2016年4月13日(水)


企業決算の開示内容の合理化、株主総会分散化を=金融審部会

[東京 13日 ロイター] - 開示制度をテーマに議論してきた金融審議会(首相の諮問機関)の
作業部会(座長=神田秀樹・東京大学大学院法学政治学研究科教授)は13日、
決算短信の記載内容の整理や株主総会の日程柔軟化のための施策を盛り込んだ報告書を大筋で了承した。
金商法や会社法に関する府省令や東証による上場企業への要請事項を見直し、投資家と上場企業の建設的な対話を促す。
報告書は、決算短信、有価証券報告書、事業報告書といった「制度開示」の整理・合理化の必要性に言及。
決算短信に記載するよう取引所が求める事項は、
サマリー情報、業績概要、連結財務諸表など速報性が求められている項目に限定するよう要請した。
適時開示ルールなども踏まえ、投資者の判断を誤らせるおそれがない場合には、短信の開示の際には連結財務諸表を開示せず、
開示が可能になった段階で公表することも容認するとした。
また、報告書では決算短信の公表前には会計士監査が必要ないことを「あらためて明確にすべき」とも記された。
株主総会に関しては、開催日の分散化や有価証券報告書の総会前提出を促すため、
有報などの「大株主の状況」の記載時点を決算日から議決権行使基準日に変更することが盛り込まれた。
現在の会社法では、株主は議決権行使基準日から3カ月以内でないと議決権を行使できない。
3月決算企業は決算日を議決権行使基準日に設定することが慣例となっており、株主総会が6月に集中する傾向にある。
3月決算企業が7月に株主総会を開催する場合には、議決権行使基準日を決算日から後ろ倒しする必要がある。
一方、現行制度では大株主の状況は決算日のものを記載するよう定められており、
7月に株主総会を開催する場合には、企業は決算日と議決権行使基準日の双方で株主を確定しなくてはならず、
事務手続きが増加する可能性が指摘されていた。
今回の報告書では、上場企業が公表前の内部情報を特定の第三者に提供することを禁じる「フェア・ディスクロージャー・ルール」
の導入について「具体的に検討する必要がある」と明記した。金融庁は早期に欧米の事例や実務の状況の調査に着手する。
(ロイター 2016年 04月 13日 20:25 JST)
ttp://jp.reuters.com/article/company-results-idJPKCN0XA161?sp=true

 

金融庁
審議会・研究会等
議事録・資料等
ディスクロージャーワーキング・グループ
ttp://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/base_gijiroku.html#disclose_wg

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第5回)議事次第
日時:平成28年4月13日(水)15時00分〜17時00分
ttp://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclose_wg/siryou/20160413.html

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(案)−建設的な対話の促進に向けて−
ttp://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclose_wg/siryou/20160413/01.pdf

 


【コメント】
読んでいて気になった点について、記事を引用しながら一言だけコメントします。


>株主総会に関しては、開催日の分散化や有価証券報告書の総会前提出を促すため、
>有報などの「大株主の状況」の記載時点を決算日から議決権行使基準日に変更することが盛り込まれた。

