2016年3月21日(月)


2016年3月21日(月)日本経済新聞
個人投資家 「物言う株主」に 増える総会提案 経営に緊張感 乱用懸念、運用に課題
欧米、行使ハードル高く 英 総議決権の5%以上 米 提案数や内容に制限
(記事)



2016年3月7日
東洋炭素株式会社
第74期定時株主総会招集ご通知
ttp://www.toyotanso.co.jp/IR/0387-Iri1.pdf

決議事項
会社提案
第2号議案 取締役8名選任の件
株主提案
第4号議案 取締役選任の件
(1/64ページ)


昨年の定時株主総会の決議結果↓

2015年3月27日
東洋炭素株式会社
第73期 定時株主総会決議ご通知
ttp://www.toyotanso.co.jp/IR/0341-Iri1.pdf


2015年3月11日
東洋炭素株式会社
第73期定時株主総会招集ご通知
ttp://www.toyotanso.co.jp/IR/0338-Iri1.pdf

 



【コメント】
記事には、今月末開催の東洋炭素株式会社の定時株主総会において、取締役の選任議案が2つ株主総会招集通知に記載されている、
という事例を、株主提案の具体例として挙げられています。
株主が株主総会議案を提案するというのは、株式会社の成り立ちや概念を考えれば、あまりにも当たり前のことであると
私は思うのですが、会社法上、「株主が株主総会議案を提案する」という権利について法律内に明文の規定が置かれたのは、
実は1981年になってからのことであるようです。
それ以前はと言いますと、究極的なことを言えば、株主が会社側に何と言ってこようが、
会社としては法律上は無視して構わなかった、ということになると思います。
これは、現在とは異なり以前は株主と会社との間に距離があった、ということではなく、むしろ話はその正反対と言いますか、
理論的には、会社が株主の意思とは異なる意向を持つことはあり得ない、ということが法理上の前提であった、
ということだと思います。
なぜならば、会社の取締役は全員、株主が選任したからです。
取締役は全員、株主からの委任を受けている(信頼され託されている)わけです。
したがって、法理的には、会社の考えは株主の考えに常に合致しているはずなのです。
その意味では、株主提案権が会社法に定められていることは、自己矛盾(委任の法理を自ら否定している)とすら言えるわけです。
ただ、現実には、株主の数が増加し、多様化してきますと、それこそ様々な考えを持つ株主が出現してくるわけです。
他の言い方をすると、株主は一様ではなくなってくるわけです。
概念的には、取締役は株主から選任され株主の委任を受けている(お互いの意向・考えは本来一致している)はずなのですが、
現実には、他の株主とは違った考えを持つ株主も中にはいて、それで自ら議案を提案したい、という株主が出てくるわけです。
特に、株式の譲渡が行われますと、新株主としては、自分は取締役を選任していない、ということになりますから、
それで、現実への対応ということで、そういった株主の意見を反映させよう、という考えに基づき導入されたのが
株主提案権なのだと思います。
株主が株主総会の議案内容を考えるというのは、株式会社の概念に照らせば当たり前のことであると感じると同時に、
法理的には株主提案権は自己矛盾ということで、会社法の中でも法理と現実との乖離が大きい部分であると感じます。
例えば、経営不振ということで、取締役を変更したいと株主が考える、という場面は現実にはあるわけです。
ところが、現実には、取締役としては、自分が解任される議案など作成したくはない・作成するはずがないわけですから、
株主の要望には応じないわけです。
株主提案権が導入される1981年以前では、株主が取締役を変更しようと思っても、現実にはできなかった、ということになるわけです。
これも結局、法理的には、経営不振の原因も選任した株主にある、という考え方をしているのだと思います。
そして、一旦選任された取締役は、株主の意向に沿う人物を次期の取締役の候補者として選ぶ(議案に記載する)、
という法理が前提としてある、ということになると思います。
株主は議案を作成できない以上、そう考えるしかないと思います。
会社法制では、委任という信頼関係を、それほどまでに重いものだ・信用するに足るものだ、と考えている・前提としている、
ということだと思います。
むしろ、そのような法理的前提を置かないと、株式会社制度を構築できないのかもしれません。
「取締役は必ず株主の意向に沿うのだ。」という前提を置かないと、株式会社制度を構築できないのだと思います。
「取締役が株主の意向に沿わないとしたら。」などと考えると、業務執行の委任にならないわけです。
法改正から逆に(時間をさかのぼって)考えると、「株式会社の概念」とは元来的には何であったが推論できるように思います。

