2016年5月15日(日)
2016年5月13日(金)日本経済新聞 公告
所属外国銀行の事業の全部の譲渡に関する公告
株式会社三菱東京UFJ銀行
事業の一部譲渡実行に関する公告
株式会社三菱東京UFJ銀行
所属外国銀行の商号変更及び事業の一部譲受けに関する公告
株式会社三菱東京UFJ銀行
(記事)
合併の場合
(子会社諸資産) xxx / (子会社諸負債) xxx
(負ののれん) xxx
(自己株式) xxx (子会社株式) xxx
事業譲渡の場合
(子会社諸資産) xxx / (子会社諸負債) xxx
(負ののれん) xxx
(子会社株式償却) xxx (子会社株式) xxx
上記の仕訳は、現行の会社計算規則や現行の企業会計基準に厳密に従った仕訳とは実は異なります。
現行の会社計算規則や現行の企業会計基準は、共通支配下の取引か否かや対価の種類は何であるのか等により、
極めて細かな会計処理が定められています。
率直に言えば、この会計処理方法は一体どういう意味なのだろうか、と仕訳が全く理解できないくらい煩雑な定めとなっています。
ですので、上記の仕訳では、元来的な考え方から言えばこのような仕訳になるのではないか、ということで書きました。
「合併の場合」の仕訳は、親会社は子会社の資産負債を帳簿価額で承継する、
完全親子会社間の合併(親会社は子会社株式の全てを所有している)なので合併対の価はない、
貸借の差額はのれんとして処理する、そして、親会社が合併前に所有していた子会社株式は自己株式に振り替えられる、
ということで上記の仕訳を書きました。
「事業譲渡の場合」の仕訳は、親会社は子会社の資産負債を帳簿価額で譲り受ける、
子会社は親会社に全ての資産を譲渡し清算されることになっているので、対価を支払っても意味はないので、
この場合は親会社は事業譲渡の対価は支払わない、貸借の差額はのれんとして処理する、
そして、親会社が合併前に所有していた子会社株式は子会社清算に伴い償却される、
ということで上記の仕訳を書きました。
現行の会社計算規則や現行の企業会計基準に従った仕訳とは異なりますが、上記のような考え方に基づき仕訳を書きました。
確認はしていませんが、私が書いた上記の2つの仕訳は、法人税法の規定に従った仕訳に近いのかもしれません。
それで、上記の仕訳を比較してみると、合併と事業譲渡の違いが浮かび上がってくるかと思います。
それは、親会社が事業を譲り受けた後の子会社株式の取り扱いです。
合併の場合は、親会社が合併前に所有していた子会社株式は自己株式に振り替えられます。
一方、事業譲渡の場合は、親会社が合併前に所有していた子会社株式は償却されます。
このことは例えば、税務上の取り扱いに影響を与えるでしょう。
合併を行った場合は、親会社が合併前に所有していた子会社株式は税務上損金算入はされないわけです。
しかし、事業譲渡を行い子会社を清算した場合は、親会社が合併前に所有していた子会社株式は税務上損金算入されるわけです。
自己株式を所有したいという目的がある会社などないでしょうから、このような場合は、
所有株式が税務上損金算入されるよう、合併ではなく事業譲渡を行うべきだ、ということになるでしょう。
損益計算書をよく見せたいという特段の目的があるのなら話は別ですが、
自己株式を所有している場合は、どちらにせよその分計算上は分配可能な剰余金の金額は減少します(配当はできない)ので、
やはり、所有株式が税務上損金算入される方がトータルでは有利なので、合併ではなく事業譲渡を行うべきなのだと思います。
事業譲渡の場合は、子会社は承継されたりせず1法人として完全に清算されたからこそ、
親会社が合併前に所有していた子会社株式は損金算入されるのだ、というふうに整理できると思います。
2つの差異として、まず以上のような税務上のメリット・ディメリットがあるわけですが、
上記の議論に関連して、もう1つある見方があると思いました。
それは、会計の観点から見ると、合併においては法人格は消滅しない、という点です。
なぜなら、合併の場合は、子会社株式は親会社株式へと承継されるからです。