”開催日の分散化や有価証券報告書の総会前提出を促すため”という部分はよく分かりませんが、
有価証券報告書というのは、財務情報を中心として、企業に関する包括的な情報を開示するために作成・提出されるものです。
そこでは正確さや詳細さがより求められるわけです。
決算短信のように、早期に決算の内容を投資家に開示する、という目的はないわけです。
まして、何かの事象が生じた場合に即座に情報を投資家に開示するという、タイムリー性というのは全く求められないわけです。
確かに、「企業に対して議決権を行使する株主を開示しなければならない」という趣旨では、
”企業に議決権を行使しない株主”を開示しても全く意味がないわけですから、
「大株主の状況」の記載内容は決算日時点ではなく議決権行使基準日時点であるべきだとは思います。
ただ、理論的には、現行の制度では、株主総会の基準日と有価証券報告書の提出日とは全く関連がない概念かと思います。
すなわち、現行の制度では、極端な話をすれば、決算日は3月31日、有価証券報告書の提出日は4月30日、
株主総会の基準日は5月31日、株主総会は6月30日、といったスケジュールが可能であるわけです。
このスケジュールですと、有価証券報告書に議決権行使基準日時点の「大株主の状況」を記載しようがないわけです。
この辺り、以前は、添付書類の関係上、有価証券報告書は必然的に株主総会が終了した後でなければ提出できなかったわけですが、
結局、一旦議決権行使の基準日は決算日以外でもよいなどと言い出すと、様々な齟齬が生じるのだろうと思います。
例えば、有価証券報告書の中心的開示事項である財務諸表は、決算日付けの財務諸表です。
率直に言えば、有価証券報告書は、「決算日付けの包括報告書」であるわけです。
それなのに、決算日以降の日における「大株主の状況」を開示することに何の意味があるのか、という言い方はできると思います。
議決権行使の基準日を決算日以外の日にすることは、有価証券報告書との整合性の点でも問題があるともいます。

 



>現在の会社法では、株主は議決権行使基準日から3カ月以内でないと議決権を行使できない。
>3月決算企業は決算日を議決権行使基準日に設定することが慣例となっており、株主総会が6月に集中する傾向にある。
>3月決算企業が7月に株主総会を開催する場合には、議決権行使基準日を決算日から後ろ倒しする必要がある。
>一方、現行制度では大株主の状況は決算日のものを記載するよう定められており、
>7月に株主総会を開催する場合には、企業は決算日と議決権行使基準日の双方で株主を確定しなくてはならず、
>事務手続きが増加する可能性が指摘されていた。

私は今まで漠然と、
”定時株主総会は毎事業年度末日の翌日から 3 か月以内に開催しなければならない。”
というふうに理解していました。
ただ、これは旧商法での定めだったのだと思います。
現行の会社法では、
定時株主総会は、毎事業年度の終了後、「一定の時期に」招集しなければならない、とだけ定められているようです。
この「一定の時期に」に、条文上は制限はないようです。
ただ、株主総会を招集するに際し、会社は基準日を設定しなければならず、
議決権行使日(すなわち株主総会日)は基準日から3ヶ月以内でなければならない、と定められています。
基準日=決算日であれば、論理的に、”定時株主総会は毎事業年度末日の翌日から 3 か月以内に開催しなければならない。”
となるわけですが、基準日≠決算日となりますと、論理的には定時株主総会の開催日に制限はない、ということになります。
現行の会社法では、3月期決算の会社の株主総会は、7月でも8月でも9月でもそれ以降でもいつでもよい、ということになります。
結論だけを言えば、議決権行使の基準日を決算日以外とすると考えること自体が根本的におかしいとしか言いようがないわけですが、
現行の会社法の定めから言えば、3月期決算の会社が定時株主総会を7月31日に開催する場合には、
基準日を4月30日に設定すればよい、ということにはなります。
ただ、現行の定めでは、例えば基準日は決算日以前の日でもよいのか、という話も出てくるわけです。
3月期決算の会社が定時株主総会の基準日を2月28日にすることは可能なのか、という話になるわけです。
おそらく条文をそのままに解釈すれば、答えは可能である、となると思います。
ただ、何度も書いていますように、株主総会も有価証券報告書も、どちらも決算日を中心とした概念のものなのです。
株主総会の開催日自体は決算日以降になりますが、計算書類から配当の原資から、全ては日付は決算日の事柄ばかりです。
有価証券報告書の提出日自体は決算日以降になりますが、財務諸表から記載すべき範囲(期首日から期末日まで)から、
全ては日付は決算日の事柄ばかりです。
株主総会にせよ有価証券報告書にせよ、法理的には、
決算日以降の事象は全く関係がなくそれらに反映させるべきものでもないわけです。
やはり、議決権行使の基準日を決算日以外とすると考えること自体が根本的におかしい、と言わざるを得ないと思います。
また、記事には、”7月に株主総会を開催する場合には、企業は決算日と議決権行使基準日の双方で株主を確定しなくてはならず”
と書かれていますが、決算日と議決権行使の基準日が異なる場合には、議決権行使の基準日の株主のみを確定させればよく、
決算日の株主は確定させる必要はないように思います。
会社法には、剰余金の配当について、 ”株式会社はその株主に対し剰余金の配当をすることができる。”と定められています。
ここでいう株主がいつ時点の株主を指しているのかは条文からは分かりませんが、基準日の株主と考えるのが一番自然でしょう。
ただ、配当の財源は決算日時点の財源になるわけでして、やはり、基準日=決算日でなければ辻褄が合わないかと思います。

