2016年4月27日(水)


2016年4月27日(水)日本経済新聞
債券がデフォルト マレーシア国営「1MDB」 利払い巡り アブダビ社と非難合戦
(記事)



マレーシア1MDB、既発債1900億円の債務不履行を確認
イスラム債2100億円も連鎖デフォルト

 【香港】汚職疑惑の渦中にあるマレーシアの政府系投資ファンド「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」は26日、
17億5000万ドル(約1900億円)の既発債がデフォルト(債務不履行)に陥り、
連鎖的に合計74億リンギ(約2100億円)に上る他のイスラム債2銘柄もデフォルトしたことを認めた。
 1MDBは、これら以外の17億5000万ドルと30億ドルの既発債にはデフォルトの連鎖が及んでいないとている。
 アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国の政府系投資ファンド「国際石油投資会社(IPIC)」は25日、
17億5000万ドルの既発債で利払いを代行するが、実施はデフォルトが宣言されてからになると述べた。
IPICは1MDBの債務を保証している。
 この債券の利払い(5000万ドル)期限は25日だった。
(ウォールストリートジャーナル 2016年4月26日 13:40 JST)
ttp://jp.wsj.com/articles/SB12636313031836253878704582029182391951776

 



1MDB:債券の利払い実施せず−アブダビIPICとの対立で

    1MDBはIPICと債務をめぐり対立していた
    利払い義務は相手方にあると双方が主張

マレーシア政府の投資会社1マレーシア・デベロップメント(1MDB)は
アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国の政府系ファンド、インターナショナル・ペトロリアム・インベストメント(IPIC)
との対立の中で、17億5000万ドル(約1950億円)の債券の5000万ドルの利払いを実施しなかったことを明らかにした。
1MDBとIPICはどちらが利払いを行うかで対立している。
マレーシアの通貨リンギットは下落し、1MDBのドル建て債相場は落ち込んだ。
  26日に電子メールで送付された発表資料によると、1MDBは2022年償還債(表面利率5.75%)を共同で保証するIPICが
義務を履行しなかったため、利払いを保留している。
今回の利払い不履行は、1MDBの債務74億リンギット(約2090億円)についてもクロスデフォルトを引き起こした。
  双方は昨年5月の合意に基づく1MDBのIPICに対する債務をめぐり対立を続けている。
IPICは合意当時、保証する1MDB債35億ドル相当の利払いを引き受けると説明していた。
しかしIPICは今月に入り、1MDBが融資に関連した10億ドル強の支払いを怠り
「デフォルト(債務不履行)状態にある」と指摘した。
  この対立は利払い問題に飛び火し、双方は互いに、利払い義務が相手方にあると主張。
4月18日に予定されていた利払いの5営業日の猶予期間は25日に失効した。
  1MDBは発表資料で、
「利払いを行うための資金を持つものの、原則として、利払いはIPICの義務だという立場だ」と説明。
「IPICが全ての義務の履行を受け入れるまで、1MDBは支払いを差し控えざるを得ず、法的な手段と解決策を目指す」とした。
(ブルームバーグ 2016年4月26日 10:53 JST 更新日時 2016年4月26日 13:51 JST)
ttps://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-26/O67X946TTDSQ01

 


26-04-2016
1Malaysia Development Berhad
Limited default from the non-payment of USD50.3 million interest on the Langat Notes
ttp://www.1mdb.com.my/press-release/limited-default-from-the-non-payment-of-usd503-million-interest-on-the-langat-notes

 



【コメント】
各種記事を読みますと、記事で問題になっている争点というのは、
一方は間違いなく現金を支払ったと主張しており、他方は現金を受け取っていないと主張している、ということのようです。
現金を支払ったか否か、現金を受け取ったか否かは、領収書や銀行取引記録(記帳してみれば分かる)などのことを考えれば、
あまりにも明らかなことなのではないかという気がします。
商取引・商慣行として、現金の授受について当事者の言い分が食い違うということはあり得ないような気がします。
ただ、詳しい背景については分かりませんが、マレーシアでは双方の言い分が食い違う金銭トラブルが発生したようです。
記事中の固有名詞は頭文字をとったアルファベットになっており、馴染みがなく取引についての理解が進みませんので、
日本語名で分かりやすく、甲さんと乙さん、というふうに当事者の名称を変え、取引の概要について図に描いてみました。
甲さんが記事でいう「1MDB」、乙さんが記事でいう「IPIC」に該当します。
以下、次の図を基に議論をします(甲さん乙さんは適宜読み替えて下さい)。

「このたびの金銭トラブルの概念図」
"Conceptual picture on a money matter in this case."

