2016年4月8日(金)


2016年4月8日(金)日本経済新聞
そーせい前期 最終赤字34億円
(記事)


2016年4月7日
そーせいグループ株式会社
業績予想の修正に関するお知らせ
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1342524


2016年4月7日
そーせいグループ株式会社
子会社Heptares社とAllergan社、アルツハイマー病等の中枢神経系疾患に対する新規治療薬の開発・販売提携を発表
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1342523


2015年2月21日
そーせいグループ株式会社
英国へプタレス社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1219452


 


【コメント】
非常にたくさんの論点がある記事とプレスリリースだと思います。
書き出すと非常に長くなると思いますので、今日は1点だけ会計理論に関する一般論ということでコメントしたいと思います。
それは「引当金」についてです。
記事には、

>前期に締結を見込んでいた新薬開発の提携契約が今期に後ずれした

>契約に伴い発生する費用を前期に計上した

>アラガンとの契約で生じる費用を前期に計上した

と書かれています。
このたびのそーせいグループ株式会社の事例とは関係はないのですが、会計に関する一般論として、
「引当金を計上する範囲はどの範囲か?」という点が気になりました。
引当金の計上要件は企業会計原則等に定められているわけですが、明確な線引きは難しいのが実態なのだろうと思います。
極端な例を挙げますと、ある会社が寄付金を支払うことを検討しているとします。
期日や金額など、寄付金に関する契約を相手方と締結してから寄付金を支払う準備を進めていましたが、
契約締結は当期期末日である2016年3月31日までに間に合わず、次期期首日である2016年4月1日に契約を締結することにしました。
この時、2016年3月期には、寄付金に関してどのような会計処理を行わなければならないでしょうか。
考えられる会計処理は以下の3つでしょうか。
@未払金勘定を計上する(寄付金を費用計上する)。
A引当金勘定を計上する(寄付金を費用として見越し計上する)。
B会計処理は行わない。
実務上は、「B会計処理は行わない。」となろうかと思います。
2016年3月期にはまだ寄付金は支払っていませんし、契約締結もまだしていません(法的な確定債務ではない)ので、
2016年3月期には会計処理は行わない、というのが実務上は一番多いと思います。
また、先ほども書きましたが、寄付金を支払うことは2016年3月期末日時点ではまだ法的な確定債務ではありませんので、
理論的には「@未払金勘定を計上する(寄付金を費用計上する)。」のは間違いであると思います。
仮に2016年3月31日に契約を締結した場合は、契約締結と同時に寄付金を支払うことが法的な確定債務となりましたので、
発生主義会計に厳密に基づけば「@未払金勘定を計上する(寄付金を費用計上する)。」という会計処理になります。

 



では、「A引当金勘定を計上する(寄付金を費用として見越し計上する)。」という会計処理はどうでしょうか。
2016年3月期末日時点で、寄付金を支払うことは、まだ確定債務ではないとはいえ、
会社としては100%決めていることであるわけです。
保守主義の原則の観点から、将来の現金支出を当期に引当金として費用計上することは間違いではないように思えます。
引当金というのは、そもそも確定債務を表すわけではない(債務が確定してから引当金を計上するわけではない)わけですから、
この場合「A引当金勘定を計上する(寄付金を費用として見越し計上する)。」という会計処理は正しいように思うわけです。
この辺り、将来の現金支出が未払金勘定になるのか引当金勘定になるのかは契約締結の有無(確定債務か否か)で決まる、
という言い方を会計理論上はしてもいいのかもしれません。
ただ、引当金計上の第一目的というのは、費用と収益を対応させることにある、ということが会計理論上の趣旨でもあります。
現金支出に先立ち費用を早期に計上すること自体は、実は引当金計上の第一目的というわけではないと思います。
もちろん、寄付金の場合はそもそも収益の獲得には結び付かないわけですから、
将来支払う寄付金について引当金を計上するとしたら、その目的は「現金支出に先立ち費用を早期に計上すること」になります。
しかし、「現金支出に先立ち費用を早期に計上すること」を第一目的と考えてしまいますと、少しおかしな場面も出てくるわけです。
一番典型的な例は、会社が従業員と締結している雇用契約です。
会社が従業員と締結している雇用契約は、一般に、実務上は無期となります。
すなわち、実務上は、会社は定年の時まで従業員と雇用契約を締結することになります。
実務上は、会社と従業員は、毎年雇用契約を締結し直すということはせず(雇用契約の更新・更改ではない)、
言わば定年の時までを期限とした雇用契約を締結するわけです。
そうしますと、会社としましては、雇用した従業員に対して将来に渡り支払っていく給与の合計金額が概ね算出できるわけです。
正確な金額はベースアップの程度や昇進・昇給の度合いにも左右されますので算定はできませんが、
現時点で見積もれる大まかな概算値というのは計算できるわけです。
そうしますと、雇用契約は既に締結しているわけですから、
会社が従業員に給与を支払うことは決まっている(法律的に給与を支払わないことは会社はできない)以上、
保守主義の原則の観点から、将来給与として支払うと合理的に見積もれる金額を引当金という形で計上することは理屈ではできる、
ということになるわけです(従業員は労務を提供してはじめて給与をもらえますので、将来の給与はまだ確定債務ではありません)。
獲得した収益額に応じた給与という形ですと、給与の金額を事前に見積もることは不可能ですが、
特に日本では実務上は従業員は固定給であることがほとんどですから、将来の給与の合計金額を見積もることはできるわけです。
保守主義の原則に重きを置くなら、将来支払う給与についても引当金を計上するべきだ、という考えにも合理性があるわけです。