 


株式会社における法理は現実との乖離も大きいためここでは議論はしないとして、東洋炭素株式会社の事例に戻ります。
東洋炭素株式会社では、「取締役の選任」が問題になっているわけです。
会社提案の取締役候補者と株主提案の取締役候補者とが、当然のことかもしれませんが、議案として対立しているわけです。
このような場合の「取締役の選任」について考えてみましょう。
まず、参考事例として、東洋炭素株式会社の昨年の提示株主総会について見てみましょう。
昨年の定時株主総会の決議結果である「第73期 定時株主総会決議ご通知」を見てみますと、
「第2号議案 取締役8名選任の件」について、

>本件は、原案とおり承認可決され、

と書かれてあります。
そして、「第73期定時株主総会招集ご通知」の「第2号議案 取締役8名選任の件」に取締役候補者として記載のある
8名の取締役の氏名が記載されており、その8名の取締役が

>選任され、それぞれ就任いたしました。

と書かれてあります。
言葉尻をとらえて言っているわけではないのですが、「第73期 定時株主総会決議ご通知」の文面・文言をそのまま解釈しますと、
「取締役の選任」は議案単位(議案毎に取締役を選任する)であり、「取締役の就任」は各取締役単位(人単位)、
ということだと思います。
やはり、株主は、第1号議案には賛成、第2号議案には反対、第3号議案には賛成・・・、、
といった具合に、議案単位で賛成か反対かを意思表示(投票)することしかできない、という議決権行使制度になっているわけです。
取締役候補者のうち、取締役候補者Aさんには賛成、取締役候補者Bさんには反対、取締役候補者Cさんには賛成・・・、
というふうに、取締役単位(人単位)で賛成か反対かを意思表示(投票)することは、株主にはできないわけです。
仮に、取締役単位(人単位)で賛成か反対かを意思表示(投票)するようにしたい場合は、
取締役候補者毎に議案そのものを分けるしかないわけです。
解任の場合ですと、「取締役X氏の解任の件」といった具合に、取締役単位(人単位)で賛成か反対かを意思表示(投票)する
形になるわけですが、それも解任の場合は取締役単位(人単位)で解任することになっているからだということではなく、
問題があって解任するのは1人だけのことが実務上は多いからだと思います。
「取締役X氏、取締役Y氏、取締役Z氏3名の取締役の解任の件」といった具合に、
1つの議案で複数の取締役を解任することも実務上はできるわけです。

 



何が言いたいのかと言うと、本来ならば「取締役の選任」も取締役単位(人単位)で選任の決議を採っていくべきだ、
ということです。
このたびの東洋炭素株式会社の事例で言えば、合計15名の各取締役候補者について、
それぞれ「取締役XXX氏選任の件」という議案を作成し、合計15の議案に関して賛否を問うようにするべきなのです。
「第2号議案 取締役A氏選任の件」、「第3号議案 取締役B氏選任の件」、・・・、「第16号議案 取締役O氏選任の件」、
というふうに、取締役候補者全員について選任議案を個別に作成するべきなのです。
株主は、合計15の議案に関して、それぞれ議決権行使を行うようすればよいわけです。
ただし、1つ問題がありまして、「第74期定時株主総会招集ご通知」にも書かれてあることですが、取締役の定員について、