日本経済新聞の記事には、甲さんは乙さんに「利払い代行などの対価を支払う」(ことで両者は合意した)と書かれています。
確かに、甲さんは乙さんに対し、代行手数料は支払うとは思います。
代行手数料のことを「利払い代行などの対価」と呼ぶのは正しいと思います。
しかし、債券の利息そのものは、原債務者である甲さんが支払う(負担する、債務を履行する)のだと思います。
つまり、乙さんは、債権者に対して、「窓口、取次ぎ、仲介、代理業者」の役割を果たしているに過ぎないのだと思います。
乙さんが債権者に対して直接に債務を負っているわけではない、ということだと思います。
甲さんと債権者が債権債務関係にあるのであって(甲さんが債務者)、
乙さんと債権者が債権債務関係にあるのではない(乙さんは債務者ではない)
ということだと思います。
ただ、記事よりますと、乙さんは甲さんの債券の債務保証を行っている、と書かれています。
ですので、その点に関してだけは、
乙さんと債権者は債権債務関係にある(乙さんは保証という点において債務を負っている、すなわち乙さんは債務者である)、
ということになると思います。
この記事では、利払いについて問題になっているということですので、論点を明確にするために、私が描きました図では、
基本的には乙さんと債権者は債権債務関係にはない(乙さんは債務者ではない)、という前提で描きました。
一応図では乙さんは甲さんの債券について債務保証を行っている旨、矢印と文言は記載はしていますが。
それで、利払いに関して言いますと、私の理解では、乙さんに債権者に対する利払いの義務があるわけではないのだと思います。
債権者に対する利払いの義務があるのはあくまでも甲さんなのだと思います。
甲さんは乙さんに利払いの代行をお願いしている関係上、甲さんは直接に債権者にではなく一旦は乙さんに対し現金(利息)を
支払うわけですが、甲さんが支払ったその現金は乙さんをパススルーするだけなのだと思います。
乙さんは甲さんから受け取った現金をそのまま債権者に対し仲介者として支払う(他の言い方をすれば「受け渡す」)、
という形になっているのだと思います。
それで、私が描きました図では、甲さんが乙さんに支払った現金は債権者まで「パススルーするだけ」と描いているわけです。

 



ただ、乙さんが債権者に対してどのくらいの義務を負っているのか(債務保証の範囲)についてははっきりとしない点があります。
日本経済新聞の記事を読みますと、乙さんは債券の元本部分について債務保証を行っている、というふうに読めます。
利払い部分についても乙さんが債務保証を行っているとすると、たとえ甲さんから現金を受け取っていなくても
乙さんには債権者に利払いを行う義務があるようにも思えます。
少なくとも、債権者の立場に立てば、甲さんが乙さんに現金を渡さなかったからだ、は理由にならないわけです。
債務の保証とは、債権者に対して行うものなのではないかと思います。
ブルームバーグの記事には、

>IPICは合意当時、保証する1MDB債35億ドル相当の利払いを引き受けると説明していた。

と書かれていますので、乙さんは利払い部分についても債務保証を行っている、ということのようにも解釈できます。
この辺り、債務保証の範囲は一体どうなっているのだろうか、と思ったのですが、
「1MDB」が発表しているプレスリリースの冒頭には次のように書かれていますので、引用して訳してみます。


>1Malaysia Development Berhad (“1MDB”) states that the International Petroleum Investment Company (“IPIC”)
>has not made payment of USD50.3 million interest as required
>under the terms of a binding term sheet executed on 28 May 2015 (“Binding Term Sheet”),
>under which IPIC assumed the obligation to pay the interest and ultimately the principal for, amongst others,
>the USD1.75 billion fixed rate 5.75% notes due 2022, issued by 1MDB Energy (Langat) Limited (“Langat Notes”).
>Accordingly, due to a dispute between the parties, neither 1MDB, nor its subsidiary, 1MDB Energy (Langat) Limited,
>have made payment either, and are now in default per the terms of the Langat Notes.

