員(委任契約関係)から定款から商号まで、
細かく見ていくと包括的には承継されていない部分がたくさんあると思います。
もちろん、中には、概念的に承継のしようがないと言えるものもありますが。
会計の観点から見ると、法律からの観点に比較して、
承継の対象となっている範囲(種類、対象物)が限定されるから話が簡単になっているだけなのかもしれません。
法律面から”包括的に承継”と言いますと、文字通り全部と言い方になりますので、
承継の対象となっている範囲(種類、対象物)が限定されないと感じるわけです。
合併という法律行為はこの点でも特殊な法律行為なのだと思います。
今日は、合併について会計面から見た見方と法律面から見た見方を比較し、
会計上は合併において法人格は消滅しない、と思いました。

 


From a viewpoint of accounting, conceptually speaking, a juridical personality is not extinguished in a merger.

会計の観点から見ると、概念的に言えば、合併においては法人格は消滅しないのです。