自己株式勘定に振り替えられていますから分かりづらくなっていますが、この場合の自己株式とはまさに親会社株式です。
子会社株式は親会社株式へと承継されるからこそ、子会社株式は償却はされないわけです。
資産負債が親会社に承継されるからこそ、子会社株式は親会社株式として存続するわけです。
ですので、概念的な表現になりますが、会計の観点から見ると、合併において消滅会社の法人格は消滅しないのです。
もちろん、法律の観点から見ると、消滅会社は消滅します。
例えば、先ほどの株式会社三菱東京UFJ銀行の事例で言えば、ブラッセル支店の支店長(現地法人の支配人)は、
このたびの組織再編行為に伴い、株式会社三菱東京UFJ銀行の取締役に自動的に就任する、などという論理はないわけです。
消滅会社の取締役と存続会社の取締役は法律上は全く別であり、合併では包括的に資産負債・権利義務が承継されるとは言っても、
消滅会社の取締役会の構成員が、その法的地位を保ったまま存続会社の取締役に包括的に就任する、というわけではないわけです。
消滅会社における雇用契約は当然に存続会社へと承継される、と考えるわけですが、
消滅会社における委任契約は当然に存続会社へと承継される、とは考えないわけです。
包括的に就任するには、定款の変更(取締役の人数の定め)の必要が生じるといった理由もあるのかもしれませんが、
取締役会の構成員は、その時の会社の株主が都度選任する、という法理の方が強い、という考え方になっているのだと思います。
また、これは会計上は合併においては法人格は消滅しないという論点に関連することですが、
株主総会の構成員は、消滅会社から存続会社へと包括的に承継されます。
株主総会の構成員は、消滅会社から存続会社へと包括的に承継されるのに、
取締役会の構成員は、消滅会社から存続会社へと包括的に承継されなくてよいのでしょうか。
先ほども書きましたが、雇用契約は承継されるが委任契約は承継されない、
と考えることを正当化する法理はないように思います。
この辺り、同じ”消滅会社から存続会社へと包括的に承継される”でも、
包括的に承継される部分と包括的に承継されない部分がある、という言わねばならないのかもしれません。
例えば、定款の内容は包括的に承継されないわけです。
合併に伴い、消滅会社の定款の内容が自動的に存続会社の定款に追加的に記載される、などという論理はないわけです。
定款の内容は、その時の会社の株主が都度変更・決定する、という考え方になっているわけです。
では商号はどうでしょうか。
合併後の存続会社の商号は、自動的に「存続会社の商号+消滅会社の商号」となるでしょうか。
商号は、会社の顔(識別するために重要な情報)です。
商号は承継させなくてよいのでしょうか。
合併では”法人の全てが消滅会社から存続会社へと包括的に承継される”とは言いますが、
敢えて言うならそれは会計面(会計から見た場合の見方)の話になるのかもしれないな、と思います。
法律面から見ると、取締役会の構成員(委任契約関係)から定款から商号まで、
細かく見ていくと包括的には承継されていない部分がたくさんあると思います。
もちろん、中には、概念的に承継のしようがないと言えるものもありますが。
会計の観点から見ると、法律からの観点に比較して、
承継の対象となっている範囲(種類、対象物)が限定されるから話が簡単になっているだけなのかもしれません。
法律面から”包括的に承継”と言いますと、文字通り全部と言い方になりますので、
承継の対象となっている範囲(種類、対象物)が限定されないと感じるわけです。
合併という法律行為はこの点でも特殊な法律行為なのだと思います。
今日は、合併について会計面から見た見方と法律面から見た見方を比較し、
会計上は合併において法人格は消滅しない、と思いました。
From a viewpoint of accounting, conceptually speaking, a juridical
personality is not extinguished in a merger.
会計の観点から見ると、概念的に言えば、合併においては法人格は消滅しないのです。