【参謀訳】
1マレーシア・デベロップメント(以下、「1MDB」)は、
インターナショナル・ペトロリアム・インベストメント(以下、「IPIC」)が、
2015年5月28日に正式締結した拘束力のある条件記載書(以下、「当条件記載書」)の条件に基づいて求められる通りに
5,030万米ドルの利払いをまだ行っていない、ということについてお知らせいたします。
当条件記載書に基づき、IPICは、1MDBエネルギー社(本社ランガット)が発行した、元本金額17.5億米ドル、固定利率5.75%、
満期2022年の中期債券(以下、「ランガット中期債券」)に対して、
利息と、そして中でも究極的にはその元本を支払う義務を引き受けているのです。
したがって、両当事者による論議の結果、1MDBもその子会社である1MDBエネルギー社(本社ランガット)も、
支払いをまだ行っておりませんが、ランガット中期債券の条件により現時点ではまだデフォルトではないのです。


甲さんが発表しているプレスリリースを読む限り、乙さんには利息部分と元本部分の両方について債務保証を行っているようです。
そうしますと、甲さんが乙さんに利払いや元本償還のための現金を無事渡す場合は問題は生じないのですが、
甲さんが乙さんに利払いや元本償還のための現金を渡さないという事態が生じますと、
乙さんには甲さんに代わり債務を履行する義務が発生する、ということになると思います。
この辺り、乙さんが甲さんに代わり債務を履行するのは、例えば甲さんが正式に清算の手続きに入ってからだ、
もしくは、甲さんの清算手続きが完了してからだ、と債務保証者として主張したいのではないかと思います。
そうでないと、乙さんからすると、原債務者が債務を履行できなかったということが明確にならないからです。
ただ、債権者としては、期日に原債務者が債務を履行できない場合は即債務保証者に支払ってもらいたい、と要求したいでしょう。
債務保証というのは債権者のために行うわけですから、債務保証者も支払わないでは保証にならないわけです。
この辺り、どのような形で債務保証を行っていくのかについては、実務上は、
債権者も含めた当事者間で条件を事前に明確に決めておかねばならないのだと思います。
債務保証の範囲や条件が記事やプレスリリースからだけでは分かりづらいので、
このたびの事例は非常に取引が複雑だと思うのですが、最後に今日描きました図のポイントを書きますと、
甲さんが乙さんに利払いや元本償還のための現金を無事渡す場合は、
乙さんは債権者に対して「窓口、取次ぎ、仲介、代理業者」の役割を果たすのみなのだ、という点が重要なのだと思います。
つまり、甲さんが乙さんに利払いや元本償還のための現金を無事渡す場合は、乙さんに債務保証者としての役割は全くない、
という点が重要なのだと思います。
甲さんが債務を履行しない場合は、乙さんは債務保証者としての役割を果たすことになります。
その場合、乙さんから債権者に現金が支払われることになるわけです。
しかし、同じ「乙さんから債権者に現金が支払われる」でも、
甲さんが債務を履行する場合と債務を履行しない場合とでは乙さんによる現金支払いの意味が完全に異なる、
という点が、このたびの事例を理解する上では重要なのだと思います。

 



A person fulfills his own obligation.
A person other than him doesn't fulfill his obligation.

人は、自分自身の債務を履行するのです。
他の人が債務を履行するわけではないのです。

 


It is very difficult to undetstand these transactions,
but probably Mr. Otsu is a liaison for a payment of Mr. Ko's interests.
that is, an interest which Mr. Ko pays merely passes through Mr. Otsu to Mr. Ko's creditor.
If this understanding of mine is correct, Mr. Otsu is not placed under an obligation to pay an interest to the creditor
unless Mr. Otsu receives cash as an interest from Mr. Ko.
And, in that case, from a standpoint of the creditor's, it is exactly default.

この取引は理解するのが非常に難しいのですが、おそらく、乙さんは甲さんの利払いの窓口を務めているのでしょう。
つまり、甲さんが支払う利息はただ単に乙さんをパススルーし甲さんの債権者に届くというだけなのだと思います。
私のこの理解が正しいとすると、仮に乙さんが甲さんから利息として現金を受け取っていないならば、
乙さんには債権者に利息を支払う義務はない、ということになります。
そして、その場合は、債権者の立場から言えば、それはまさに債務不履行なのです。