 



ただ、会計理論上は、やはり将来支払う給与について引当金を計上するのは間違いなのだと思います。
その理由は、まさに、「引当金計上の第一目的というのは、費用と収益を対応させることにある。」、ということそのことです。
従業員は労務を提供することで、会社の収益の獲得に何らかの形で寄与・貢献する(と会計理論上・経営理論上考える)わけです。
ですので、会社が従業員に支払った給与を費用計上するのは、会社がその労務の結果収益を獲得したと考えられる期、
すなわち、まさに労務が行われた期、であるべきなのです。
会社は、労務が行われた月に(その月末などに)、従業員に対し給与を支払うわけですから、結局、
会社が従業員に支払った給与を費用計上するのは会社が従業員に給与を支払った期、となるわけです。
すなわち、 費用計上は現金支出時であるわけです。
この結論はある意味当たり前ではないのかと思われるかもしれませんが、実は、現代会計における発生主義会計では、
極端に言えば、現金支出と費用計上とは異なる概念である、とすら言えるわけです。
発生主義会計では、現金支出は費用の計上を意味しないのです。
費用を計上するのは、収益の獲得と関連があると考えられる期、であるわけです。
現金支出を行ったからと言って費用を計上するとは限りませんし、
現金支出は行っていないが費用を計上することもあるわけです。
現代会計では、費用と収益の対応、すなわち、適正な利益額の計算に重点を置いていますので、
現金支出とは全く関係がない形で費用の計上が行われ、そして利益額が計算される、ということになっているのです。
減損も引当金も評価損も計上しないという場合ですと、現金支出と費用計上とは多くの場合一致するようにも思えますが、
一番典型的な例である減価償却手続きを鑑みれば、やはり現代会計では現金支出と費用計上との関係は完全に断ち切られている、
と言っていいと思います。
現代会計(発生主義会計)では、現金支出を行ったから費用計上を行うのではありません。
ある事象があり、その事象は収益の獲得と関連があるから費用計上を行うのです。

 


元来的な考え方から言えば、現金支出が費用であるわけですが、
現代会計では、収益の獲得と関連がある事象が費用だ、と表現してよいのだと思います。
極端に言えば、現金の収入や支出というのは、収益の獲得や費用の発生の結果生じた債権や債務の決済のためだけにある、
という言い方をしてもいいのかもしれません。
商取引というのは、煎じ詰めればより多くの現金を稼ぎ獲得するために行うわけですが、
利益額の計算という文脈においては、現代会計では現金は実は全く関係がないのです。
現代会計ではそれほどまでに、理論上は利益と現金との関連が薄いのです。
会計学の分野では、”利益の質”という言われ方をしますが、利益には現金の裏付けが必要だ、
という基本的考え方がある(利益に現金の裏付けがない場合は、利益があっても会社は実際には配当を支払えない)わけですが、
現代会計では、そもそも利益の計算過程そのものが実は現金とは無関係に算出される構造になっているわけです。
他の言い方をすれば、現代会計では、利益額は現金の裏付けとは無関係に計算されるわけです。
これは、売上債権の回収可能性の問題などではなく、たとえ売上債権の回収可能性は100%であっても、
当期の利益額に現金の裏付けはない(利益額に相当する現金は会社にはない)、という意味なのです。
売上債権は次期には現金として回収可能かもしれません。
しかし、今は「当期の利益額」の話をしており、そして、その「当期の利益額」を原資に、会社は当期に株主に配当を支払えるのか、
という話をしているわけです。
当然、現金ではなく売上債権の状態では、たとえ利益があっても会社は配当を支払えないわけです。
これで、利益には現金の裏付けがあると言えるのでしょうか。
この「現金とは無関係に利益額を計算するメカニズム」は、考えてみれば、現代会計における壮大な矛盾なのかもしれません。

 

The purpose of recording an allowance is primarily to match costs with revenues
and secondarily to record losses as early as possible and beforehand.

引当金を計上する目的は、第一には費用と収益を対応させることであり、
第二には事前にそしてできるだけ早期に損失を計上することにあるのです。