2016年5月12日(木)
ハウス食品、ギャバンを完全子会社に TOBで
ハウス食品グループ本社は12日、味の素子会社で香辛料大手のギャバンをTOB(株式公開買い付け)で
完全子会社にすると発表した。
取得額は約66億円の見込み。ハウスは香辛料とカレーを主軸の事業としており、
業務用香辛料に強みを持つギャバンを傘下に収めることで、香辛料事業における地位確立を目指す。
ハウスはギャバンを買収し、香辛料の原料を両社で調達する。販路も統合し、業務用、家庭用の香辛料事業での相乗効果を見込む。
規模の拡大で原料の価格高騰に対応し、競争力を強化する。生産面でも協業を進め、コスト削減につなげる。
TOB期間は5月13日から6月23日まで。1株710円で買い付ける。
11日のギャバンの株価は600円で、ハウスはプレミアムを上乗せした買い付け価格で全株式の取得を目指す。
ギャバン親会社で株式55.04%を保有する味の素は応募すると表明した。ギャバンはTOB完了後に上場廃止になる。
ギャバンの2016年3月期の連結売上高は95億円、経常利益は4600万円。ハウスはギャバンの株式15.84%を保有しており、
ギャバンのブランドで家庭用香辛料を販売している。今後は、香辛料の新製品の共同開発も進め、香辛料市場で攻勢をかける。
ハウスの浦上博史社長は「(ギャバンの買収で)業務用スパイスへの対応力を強化し、グループ全体の提供価値の幅を広げていく」
と完全子会社化の狙いを話す。
味の素は事業の選択と集中の一環で、06年度に連結子会社化したギャバンを切り離す。
株式の譲渡金額の約43億円を成長分野の投資に回す考えだ。
(日本経済新聞 2016/5/12
19:58)
ttp://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ12I5L_S6A510C1TI5000/
2016年5月12日
ハウス食品グループ本社株式会社
株式会社ギャバン株式(証券コード:2817)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ
ttp://housefoods-group.com/newsrelease/pdf/20160512_gaban.pdf
2016年5月12日
株式会社ギャバン
ハウス食品グループ本社株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1356353
2016年5月12日
味の素株式会社
味の素梶A潟Mャバンに対する株式公開買付けへの応募に関するお知らせ
ttp://info.ajinomoto.co.jp/MT20160512_J.pdf
【コメント】
このたびハウス食品グループ本社株式会社は株式会社ギャバンを完全子会社化する計画であるわけですが、
現在株式会社ギャバンは、味の素株式会社の連結子会社であると同時に、上場企業でもあるわけです。
ここ最近、公開買付やインサイダー取引や適時情報開示や会社から市場への情報発信といった点について書いてきたわけですが、
今日は、いわゆる「親子上場会社」という点からふとあることを思いました。
話を一般化していうと、上場企業には、特定の大株主(大まかに言えば、過半数を所有している人や会社)は
いてはならないのではないかとふと思いました。
なぜなら、その大株主は、現実には会社から情報を得やすい立場にあるからです。
株式市場の投資家は皆平等に情報の開示を受けなければならない、
という基本概念が証券市場にはあるのではないだろうかと思うのですが、
例えば親会社は経営戦略やコーポレート・ガバナンスの点から言っても、子会社の情報を常に入手しながら
グループ経営を行わなければならないわけです。
親会社は、適時情報開示や有価証券報告書からのみ子会社の情報を入手できる、ではグループ経営にならないわけです。
むしろ、親会社は、常に子会社の経営状況に目を配り、
絶えずグループ全体を見渡しながらグループ経営に当たらねばならないわけです。
しかしそうすると、そのグループ経営は、市場の投資家から見ると、親会社だけが他の投資家よりも、
圧倒的に早期にそして詳細に上場企業の情報を入手できる、という状態であるわけです。
これは、情報開示全般に関して、親会社は市場の投資家よりも圧倒的に有利な立場にある、という言い方ができるでしょう。
富士通とニフティの場合もそうだったのですが、「親子上場」という状態は、
少なくとも情報面で親会社と市場の投資家とが平等になることは絶対にない、と言えると思います。
さらに、味の素株式会社からのプレスリリースには次のような記載があります。
>当社とハウス食品グループ本社の間でギャバン社の
企業価値向上策について協議を行う過程で、
>ハウス食品グループ本社によるギャバン社の子会社化が、
>ギャバン社の企業価値向上のための有力な選択肢として浮上してきたため、
>ハウス食品グループ本社に
よるギャバン社の子会社化について具体的な協議を開始しました。