>当社定款は、「当会社の取締役は、8名以内とする」と定めています。

となっています。
取締役の選任議案が15ありますと、最大で15名の取締役が選任されてしまう、ということになるわけです。
一方で、取締役に「就任」できるのは、定款の定めにより8名までであるわけです。
アメリカなどでは、「(不参客 (no-shows) を見越して)〈飛行機・ホテルなどに〉定員以上の予約をとる」という
「オーバー・ブッキング」(overbook)ということが飛行機やホテルでは行われたりすると聞いたことがあるのですが、
このような「定員以上の選任を行うこと」は、「オーバー・エレクション」(overelection)とでも呼びましょうか。
この「オーバー・エレクション」は私の造語ですが。
会社側は通常、定員一杯の候補者を提示します。
また、株主提案の場合は、提案株主が取締役候補者として提示する人数は提案目的等によりケース・バイ・ケースではありますが、
取締役というのは自分が希望する1人だけが就任すればよいというものではなく、
わざわざ取締役候補者を提示するということは、取締役会を支配することが目的だと言えるわけです。
取締役1人だけでは、株主としては自分の意思を会社(取締役会での決議)に反映させることはできないわけです。
したがって、通常は、わざわざ株主が取締役候補者を提示するという場合は、
会社側同様、定員一杯の候補者を提示するか、少なくとも定員の過半数の候補者を提示するわけです。
株主が自分の意思を会社側に通す、ということを考えた場合には、そのような人数の候補者を提示することになります。
いずれにせよ、私が書きました方式では、通常は、「オーバー・エレクション」(overelection)の状態が生じるわけです。
「オーバー・エレクション」(overelection)の状態が生じた場合、どのように調整を図るべきか、が問題になります。
株主総会決議で過半数の賛成票を獲得している以上、議案が可決された取締役候補者は、
全員が「法律上正式に(有効に)選任された取締役」です。
「法律上正式に(有効に)選任された取締役」が取締役に就任できない、というのは、確かに法理上は問題があるとは思います。
ただ、1つの調整方法としては、賛成票の獲得票が多い候補者から順に就任する、という方法かと思います。
このような調整方法を取るためには事前に定款にその旨定めておく必要があるとは思いますが、
全株主にとってフェアな選抜であると言えますので、現実的な調整方法としては、合理性はあろうかと思います。
調整方法として、会社提案が優先と考えるのもおかしいですし、株主提案が優先と考えるのもおかしいわけです。
むしろ、会社提案と株主提案の両方を対象に、全株主に平等に賛否を問うたのが株主総会決議であるわけです。
ですので、株主の意思を最大限に反映させることを考えるならば、賛成票の獲得票が多い候補者から順に就任する、
という調整方法が一番平等であろうと思います。

 



逆から言えば、実務上、「第X号議案 取締役Y名選任の件」といった具合に、「取締役の選任」を1つの議案としている理由は、
「オーバー・エレクション」(overelection)の状態が生じることを避けるためなのかもしれません。
定員と同じ人数の取締役のみが「選任」されれば、選任された全員がそのまま「就任」すれば何の問題も生じないからです。
ただ、その選任方法の弊害として、例えばこのたびの東洋炭素株式会社のように、
会社提案とは別に株主から取締役候補者の提示があった場合は、取締役個別の選任が不可能になる、という問題が生じるわけです。
取締役候補者は15名もいるのに、実際に選任されるのは、会社提案の議案か株主提案の議案の2パターンしかない、
ということになってしまうわけです。
15名から8名を選ぶとなりますと、そのパターンは、本来は、中学校で習う「順列・組み合わせ」の「組み合わせ」で計算しますと、
15C8=15!/(15-8)!8!=6,435通り、もあるはずなのです。
本来は、株主は、6,435パターン(6,435通り)の中から1パターンを選択せねばならないはずなのに、
たった2パターン(2通り)中から1パターンを選択することしかできないわけです。
これは、総会議案を6,435議案作成しなければならないということでは決してなく、
15議案の中から8議案の可決をする場合は、どの8議案を可決するかで6,435パターン(6,435通り)がある、という意味です。
これも細かいことを言えば、株主が15議案全てに対し任意に賛否を意思表示できるとなりますと、
各株主が行使し得る意思表示のパターンは、実は、2×2×2・・・×2=2の15乗=32,768通りとなります。
ただ、ここでは、全15議案のうち、8議案にのみ賛成の意思表示をし残り7議案には反対の意思表示をするようにしなければ、
「8名の取締役を選任する」という株主総会の目的を果たせないことになります。
この点、「第74期定時株主総会招集ご通知」には、「議決権行使にあたってのご注意」が記載されています。


「第74期定時株主総会招集ご通知」
議決権行使にあたってのご注意
(3/64ページ)