 



以上の点について、「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(案)−建設的な対話の促進に向けて−」には、
開示の日程・手続について、機関投資家等からの意見として、

>例えば、必要があれば株主総会の開催日を7月に遅らせるなど、
>株主が議案の十分な検討期間を確保できるように株主総会の日程を設定すべきである

と書かれています(4/18ページ)。
株主に議案の十分な検討期間を確保するというについては、基準日を決算日よりも遅らせるということには全く意味がありません。
なぜなら、議案を検討するのは基準日の株主だからです。
株主に議案の十分な検討期間を確保するためには、
基準日から議決権行使日までの期間を現行の3ヶ月よりも延長する(例えば4ヶ月間に)ようにしなければならないわけです。
同じような論点に関してですが、同報告書には、

>招集通知等の発送から株主総会開催日までの期間は、例えば英国では約4週間以上とされており、
>他の欧米諸国でも概ね同等の期間が確保されている

と書かれています(12/18ページ)。
株主は、招集通知が届いてから議案について検討を開始するわけです。
仮に、株主が招集通知が届く前から議案について検討を行えるとしたら、
それは「フェア・ディスクロージャー・ルール」に反する、と言わねばならないでしょう。
記事や今回の報告書では、上場企業が公表前の内部情報を特定の第三者に提供することを禁じる、
という趣旨で「フェア・ディスクロージャー・ルール」について書かれていますが、
非上場企業であっても、送付前の招集通知を特定の株主にのみ提供することは禁止されなければならないでしょう。
招集通知の発送から株主総会開催日までの期間はどのくらい空けるべきかは非常に難しい問題だと思います。
現行の会社法の定めでは2週間以上となっていますが、非上場企業と上場企業とで非常に株主総会の位置付けは異なるとは思いますが、
例えば上場企業であれば4週間以上と定めるのも決して間違いではないと思います。
ただ、このことは逆から言えば、欧米諸国を中心に、たとえ上場企業であっても4週間あれば議案の検討期間としては十分だ、
という世界的なコンセンサスがあるということなのだと思います。
そのことを考えますと、基準日から議決権行使日までの期間は3ヶ月間もあれば十分過ぎる、ということになるでしょう。
株主が議案の検討を開始するのは、必然的に基準日以降になるわけです(基準日の株主に招集通知が送付される)が、
招集通知の送付から議決権行使日(株主総会日)までを最低4週間と考えても、
基準日から議決権行使日(株主総会日)までは2ヶ月間も日程の設定に余裕があることになります。
現行の制度では、日程設定が窮屈である、などということは決してないと思います。
要するに、株主が議案を十分に検討するためには、
招集通知の送付日から議決権行使日(株主総会日)までの期間を十分に確保する必要があるのであって、
基準日を決算日よりも遅らせたり株主総会を7月に開催しさえすれば、株主が議案を検討する期間は確保されたことになる、
と考えるのは理論的に間違っている、と言いたいわけです。
また、「フェア・ディスクロージャー・ルール」の観点から言えば、株主が議案を提案するのは完全に間違っていると思います。
なぜなら、議案を提案した株主は、他の株主よりも早く議案を知っているからです。