プレスリリースによると、味の素株式会社は、2003年(0%→33.40%)、2004年(33.40%→40.05%)、2006年(40.05%→55.04%)
と、これまで計3回株式会社ギャバンを買い増しています。
そして、プレスリリースには次のような興味深い記述があります。
>ハウス食品グループ本社は2004年にギャバン社の株式を第三者割当増資により
取得(15.84%)し、
>以降、当社とハウス食品グループ本社は協働して、ギャバン社の企業価値向上に取り組んできました。
これらの記述を総合すると、味の素株式会社は、2004年の時点で、ハウス食品グループ本社株式会社が株式会社ギャバン株式に対し
公開買付を実施する考えがあったことを知っていた可能性があるわけです。
そして、そのことを知った上で、味の素株式会社は、2006年に、株式会社ギャバン株式をさらに買い増したのではないか、
という疑いが浮上してくるわけです。
味の素株式会社はこれまで、ハウス食品グループ本社株式会社との間で株式会社ギャバン企業価値向上策について協議を行ってきた、
と書いてあります。
そしてその協議の中で、ハウス食品グループ本社株式会社による株式会社ギャバンの子会社化が、
株式会社ギャバンの企業価値向上のための有力な選択肢として浮上してきた、
と書いてあります。
2004年に、ハウス食品グループ本社株式会社が株式会社ギャバン株式を第三者割当増資により取得(15.84%)した時点で、
味の素株式会社は、ハウス食品グループ本社株式会社がグループ経営戦略の一環として、
その後株式会社ギャバン株式に対し公開買付を実施することを知っていた可能性があるわけです。
もし知っていたら、2006年の株式会社ギャバン株式の買い増しはインサイダー取引にならないでしょうか。
インサイダー取引規制に時効の定めはありましたでしょうか。
12年前に聞いた情報であればインサイダー取引規制の対象外です、などという話は聞いたことがありませんが。
ただ、まじめな話、時効の定めがないと、情報入手後、その後何年間も対象株式の売買が一切行えない状態が続くことになるので、
インサイダー取引規制にも時効の定めが必要なのではないか、という気がします。
公開買付の実現可能性・実施可能性からいって、時効までは最大でも3年もあれば十分でしょうか。
情報を受領して、3年経っても公開買付が実施されない場合は、その公開買付は実施されないものと判断できる、
というふうに考えていく必要があるのではないかと思います。
3年経っても公開買付が実施されない場合は、「私は今後公開買付を実施するつもりだ。」という情報は、
与太話であった、と金融商品取引法上みなすわけです。
インサイダー取引規制にも時効の定めがないと、与太話に振り回されることになるわけです。
「お前の話聞いたから、株式の売買ができないじゃないか。」という話になってしまうわけです。
「愛していると言ってくれ」という言葉なら聴いたことがありますが、
「『以前言った公開買付は実施しないつもりだ』と言ってくれ」と言いたくなるわけです。
「以前話をした公開買付は実施しないつもりです」という情報を受領しないと、
いつまで経っても、対象株式の売買ができない、ということになります。
グループ経営戦略や大規模M&Aという場面では、3年後をメドに公開買付を実施する計画である、
という情報開示がなされてもおかしくはない(公正取引委員会の審査や審査のクリアに時間がかかるなど)なとふと思いました。
いずれにせよ、本日2016年5月12日(木)の時点では、インサイダー取引規制に時効の定めはないかと思いますので、
たとえ12年前の聞いた情報であろうとも、インサイダー取引規制の対象になるかと思います。
実際には、ハウス食品グループ本社株式会社が株式会社ギャバン株式に対し公開買付を実施することを味の素株式会社が聞いたのは、
比較的最近(2016年に入ってからなど)のことであり、
公開買付の情報を受領した後は味の素株式会社は株式会社ギャバン株式を一切買い増してはいないと思います。
味の素株式会社がインサイダー取引規制に違反している恐れがあるというのは、
悪意を持って無理やり話をこじつければそうだというだけであり、現実の話とは全く異なることだと思って下さい。
最後に、架空の会話を書いて今日は終わりたいと思います。
証券取引等監視委員会「お前何で2006年に株式会社ギャバン株式を買い増してるんだ?
ハウス食品グループ本社株式会社が2016年に株式会社ギャバン株式に対し公開買付を実施する計画であることを
当時から知っていたのではないのか?」
味の素株式会社「私は2016年5月12日の夕方に電子版の新聞報道を読むまでハウス食品グループ本社株式会社が
株式会社ギャバン株式に対し公開買付を実施することなど全く知りませんでした。」
証券取引等監視委員会「ハウス食品グループ本社株式会社とは2004年から株式会社ギャバンについて協議をし
株式会社ギャバン株式の子会社化についても協議をしていたのではないかね!」