記載内容を簡単に要約しますと、”取締役候補者15名のうち、8名のみに賛成票を投じて下さい、
8名を超える取締役候補者に賛成票を投じた場合は、取締役選任に関する議決権行使全体について、
無効な議決権行使として取り扱います。”、となります。
まさに、先ほど私が指摘したことと同じかと思います。
「オーバー・エレクション」(overelection)の状態が生じることを避けるために、このような注意書きがあるわけです。
ただ、「第74期定時株主総会招集ご通知」に記載されているこの注意書きは、実は全く意味を成していません。
なぜなら、東洋炭素株式会社の株主は、実際には、「第2号議案 取締役8名選任の件」と「第4号議案 取締役選任の件」に対し、
賛否を意思表示するからです。
15名の取締役候補者それぞれに対し、選任の賛否を意思表示するわけではありません。
その意味では、「第74期定時株主総会招集ご通知」に記載されているこの注意書きは、
”「第2号議案 取締役8名選任の件」と「第4号議案 取締役選任の件」のどちらかのみに賛否の意思表示をして下さい、
両方の議案に賛成の意思表示を行った場合は、取締役選任に関する議決権行使全体について、
無効な議決権行使として取り扱います。”、という意味になるのだと思います。

 



話が込み入って少し分かりづらくなっているかと思います。
以上の議論を踏まえた結論を端的に言えば、
「株主は議案に対して意思表示(議決権行使)をする。」
ということなのです。
例えば、「第74期定時株主総会招集ご通知」の2/64ページには、「議決権行使についてのご案内」が記載されており、
「議決権を行使する方法」として、「議案に対する賛否を記入する」と書かれています。
株主が議決権を行使するとは言っても、何のことはなく単に「議案に対する賛否を記入する」、というだけなのです。
このように書きますと、それは当たり前ではないか、と思われるかもしれません。
しかし、株主は議案に対してしか意思表示(議決権行使)をできないからこそ、
株主の意思を細かく反映した意思決定はできない、ということになってしまっているわけです。
株主は議案に対してしか意思表示(議決権行使)をできませんので、
語弊を招く言い方かもしれませんが、例えば配当金の金額を意思決定することは実は株主にはできないのです。
株主に意思決定できるのは、「配当金の金額が記載された議案に賛否を記入すること」だけなのです。
また、同様に、語弊を招く言い方かもしれませんが、例えば取締役の選任を意思決定することは実は株主にはできないのです。
株主に意思決定できるのは、「取締役候補者名が記載された議案に賛否を記入すること」だけなのです。
さらに、同様に、語弊を招く言い方かもしれませんが、例えば合併を行うことを意思決定することは実は株主にはできないのです。
株主に意思決定できるのは、「合併契約の承認について記載された議案に賛否を記入すること」だけなのです。
議決権行使だ会社の最高の意思決定機関だとは言いますが、
実際の議決権行使は、株主が何かを意思決定するということとは程遠い概念・規定になっているわけです。
株主総会とは、会社に関する議論・討論の場とは程遠いというのが実態なのだと思います。
株主総会とは、選挙の投票所のように、議案に賛成か反対かの票を投じるだけの場に過ぎないのだと思います。
俗に「物言う株主」とは言いますが、極端な話株式の100%を所有している株主であっても、
煎じ詰めれば会社に対しては「株主総会の場で賛成票を投じるか反対票を投じるか」しかできないわけです。
それ以外のことをできるようには、株式会社は作られてはいないのです。
株主というのは、会社に対して意思決定はしないものだ、とすら言っていいくらいだと思います。
このことは、好意的に解釈すれば、概念的には、株主はそれほどまでに取締役を信頼し切っている(ことが法理上の前提だ)、
と表現できると思います。

 


A shareholder can vote only on each proposal.

株主は、議案単位でしか投票できません。

 

On the principle of law, concerning a proposal,
a shareholder is only either for the proposal or aganist the proposal.

法理的には、1つの株主総会議案に関して、株主は議案に賛成であるか議案に反対であるかのどちらかしかないのです。

 

The subject on which shareholders exercise the right to vote is
a proposal itself, not an amount of something nor a figure of somerhing nor legal conduct of something.

株主が議決権を行使する対象というのは、議案そのものなのです。
何かの金額でもなければ、何かの人物でもなければ、何かの法律行為でもないのです。

 

On the law, even the most aggressive activist shareholder can say only "Yes." or "No."

法律上は、 最も強腰な物言う株主でさえ、「はい。」と「いいえ。」しか言えないのです。